会社売却・譲渡価格の評価方法|中小企業が失敗しないための注意点も解説
会社売却を検討している中小企業経営者の方にとって、譲渡価格の決定は最も重要なポイントの一つです。適切な価格で売却できなければ、長年培ってきた事業の価値を正当に評価されずに損失を被る可能性があります。この記事では、DCF法、類似会社比較法、純資産法、時価純資産法といった主要な譲渡価格評価方法を分かりやすく解説し、それぞれのメリット・デメリットを明らかにします。
さらに、譲渡価格交渉のポイントやデューデリジェンスの重要性、専門家活用のメリットなど、中小企業が会社売却で成功するための具体的な方法や注意点も網羅的に解説。この記事を読むことで、会社売却における譲渡価格の決定プロセスを理解し、適切な価格で売却を実現するための知識と戦略を身につけることができます。スムーズな事業承継を実現し、経営者の皆様の将来設計をサポートします。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
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1. 中小企業の会社売却における譲渡価格とは
1.1 譲渡価格の重要性
1.2 譲渡価格が事業に与える影響
2. 会社売却で中小企業の譲渡価格評価方法の種類
2.1 DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
2.2 類似会社比較法
2.3 純資産法
2.4 時価純資産法
3. 会社売却における中小企業の譲渡価格を決定する注意点
3.1 譲渡価格交渉のポイント
3.2 中小企業は専門家への相談
3.3 中小企業のデューデリジェンスの重要性
3.4 中小企業の譲渡契約書の内容確認
4. 中小企業が会社売却を成功させるための準備
4.1 中小企業の事業計画の策定
4.2 中小企業の財務状況の整理
4.3 適切な中小企業専門アドバイザー選び
5. まとめ
1. 中小企業の会社売却における譲渡価格とは
会社売却における譲渡価格とは、買手が売手に対して会社を譲り受ける際に支払う対価の金額を指します。株式譲渡の場合には株式の売買価格、事業譲渡の場合には事業用資産の売買価格が譲渡価格となります。この価格は、売手にとってはこれまでの経営努力の対価であり、買手にとっては将来の投資額となるため、M&Aプロセスにおいて最も重要な要素の一つです。
譲渡価格は、会社の規模や業種、収益性、将来性、市場環境など様々な要因によって変動します。また、売手と買手の交渉力や、M&Aの目的によっても影響を受けます。例えば、早期の事業拡大を目指す買手は、戦略的な価値を見出して高めの価格を提示する場合もあります。
一方、財務状況の悪化により早期の売却を希望する売手は、相対的に低い価格で譲渡せざるを得ないケースもあります。このように、譲渡価格は一概に決定されるものではなく、個々の状況に応じて慎重に決定されるべきものです。
1.1 譲渡価格の重要性
譲渡価格は、売手と買手の双方にとって非常に重要な要素です。売手にとっては、これまでの経営努力に対する適切な対価を得ることが重要です。一方、買手にとっては、投資に見合うリターンを得られるかどうかを左右する重要な要素となります。適正な譲渡価格を設定することは、M&Aを成功させるための第一歩と言えるでしょう。
1.2 譲渡価格が事業に与える影響
譲渡価格は、売却後の事業にも大きな影響を与えます。買手は、譲渡価格に見合うリターンを得るために、事業 restructuring や人員整理などを行う場合があります。また、高額な譲渡価格の場合、買手は資金調達に苦労し、事業運営に支障をきたす可能性も考えられます。
逆に、低すぎる譲渡価格は、売手の従業員のモチベーション低下や、売却後の生活への不安につながる可能性があります。そのため、譲渡価格は、売却後の事業の持続可能性や従業員の生活にも配慮して決定されるべきです。
関係者 | 譲渡価格の影響 |
---|---|
売手(オーナー経営者) | 引退後の生活資金、事業承継資金 |
売手(従業員) | 雇用の継続、処遇の変化 |
買手 | 投資回収の可能性、事業計画の実現性 |
地域社会 | 雇用の維持、経済活性化 |
このように譲渡価格は、M&Aに関わる様々なステークホルダーに大きな影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。特に中小企業のM&Aにおいては、オーナー経営者の引退後の生活設計や従業員の雇用維持といった側面も考慮に入れ、適切な価格設定を行うことが重要です。
2. 会社売却で中小企業の譲渡価格評価方法の種類
会社売却における譲渡価格の評価方法は、会社の規模や業種、売却の目的などによって適切な方法が異なります。中小企業の会社売却でよく用いられる代表的な評価方法を以下に解説します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。
2.1 DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
DCF法は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業価値を算出する方法です。将来の収益性を重視するため、成長性のある企業の評価に適しています。
2.1.1 DCF法のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
将来の収益性を反映できる | 将来予測が難しい |
理論的に整合性がある | 割引率の設定に影響を受けやすい |
事業計画に基づいた評価が可能 | 計算が複雑で専門知識が必要 |
2.2 類似会社比較法
類似会社比較法は、同業種や類似業種の公開企業の財務指標を参考に、対象企業の価値を算出する方法です。市場における評価を反映できるため、客観的な評価が可能となります。
2.2.1 類似会社比較法のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
客観的な評価が可能 | 完全に一致する類似会社を見つけるのが難しい |
市場の評価を反映できる | 公開企業の情報に基づくため、非公開企業の評価には適用しにくい場合がある |
比較的簡易な方法 | 類似会社の選定により評価額が大きく変動する可能性がある |
2.3 純資産法
純資産法は、会社の資産から負債を差し引いた純資産額を基に、企業価値を算出する方法です。貸借対照表に基づくため、計算が容易ですが、将来の収益性は考慮されません。
2.3.1 純資産法のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
計算が容易 | 将来の収益性を反映できない |
財務状況を把握しやすい | 簿価に基づくため、実態価値と乖離する場合がある |
解散価値の算定に適している | 成長性のある企業の評価には不向き |
2.4 時価純資産法
時価純資産法は、純資産法をベースに、資産と負債を時価で評価する方法です。簿価ではなく時価を用いることで、より実態に近い企業価値を算出できます。不動産を多く保有する企業などで用いられることが多いです。
2.4.1 時価純資産法のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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実態価値に近い評価が可能 | 資産の時価評価が難しい場合がある |
純資産法より精緻な評価 | 評価に専門知識と手間が必要 |
不動産保有企業の評価に適している | 将来の収益性は考慮されない |
これらの評価方法は単独で用いられるだけでなく、複数の方法を組み合わせて使用されることもあります。例えば、DCF法と類似会社比較法を併用することで、より精緻な評価が可能になります。どの評価方法が最適かは、会社の状況や売却の目的によって異なります。専門家と相談しながら、適切な方法を選択することが重要です。
3. 会社売却における中小企業の譲渡価格を決定する注意点
譲渡価格の決定は、会社売却プロセスにおける最重要事項の一つです。売却側にとっては、これまでの努力の対価を得る場であり、買収側にとっては将来の投資効果を左右する要素となります。
適切な価格設定のためには、市場環境、事業の将来性、財務状況など、様々な要素を考慮する必要があります。特に中小企業の場合、事業規模や情報量の制約から、価格交渉が難航するケースも少なくありません。ここでは、中小企業が譲渡価格を決定する上での注意点を解説します。
3.1 譲渡価格交渉のポイント
譲渡価格の交渉は、売却側と買収側の双方が納得できる価格を見出すための重要なプロセスです。価格交渉をスムーズに進めるためには、事前の準備が不可欠です。自社の強み・弱みを客観的に分析し、市場における競争優位性を明確にすることで、交渉を有利に進めることができます。
また、買収側のニーズを理解し、自社の価値を効果的に伝えることも重要です。希望価格だけでなく、妥協可能な価格帯も事前に設定しておきましょう。交渉過程では、感情的にならず、冷静に論理的に議論を進めることが大切です。
3.1.1 譲渡価格の根拠を明確に
交渉の際には、希望価格の根拠を明確に提示することが重要です。DCF法、類似会社比較法、純資産法など、適切な評価方法を用いて算出した価格を提示し、その根拠となるデータや assumptions を開示することで、買収側の理解と信頼を得ることができます。また、市場動向や競合他社の状況なども考慮し、自社の価値を客観的に説明することで、説得力のある価格交渉が可能となります。
3.1.2 柔軟な姿勢で交渉に臨む
価格交渉においては、柔軟な姿勢で臨むことが重要です。売却側の希望価格と買収側の提示価格に乖離がある場合、双方が歩み寄るための妥協点を見つける必要があります。例えば、アーンアウト条項を設ける、株式の一部を売却後に取得するなどのオプションを検討することで、双方が納得できる合意点を見出すことができる可能性が高まります。
3.2 中小企業は専門家への相談
会社売却は複雑な手続きを伴うため、専門家への相談が不可欠です。M&Aアドバイザー、税理士、弁護士など、各分野の専門家は、売却プロセスにおける様々な課題解決をサポートしてくれます。
特に中小企業の場合、社内リソースが限られているため、専門家のサポートはより重要となります。専門家は、市場動向や法規制に関する最新情報に基づいたアドバイスを提供し、売却プロセスをスムーズに進めるためのサポートを提供します。
専門家 | 役割 |
---|---|
M&Aアドバイザー | 売却戦略の立案、買収候補先の選定、価格交渉の支援など |
税理士 | 税務デューデリジェンス、税務申告、税務戦略の策定など |
弁護士 | 法的デューデリジェンス、契約書の作成・審査、法的紛争の対応など |
3.3 中小企業のデューデリジェンスの重要性
デューデリジェンスは、買収側が対象企業の価値を評価するために実施する調査です。財務状況、事業内容、法務 compliance など、多岐にわたる項目が調査対象となります。デューデリジェンスの結果は、譲渡価格に大きく影響するため、売却側としても適切な準備が必要です。正確な情報を提供し、買収側の疑問に真摯に対応することで、円滑な売却プロセスを実現できます。
【関連】M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】3.3.1 財務デューデリジェンスへの対応
財務デューデリジェンスでは、過去数年間の財務諸表、税務申告書、会計方針などが精査されます。売却側としては、これらの資料を事前に整理し、正確な情報を提供することが重要です。不明点や疑問点には、速やかに対応することで、買収側の信頼獲得に繋がります。
【関連】財務デューデリジェンスの目的・内容・進め方を初心者にもわかりやすく解説!3.3.2 事業デューデリジェンスへの対応
事業デューデリジェンスでは、事業計画、顧客情報、競合状況、市場シェアなどが調査されます。売却側としては、自社の強みや競争優位性を明確に伝え、将来の成長性について説明することで、企業価値を適切に評価してもらうことが重要です。
【関連】ビジネスデューデリジェンスの目的・確認事項・進め方とは?【初心者向け】3.3.3 法務デューデリジェンスへの対応
法務デューデリジェンスでは、契約書、許認可、訴訟リスクなどが調査されます。売却側としては、関連書類を事前に整理し、潜在的な法的リスクを洗い出し、適切な対応策を講じておく必要があります。これにより、買収側の懸念を払拭し、スムーズな売却プロセスを実現できます。
【関連】法務デューデリジェンスとは?目的・確認事項・進め方【初心者向け】3.4 中小企業の譲渡契約書の内容確認
譲渡契約書は、会社売却における最終的な合意内容を記載した重要な文書です。譲渡価格、譲渡対象資産、譲渡条件、表明保証条項など、様々な項目が規定されています。契約内容を理解しないまま署名することは大きなリスクを伴うため、専門家のサポートを受けながら、内容を慎重に確認することが重要です。特に、表明保証条項や解除条件などは、将来的なトラブルを回避するために、細心の注意を払う必要があります。
表明保証条項とは、売却側が買収側に対して、会社の財務状況や事業内容に関する一定の事実を表明・保証する条項です。この条項に違反があった場合、買収側は売却側に対して損害賠償請求を行うことができます。売却側としては、表明保証条項の内容を正確に理解し、将来的なリスクを最小限に抑える必要があります。
【関連】意向表明書(LOI)と基本合意契約書(MOU)の違いをわかりやすく解説!重要条項・確認ポイントも3.4.1 表明保証条項の確認
3.4.2 解除条件の確認
譲渡契約書には、一定の条件が満たされない場合に契約を解除できる条項が設けられています。例えば、デューデリジェンスの結果、重大な問題が発覚した場合や、必要な許認可が取得できなかった場合などが解除事由となる可能性があります。売却側としては、解除条件の内容を事前に確認し、解除リスクを最小限に抑えるための対策を講じておく必要があります。
4. 中小企業が会社売却を成功させるための準備
会社売却を成功させるためには、事前の綿密な準備が不可欠です。特に中小企業の場合、大企業に比べて経営資源が限られているため、準備不足が致命的な結果を招く可能性があります。売却活動が本格化する前に、以下の準備をしっかりと行いましょう。
4.1 中小企業の事業計画の策定
将来の収益性を示す事業計画は、譲渡価格の算定に大きな影響を与えます。また、買収希望企業にとっても、投資判断を行う上で重要な資料となります。単年度の計画だけでなく、3~5年程度の長期的な事業計画を策定し、成長性や収益性のアピールポイントを明確に示すことが重要です。市場動向や競合分析、具体的な数値目標などを盛り込み、実現可能性の高い計画を立てましょう。
4.1.1 事業計画作成のポイント
点で箇条書きするテーブル(グリーン)市場の成長性 | |
競争優位性 | |
収益性向上のための施策 | |
リスクと対応策 |
4.2 中小企業の財務状況の整理
正確で透明性の高い財務情報は、買収希望企業の信頼獲得に不可欠です。過去の財務諸表を整理し、不明瞭な点や改善すべき点を洗い出しておきましょう。また、税務申告漏れや会計処理の誤りがないかを確認することも重要です。必要に応じて、税理士や公認会計士などの専門家のサポートを受け、財務状況の健全性をアピールできるよう準備を整えましょう。
4.2.1 財務状況整理のポイント
直近3~5期分の財務諸表の確認 | |
債権債務の状況把握 | |
棚卸資産の評価方法の確認 | |
不正会計の有無の確認 |
4.3 適切な中小企業専門アドバイザー選び
会社売却は複雑なプロセスであり、専門的な知識と経験が求められます。M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、公認会計士など、それぞれの専門分野に精通したアドバイザーを選定し、チームとして協力体制を構築することが重要です。アドバイザーの選定にあたっては、実績や専門性だけでなく、中小企業のM&Aに精通しているか、自社との相性は良いかなども考慮しましょう。
【関連】新しい仲介サービス「Hands on M&A」誕生!業績向上までサポートします。4.3.1 アドバイザー選定のポイント
アドバイザー | 役割 | 選定ポイント |
---|---|---|
M&Aアドバイザー | 売却戦略の立案、買収候補先の探索、交渉支援、契約締結支援など | M&Aの経験、業界知識、ネットワーク、料金体系 |
弁護士 | 法的デューデリジェンス、契約書作成・審査、法的アドバイスなど | M&Aに関する法的知識、経験、交渉力 |
税理士 | 税務デューデリジェンス、税務アドバイス、税務申告など | M&Aに関する税務知識、経験 |
公認会計士 | 財務デューデリジェンス、財務状況の分析、評価など | M&Aに関する会計知識、経験 |
これらの準備をしっかりと行うことで、売却プロセスをスムーズに進め、希望する条件での売却を実現する可能性を高めることができます。また、予期せぬトラブル発生時にも、冷静かつ適切な対応が可能となります。早めの準備と専門家との連携を心がけ、会社売却を成功に導きましょう。
5. まとめ
この記事では、中小企業の会社売却における譲渡価格の評価方法について解説しました。譲渡価格は、会社の将来を左右する重要な要素であり、適切な評価と交渉が必要です。DCF法、類似会社比較法、純資産法、時価純資産法など、それぞれの評価方法にはメリット・デメリットが存在します。自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。
譲渡価格の決定においては、将来の収益性や市場環境、競合他社の状況などを考慮する必要があります。また、譲渡価格交渉のポイントやデューデリジェンスの重要性、譲渡契約書の内容確認など、注意すべき点も理解しておくべきです。適切な専門家、例えばM&Aアドバイザーや弁護士などに相談することで、スムーズな売却プロセスを実現できるでしょう。事前に事業計画や財務状況を整理しておくことも成功の鍵となります。
会社売却は、経営者の人生における大きな転換期となる出来事です。この記事が、中小企業経営者の皆様が適切な譲渡価格で会社を売却し、次のステージへと進むための一助となれば幸いです。