M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】
本記事では、デューデリジェンスの基礎知識から、費用を抑える方法、M&Aで失敗しないための注意点を【前編】【後編】に分けてわかりやすく解説します。
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- 目次
- デューデリジェンスとは?
1.1 デューデリジェンスの定義
1.2 M&Aにおける重要性 - デューデリジェンスの目的
2.1 企業価値の適正評価
2.2 リスクの洗い出し
2.2.1 財務リスク
2.2.2 法務リスク
2.2.3 事業リスク
2.2.4 環境リスク
2.3 買収後の統合プロセスを円滑化 - デューデリジェンスの種類
3.1 ビジネスデューデリジェンス
3.1.1 ビジネスデューデリジェンスの主な調査項目
3.2 財務デューデリジェンス
3.2.1 財務デューデリジェンスの主な調査項目
3.3 法務デューデリジェンス
3.3.1 法務デューデリジェンスの主な調査項目
3.4 人事デューデリジェンス
3.4.1 人事デューデリジェンスの主な調査項目
3.5 ITデューデリジェンス
3.5.1 ITデューデリジェンスの主な調査項目
3.6 セルサイドデューデリジェンス
3.6.1 セルサイドデューデリジェンスのメリット - デューデリジェンスの費用
4.1 費用の内訳
4.1.1 専門家費用
4.1.2 調査会社費用
4.1.3 旅費交通費
4.1.4.1 資料作成費用
4.2 相場感
4.3 費用を抑える方法
4.3.1 調査範囲を絞り込む
4.3.2 社内の人材を活用する
4.3.3 専門家との契約内容を明確にする
4.3.4 早期に専門家を選定する
4.3.5 データ整理を徹底し、専門家の作業効率を上げる
- デューデリジェンスとは?
デューデリジェンスの結果は、買収価格の交渉や買収契約の内容に大きな影響を与えるため、M&Aプロセスにおいて非常に重要なプロセスと言えるでしょう。
1.2 M&Aにおける重要性 M&Aにおいてデューデリジェンスは、買収側にとって以下のような点で非常に重要です。
企業価値の適正評価
デューデリジェンスを通じて、財務状況、収益構造、資産価値などを精査することで、買収対象企業の適正な価値判断を行うことができます。また、類似企業の財務データや市場取引の事例などを参考に、買収価格の妥当性を検証することも重要です。
リスクの洗い出し
デューデリジェンスでは、財務リスク、法務リスク、事業リスクなど、買収対象企業に内在する様々なリスクを洗い出すことができます。また、リスクの内容によっては、買収後の統合プロセスにおいて、事前に対策を講じることで、リスクの影響を最小限に抑えることも可能になります。
財務リスク
財務デューデリジェンスでは、買収対象企業の財務状況を詳細に調査し、財務リスクを洗い出すことを目的とします。例えば、粉飾決算や不正経理などの問題がないか、債務超過や資金繰りの悪化など、財務状況に問題がないかなどを調査します。
これらのリスクが発見された場合、買収価格の減額交渉や、買収契約条項に表明保証条項や補償条項などを盛り込むことで、リスクヘッジを行うことがあります。
法務リスク
法務デューデリジェンスでは、買収対象企業の法務上のリスクを洗い出すことを目的とします。例えば、重要な契約書に不備がないか、必要な許認可を取得しているか、係争中の訴訟や潜在的な法的紛争がないかなどを調査します。
これらのリスクが発見された場合、弁護士などの専門家に相談し、適切な対応策を検討する必要があります。
事業リスク
事業デューデリジェンスでは、買収対象企業の事業内容や市場環境などを調査し、事業上のリスクを洗い出すことを目的とします。また、業界の将来展望や競争環境の変化などを分析し、潜在的な事業リスクを明らかにします。
これらのリスクが発見された場合、事業計画の見直しや、リスクヘッジのための戦略を検討する必要があります。
買収後の統合プロセスを円滑化
デューデリジェンスを通じて、買収対象企業の事業内容、組織構造、企業文化などを深く理解することで、買収後の統合プロセスを円滑に進めることができます。また、デューデリジェンスで得られた情報は、統合後の事業計画策定や組織再編などの意思決定においても、重要な判断材料となります。
統合計画策定
デューデリジェンスで得られた情報は、統合後の事業計画策定においても、重要な判断材料となります。組織再編
デューデリジェンスで得られた情報は、統合後の組織再編においても、重要な判断材料となります。文化統合
デューデリジェンスで得られた情報は、統合後の文化統合においても、重要な判断材料となります。デューデリジェンスは、M&A取引における情報格差を解消し、買収側が適切な意思決定を行うために不可欠なプロセスと言えるでしょう。
デューデリジェンスを適切に行うことで、M&Aのリスクを低減し、成功の可能性を高めることができます。
日本におけるM&A成約件数は、2019年は4,088件(※1)と過去最高を更新しており、今後も増加していくことが予想されます。M&Aを成功させるためには、デューデリジェンスを適切に行い、リスクを最小限に抑えることが重要です。
※1参考:中小企業庁 M&Aを通じた経営資源の有効活用
2. デューデリジェンスの目的 デューデリジェンスを実施する目的は、主に以下の3つです。
2.1 企業価値の適正評価
デューデリジェンスでは、対象会社の財務状況、事業内容、法務状況などを詳細に調査することで、その企業の真の価値を評価します。
例えば、ある会社が製造業の会社を買収しようとしているとします。対象会社の工場は最新鋭に見えますが、デューデリジェンスの結果、老朽化が進んでいることが発覚し、今後多額の改修費用が必要になることが判明するかもしれません。このような情報は、買収価格の交渉材料となるだけでなく、買収後の事業計画を大きく左右する可能性があります。
また、対象会社の顧客との契約内容を精査することで、長期的な取引が見込める優良顧客か、それとも契約更新が不確実な顧客かを把握することもできます。こうした分析を通じて、対象会社の収益構造をより深く理解し、将来の収益予測の精度を高めることが可能となります。
2.2 リスクの洗い出し
デューデリジェンスでは、対象会社のリスクを徹底的に洗い出すことも重要な目的です。
例えば、対象会社の工場が環境規制に違反していることが発覚した場合、買収後に多額の費用をかけて改善する必要が出てくる可能性があります。このようなリスクを事前に把握しておくことで、買収後の事業計画に織り込むことができます。2.2.1 財務リスク
財務デューデリジェンスでは、対象会社の財務諸表を分析し、収益性、安全性、成長性などを評価します。
粉飾決算や簿外債務などの不正リスク、過大な債務による資金繰りリスク、売上債権の回収可能性などを調査します。例えば、粉飾決算が発覚した場合、買収後に多額の損失を被る可能性があります。また、過大な債務を抱えている場合、買収後に資金繰りが悪化し、事業継続が困難になる可能性があります。
2.2.2 法務リスク
法務デューデリジェンスでは、対象会社の契約書や許認可などを調査し、法令遵守の状況や潜在的な法的リスクを評価します。
例えば、対象会社が環境規制に違反している場合、行政処分や損害賠償請求のリスクがあります。また、重要な契約書に不備がある場合、訴訟リスクや取引停止のリスクがあります。2.2.3 事業リスク
ビジネス(事業)デューデリジェンスでは、対象会社の事業内容、市場環境、競合状況などを調査し、将来の収益力や成長性を評価します。
例えば、対象会社の属する市場が縮小傾向にある場合、買収後に収益が減少する可能性があります。また、競合他社が強力な場合、価格競争に巻き込まれ、収益が圧迫される可能性があります。2.2.4 環境リスク
環境デューデリジェンスでは、対象会社の環境関連法令の遵守状況や環境汚染リスクなどを調査します。
例えば、工場の土壌汚染が発覚した場合、浄化費用や損害賠償費用など、多額の費用が発生する可能性があります。2.3 買収後の統合プロセスを円滑化
デューデリジェンスで得られた情報は、買収後の統合プロセス(PMI)を円滑に進めるためにも活用されます。
例えば、対象会社の組織構造や人事制度を事前に把握しておくことで、スムーズな人事統合計画を立てることができます。また、対象会社の顧客情報や販売チャネルを分析することで、効果的な販売戦略を立案することができます。デューデリジェンスは、単なるリスクチェックではなく、買収後の統合プロセス(PMI)を成功させるための重要なステップと言えるでしょう。
例えば、買収側の企業が、買収対象の企業の顧客情報を活用して、新たな商品やサービスの販売促進活動を行うことができます。また、買収対象の企業の販売チャネルを活用して、自社の商品やサービスの販路を拡大することもできます。
また、デューデリジェンスを通じて、買収対象企業の従業員とのコミュニケーションを図ることもできます。従業員の不安や懸念を早期に把握し、適切な対応策を講じることで、統合プロセスにおける従業員のモチベーション低下や離職を抑制することができます。
【重要】 スムーズな統合は、従業員の協力なくしては実現できません。従業員との信頼関係を築き、一体感を醸成していくことが、統合後の企業の成長にとって非常に重要となります。
デューデリジェンスは、M&Aを成功に導くための重要なプロセスです。M&Aを検討する際には、デューデリジェンスの重要性を十分に理解し、専門家の助言を得ながら、慎重に進めるようにしましょう。
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3. デューデリジェンスの種類 デューデリジェンスは、その調査対象範囲や目的によって、いくつかの種類に分けられます。ここでは、M&Aにおいて一般的に行われる主なデューデリジェンスの種類について解説していきます。
3.1 ビジネス(事業)デューデリジェンス ビジネス(事業)デューデリジェンスは、対象会社の事業内容や収益構造、市場環境、競争優位性、将来性などを分析し、投資判断に必要な情報を収集する調査です。
財務諸表からは読み取れない、事業の将来性や潜在リスクを評価する目的で行われます。対象会社が属する業界の専門家やコンサルタントなどが、業界動向や競合分析、市場調査などを実施します。
3.1.1 ビジネスデューデリジェンスの主な調査項目
事業の全体像 | 事業の沿革、事業内容、組織構造、ビジネスモデル、主要製品・サービス、事業計画など |
---|---|
市場分析 | 市場規模、市場成長性、市場シェア、競合状況、顧客属性、市場トレンド、参入障壁、市場の魅力度など |
競争環境分析 | 競合企業の事業内容、売上高、市場シェア、強み・弱み、競争戦略、価格戦略、販売チャネルなど |
収益構造分析 | 売上高、売上総利益、営業利益の推移、主要顧客、顧客獲得単価、顧客維持率、収益源の多角化、収益性分析など |
将来性 | 新規事業計画、市場拡大の可能性、技術革新の可能性、法規制の影響、成長戦略、イノベーションの可能性など |
リスク分析 | 競争激化リスク、市場縮小リスク、技術革新リスク、法規制リスク、訴訟リスク、レピュテーションリスク、オペレーションリスクなど |
例えば、対象会社が新規事業として開発した製品があるとします。ビジネスデューデリジェンスでは、その製品の市場規模や競合状況、将来性を分析し、収益化の可能性を評価します。
また、その製品に関する特許や技術的な優位性を調査することで、競争優位性を評価します。さらに、その製品が関係する法規制や環境問題などを調査することで、潜在的なリスクを洗い出します。
3.2財務デューデリジェンスの主な調査項目 財務デューデリジェンスは、対象会社の財務状況を詳細に調査し、企業価値を評価したり財務リスクを洗い出したりするものです。
具体的には、過去3~5年間の財務諸表を分析し、収益性、安全性、効率性、成長性などを評価します。公認会計士や監査法人などが、財務諸表の分析、会計基準の遵守状況の確認、財務リスクの評価などを実施します。
3.2.1 財務デューデリジェンスの主な調査項目 収益性分析 売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、純利益の推移、売上高営業利益率、自己資本利益率(ROE)、総資産利益率(ROA)、売上原価率、販売管理費比率など
安全性分析 流動比率、当座比率、自己資本比率、有利子負債比率、インタレストカバレッジレシオ、債務償還年数、固定比率、固定長期適合率など
効率性分析 総資産回転率、棚卸資産回転期間、売上債権回転期間、仕入債務回転期間、有形固定資産回転率など
成長性分析 売上高成長率、営業利益成長率、経常利益成長率、純利益成長率、総資産成長率など
キャッシュフロー分析 営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフロー、フリーキャッシュフローなど
例えば、対象会社の財務諸表上に、多額の債務が計上されているとします。財務デューデリジェンスでは、その債務の金額や返済期限、金利などを調査し、対象会社の返済能力を評価します。
また、その債務が事業運営にどのような影響を与えるかを分析し、財務リスクを評価します。さらに、その債務に関する契約書などを精査することで、隠れた条項やリスクがないかを調査します。
3.3 法務デューデリジェンス 法務デューデリジェンスは、対象会社の法的リスクを洗い出すことを目的とするものです。具体的には、契約書、許認可、訴訟、従業員関連など、幅広い法的側面から調査を行います。
企業買収においては、買収後に想定外の法的問題が発生することを防ぐために、法務デューデリジェンスは非常に重要です。弁護士や法律事務所などが、契約書のレビュー、法令遵守状況の確認、潜在的な法的リスクの評価などを実施します。
3.3.1 法務デューデリジェンスの主な調査項目
契約関係 | 重要な契約の確認(売買契約、業務委託契約、秘密保持契約、ライセンス契約、フランチャイズ契約、代理店契約など) |
---|---|
許認可関係 | 必要な許認可の取得状況、有効期限の確認 |
訴訟関係 | 係争中、または係争の可能性がある訴訟の有無、内容、影響額の確認 |
知的財産関係 | 特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権の有無、権利範囲、侵害の有無、知的財産戦略、ブランド保護など |
不動産関係 | 所有不動産、借地借家、抵当権などの権利関係の確認、不動産の評価、環境汚染リスクなど |
労働関係 | 従業員数、雇用形態、労働時間、賃金、労働組合、労使関係などの確認、労働契約書、就業規則、ハラスメント対策など |
環境法令遵守 | 環境関連法令の遵守状況、環境汚染リスクの確認、環境許可、排出量取引、環境報告書など |
独占禁止法・競争法 | 独占禁止法や競争法に違反する行為の有無、カルテル、談合、不公正な取引方法など |
個人情報保護法 | 個人情報の収集、利用、保管に関する法令遵守状況、プライバシーポリシー、個人情報保護体制など |
また、同様の訴訟リスクが将来発生する可能性を分析し、その対策を検討します。さらに、その訴訟が企業価値や買収後の事業計画に与える影響を分析します。
3.4 人事デューデリジェンス 人事デューデリジェンスでは、対象会社の従業員の構成、人事制度、労務管理などを調査し、買収後の組織統合における課題やリスクを分析します。
特に、従業員のスキルや能力、モチベーション、企業文化との適合性などを評価することで、買収後の組織運営を円滑に行うための準備を行います。人事コンサルタントや弁護士などが、従業員に関する情報、人事制度、労務管理体制などを調査します。
3.4.1 人事デューデリジェンスの主な調査項目 従業員構成 従業員数、年齢構成、性別構成、学歴、職種、勤続年数、離職率、人材の多様性、キーパーソンなど
人事制度 賃金制度、昇進・昇格制度、評価制度、教育研修制度、福利厚生制度、退職金制度、ストックオプションなど
労務管理 労働時間管理、残業時間、有給休暇取得率、ハラスメント対策、安全衛生管理、メンタルヘルス対策など
労使関係 労働組合の有無、団体交渉の状況、労使紛争の発生状況、労働協約など
人材の質 従業員のスキル、能力、経験、資格、パフォーマンス、潜在能力、リーダーシップ、専門性など
企業文化 組織風土、価値観、行動規範、リーダーシップスタイル、コミュニケーションスタイル、従業員満足度など
例えば、対象会社と買収企業の間で、給与水準や評価制度に大きな違いがあるとします。人事デューデリジェンスでは、その違いが買収後の従業員のモチベーションや組織文化にどのような影響を与えるかを分析します。
また、統合後の新組織における人事制度や評価制度をどのように設計するかを検討します。さらに、キーパーソンの引き留め策や人材育成計画なども検討します。
3.5 ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスは、対象会社のITシステム、インフラストラクチャ、セキュリティ体制などを調査し、買収後のIT統合における課題やリスクを分析します。
特に、ITシステムの老朽化、セキュリティの脆弱性、IT投資の必要性などを評価することで、買収後のIT戦略を策定するための情報を収集します。近年、企業活動におけるITの重要性が高まっており、ITデューデリジェンスの重要性も増しています。ITコンサルタントやシステムエンジニアなどが、ITシステムの現状、セキュリティ対策、IT投資計画などを調査します。
3.5.1 ITデューデリジェンスの主な調査項目
ITシステム | 基幹システム、情報系システム、アプリケーション、ネットワーク、データベース、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービスなど |
---|---|
ITインフラストラクチャ | サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、セキュリティ機器、データセンター、クラウド環境など |
ITセキュリティ | セキュリティ対策、アクセス管理、データ保護、インシデント対応、サイバー攻撃対策、脆弱性診断など |
ITガバナンス | IT戦略、IT組織、IT投資、ITリスク管理、IT予算、IT人材、IT調達など |
IT人材 | IT部門の組織構造、人員構成、スキル、経験、IT人材の確保・育成計画など |
また、買収企業のITシステムとの統合計画、統合に伴うコストやリスクなどを分析します。さらに、ITシステムの運用体制やIT人材のスキルなども評価します。
3.6 セルサイド・デューデリジェンス セルサイド・デューデリジェンスとは、M&Aにおいて、売却側(ターゲット企業)が、自社の財務状況や法務状況などを事前に調査することです。買収監査とも呼ばれます。
売却側が主体的に行うデューデリジェンスであり、財務、法務、税務、事業などの専門家チームを編成して実施します。これにより、売却企業は、事前に問題点や課題を把握し、改善策を講じることで、M&Aプロセスをスムーズに進め、より有利な条件で売却契約を締結することを目指します。
また、買収企業に対して、透明性と信頼性を示すことができます。
3.6.1 セルサイドデューデリジェンスのメリット
スムーズなM&Aプロセス
事前に問題点を把握し、解決しておくことで、M&Aプロセスをスムーズに進めることができます。例えば、セルサイドデューデリジェンスで過年度の決算書の誤りが発見された場合、事前に修正することで、買収企業との交渉がスムーズに進みます。また、契約書に不備が見つかった場合、事前に修正しておくことで、買収後のトラブルを回避することができます。
有利な条件での売却
問題点を事前に開示することで、買収側の不信感を払拭し、有利な条件で売却交渉を進めることができます。例えば、セルサイドデューデリジェンスで土壌汚染が見つかった場合、事前にその事実を 開示し、対策を講じておくことで、買収価格への影響を最小限に抑えることができます。また、セルサイドデューデリジェンスで従業員の退職金債務が大きいことが判明した場合、事前に対策を講じておくことで、買収企業との交渉を有利に進めることができます。
企業価値の向上
セルサイドデューデリジェンスを通じて、自社の課題や改善点が明らかになるため、企業価値向上につなげることができます。
例えば、セルサイドデューデリジェンスで収益性の低い事業が判明した場合、その事業を売却したり縮小したりすることで収益性の向上を図ることができます。また、デューデリジェンスで契約書の管理体制に不備が見つかった場合、契約書管理システムを導入するなど、業務プロセスを改善することで、コンプライアンス体制を強化することができます。
これらのセルサイドデューデリジェンスは、M&Aの対象となる企業の規模や業種、取引の形態などによって実施する項目や深度が異なります。そのため、M&Aを実施する際には、経験豊富な専門家のサポートを受けながら、適切なデューデリジェンスを実施することが重要です。
4. デューデリジェンスの費用 デューデリジェンスには専門家の人件費や、資料収集費用など、様々な費用が発生します。この章では、デューデリジェンス費用の内訳や相場感、費用を抑える方法について解説します。
4.1 費用の内訳 デューデリジェンスの費用は、一般的に以下のような内訳で構成されます。
専門家費用(弁護士、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、環境コンサルタントなど) | |
調査会社費用(信用調査、市場調査など) | |
旅費交通費(現地調査、関係者との面談など) | |
資料作成費用(報告書作成、翻訳など) | |
その他費用(デューデリジェンス用のデータルーム利用料、通信費など) |
4.1.1 専門家費用 デューデリジェンスには、弁護士、公認会計士、税理士といった専門家の専門知識が欠かせません。そのため、デューデリジェンス費用の内訳の中でも、専門家費用が大きな割合を占めるケースが多いです。
専門家費用は、専門家の種類や、作業量、時間単価によって変動します。例えば、弁護士に依頼する場合、M&Aに精通している弁護士の方が、そうでない弁護士よりも高額な費用が発生する可能性があります。
また、依頼する業務内容によっても費用は変動します。例えば、契約書の作成・レビューのみを依頼する場合よりも、デューデリジェンス全体に関与してもらう場合の方が、高額な費用が発生する可能性があります。
このように、専門家費用は、専門家や業務内容によって大きく変動するため、事前に見積もりを取得することが重要です。
4.1.2 調査会社費用
対象会社の信用調査や市場調査などを外部の調査会社に依頼する場合、調査会社費用が発生します。調査会社費用は、調査会社の規模や、調査内容、調査期間によって変動します。
例えば、上場企業の調査を依頼する場合、非上場企業の調査を依頼する場合よりも高額になる可能性があります。また、調査内容や調査期間によっても費用は変動します。例えば、財務状況の調査のみを依頼する場合よりも、競合状況や市場全体の動向調査なども依頼する場合の方が、高額な費用が発生する可能性があります。
調査会社への依頼は、デューデリジェンスの精度を高める上で重要な役割を果たします。専門性の高い調査が必要な場合や、自社だけでは調査が難しい場合は調査会社への依頼を検討しましょう。また、事前に複数の調査会社から見積もりを取得し、比較検討することが重要です。
4.1.3 旅費交通費 デューデリジェンスでは、実際に現地調査を行ったり、関係者と面談を行ったりするケースがあります。そのため、担当者の旅費交通費が発生します。
旅費交通費は、対象会社の所在地や、訪問回数、移動手段によって変動します。例えば、対象会社が遠方に所在する場合、近隣に所在する場合よりも高額になる可能性があります。
また、訪問回数や移動手段によっても費用は変動します。例えば、1度の訪問で済む場合よりも、複数回訪問する必要がある場合の方が、高額な費用が発生する可能性があります。
旅費交通費は、デューデリジェンスの進め方によって大きく変動するため、事前に移動手段や訪問回数を検討し、場合によってはWEB会議でお行うなど費用を抑える工夫をすることが重要です。
4.1.4 資料作成費用 デューデリジェンスの結果をまとめた報告書の作成や、翻訳作業が発生する場合、資料作成費用が発生します。資料作成費用は、報告書のページ数や、翻訳の分量、言語によって変動します。
例えば 報告書がシンプルな内容で済む場合よりも、詳細な分析結果を盛り込む場合の方が、高額になる可能性があります。また、翻訳が必要な場合、翻訳の分量や言語によっても費用は変動します。
日本語から英語への翻訳を依頼する場合よりも、日本語から中国語への翻訳を依頼する場合の方が、高額な費用が発生する可能性があります。
資料作成費用は、報告書の構成や翻訳の必要性によって大きく変動するため、事前に報告書の構成や翻訳の要否を検討し、費用を抑える工夫をすることが重要です。
4.2 相場感
- デューデリジェンスの費用は、対象会社の規模や業種、調査範囲や深さ、専門家の関与度合いなどによって大きく異なります。
買収金額 | 費用の目安(下限) | 費用の目安(上限) |
---|---|---|
1億円 | 50万円 | 100万円 |
10億円 | 500万円 | 1,000万円 |
100億円 | 5,000万円 | 1億円 |
4.3 費用を抑える方法
調査範囲を絞り込む | |
社内の人材を活用する | |
専門家との契約内容を明確にする | |
早期に専門家を選定する | |
データ整理を徹底し、専門家の作業効率を上げる |
ただし、費用を抑えることばかりを重視するあまり、必要な調査が不足したり、調査の質が低下したりすることがないよう注意が必要です。デューデリジェンスは、M&Aを成功させるための重要なプロセスです。費用対効果を踏まえ、適切な範囲と深度で実施することが重要です。
4.3.1 調査範囲を絞り込む デューデリジェンスの費用を抑えるためには、調査範囲を絞り込むことが有効です。調査範囲を絞り込むには、M&Aの目的や重要性を踏まえ、どの分野の調査を重点的に行うべきかを明確にする必要があります。
例えば製造業の企業を買収する場合、製造工程や品質管理に関する調査を重点的に行う必要があるかもしれません。一方で、IT企業を買収する場合、システム開発能力や顧客データの管理体制に関する調査を重点的に行う必要があるかもしれません。
このように、M&Aの目的や対象会社の事業内容に応じて、調査範囲を絞り込むことで、費用を抑え効果的なデューデリジェンスを実施することができます。
4.3.2 社内の人材を活用する
デューデリジェンスの一部を社内の人材で対応することで、外部に委託する費用を抑えることができます。例えば、法務部や経理部など専門知識を持った社員に、デューデリジェンスの一部を分担してもらうことが考えられます。
ただし、社内の人材だけでデューデリジェンスを行う場合、専門知識や経験が不足しているため、調査の質が低下する可能性があります。そのため、社内の人材を活用する場合は、外部の専門家と連携し、アドバイスやサポートを受ける体制を整えることが重要です。
また、社内の人材に過度な負担がかかり、本来の業務に支障が出ないように、業務分担やスケジュール調整を適切に行う必要があります。
4.3.3 専門家との契約内容を明確にする 専門家費用を抑えるためには、事前に契約内容を明確にしておくことが重要です。具体的には、作業範囲、報酬、支払い条件などを明確に定めた契約書を締結する必要があります。契約書を締結することで、後々のトラブルを防止することができます。
また、専門家の費用は、時間単位で請求されるケースが多いため、作業時間を削減するために、事前に専門家と綿密な打ち合わせを行い、調査の方針や方法を共有しておくことが重要です。
専門家が必要とする資料を事前に準備しておくことで、専門家の作業時間を削減することができます。さらに、専門家とのコミュニケーションを密に取り、疑問点や不明点を速やかに解消することで、無駄な作業時間を削減することができます。
4.3.4 早期に専門家を選定する デューデリジェンスは、専門家の選定が完了してから開始されます。そのため、早期に専門家を選定することで、デューデリジェンス全体の期間を短縮し費用を抑えることができます。早期に専門家を選定するためには、複数の専門家候補に早めに声をかけ、見積もりや提案を依頼する必要があります。
また、専門家の選定は、費用だけでなく、専門知識や経験、実績などを総合的に判断することが重要です。実績や評判の良い専門家は、早めにスケジュールが埋まってしまう可能性があるため、注意が必要です。
専門家の選定には、時間と労力を要しますが、デューデリジェンス全体の成否を左右する重要な要素であるため、慎重に進める必要があります。
4.3.5 データ整理を徹底し、専門家の作業効率を上げる
デューデリジェンスでは、対象会社から提供された膨大な量の資料を分析する必要があります。そのため、専門家に資料分析を依頼する前に、社内でデータ整理を徹底しておくことで、専門家の作業効率を上げ、費用を抑えることができます。
具体的には、資料を電子化し、検索しやすいように整理したり、必要な資料をリストアップしたりすることが有効です。また、専門家が必要とする資料を予測し、事前に準備しておくことも重要です。
データ整理は、一見地味な作業ですが、専門家の作業効率に大きく影響するため、費用を抑えるためには、非常に重要なポイントです。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。