財務デューデリジェンスの目的・内容・進め方を初心者にもわかりやすく解説!
「財務デューデリジェンスって一体何だろう?」企業買収や合併のニュースを見聞きする中で、こんな疑問を持ったことはありませんか?
財務デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況を徹底的に調査し、その企業価値を評価するプロセスを指します。
本記事では、財務デューデリジェンスの目的や内容、具体的な進め方について、専門用語をできるだけ使わずに解説していきます。
M&Aに関わる方はもちろん、これから企業分析を学ぼうと考えている方にとっても、基礎知識を身につけるための最適な内容となっています。
M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。
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- 目次
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1. 財務デューデリジェンスとは?
1.1 目的
1.2 対象
1.3 調査項目
1.4 関係者
1.5 財務デューデリジェンスの重要性
2. 財務デューデリジェンスの目的
2.1 企業価値の適正性を評価する
2.2 将来のリスクや潜在的な問題点を発見する
2.3 M&A後の統合プロセスを円滑に進める
3. 財務デューデリジェンスの内容
3.1 収益性分析
3.2 安全性分析
3.3 成長性分析
4. 財務デューデリジェンスの進め方
4.1 準備段階
4.2 実行段階
4.3 報告段階
5. まとめ
財務デューデリジェンスとは、M&Aや投資の際に、対象企業の財務状況を詳細に調査することを指します。買収や投資の意思決定をする上で、対象企業の財務状況を把握し、リスクや問題点を洗い出すことは非常に重要です。
このプロセスを通じて、投資家や買収企業は、対象企業の財務状態を正確に理解し、投資判断の精度を高めることができます。
1.1 目的
財務デューデリジェンスの主な目的は以下の点が挙げられます。
企業価値の適正性を評価する | |
将来のリスクや潜在的な問題点を発見する | |
M&A後の統合プロセスを円滑に進める |
これらの目的を達成するために、財務デューデリジェンスでは、過去の財務諸表や関連資料を分析し、企業の収益性、安全性、成長性などを多角的に評価します。
また、財務状況だけでなく、事業内容や業界動向なども考慮することで、より精度の高い分析を行います。
1.2 対象
財務デューデリジェンスの対象となる企業は、主に以下の通りです。
M&Aの対象企業 | |
投資ファンドによる投資対象企業 | |
銀行融資の対象企業 |
これらの企業に対して、財務デューデリジェンスを実施することで、投資や融資の判断材料を得ることができます。
1.3 調査項目
財務デューデリジェンスでは、多岐にわたる項目を調査します。主な調査項目は以下の通りです。
区分 | 調査項目 | 詳細 |
---|---|---|
収益性分析 | 売上高・利益の推移 | 過去の売上高や利益の推移を分析し、収益力の安定性を評価します。 |
収益構造 | 主要製品・サービスの売上構成比などを分析し、収益源の多角化度合いを評価します。 | |
利益率分析 | 売上総利益率、営業利益率などを分析し、収益性の実態を把握します。 | |
安全性分析 | 財務指標分析 | 自己資本比率、流動比率などの財務指標を分析し、財務の健全性を評価します。 |
キャッシュフロー分析 | 営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュフローを分析し、資金繰りの状況を把握します。 | |
債務状況 | 借入金の規模や返済条件などを分析し、債務負担の適正性を評価します。 | |
成長性分析 | 市場分析 | 対象企業が属する市場の成長性や競争環境を分析し、将来の収益機会を評価します。 |
事業計画の妥当性 | 対象企業の事業計画を分析し、実現可能性や成長性を評価します。 |
1.4 関係者
財務デューデリジェンスには、様々な関係者が関わります。
買収企業・投資ファンド | |
対象企業 | |
金融機関 | |
財務アドバイザー | |
会計監査人 | |
弁護士 | |
PMI支援会社 |
これらの関係者が連携し、情報を共有しながら、デューデリジェンスを進めていきます。
【関連】M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】1.5 財務デューデリジェンスの重要性
財務デューデリジェンスは、M&Aや投資において非常に重要なプロセスです。財務デューデリジェンスを適切に行うことで、以下のメリットがあります。
1 | 投資リスクの軽減 |
---|---|
2 | 適正な価格での取引の実現 |
3 | M&A後の統合の円滑化 |
逆に、財務デューデリジェンスを怠ると、以下のようなリスクが発生する可能性があります。
1 | 不適切な価格での取引 |
---|---|
2 | M&A後の想定外の損失 |
3 | 訴訟リスク |
そのため、財務デューデリジェンスは、M&Aや投資を成功させるために欠かせないプロセスと言えるでしょう。
2. 財務デューデリジェンスの目的
財務デューデリジェンスを実施する主な目的は以下の3つです。
2.1 企業価値の適正性を評価する
M&Aや投資案件において、対象企業の財務状況を詳細に分析することで、提示された企業価値が適正かどうかを判断します。具体的には、以下の要素を検証します。
過去の財務諸表の分析による収益力、安全性、成長性の評価 | |
資産、負債の評価 | |
キャッシュ・フローの分析 |
これらの分析を通じて、対象企業の財務状況を多角的に評価し、企業価値の妥当性を判断します。
2.2 将来のリスクや潜在的な問題点を発見する
財務デューデリジェンスでは、過去の財務データだけでなく、将来発生する可能性のあるリスクや潜在的な問題点も洗い出します。
例えば ・粉飾決算のリスク・簿外債務
・未計上債務
・将来発生する可能性のある損失引当金の過不足
・税務リスク
・法務リスク
・環境規制によるリスク
などを検討します。これらのリスクを事前に把握しておくことで、M&Aや投資後のトラブルを回避したり、交渉を有利に進めたりすることができます。また、リスクの内容によっては、買収価格の減額を要求する材料にもなりえます。
2.3 M&A後の統合プロセスを円滑に進める
M&A後の統合プロセスをスムーズに進めるためにも、財務デューデリジェンスは重要な役割を果たします。 財務デューデリジェンスを通じて、
対象企業のビジネスモデルや組織文化への理解を深める | |
統合後のシナジー効果を最大化する施策を検討する | |
統合後の財務計画を策定する |
などの準備を行うことで、統合プロセスにおける混乱や摩擦を最小限に抑え、早期の統合効果の実現を目指します。
このように、財務デューデリジェンスは単なる財務調査ではなく、M&Aや投資案件を成功に導くための重要なプロセスと言えるでしょう。
3. 財務デューデリジェンスの内容
財務デューデリジェンスでは、対象会社の財務状況を多角的に分析します。ここでは、主要な分析項目とその内容について詳しく解説します。
3.1 収益性分析
収益性分析は、企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを評価するものです。主な分析指標は以下の通りです。
指標名 | 内容 | 分析ポイント |
---|---|---|
売上高総利益率 | (売上高 - 売上原価) ÷ 売上高 × 100 | 本業の収益力を示す。業界平均や競合他社と比較し、高いか低いかを分析する。 |
営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 | 本業からの収益力を示す。業界平均や競合他社と比較し、高いか低いかを分析する。 |
経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 × 100 | 企業の経常的な収益力を示す。業界平均や競合他社と比較し、高いか低いかを分析する。 |
純利益率 | 純利益 ÷ 売上高 × 100 | 企業の最終的な収益力を示す。業界平均や競合他社と比較し、高いか低いかを分析する。 |
これらの指標を分析することで、企業の収益構造や収益性の変動要因を把握し、将来の収益力を見極めることが重要です。
売上高総利益率の分析ポイント
売上高総利益率の推移を見ることで、企業の本業の収益力が安定しているか、あるいは向上傾向にあるかなどを確認します。 | |
業界平均や競合他社と比較し、自社の売上高総利益率が高いか低いかを分析します。もし低い場合は、その原因を突き止め、改善策を検討する必要があります。 |
営業利益率の分析ポイント
営業利益率は、売上高総利益率から販売費および一般管理費を差し引いたものであり、企業の本業からの収益力を示す指標です。 | |
業界平均や競合他社と比較し、自社の営業利益率が高いか低いかを分析します。もし低い場合は、その原因を突き止め、改善策を検討する必要があります。 |
3.2 安全性分析
安全性分析は、企業が将来的に債務を返済できる能力があるかを評価するものです。主な分析指標は以下の通りです。
指標名 | 内容 | 分析ポイント |
---|---|---|
流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 短期的な債務返済能力を示す。200%以上が目安とされる。 |
当座比率 | 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 | より厳格な短期的な債務返済能力を示す。100%以上が目安とされる。 |
自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 × 100 | 長期的な債務返済能力を示す。40%以上が目安とされる。 |
有利子負債比率 | 有利子負債 ÷ 総資産 × 100 | 総資産に占める有利子負債の割合を示す。低いほど財務の安定性が高いとされる。 |
これらの指標を分析することで、企業の財務リスクや資金繰りの状況を把握し、将来の安定性を評価します。
流動比率の分析ポイント
流動比率は、企業の短期的な債務返済能力を示す指標です。200%以上であれば、短期的な債務を返済するのに十分な流動資産があると判断されます。 | |
流動比率が低い場合は、短期的な資金繰りに問題を抱えている可能性があります。その場合は、売上債権や棚卸資産の回転期間が長くなっていないか、短期借入金が過剰になっていないかなどを確認する必要があります。 |
当座比率の分析ポイント
当座比率は、流動比率よりもさらに厳格な短期的な債務返済能力を示す指標です。100%以上であれば、すぐに現金化できる資産で短期的な債務を返済できると判断されます。 | |
当座比率が低い場合は、短期的な資金繰りに問題を抱えている可能性があります。その場合は、現金や預金の残高が少ない原因、売掛金の回収が遅れている原因などを分析する必要があります。 |
3.3 成長性分析
成長性分析は、企業が将来どれだけの収益や利益を上げられる可能性があるかを評価するものです。主な分析指標は以下の通りです。
指標名 | 内容 | 分析ポイント |
---|---|---|
売上高成長率 | (当期売上高 - 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100 | 企業の売上規模の拡大スピードを示す。 |
営業利益成長率 | (当期営業利益 - 前期営業利益) ÷ 前期営業利益 × 100 | 企業の本業の収益力の成長スピードを示す。 |
純利益成長率 | (当期純利益 - 前期純利益) ÷ 前期純利益 × 100 | 企業の最終的な収益力の成長スピードを示す。 |
これらの指標を分析することで、企業の将来の成長可能性や持続的な発展の可能性を評価します。これらの指標は、過去数年間の推移や業界平均と比較することで、より深い分析が可能となります。
また、成長性分析では、売上高や利益の成長だけでなく、市場シェアの変化や新規事業の展開状況なども併せて考慮することが重要です。
売上高成長率の分析ポイント
売上高成長率は、企業の売上規模の拡大スピードを示す指標です。高い成長率を維持している企業は、将来性が高いと評価される傾向があります。 | |
売上高成長率を分析する際は、市場全体の成長率と比較することが重要です。市場全体の成長率を上回る成長率を達成している場合は、競争優位性を持っていると判断できます。 |
営業利益成長率の分析ポイント
営業利益成長率は、企業の本業の収益力の成長スピードを示す指標です。売上高成長率よりも、企業の収益力の成長をより正確に把握することができます。 | |
営業利益成長率が低い場合は、コスト管理ができていない、あるいは競争激化により価格競争に巻き込まれている可能性があります。その原因を分析し、改善策を検討する必要があります。 |
4. 財務デューデリジェンスの進め方
財務デューデリジェンスは、一般的に以下の3つの段階に沿って進められます。
4.1 準備段階
財務デューデリジェンスをスムーズに進めるために、事前の準備が重要となります。この段階では、主に以下の作業を行います。
デューデリジェンスの目的・範囲の明確化
まずは、デューデリジェンスの目的と範囲を明確に定めます。買収後の事業計画や統合計画を踏まえ、どのような情報を取得する必要があるのか、どの程度の期間や費用をかけるのかなどを決定します。
この段階では、対象会社の事業内容や財務状況に関する基本的な情報収集も並行して行います。
デューデリジェンスチームの編成
財務デューデリジェンスを実施するチームを編成します。チームメンバーは、公認会計士、税理士、弁護士、金融機関出身者など、専門知識や経験豊富な人材で構成されることが一般的です。
それぞれの専門性を活かし、多角的な視点から調査・分析を行います。
情報収集依頼書の提出
対象会社に対して、デューデリジェンスに必要な情報をまとめた情報収集依頼書を提出します。情報収集依頼書には、財務諸表、契約書、組織図など、広範囲な情報を要求します。
対象会社は、依頼に基づき、膨大な量の資料を準備することになります。
4.2 実行段階
準備段階で収集した情報に基づき、実際にデューデリジェンスを実施します。この段階では、主に以下の作業を行います。
現地調査
対象会社の経営陣や従業員へのヒアリング、工場やオフィスなどの視察を行います。財務諸表などの数値情報だけでは把握できない、企業文化や事業の実態を理解することが目的です。
調査項目 | 調査内容 |
---|---|
経営陣へのヒアリング | 経営戦略、事業計画、リスク管理体制などを確認 |
従業員へのヒアリング | 職場の雰囲気、労働環境、コンプライアンス意識などを確認 |
工場・オフィス視察 | 設備の老朽化状況、生産効率、従業員の勤務状況などを確認 |
分析作業
収集した情報に基づき、詳細な分析を行います。財務諸表の分析では、収益性、安全性、成長性、効率性などの観点から、企業の財務状況を評価します。
また、契約書のレビューや市場調査などを通じて、潜在的なリスクや問題点を洗い出します。
分析項目 | 分析内容 |
---|---|
収益性分析 | 売上高総利益率、営業利益率、経常利益率などを分析し、収益構造を把握 |
安全性分析 | 流動比率、自己資本比率などを分析し、短期・長期の債務返済能力を評価 |
成長性分析 | 売上高成長率、利益成長率などを分析し、将来の収익獲得能力を評価 |
課題・リスクの抽出
分析作業の結果、明らかになった課題やリスクを整理します。財務上の問題点だけでなく、法務、税務、労務、環境など、幅広い分野のリスクを検討します。
特に、重要なリスクについては、その影響度や発生確率を評価し、対応策を検討します。
4.3 報告段階
デューデリジェンスの結果を報告書にまとめ、クライアントに提出します。この段階では、主に以下の作業を行います。
デューデリジェンス報告書の作成
調査・分析の結果をまとめた報告書を作成します。報告書には、対象会社の概要、財務状況、事業内容、リスクや問題点、評価額などが記載されます。また、報告書の内容について、クライアントに説明会を実施する場合もあります。
最終判断への助言
デューデリジェンスの結果に基づき、M&A取引の実行、価格交渉、契約条件の見直しなど、クライアントの最終判断に必要な助言を行います。デューデリジェンスは、あくまで判断材料を提供するものであり、最終的な意思決定はクライアントが行います。
このように、財務デューデリジェンスは、多岐にわたるプロセスを経て進められます。専門家チームが、それぞれの専門知識や経験を活かし、綿密な調査・分析を行うことで、M&A取引におけるリスクを最小限に抑え、成功に導くことが可能となります。
5. まとめ
今回は、M&Aにおける重要なプロセスである財務デューデリジェンスについて解説しました。財務デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況を詳細に調査し、企業価値や潜在的なリスクを評価することです。
目的は、適正な買収価格を決定し、将来発生しうる問題を事前に把握することにあります。具体的には、収益性分析、安全性分析、成長性分析といった観点から、過去の財務諸表や関連資料を精査します。
財務デューデリジェンスは、M&Aを成功させるために欠かせないプロセスと言えるでしょう。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。