ビジネスデューデリジェンスの目的・確認事項・進め方とは?【初心者向け】
「ビジネスデューデリジェンスって一体何だろう?」「M&Aでよく聞くけど、実際どんなことをするの?」そんな疑問をお持ちのあなたへ。
本記事では、ビジネスデューデリジェンスの目的や進め方、確認すべき事項などを初心者の方にも分かりやすく解説します。企業価値評価の専門家である公認会計士が、事例を交えながら丁寧に解説していくので、この記事を読めば、ビジネスデューデリジェンスの全体像を掴むことができます。M&Aや投資を検討する経営者やビジネスパーソン必見の内容です。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
1. ビジネスデューデリジェンスとは何か?
ビジネスデューデリジェンス(Due Diligence)とは、企業のM&Aや投資案件において、対象企業の財務状況、事業内容、法務、税務などを調査し、投資判断に必要な情報を収集・分析するプロセスを指します。
簡単に言えば、企業の「身体検査」のようなもので、投資や買収を行う前に、対象企業に隠れたリスクや問題点がないか、その企業価値を正しく評価するために実施されます。
1.1 なぜビジネスデューデリジェンスが重要なのか?
ビジネスデューデリジェンスは、M&Aや投資における意思決定の精度を高め、リスクを最小限に抑えるために非常に重要です。具体的には、以下の様な点が挙げられます。
投資後のトラブル回避 | デューデリジェンスによって、事前にリスクを洗い出し、対策を講じることで、投資後の不測の事態やトラブルを未然に防ぐことができます。例えば、粉飾決算やコンプライアンス違反などの問題が事前に発覚すれば、投資を見送ったり、条件交渉を行ったりすることができます。 |
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適正な企業価値評価 | 対象企業の財務状況や事業内容を詳細に調査することで、その企業価値をより正確に評価することができます。これにより、買収価格や投資額を適正なレベルに設定することが可能になります。 |
円滑な事業統合 | M&A後の事業統合をスムーズに進める上でも、デューデリジェンスは重要な役割を果たします。デューデリジェンスを通じて、対象企業の組織文化や従業員の状況を把握することで、統合プロセスにおける課題やリスクを事前に予測し、対策を立てることができます。 |
1.2 ビジネスデューデリジェンスの作業内容
ビジネスデューデリジェンスでは、対象企業の様々な側面を多角的に調査します。具体的な作業内容は以下の通りです。
調査項目 | 内容 |
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財務デューデリジェンス | 財務諸表の分析を通じて、収益性、安全性、成長性などを評価します。具体的には、売上高、利益率、キャッシュフロー、資産負債状況などを分析し、過去の推移や将来予測を検討します。また、会計処理の妥当性や内部統制の有効性なども検証します。 |
事業デューデリジェンス | 対象企業の事業内容、競争環境、市場動向などを調査し、収益基盤の安定性や成長性を評価します。具体的には、市場規模、競合状況、顧客構造、製品・サービスの競争優位性、主要取引先との関係などを分析します。 |
法務デューデリジェンス | 契約書や許認可などの法務関連書類を精査し、潜在的な法的リスクを洗い出します。具体的には、重要な契約内容の確認、許認可の有効性の確認、訴訟リスクの評価、コンプライアンス体制の検証などを行います。 |
税務デューデリジェンス | 税務申告書や会計資料などを基に、税務リスクや税務上の論点を抽出します。具体的には、過去の税務調査の状況、税務申告の妥当性、税務リスクの高い取引の有無などを検証します。 |
人事デューデリジェンス | 従業員の構成、人事制度、労務管理などを調査し、潜在的な労務リスクや人材に関する課題を洗い出します。具体的には、従業員の年齢構成、勤続年数、スキルレベル、人事評価制度、賃金体系、労使関係などを調査します。 |
環境デューデリジェンス | 対象企業の環境関連法規の遵守状況や環境負荷などを調査し、環境リスクを評価します。工場や事業所などの環境汚染リスク、環境関連法規の遵守状況、環境マネジメントシステムの導入状況などを調査します。 |
これらの調査項目は、M&Aや投資案件の規模や特性、業界の慣習などによって、調査の深度や重点項目が異なります。
2. ビジネスデューデリジェンスの目的
ビジネスデューデリジェンスを実施する目的は、投資やM&Aなどの重要なビジネス上の意思決定を行う前に、対象企業の現状や潜在的なリスク、将来性を深く理解し、意思決定の精度を高めることにあります。デューデリジェンスによって得られた情報は、投資判断や交渉戦略の立案、契約条件の決定などに活用されます。
2.1 M&Aにおけるデューデリジェンスの目的
M&Aにおいては、特に以下の目的でデューデリジェンスが実施されます。
買収価格の妥当性の検証デューデリジェンスを通じて対象会社の財務状況、収益力、資産価値などを精査することで、提示された買収価格が適切かどうかを判断します。これにより、買収後に想定外の損失を被るリスクを軽減することができます。
潜在的なリスクの洗い出し対象会社の事業内容、法務、会計、税務、労務など多岐にわたる側面から調査を行い、潜在的なリスクや問題点を洗い出します。例えば、未払いの債務、係争中の訴訟、環境規制への抵触などが明らかになる可能性があります。
買収後の統合計画の策定デューデリジェンスによって得られた情報は、買収後の統合プロセスをスムーズに進めるための計画策定にも役立ちます。例えば、組織体制、人事制度、システム統合などを検討する際に、対象会社の現状を把握しておくことが重要となります。
シナジー効果の検証買収によって期待されるシナジー効果が、実際に実現可能かどうかを検証します。シナジー効果とは、買収によって売上増加やコスト削減などの相乗効果が生まれることを指します。デューデリジェンスを通じて、シナジー効果の根拠を精査し、実現可能性を見極めることが重要です。
2.2 投資におけるデューデリジェンスの目的
M&Aだけでなく、投資においてもデューデリジェンスは重要な役割を果たします。投資におけるデューデリジェンスの目的は以下の点が挙げられます。
投資判断の根拠投資対象の企業価値や成長性を評価し、投資の妥当性を判断するための材料を収集します。財務状況、市場動向、競合分析、経営陣の能力などを精査することで、投資リスクを最小限に抑え、リターンを最大化することを目指します。
投資契約条件の交渉デューデリジェンスの結果に基づいて、投資契約の内容を検討します。例えば、株式の取得比率、取締役の派遣、経営への関与度合いなどを決定する際に、対象企業の現状やリスクを踏まえた交渉を行うことができます。
2.3 事業提携におけるデューデリジェンスの目的
企業同士が協力して新たなビジネスチャンスを創出する事業提携においても、デューデリジェンスは欠かせません。事業提携におけるデューデリジェンスの目的は以下の点が挙げられます。
提携相手のリスク分析提携相手の企業が抱える潜在的なリスクを分析し、自社への影響を最小限に抑えることを目指します。財務状況、法令遵守体制、コンプライアンス意識などを調査することで、提携によるリスクを事前に把握します。
提携によるシナジー効果の検証提携によって期待されるシナジー効果が現実的に実現可能かどうかを検証します。例えば、両社の強みを組み合わせることで、新たな顧客層を獲得できるのか、コスト削減を実現できるのかなどを分析します。
提携契約の内容デューデリジェンスの結果に基づいて、提携契約の内容を検討します。例えば、知的財産の取り扱い、利益配分、契約期間、契約解除の条件などを決定する際に、双方の企業にとって公平かつ有利な条件で合意することを目指します。
2.4 デューデリジェンスの目的は状況によって異なる
デューデリジェンスの目的は、M&A、投資、事業提携など、どのようなビジネスシーンで実施されるかによって異なります。それぞれの状況に合わせて、適切な調査項目を設定し、必要な情報を収集することが重要です。
デューデリジェンスは、企業が重要なビジネス上の意思決定を行う際に、失敗のリスクを低減し、成功の可能性を高めるための重要なプロセスです。専門家の知見も活用しながら、デューデリジェンスを効果的に実施することで、企業はより安全かつ戦略的な意思決定を行うことができるようになります。
3. ビジネスデューデリジェンスの進め方
ビジネスデューデリジェンスは、綿密な計画と段階的なプロセスを経て実施されます。ここでは、一般的なデューデリジェンスの進め方を、それぞれの段階における詳細と合わせて解説します。
3.1 デューデリジェンスの内容・確認事項
デューデリジェンスは、対象企業の事業、財務、法務、税務など、多岐にわたる側面から調査・分析を行います。具体的な確認事項は以下の通りです。
財務デューデリジェンス過去3〜5期分の財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)の分析 | |
収益性、安全性、成長性、効率性などの財務指標の分析 | |
資産、負債の計上内容の確認 | |
資金繰り、運転資本、投資計画の分析 |
事業計画、中期経営計画の妥当性検証 | |
市場規模、市場シェア、競合状況の分析 | |
顧客構造、主要顧客との取引状況の分析 | |
製品・サービスの競争優位性、技術力の評価 |
定款、登記簿謄本の確認 | |
許認可、契約書の確認 | |
訴訟、係争事件の有無の確認 | |
知的財産権の保護状況の確認 |
過去3〜5期分の税務申告書の確認 | |
税務調査の有無、更正の可能性の確認 | |
税務リスク、税務上の論点の洗い出し |
従業員数、年齢構成、平均勤続年数の確認 | |
組織構造、人事制度の確認 | |
労務問題、労働組合の有無の確認 | |
経営陣、従業員のスキル、能力の評価 |
3.2 情報収集・分析
デューデリジェンスは、対象企業から提供される資料だけでなく、公開情報や第三者機関の情報も活用して行われます。主な情報源は以下の通りです。
対象企業からの資料提供 | 財務諸表、事業計画書、契約書など |
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公開情報 | 企業ホームページ、会社四季報、業界紙など |
第三者機関からの情報収集 | 信用調査機関、市場調査会社など |
これらの情報を収集した上で、専門的な知識や分析ツールを用いて、対象企業の現状や潜在的なリスクを評価します。
3.3 現場調査・ヒアリング
情報収集・分析に加えて、現場調査や経営陣へのヒアリングを実施することで、より深い理解を得ることが重要です。主な内容は以下の通りです。
現場調査 | ・工場、オフィス、店舗などの視察 ・設備、在庫状況の確認 |
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経営陣へのヒアリング | 事業戦略、経営方針、将来展望に関するヒアリング 懸念点、課題に関する意見交換 |
現場調査やヒアリングを通して、数値や文章だけでは読み取れない、企業文化や組織風土、経営者の資質などを肌で感じ取ることが重要です。
3.4 最終的な評価・報告書作成
デューデリジェンスの結果に基づき、対象企業の価値評価、リスク評価を行い、最終的な投資判断を行います。その成果は、報告書としてまとめられます。
デューデリジェンス報告書の内容デューデリジェンスの実施概要 | |
対象企業の概要 | |
各分野の調査結果 | |
リスクと機会の評価 | |
最終的な評価と提言 |
報告書は、投資判断の根拠となる重要な資料となるため、網羅性、正確性、客観性が求められます。
4. デューデリジェンスにおける注意点
デューデリジェンスは、M&Aや投資などの重要な意思決定を左右するプロセスであるため、注意深く進める必要があります。ここでは、デューデリジェンスにおける注意点を、誰が行うべきか、社内対応の可否、専門家の選び方という3つの観点から解説します。
4.1 誰が行うべきか
デューデリジェンスを行うのは、基本的には買収側または投資側となります。これは、デューデリジェンスが、買収対象企業や投資対象企業のリスクを評価し、投資判断の材料とするためです。デューデリジェンスの結果次第では、買収価格の交渉や、最悪の場合、取引中止の判断を下すこともあります。
デューデリジェンスを行う担当者は、専門的な知識や経験が求められます。特に、財務、法務、事業、税務などの分野においては、専門家チームを組成することが一般的です。これらの専門家は、それぞれ専門分野の視点から調査を行い、総合的な評価を行います。
4.2 社内で対応できない場合は
デューデリジェンスは、専門性の高い分野が多いため、社内に専門知識や経験を持つ人材が不足している場合は、外部の専門家に依頼することが推奨されます。外部の専門家としては、以下のような専門家・企業が挙げられます。
公認会計士 | 財務デューデリジェンス |
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弁護士 | 法務デューデリジェンス |
コンサルティング会社 | 事業デューデリジェンス |
税理士 | 税務デューデリジェンス |
外部の専門家に依頼する場合は、費用対効果を考慮する必要があります。専門家の選定にあたっては、複数の専門家から見積もりを取り、実績や専門性などを比較検討することが重要です。
5.3 専門家の選び方外部の専門家を選ぶ際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
4.3 専門家の選び方
デューデリジェンスは、財務、法務、事業、税務など、多岐にわたる分野を調査する必要があるため、依頼する専門家の専門分野と実績をよく確認することが重要です。例えば、M&Aの経験が豊富な専門家や、特定の業界に精通した専門家を選ぶなど、対象となる企業や取引に応じて最適な専門家を選ぶようにしましょう。
独立性と客観性専門家は、独立した立場から客観的な調査・分析を行うことが求められます。そのため、依頼する専門家が、対象企業や取引相手との間に利害関係がないことを確認することが重要です。利害関係があると、調査結果が偏ったり、正確な情報が得られない可能性があります。
コミュニケーション能力デューデリジェンスは、専門家と企業間で密接なコミュニケーションを取りながら進める必要があるため、専門家のコミュニケーション能力も重要な選定基準となります。報告内容を分かりやすく説明してくれるか、質問に対して丁寧に回答してくれるかなど、コミュニケーション能力の高さも考慮して専門家を選びましょう。
チーム体制大規模なデューデリジェンスの場合、複数の専門家でチームを組んで対応する場合があります。その際は、チーム全体の連携体制が整っているかどうかも確認しておきましょう。各専門家が連携し、スムーズに情報共有や調査を進められる体制であることが、質の高いデューデリジェンスを実施する上で重要です。
これらの点を確認し、デューデリジェンスの目的や内容に最適な専門家を選ぶことが、的確なリスク評価、ひいては、企業の成長や発展につながります。
5. まとめ
この記事では、ビジネスデューデリジェンスの目的、確認事項、進め方について解説しました。デューデリジェンスは、M&Aや投資などの重要な意思決定を行う上で、リスクを最小限に抑え、成功の可能性を高めるために不可欠なプロセスです。
企業価値評価、財務状況、法務、事業、競合など、多岐にわたる調査項目を網羅することで、対象企業の現状や潜在的なリスクを正確に把握することができます。デューデリジェンスは専門性の高い業務であるため、必要に応じて弁護士、会計士、税理士などの専門家のサポートを受けることが重要です。