PMIプロセスをわかりやすく解説!【前編】M&A後の統合をスムーズに進めるためのポイント

PMIプロセスをわかりやすく解説!【前編】M&A後の統合をスムーズに進めるためのポイント

M&A後のPMI(Post Merger Integration)プロセスを理解し、統合を成功に導きたいとお考えではありませんか?PMIとは、M&A後に買収企業と被買収企業を統合し、シナジー効果を最大化するための重要なプロセスです。

本記事では、PMIの基礎知識から具体的なプロセス、主要タスク、そして成功のためのポイントまでをわかりやすく解説します。さらに、よくある課題と解決策、役立つツールやフレームワーク、そして成功と失敗事例も紹介します。

PMIプロセスを理解することで、M&A後の統合をスムーズに進め、企業価値向上を実現するための道筋が見えてきます。ぜひ、この記事を参考に、PMIを成功へと導いてください。

尚、こちらの記事は長編となったため、前編・後編にわけてお届けいたします。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。



1. PMIとは?M&Aにおけるその重要性
1.1 PMI(Post Merger Integration)とは

PMI(Post Merger Integration)とは、日本語で「合併後統合」を意味し、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)によって生まれた新しい企業体において、買収対象企業(被買収企業)と買収企業(買収側企業)の経営資源、業務プロセス、組織文化などを統合し、シナジー効果(相乗効果)の最大化を目指す一連のプロセスを指します。

M&Aは、企業が成長戦略を実現するための有効な手段の一つですが、M&A後の統合プロセスであるPMIを適切に進めることができなければ、期待したシナジー効果を得られないばかりか、逆に企業価値を毀損してしまうリスクも孕んでいます。PMIは、M&Aを成功させるための重要な要素であり、その成否は、M&A後の企業の成長と発展に大きく影響します。

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1.2 M&A後のPMIの重要性:統合を成功させる鍵

M&A後のPMIは、単なる組織やシステムの統合ではなく、異なる企業文化、人事制度、業務プロセスを持つ組織を融合させ、新たな企業としての一体感を醸成する複雑かつ重要なプロセスです。PMIの重要性は、以下の点に集約されます。

シナジー効果の最大化

PMIを効果的に進めることで、M&Aによって期待されるシナジー効果を最大限に引き出すことができます。シナジー効果には、売上増加、コスト削減、市場シェア拡大、技術革新など、様々なものが考えられます。PMIは、これらのシナジー効果を早期に実現し、企業価値を高めるために不可欠です。

統合リスクの最小化

M&A後には、組織文化の衝突、従業員のモチベーション低下、顧客離れ、システム統合の失敗など、様々なリスクが発生する可能性があります。PMIは、これらのリスクを事前に予測し、適切な対策を講じることで、統合プロセスを円滑に進め、リスクを最小限に抑える役割を担います。

企業価値の向上

PMIを成功させることで、M&A後の新会社は、統合された経営資源を有効活用し、競争力を強化することができます。これにより、収益性向上、市場シェア拡大、ブランド価値向上など、企業価値の向上に繋がる効果が期待できます。

統合後の新組織の構築

PMIは、単に既存の組織を統合するだけでなく、新たな企業文化、ビジョン、戦略を構築するプロセスでもあります。PMIを通じて、従業員が一体感を持って業務に取り組めるような、より強固で活力のある組織を構築することが重要です。

PMIの重要性を理解し、適切な計画と実行によって統合プロセスを進めることで、M&Aを真に成功させ、企業の成長と発展に貢献することができます。


1.3 PMIにおけるステークホルダーと役割

PMIには、様々なステークホルダーが関与し、それぞれ重要な役割を担います。主なステークホルダーとその役割は以下の通りです。

ステークホルダー 役割
経営陣 PMIの全体戦略策定、意思決定、進捗管理、リーダーシップ発揮
PMI責任者 PMI計画の策定と実行、統合プロジェクトの管理、関係部署との調整
統合プロジェクトチーム 各部門の統合計画策定と実行、課題解決、進捗報告
従業員 統合プロセスへの参加、新組織への適応、業務遂行
コンサルタント 専門知識や経験に基づいたアドバイス、PMI計画策定支援、実行支援

これらのステークホルダーがそれぞれの役割を理解し、連携してPMIを進めることが、統合の成功には不可欠です。


2. PMIプロセスの5つのフェーズ

PMIプロセスは、一般的に以下の5つのフェーズに分けられます。各フェーズにおける主要な活動とその目的を理解することで、M&A後の統合をよりスムーズに進めることができます。


2.1 フェーズ1:計画策定フェーズ

M&A成立前の段階から、PMIの基本的な方向性を決定するフェーズです。買収の目的や統合後のビジョンを明確化し、PMI全体の枠組みを構築します。

PMIの目的設定
買収の目的と整合したPMIの目標を設定する。
定量的な目標と定性的な目標の両方を設定する。
シナジー効果の最大化、コスト削減、事業拡大など、具体的な目標を設定する。
PMI体制の構築
PMI推進チームを結成し、役割と責任を明確化する。
経営層、各部門の担当者、外部コンサルタントなど、必要な人材を確保する。
意思決定プロセスを明確化し、迅速な意思決定を可能にする体制を構築する。
PMI計画の大枠策定
PMIの全体スケジュールと各フェーズの期間を設定する。
各フェーズにおける主要なタスクと責任者を明確化する。
予算、人員、システムなど、必要なリソースを確保するための計画を立てる。

2.2 フェーズ2:デューデリジェンスとPMI計画策定

買収対象企業の状況を詳細に把握し、具体的なPMI計画を策定するフェーズです。デューデリジェンスで得られた情報に基づき、統合における課題やリスクを特定し、具体的な対策を検討します。

デューデリジェンスの実施
財務、法務、人事、事業、ITなど、多岐にわたるデューデリジェンスを実施する。
買収対象企業の現状を詳細に把握し、潜在的なリスクや課題を特定する。
デューデリジェンスの結果をPMI計画に反映させる。
詳細なPMI計画の策定
組織統合、人事制度統合、システム統合など、各分野における具体的な計画を策定する。
統合スケジュール、責任者、必要なリソース、KPIなどを明確にする。
リスク管理計画を策定し、想定されるリスクへの対応策を検討する。
従業員へのコミュニケーション
PMI計画の内容や進捗状況について、従業員に積極的に情報提供を行う。
従業員の不安や疑問を解消し、統合への協力を得るためのコミュニケーション活動を展開する。
社内報、説明会、個別面談など、多様なコミュニケーション手段を活用する。
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2.3 フェーズ3:統合実行フェーズ

策定したPMI計画に基づき、実際に統合を実行するフェーズです。組織統合、人事制度統合、システム統合など、様々な統合活動を並行して進めます。このフェーズでは、計画通りに進捗しているか、問題が発生していないかを常にモニタリングし、必要に応じて計画を修正することが重要です。

組織統合の実施
新組織体制への移行、部門の統合・再編、人員配置などを行う。
重複する部門や機能の整理、役割分担の明確化などを進める。
組織変更に伴う人事異動、配置転換などを実施する。
人事制度統合の実施
給与体系、評価制度、福利厚生など、人事制度を統合する。
両社の制度を比較検討し、最適な制度を設計する。
従業員への説明会などを実施し、制度変更に伴う影響を最小限に抑える。
システム統合の実施
基幹システム、業務システムなど、ITシステムを統合する。
システムの互換性、データ移行、セキュリティ対策などを検討する。
システム統合に伴う業務への影響を最小限に抑える。
業務プロセス統合の実施
営業プロセス、生産プロセス、管理プロセスなど、業務プロセスを統合する。
両社のプロセスを比較検討し、ベストプラクティスを導入する。
業務プロセス統合による効率化、標準化、品質向上を目指す。
文化統合の推進
企業文化、価値観、行動規範など、両社の文化を融合させる。
共通のビジョンや理念を共有し、一体感を醸成する。
文化の違いによる摩擦を解消し、新たな企業文化を創造する。

2.4 フェーズ4:モニタリングと評価フェーズ

統合後の進捗状況をモニタリングし、PMI計画の効果を評価するフェーズです。設定したKPIに基づき、統合が計画通りに進捗しているか、目標達成度合いはどの程度かを評価します。評価結果に基づき、必要に応じて計画の修正や追加の対策を検討します。

KPIに基づく進捗状況のモニタリング
売上高、利益率、顧客満足度など、事前に設定したKPIに基づき、統合後の進捗状況を定期的にモニタリングする。
定量的なデータだけでなく、従業員の意識調査など、定性的なデータも収集する。
モニタリング結果を関係者に共有し、進捗状況を可視化する。
PMI計画の効果測定と評価
当初設定したPMIの目標に対して、どの程度の成果が得られたかを評価する。
シナジー効果の発揮状況、コスト削減効果、事業拡大効果などを定量的に評価する。
統合による従業員のモチベーション、組織風土への影響などを定性的に評価する。
改善策の実施
モニタリングと評価の結果に基づき、必要に応じてPMI計画の修正や追加の対策を実施する。
統合プロセスにおける課題や問題点を特定し、改善策を検討する。
関係部署と連携し、改善策を迅速に実行する。

2.5 フェーズ5:安定化フェーズ

統合後の新組織体制を安定させ、新たな企業文化を定着させるフェーズです。統合によって生じた変化を定着させ、従業員が新しい環境に適応できるよう支援します。また、長期的な視点で、統合後の企業の成長戦略を策定し、実行に移していきます。

新組織体制の安定化
新組織体制が円滑に機能するよう、業務プロセスやルールを整備する。
部門間の連携強化、情報共有の促進など、組織全体の最適化を図る。
従業員が新しい役割や責任にスムーズに移行できるよう、研修やサポートを提供する。
新企業文化の定着
共通のビジョンや価値観を浸透させ、従業員の一体感を醸成する。
新しい企業文化を体現する行動を促進し、定着させるための施策を実施する。
従業員同士の交流促進、社内イベント開催など、組織文化醸成のための活動を展開する。
成長戦略の策定と実行
統合後の企業の長期的な成長戦略を策定する。
新たな市場開拓、新規事業開発、海外展開など、成長に向けた具体的な施策を検討する。
成長戦略の実行に必要なリソースを確保し、PDCAサイクルを回しながら、戦略を着実に実行していく。

これらの5つのフェーズを効果的に進めることで、M&A後の統合を成功に導き、シナジー効果の最大化、企業価値の向上を実現することができます。


3. PMIプロセスにおける主要なタスク

PMIプロセスにおいては、統合対象となる企業の様々な側面を統合していく必要があります。ここでは、主要なタスクとして、組織統合、人事制度統合、システム統合、業務プロセス統合、文化統合の5つを取り上げます。

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3.1 組織統合

組織統合は、PMIプロセスにおける最も重要なタスクの一つです。2つの企業の組織構造を統合し、新しい組織体制を構築することで、効率的な事業運営を目指します。組織統合においては、以下の点を考慮する必要があります。

重複する部門や機能の整理・統合
役割と責任の明確化
意思決定プロセスの構築
報告系統の確立
組織統合における課題と解決策

組織統合においては、以下のような課題が発生する可能性があります。

課題 解決策
権限争い 統合後の組織における役割と責任を明確化し、権限を明確にする。
コミュニケーション不足 統合後の組織におけるコミュニケーションチャネルを整備し、情報共有を促進する。
従業員の抵抗 統合の目的やメリットを従業員に丁寧に説明し、理解と協力を得る。

3.2 人事制度統合

人事制度統合は、2つの企業の人事制度を統合し、新たな人事制度を構築するプロセスです。給与体系、評価制度、昇進制度など、様々な人事制度を統合することで、従業員の公平性とモチベーションを維持し、人材の最適活用を目指します。

人事制度統合におけるポイント
両社の制度の現状分析
統合後の制度設計
従業員への周知と説明
制度運用開始後のフォローアップ

3.3 システム統合

システム統合は、2つの企業の異なるシステムを統合し、単一のシステムに統合するプロセスです。システム統合によって、業務効率の向上、データの一元管理、コスト削減などの効果が期待できます。システム統合においては、以下の点を考慮する必要があります。

統合するシステムの選定
データ移行
システムのテスト
従業員へのトレーニング
システム統合におけるリスクと対策

システム統合は、大規模なプロジェクトとなることが多く、様々なリスクが伴います。主なリスクとしては、以下のようなものがあります。

リスク 対策
予算超過 事前に綿密な計画を立て、予算を適切に管理する。
スケジュール遅延 プロジェクトの進捗状況を定期的に確認し、遅延が発生した場合は迅速に対応する。
システム障害 システムのテストを十分に行い、障害発生時の対応手順を事前に準備しておく。

3.4 業務プロセス統合

業務プロセス統合は、2つの企業の業務プロセスを統合し、標準化されたプロセスを構築するプロセスです。業務プロセス統合によって、業務効率の向上、品質向上、コスト削減などの効果が期待できます。業務プロセス統合においては、以下の点を考慮する必要があります。

現状の業務プロセスの分析
統合後の業務プロセスの設計
業務プロセスの標準化
従業員への教育
業務プロセス統合におけるベストプラクティス
両社の業務プロセスを詳細に分析し、共通点と相違点を明確にする。
統合後の業務プロセスは、効率性、品質、コストなどを考慮して設計する。
従業員に新しい業務プロセスを理解させ、スムーズに移行できるように教育を行う。
業務プロセスの改善を継続的に行い、最適化を図る。

3.5 文化統合

文化統合は、2つの企業の異なる文化を統合し、新たな企業文化を形成するプロセスです。文化統合は、組織統合、人事制度統合、システム統合、業務プロセス統合など、他のPMIタスクにも大きな影響を与えるため、非常に重要なタスクです。文化統合においては、以下の点を考慮する必要があります。

両社の企業文化の理解
共通の価値観の確立
コミュニケーションの促進
相互理解と尊重
文化統合を促進するための施策
合同研修やイベントの実施
社内報やイントラネットによる情報共有
従業員交流の促進
経営層からのメッセージ発信

これらの主要なタスクを適切に進めることで、PMIを成功に導き、M&Aによるシナジー効果の最大化を実現することができます。


4. M&A後の統合をスムーズに進めるためのポイント

M&A後のPMIを成功させるためには、統合プロセスをスムーズに進めることが不可欠です。そのためには、以下のようなポイントを押さえる必要があります。

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4.1 明確な目標設定と戦略策定

M&Aを行う目的は企業によって様々ですが、いずれの場合も統合後のビジョンや目標を明確に設定することが重要です。目標設定は、統合プロセス全体を方向付け、関係者全員の意識統一を図る上で不可欠です。目標設定には、売上目標、利益目標、市場シェア目標、コスト削減目標など、具体的な数値目標を設定することが重要です。また、目標達成のための戦略を策定し、具体的なアクションプランに落とし込むことで、PMIプロセスを効率的に進めることができます。

例えば、売上目標を達成するために、新製品開発や新規市場開拓などの戦略を策定し、具体的なアクションプランとして、開発スケジュールやマーケティングプランなどを策定することができます。


4.2 綿密なコミュニケーション

M&A後の統合プロセスでは、買収企業と被買収企業の従業員、顧客、取引先など、様々なステークホルダーとのコミュニケーションが重要になります。統合プロセスに関する情報を積極的に開示し、ステークホルダーからの質問や意見に耳を傾けることで、統合プロセスに対する理解と協力を得ることができます。また、社内報やイントラネットなどを活用して、統合プロセスに関する情報を共有することも効果的です。

特に、従業員に対しては、統合後のキャリアパスや人事制度など、将来に対する不安を解消するための情報提供が重要です。従業員とのコミュニケーションを密にすることで、統合プロセスに対するモチベーションを維持し、円滑な統合を実現することができます。


4.3 リーダーシップと意思決定

PMIを成功させるためには、強力なリーダーシップと迅速な意思決定が不可欠です。統合プロセスを統括するリーダーを任命し、リーダーには、統合プロセス全体を指揮し、関係者間の調整を行う権限と責任を与える必要があります。また、意思決定プロセスを明確化し、迅速な意思決定を可能にする体制を構築することが重要です。意思決定が遅れると、統合プロセスが停滞し、シナジー効果の実現が遅れる可能性があります。

リーダーは、統合後のビジョンを明確に示し、関係者を鼓舞することで、統合プロセスを推進していく必要があります。また、リーダーは、変化に対する抵抗勢力に対しても、毅然とした態度で対応し、統合プロセスを成功に導く必要があります。


4.4 リスク管理

M&A後の統合プロセスには、様々なリスクが伴います。例えば、システム統合の遅延、従業員の離職、顧客の流出、訴訟リスクなど、様々なリスクが想定されます。これらのリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることで、リスク発生による影響を最小限に抑えることができます。

リスク 対策
システム統合の遅延 システム統合計画を綿密に策定し、テストを十分に行う。
従業員の離職 従業員に対して、統合後のキャリアパスや人事制度など、将来に対する不安を解消するための情報提供を行う。
顧客の流出 顧客に対して、統合によるメリットやサービス内容の変化などを丁寧に説明する。
訴訟リスク 法務部門と連携し、契約内容などを精査する。

4.5 文化の融合

M&Aにおいては、異なる企業文化を持つ組織が統合されるため、文化の融合が大きな課題となります。企業文化の違いは、従業員の行動様式や価値観、コミュニケーションスタイルなどに影響を与え、統合プロセスに摩擦を生じさせる可能性があります。文化の融合を促進するためには、両社の文化を理解し、尊重する姿勢が重要です。また、共通の価値観や行動規範を策定し、従業員に浸透させることで、新しい企業文化を創造することができます。

文化融合のための具体的な取り組みとしては、合同研修や交流会の実施、社内報やイントラネットによる情報共有などが挙げられます。また、人事制度や評価制度を統一することで、従業員の意識統一を図ることも効果的です。


5. PMIにおけるよくある課題と解決策

PMIは、企業にとって大きな変革であり、多くの課題が伴います。統合プロセスを円滑に進め、シナジー効果を最大化するためには、事前に課題を認識し、適切な対策を講じておくことが重要です。ここでは、PMIにおけるよくある課題とその解決策について詳しく解説します。

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5.1 コミュニケーション不足
課題

PMIにおいては、買手企業と被買手企業、異なる部門間、経営層と従業員など、様々なステークホルダー間でのコミュニケーションが不可欠です。しかし、企業文化や組織構造の違い、地理的な距離、言語の壁などにより、コミュニケーション不足が生じやすく、誤解や不信感、情報共有の遅延、意思決定の停滞などを招く可能性があります。

解決策
統合推進チームによる定期的な情報発信統合の進捗状況、今後の計画、課題などを共有する定例会やニュースレターなどを実施します。
社内ポータルサイトやイントラネットの活用統合に関する情報を一元的に管理し、従業員がいつでもアクセスできるようにします。
双方向のコミュニケーションチャネルの構築従業員からの質問や意見を収集するためのアンケートや意見交換会などを実施します。
経営層による積極的なコミュニケーション経営層が直接従業員と対話する機会を設け、統合の目的やビジョンを共有し、不安や疑問を解消します。

5.2 文化の違いによる摩擦
課題

買手企業と被買手企業は、それぞれ異なる企業文化や価値観、行動規範を持っています。PMIにおいては、これらの文化の違いが摩擦を生み、組織の一体感を阻害する可能性があります。例えば、意思決定プロセス、コミュニケーションスタイル、人事評価制度、労働時間、服装規定など、様々な面で衝突が起こる可能性があります。

解決策
文化の違いを理解するための研修両社の従業員が互いの文化や価値観を理解するための研修プログラムを実施します。
共通の企業文化の構築統合後の新しい企業文化を策定し、従業員に浸透させます。この際、両社の良い点を融合し、新しい価値観を創造することが重要です。
人事制度の統合給与体系、評価制度、昇進制度などを統一し、公平性を確保します。ただし、文化の違いを考慮し、柔軟な運用も必要です。
多様性を尊重する風土の醸成異なる文化や価値観を持つ従業員が互いに尊重し合い、協力できるような環境を整備します。

5.3 システム統合の遅延
課題

PMIにおいては、異なるシステムを統合する必要があり、このプロセスは非常に複雑で時間と費用がかかります。システム統合が遅れると、業務効率の低下、データの不整合、セキュリティリスクの増大などを招く可能性があります。

解決策
綿密な事前調査と計画統合前に、両社のシステムの現状を詳細に調査し、統合計画を策定します。統合範囲、スケジュール、費用、リスクなどを明確化します。
専門家チームの編成システム統合に精通した専門家チームを編成し、プロジェクトを推進します。外部のコンサルタントを活用することも有効です。
段階的な統合一度にすべてのシステムを統合するのではなく、優先順位の高いシステムから段階的に統合を進めます。
テスト環境での検証統合前に、テスト環境でシステムの動作を十分に検証します。
従業員へのトレーニング新しいシステムの操作方法に関するトレーニングを実施します。

5.4 従業員のモチベーション低下
課題

PMIは、従業員にとって大きな変化であり、将来への不安や雇用への懸念から、モチベーションが低下する可能性があります。モチベーションの低下は、生産性の低下、離職率の増加、組織全体の士気低下につながります。

解決策
透明性の高い情報公開統合の進捗状況、人事制度、将来のビジョンなど、従業員が関心を持つ情報を積極的に公開します。
従業員の声を聴く機会の提供アンケートや意見交換会などを通じて、従業員の不安や疑問を解消します。
キャリアパス支援統合後の新しい組織におけるキャリアパスを示し、従業員の成長を支援します。
従業員エンゲージメントの向上従業員が積極的に業務に取り組めるような、働きがいのある職場環境を整備します。
適切な評価と報酬従業員の貢献を適切に評価し、公平な報酬制度を導入します。

5.5 シナジー効果の発揮遅延
課題

PMIの目的は、シナジー効果によって企業価値を高めることです。しかし、シナジー効果の発揮には時間がかかり、当初の計画通りに進まない場合もあります。シナジー効果の発揮が遅れると、投資対効果が低下し、PMIの成功が危ぶまれます。

解決策
具体的なシナジー目標の設定シナジー効果を定量的に測定できる具体的な目標を設定します。例えば、売上増加目標、コスト削減目標などを設定します。
シナジー実現のための具体的な計画策定シナジー効果を実現するための具体的なアクションプランを策定します。誰が、いつまでに、何をするのかを明確化します。
進捗状況の定期的なモニタリングシナジー効果の実現状況を定期的にモニタリングし、計画との差異を分析します。必要に応じて、計画を修正します。
シナジー効果を阻害する要因の特定と対策シナジー効果の発揮を阻害する要因を特定し、適切な対策を講じます。例えば、組織間の連携不足、システム統合の遅延、文化の違いなどが考えられます。
成功事例の共有シナジー効果を実現できた事例を社内で共有し、他の部門やプロジェクトにも展開します。

PMIにおける課題は多岐にわたりますが、事前に課題を認識し、適切な対策を講じることで、統合プロセスを円滑に進め、シナジー効果を最大化することができます。成功するPMIのためには、経営層のリーダーシップ、従業員の積極的な参加、綿密な計画と実行が不可欠です。


6. 【前編】まとめ PMIプロセスについて解説してきましたが、こちらの記事は前編となります。本記事の総括の「まとめ」については後編に記載しております。

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