PMI(Post Merger Integration)とは?成果を出す5W1Hを押さえた正しい実践方法と注意点を解説

PMI(Post Merger Integration)とは?成果を出す5W1Hを押さえた正しい実践方法と注意点を解説

PMI(Post Merger Integration:経営統合)ってよく聞くけど、実際には何をどうすればいいの?」

10年のPMI経験をもつPMI支援の専門家が、M&A後のPMIを成功に導くための具体的な方法を、5W1Hのフレームワークを用いてわかりやすく解説します。

統合の開始時期や目的設定・対象範囲・担当者の決定・具体的な進め方など、各段階における重要なポイントを押さえながら、企業文化の違いやコミュニケーション、リスク管理といったPMI特有の注意点についても深く掘り下げます。

また、M&A・PMIに失敗した場合でも、業績アップの可能性があるリカバリー方法を、最後の方にご紹介しておりますので、これからM&Aをする企業の方だけではなく、「M&Aしたけど失敗した」と感じている企業の方も是非参考にして下さい。

M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。

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目次
1. M&A後のPMI(Post Merger Integration)とは?
1.1 PMIの定義
1.2 PMIの目的
1.3 PMIのプロセス
1.4 PMIの重要性
2. PMI(Post Merger Integration)の成功率は決して高くない
2.1 PMIの成功率が低い原因
2.2 PMI成功のための3つのポイント
3. PMI(Post Merger Integration)が失敗する原因
3.1 統合計画の欠如
3.2 コミュニケーション不足
3.3 文化や価値観の衝突
3.4 重要な人材の流出
3.5 システム統合の失敗
3.6 シナジー実現の遅延
3.7 顧客満足度の低下
3.8 PMI期間の長期化
3.9 想定外の事態への対応不足
3.10 買収後の企業文化の押し付け
3.11 買収側の企業文化の軽視
3.12 PMIの担当者の能力不足
3.13 経営陣のリーダーシップ不足
3.14 外部環境の変化
3.15 PMIの成功を測る指標の設定不足
3.16 PMI後のフォローアップ体制の不足
4. PMIの正しい実践方法「5W1H」
4.1 When(いつから始めるか)
4.2 Why(目的は何か)
4.3 What(何を統合するのか)
4.4 Who(誰が担当するのか)
4.5 Where(どこまで統合するのか)
4.6 How(どのように統合するのか)
5. PMI(Post Merger Integration)における注意点
5.1 文化の違いを考慮する
5.2 コミュニケーションを密にする
5.3 リスク管理を徹底する
6. PMIに失敗したら
6.1 PMI失敗の主な原因
6.2 PMI失敗時の対応策
6.3 PMIを「再チャレンジ」する
7. まとめ
1. M&A後のPMI(Post Merger Integration)とは? PMIとは、日本語では「合併後統合プロセス」と訳され、M&Aによって経営統合された企業を、統合計画に基づいて、円滑に統合することを目的とした一連のプロセスのことを指します。PMIは、M&A後の企業価値の最大化を図るために非常に重要なプロセスです。

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1.1 PMIの定義 PMIには明確な定義はありませんが、一般的にはデューデリジェンスのタイミングやM&A契約締結後から、統合された組織が単一の事業体として円滑に機能するまでの期間に行われる統合計画の策定から実行、評価までの一連の活動とされています。

PMIは、企業規模や業界、M&Aの形態などによって、その範囲や期間、複雑さは大きく異なります。

もう少し簡単にご説明すると、PMIは「対象企業の買収後の期待や不安を理解し、安心して事業の発展・成長に取り組めるようにするプロセス」であり、シナジー効果でさらなる業績UPを目指し、成長のシーズ(種)を発見したり、デューデリジェンスでは見抜けなかったリスクや課題の発見から解決フェーズまで取り組むプロセスを言います。

1.2 PMIの目的 PMIの目的は、M&Aによって設定された経営目標を達成するために、統合によるシナジー効果の創出と統合リスクの最小化の2点を両立させることです。具体的には、次のようなものが挙げられます。

売上増加
コスト削減
新規市場への参入
技術やノウハウの共有
企業文化の融合
デューデリジェンスでは発見できなかったリスク・課題の発見と改善

1.3 PMIのプロセス PMIのプロセスは、一般的に、以下の5つの段階に分けられます。

段階内容
計画フェーズ PMIの全体計画を策定する段階です。統合後の組織構造や事業計画、統合スケジュールなどを決定します。
実行準備フェーズ 計画フェーズで策定した計画に基づき、具体的な実行計画を策定する段階です。統合後の業務プロセスやシステム、人事制度などを設計します。
実行フェーズ 実行準備フェーズで策定した実行計画に基づき、統合を実行する段階です。組織統合、システム統合、人事制度統合などを実施します。
安定化フェーズ 統合後の組織が安定的に運営されるように、業務プロセスやシステム、人事制度などを調整する段階です。
評価フェーズ PMIの成果を評価し、今後の改善点などを検討する段階です。
PMIは、これらのプロセスを段階的に進めていくことで、統合によるシナジー効果の創出と統合リスクの最小化を図ることができます。

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1.4 PMIの重要性 M&Aは、企業にとって大きな成長の機会となりますが、PMIが失敗すると期待したシナジー効果が得られないばかりか、企業価値が大きく毀損する可能性もあります。

PMIを成功させるためには、M&Aの検討段階から、PMIを意識した計画を策定し、実行していくことが重要です。

2. PMI(Post Merger Integration)の成功率は決して高くない 現在、PMIの成功率を表すデータは存在しません。そのため、ここでは「M&Aの成功率=PMIの成功率」として解説いたします。

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M&Aの失敗理由はPMI以外にも「企業価値算定で高値を付けた・デューデリジェンスの失敗」など様々な要因が考えられるため、一概に「PMIの成功率が低い」とは言えない可能性がある事もご了承ください。
さて、M&Aは企業成長のための有効な戦略の一つですが、その後のPMIを成功させなければ、期待した成果を得ることはできません。実際、今までのPMIやり方では成功率は決して高くないことが示されています。

M&Amp;Aの成功率とは? M&Amp;Amp;Aの成功率

※1(出典):デロイト トーマツ コンサルティング(2013)の調査

例えば、デロイト トーマツ コンサルティング(2013)の調査によると、M&Aの成功率はわずか36%程度だと言われています。これは、M&A全体の約6~7割が失敗に終わっていることを意味します。PMIは、単なる企業結合ではなく、異なる企業文化、組織構造、業務プロセスを統合し、新たな企業価値を創造する、複雑かつ困難なプロセスなのです。

この失敗の要因のひとつと考えらえるのが、PMIの失敗ということになります。

2.1 PMIの成功率が低い原因 PMIの成功率が低い原因は、多岐にわたりますが、大きくは以下の3つに分類できます。

1事前の準備不足(やり方がわからない・経験者がいないも含む)
2統合プロセスにおける問題
3組織文化の衝突
私の経験上、PMIの成功率が低い原因は「これまでのPMIのやり方がダメ」なのだと感じています。その詳細は、以下のURLページに記載していますので、そちらでご確認ください。

これまでのPMIがダメな理由
事前の準備不足 PMIは、M&A契約締結後すぐに開始する必要があります。しかし、実際には、買収後の事業計画や統合計画が十分に策定されないまま、PMIが開始されるケースが少なくありません。

その結果、統合プロセスが遅延したり、混乱が生じたりする可能性があります。

また、「PMIのやり方がわからない・経験者がいない」というケースでは、「そもそもPMIで何をどうしてよいかわからない」という状態でM&A契約締結が行われ、PMIが開始せざるをえないケースもあります。(こちらの方が多いように感じています)

統合プロセスにおける問題 PMIでは、人事、財務会計、情報システムなど、多岐にわたる業務を統合する必要があります。しかし、統合プロセスが適切に管理・実行されないと、業務の重複や非効率性が生じコストが増加したり、従業員のモチベーションが低下したりする可能性があります。

組織文化の衝突 M&Aでは、異なる企業文化を持つ組織が統合されるため、組織文化の衝突は避けられません。組織文化の衝突が適切にマネジメントされないと、従業員の反発や離職を招き、PMIの成功を阻害する可能性があります。

2.2 PMI成功のための3つのポイント PMIを成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

1明確な統合計画の策定
2強力なリーダーシップの発揮(経験がなければPMI支援サービスを活用する)
3従業員とのコミュニケーションの徹底
PMIは、企業にとって大きな挑戦ですが、適切な準備と実行により、成功の可能性を高めることができます。PMIにも費用は発生しますが、費用対効果を考えれば外部のPMI支援サービスを利用した方が、M&Aにかかる投資対効果は最大化される可能性が高いように感じす。

3. PMI(Post Merger Integration)が失敗する原因 3.1 統合計画の欠如 PMIを成功させるためには、綿密な統合計画が不可欠です。統合計画がない、あるいは経験がなく不十分な場合、統合プロセスが混乱しM&A当初の目標が達成できないリスクが高まります。

M&Aは企業にとって大きな変革であり、その変革をスムーズに進めるためのロードマップが統合計画です。統合計画には、統合の目的・目標・スケジュール・担当者・コミュニケーション計画・リスク管理計画などが含まれるべきです。

統合計画を策定する際には、両社の現状を分析・理解した上で、統合後の企業の全体像を明確に定義することが重要です。

3.2 コミュニケーション不足 PMIプロセスにおいて、従業員・顧客・取引先など、すべてのステークホルダーとのコミュニケーションが不足すると、誤解や不信感が生まれ統合プロセスが阻害される可能性があります。

統合プロセスに関する情報を積極的に発信し、対象企業の従業員の不安や疑問に迅速かつ適切に対応することが重要です。また、統合後の早い段階に企業文化やビジョンを共有することで、従業員の一体感を醸成する必要があります。

3.3 文化や価値観の衝突 企業文化や価値観の異なる企業同士の統合では、譲渡企業と譲受企業の間だけではなく、対象企業の従業員内でも摩擦や対立が生じやすく、これが統合の妨げとなることがあります。

統合前に両社の企業文化や価値観を分析し、統合後の企業文化をどのように構築するかを検討しておくことが重要です。また、従業員に対して、相互理解と尊重の重要性を啓蒙する必要があります。

3.4 重要な人材の流出
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M&Aに伴う環境変化や将来への不安から、重要な人材が流出してしまうことがあります。特に、買収される側の企業では、組織変更や人事異動・将来性などの不安から、優秀な人材が離職するリスクが高まります。
人材の流出を防ぐためには統合後のキャリアパスを明確に示し、従業員の不安を解消することが重要です。また、従業員に対して、統合の意義や将来展望をしっかりと説明する必要があります。

3.5 システム統合の失敗 異なるシステムを統合する際には、予想以上の時間とコストがかかる場合があり、これが統合全体の遅延やコスト超過につながることがあります。

システム統合を成功させるためには、買収した企業に情報システム部などがある場合は事前に相談の上で綿密な計画を立て、十分なテストを実施することが重要です。また、情報システム部などがない場合には、外部のシステム統合の専門家の知見を積極的に活用することも有効です。

システムの統合にはコスト削減の効果が見込めるものの、対象企業にとって機能的に不足していたり、その不足を複数のツールで補おうとすると、日常の作業工数が増加することになり、最終的に業績が落ちるなど「改悪」になる場合があるので注意しましょう。

3.6 シナジー実現の遅延
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M&Aの目的は、シナジー効果によって企業価値を高めることですが、シナジーの実現が遅れると、期待通りの成果が得られず、統合の失敗につながる可能性があります。
シナジー実現を促進するためには、統合計画に具体的なシナジー目標と達成計画を盛り込み、進捗状況を定期的にモニタリングする必要があります。

また、シナジー実現を阻害する要因を早期に特定し、適切な対策を講じることが重要です。

3.7 顧客満足度の低下 統合によって、製品やサービス、サポート体制などが変更になる場合があり、顧客満足度が低下する可能性があります。

顧客満足度の低下を防ぐためには、統合による顧客への影響を最小限に抑えるとともに、顧客とのコミュニケーションを強化し、不安や疑問を解消することが重要です。

また、統合後の製品やサービスの改善を積極的に進め、顧客ロイヤルティの向上に努める必要があります。

このような事態を回避するためには、まずはお客様の声を聴きながら理解を深めたうえで、改善に取り組むことをオススメします。場合によっては、改善する必要がない場合もありますので。

3.8 PMI期間の長期化 PMI期間が長期化すると、統合に伴うコストが増大し、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。

PMI期間を短縮するためには統合計画を明確化し、統合プロセスを効率的に進めることが重要です。また、統合の進捗状況に応じて、計画を柔軟に見直すことも必要です。

3.9 想定外の事態への対応不足 PMIプロセスでは、予期せぬ問題や課題が発生することがあります。想定外の事態への対応が不十分だと、統合プロセスが混乱し目標達成が困難になる可能性があります。

想定外の事態に備えリスク管理体制を構築し、問題が発生した場合の対応策を事前に検討しておくことが重要です。

また、状況の変化に応じて、柔軟に対応できる体制を整えておく必要があります。

3.10 買収後の企業文化の押し付け
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買収企業が、自社の企業文化を買収された企業に一方的に押し付けることは、反発を招き、統合を阻害する要因となります。
統合後の企業文化は、両社の文化を尊重した上で、新たな文化を創造していくという姿勢が重要です。従業員に対して、双方の文化の良いところを融合させていくというメッセージを発信し、一体感を醸成していくことが大切です。

3.11 買収側の企業文化の軽視 買収された側の企業文化を尊重しすぎるあまり、買収側の企業文化が軽視されることも問題です。

買収の目的は、シナジー効果によって企業価値を高めることであり、そのためには、買収側の企業文化の強みを活かすことが重要です。

統合後の企業文化は、両社の文化をバランスよく融合させることが求められます。

3.12 PMIの担当者の能力不足 PMIは、企業文化、組織、人事、システムなど、多岐にわたる分野の統合を必要とする複雑なプロセスであり、担当者には高い専門知識や経験が求められます。

PMIの担当者に適切な知識や経験がない場合、統合プロセスがスムーズに進まず、失敗するリスクが高まります。

買収側の企業にPMI経験者がいない場合には、「PMI経験値の高い外部の専門家」の知見を積極的に活用することも有効です。

この場合、外部の専門家も「PMIのプラン策定」などの経験はあるものの、現場経験がない専門家も数多く存在ます。専門家を選ぶ際には、「PMIの現場経験の有無」も確認すると良いでしょう。

3.13 経営陣のリーダーシップ不足 PMIを成功させるためには、経営陣の強いリーダーシップが不可欠です。経営陣が、統合の目的やビジョンを明確に示し、従業員を鼓舞し、一体感を醸成していくことが重要です。

経営陣がリーダーシップを発揮できなければ、従業員のモチベーションが低下して統合プロセスが停滞する可能性があります。

経営陣がPMIの重要性を認識し、率先してリーダーシップを発揮していく必要があります。

3.14 外部環境の変化
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PMIは、市場環境、競争環境、法規制など、様々な外部環境の影響を受けます。外部環境が大きく変化した場合、当初の統合計画が想定通りに進まない可能性があります。
外部環境の変化を常に注視し、必要に応じて統合計画を見直すなど、柔軟に対応していくことが重要です。

3.15 PMIの成功を測る指標の設定不足 PMIの成功を客観的に評価するためには、具体的な指標を設定することが重要です。指標が明確でなければ、統合の進捗状況や成果を把握することができず、適切な意思決定を行うことができません。

売上高・利益率・顧客満足度・従業員満足度など、具体的な指標を設定し定期的にモニタリングする必要があります。

3.16 PMI後のフォローアップ体制の不足 PMIは、統合が完了した後も、統合効果を最大限に発揮するために、継続的なフォローアップが必要です。フォローアップ体制が整っていない場合、統合効果が持続せず、当初の目標を達成できない可能性があります。

定期的に統合効果を評価し、必要に応じて改善策を講じるなど、継続的なフォローアップ体制を構築することが重要です。

4. PMIの正しい実践方法5W1H PMIを成功させるためには、それぞれのフェーズを適切なタイミングで、適切な方法で実行していくことが重要です。ここでは、PMI業務における5W1Hを解説していきます。

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4.1 When(いつから始めるか) PMIは、M&A契約締結後できるだけ早く開始することが重要です。遅くとも、M&A契約締結の当日かその翌営業日から始める必要があります。統合計画の策定・統合チームの発足・従業員への周知活動など、事前準備に時間をかける必要があります。

M&A契約締結前に、PMI計画の骨子を作成しておくことも有効です。デューデリジェンスの段階でPMI担当者がビジネスデューデリジェンスを行い、統合上の課題やリスクを洗い出し、大まかな統合計画を立てておくことで迅速かつ円滑なPMIを実現することができます。

4.2 Why(目的は何か) PMIの目的は、M&Aによって設定したシナジー目標を達成することです。シナジー目標とは、売上増加、コスト削減、新規市場への参入など、M&Aによって生み出される相乗効果のことです。

PMIを進める前に具体的なシナジー目標を設定し、目標達成に向けた計画を策定することが重要です。シナジー目標が明確でないと、PMIの進捗管理が難しくなり結果としてM&Aの成果に結びつかない可能性があります。

4.3 What(何を統合するのか) PMIでは、企業文化、人事制度、業務プロセス、ITシステムなど、多岐にわたる統合項目があります。統合項目の選定は、M&Aの目的や統合後の事業戦略によって異なります。

一般的には「対象企業内の買収後の不安を払しょくし、業績向上に向けての足場づくり」から始めます。

統合項目詳細
企業文化 企業理念、価値観、行動規範など 統合後の企業文化の構築、従業員意識の統一
人事制度 賃金制度、評価制度、昇進制度など 人事制度の統一、処遇の公平性の確保
業務プロセス 営業プロセス、製造プロセス、経理プロセスなど 業務プロセスの標準化、効率化
ITシステム 基幹システム、情報系システムなど ITシステムの統合、データの共有
統合を進める上では、優先順位をつけることが重要です。短期間で統合効果が出やすいもの、統合による影響が大きいものから着手していくと良いでしょう。

4.4 Who(誰が担当するのか) PMIを推進するためには、経営層・PMI責任者・統合チームなど、適切な役割分担と責任体制を構築することが重要です。

主に買収した側の企業からPMI担当者を任命し、対象企業に送り込むことが一般的です。この場合の対象企業でのポジションは取締役や、経営企画部(ない場合は新設)の部長など、経営層かそれに準ずるポジションとなるケースが多いようです。

経営層PMIの最終責任者として、統合の方向性や重要事項を決定します。
統合責任者PMIの責任者として、統合計画の策定や実行を統括します。
統合チーム各部門から選出されたメンバーで構成され、具体的な統合作業を担当します。
統合チームには、両社の従業員を参加させることが重要です。お互いの文化や業務プロセスを理解し、協力して統合を進める体制を作ることで、統合後の組織の一体感を醸成することができます。

4.5 Where(どこまで統合するのか) 統合の範囲は、M&Aの目的や統合後の事業戦略によって異なります。例えば、完全統合・部分統合・保持分離など、さまざまな統合形態があります。

もし、100日ブランなどの集中期と安定期を分けてスケジュールを立てているのであれば、タスクごとに優先順位をつけましょう。集中期に終わらないものは無理して進めず、落ち着いてから取り掛かるくらいの柔軟性を持つ方がよいです。
完全統合組織、人事制度、業務プロセスなどを完全に統合する形態です。
部分統合一部の機能や部門のみを統合する形態です。
保持分離買収後も、被買収企業を独立した事業として存続させる形態です。
統合範囲を決定する際には、統合によるメリットとデメリットを比較検討する必要があります。

例えば 完全統合は、統合効果が大きい反面、統合コストや統合リスクも高くなります。一方、保持分離は、統合コストや統合リスクは低い反面、統合効果も限定的になります。統合範囲は、状況に応じて最適なものを選択する必要があります。

吸収合併する場合は完全統合となりますが、吸収合併せずにグループ会社とする場合にオススメなのは、「部分統合・保持分離」の統合形態です。

なぜなら、初期のPMI(100日プランなど)の段階で、大々的に対象企業今までのやり方を変更することで、従業員の反発や作業効率の悪化など、改悪になる可能性が高いからです。

計画当初に予定していた統合内容でも、場合によっては先送りするなどの柔軟な対応が望ましいでしょう。

4.6 How(どのように統合するのか) PMIを成功させるためには、統合計画に基づいた、計画的かつ段階的な統合プロセスを進めることが重要です。

統合プロセスは、大きく分けて、計画フェーズ、実行フェーズ、安定化フェーズの3つのフェーズに分けられます。

各フェーズごとにまとめましたので、確認していきましょう。

1.計画フェーズ

統合計画の策定、統合チームの発足、従業員への周知活動などを行います。
• 統合の目的、目標、範囲を明確にする
• 統合計画のスケジュール、体制、予算を策定する
• 従業員に対して、統合の目的や内容を丁寧に説明する

2.実行フェーズ

統合計画に基づいて、具体的な統合作業を行います。
• 人事制度、業務プロセス、ITシステムなどの統合
• 新組織への移行
• 従業員への研修

3.安定化フェーズ

統合後の新組織が安定的に運営されるように、フォローアップや調整を行います。
• 統合後の課題や問題点の解決
• 新組織文化の定着
• 従業員のモチベーション維持
統合プロセス全体を通してコミュニケーションを密に取り、従業員の不安や混乱を解消することが重要です。また、進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を修正していく柔軟性も求められます。

5. PMI(Post Merger Integration)における注意点 PMIは、複雑で困難なプロセスであり、綿密な計画と実行が必要です。統合プロセスにおいて発生しうる問題や、注意すべきポイントを以下にまとめます。

5.1 文化の違いを考慮する PMIにおける最も一般的な課題の一つに、異なる企業文化の統合があります。企業文化の違いは、コミュニケーションの行き違い・意思決定の遅延・従業員の士気低下など、様々な問題を引き起こす可能性があります。

文化の違いを最小限に抑え、スムーズな統合を実現するために、以下の点に注意する必要があります。

相互理解を深める

統合前に双方の企業文化・価値観・行動規範などを理解するための、ワークショップや交流の機会を設けることが重要です。従業員同士が互いの文化を理解し、尊重し合うことで、統合後の摩擦を減らすことができます。

共通の文化を構築する

統合後には新しい組織文化を明確に定義し、従業員に浸透させる必要があります。共通のビジョン・ミッション・価値観を共有することで、一体感を醸成し新しい組織への帰属意識を高めることができます。

人事制度を調整する

人事評価制度・報酬制度・昇進制度など、人事制度の違いは従業員の不満や不公平感を招く可能性があります。統合後の人事制度を事前に検討し、公平性と透明性を確保することが重要です。

統合プロセスにおいては従業員の不安や懸念に寄り添い、丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。

風通しの良い環境を作ることで、問題を早期に発見し解決することができます。PMIは、単なる組織統合ではなく、新たな企業価値を創造するプロセスであることを認識し、戦略的かつ慎重に進めていく必要があります。

5.2 コミュニケーションを密にする PMIを成功させるためには、関係者間のコミュニケーションが不可欠です。統合プロセスに関する情報をタイムリーかつ正確に共有することで、誤解や混乱を防ぎ円滑な統合を進めることができます。

コミュニケーションを密にするためのポイントは以下の通りです。

情報共有の場を設ける 統合に関する情報を共有するための会議やイントラネットなどを活用し、関係者が必要な情報にアクセスできる環境を整えることが重要です。統合の進捗状況、今後のスケジュール、発生している課題などを共有することで、透明性を高め、関係者間の連携を強化することができます。

双方向のコミュニケーションを促進する 一方的な情報発信だけでなく、従業員からの質問や意見を吸い上げるためのアンケートや意見交換会などを実施することも重要です。双方向のコミュニケーションを通じて、従業員の不安や疑問を解消し、統合プロセスへの理解と協力を得ることができます。

経営陣からのメッセージを発信する 統合の目的・将来ビジョン・従業員への影響などを、経営陣自らが発信することで従業員の不安を払拭し、統合に対する理解と協力を得ることができます。メッセージは、わかりやすく・誠実な言葉で伝えることが重要です。また、従業員の立場に立った内容にすることで、共感を得やすくなります。


5.3 リスク管理を徹底する PMIには、様々なリスクが伴います。統合による事業の混乱・顧客の離反・従業員の離職・訴訟リスクなど、事前に想定されるリスクを洗い出し、適切な対策を講じることでリスクを最小限に抑えることができます。

リスク管理を徹底するためのポイントは以下の通りです。

リスクの特定と評価 統合によって発生する可能性のあるリスクを網羅的に洗い出し、それぞれの発生確率と影響度を評価します。リスク評価には、過去の事例や専門家の意見を参考にするとよいでしょう。リスク評価の結果に基づいて、優先順位の高いリスクから対策を検討していきます。

リスク対策の実施 特定したリスクに対して、回避・軽減・移転・保有などの対策を検討し、実行します。リスク対策は、具体的な行動計画に落とし込み、責任者と期限を明確にすることが重要です。また、リスク対策の実施状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を見直すことも重要です。

緊急時対応計画の策定 想定外の事態が発生した場合に備え、緊急時対応計画を策定しておくことも重要です。緊急時対応計画には、連絡体制・対応手順・責任者などを明確に定義しておく必要があります。

また、定期的に訓練を実施することで、緊急時対応能力を高めることができます。リスク管理は、PMIの成否を左右する重要な要素です。計画段階からリスク管理を意識し、適切な対策を講じることで、統合を成功に導くことができます。

PMIにおけるリスク管理表の例
リスク発生確率影響度対策責任者期限
従業員の離職 統合後のキャリアパスを示す、退職金の上乗せを行う 人事部長 統合契約締結後1ヶ月以内
顧客の離反 統合によるメリットを顧客に説明する、特別割引キャンペーンを実施する 営業部長 統合契約締結後3ヶ月以内
システムの不整合 事前にシステムの互換性を確認する、統合後のシステム構築計画を策定する 情報システム部長 統合契約締結後6ヶ月以内
この管理表は、あくまでも一般的なものですので、起業に合わせて追加していくことをオススメします。

6. PMIに失敗したら
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PMIは、M&A後の企業統合を成功させるための重要なプロセスですが、必ずしも成功するとは限りません。PMIが失敗すると、さまざまな負の影響が生じます。

例えば

例えば、以下のような問題が発生する可能性があります。

• 売上減少
• コスト増加
• 従業員のモチベーション低下
• 企業文化の衝突
• ブランドイメージの低下

PMIが失敗する原因はさまざまですが、主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

6.1 PMI失敗の主な原因
1事前の計画不足
2コミュニケーション不足
3文化の違いへの対応不足
4リスク管理の不足
5統合プロセスにおける混乱
6リーダーシップの欠如
7PMIの経験不足
PMIが失敗した場合、企業は迅速に状況を把握し適切な対策を講じる必要があります。

具体的には、以下のような対応が必要となります。

6.2 PMI失敗時の対応策 現状分析と原因究明 まずは、PMIがなぜ失敗したのかを分析する必要があります。原因を特定することで、再発防止策を講じることが可能になります。

原因究明には、関係者へのヒアリングやデータ分析などが有効です。客観的な視点を取り入れるために、外部コンサルタントの活用も検討しましょう。

損失の最小化 PMIの失敗によって生じた損失を最小限に抑える必要があります。

例えば、売上が減少している場合には、マーケティング活動を強化したり、コストを削減したりする必要があるでしょう。また、従業員のモチベーションが低下している場合には、コミュニケーションを強化したり、研修を実施したりするなどの対策が必要です。

再統合計画の策定と実行 現状分析と原因究明を踏まえ、新たな統合計画を策定し実行する必要があります。前回の計画の反省点を活かし、より具体的な計画を立てましょう。また、計画の実行状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行うことが重要です。

ステークホルダーへの説明と協力 PMIの失敗は、企業のステークホルダー(株主、顧客、従業員、取引先など)に大きな影響を与える可能性があります。

そのため、ステークホルダーに対して状況を正直に説明し、理解と協力を得ることが重要です。風評被害を抑え、信頼を回復するために、誠実な対応を心がけましょう。

6.3 PMIを「再チャレンジ」する リスタートPMI

「M&Aに失敗した」「PMIが上手くいかなかった」という企業は少なくありません。しかし、その多くが諦めてしまい、放置するか損切りして吸収合併するかの選択を迫られます。

PMIを実施しても上手くいかなかったという場合でも、まだ業績を伸ばすチャンスが残されているケースもあります。実は、そのためのサービス「リスタートPMI」を弊社が作りました。

もし、「M&A・PMIで失敗した。次の手が思い浮かばない」とお悩みなら、リスタートPMIのページをご確認ください。買収後、数年経過した赤字企業でも、業績を伸ばす可能性が残されているかもしれません。

「リスタートPMI」のページ

7. まとめ PMIは、M&A後の企業統合を成功させるために非常に重要なプロセスです。
本記事では、PMIの5W1Hを押さえた正しい実践方法や注意点を紹介しました。

PMIを成功させるためには、事前の綿密な計画と準備、そして統合プロセスにおける関係者間のコミュニケーションが重要です。文化の違いやコミュニケーション不足、リスク管理の甘さなどが、PMI失敗の大きな要因となりえます。

PMIは決して容易なプロセスではありませんが、成功すれば企業の成長を大きく加速させる可能性を秘めています。本記事を参考に、自社のPMIを成功に導いてください。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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