M&Aの「PMI業務内容」とは?

M&Aの「PMI業務内容」とは?

M&Aの買収後に行う経営統合プロセスのことをPMI(Post Merger Integration:通称ピー・エム・アイ)と呼ばれています。

このPMIはM&Aの成功・失敗を決める最も大切な作業なのですが、まだまだ認知度が低い状況です。

M&A業界の専門用語や解説はわかりづらいものが多いので、このページでは「PMIの業務内容」についてできるだけわかりやすく解説していきます。

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1.そもそもPMIとは?

PMIとは

PMI(Post Merger Integration)とは、M&Aなどで譲渡された企業・事業を買収後も安定して発展・成長させるための経営統合プロセスのことを言います。

経営統合プロセスと言われても、わかりづらいかもしれませんね。
M&Aで買収された企業の従業員・取引先は今後どうなるのか不安になります。

当たり前ですが、M&Aの成約後に突然知らされ、今までの経営者がいなくなるケースも多く、知らない会社が親会社になるわけですので、

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雇用や取引が継続されるのか?
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新しい経営者・方針についていけるのか?

など、状況が目まぐるしく変わることが予測され不安になるわけです。

このような状況では今まで通りの業績を出すのが難しいため、PMIを行って従業員や取引先に対しきちんと今後のことを説明・理解してもらい、安心して業務やお取引を継続していただくための調整を行うことが、経営統合プロセス(PMI)の一つの業務内容と言えます。

ここからは、さらに詳しく「PMIの業務内容」について説明いたします。

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2.PMIを行う目的とは?PMI業務を行う目的は、「M&A の目的を実現させ、その効果を最大化すること」です。

さらに、中長期的には「譲受側が譲渡側と一体となり共に発展・成長できる環境・状況を作ること」だと言えます。

譲渡企業の新経営陣にお任せするだけではこの目的が達成できないため、PMIの担当者を配置し、これまでの文化や体質の異なる企業間での様々なことを調整する必要があるのです。

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3.PMIの3つの業務内容PMIを行う上での業務内容は、企業ごとに変わってきます。

企業も人と同じで十人十色なので、その会社にあわせたPMIの内容・流れ・進め方があることを前提として、一般的な流れをご説明いたします。


PMIで行う業務(3つの統合ポイント)

経営統合

これまで異なる経営方針のもとで経営されていた2社が、企業の方向性、経営体制、仕組みなどの統合を目指します。

信頼関係構築

組織・文化の融合に向けて実施するべき取り組むみとなります。 経営ビジョンの浸透や、従業員の相互理解、取引先との関係構築などを目指します。

業務統合

事業(開発・製造、調達・物流、営業・販売)や、 管理・制度(人事、会計・財務、法務)に関する統合を目指します。

PMIでは、上記の3つの統合を行うのが一般的な業務内容となります。これらの項目を経営統合していくプロセスがPMIの業務となります。

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3.1 PMI業務内容「経営統合」をわかりやすく解説譲渡された会社(ここでは子会社とします)は、買収後には今までの経営体制(経営者)が変わることが多く、今までは社内で経営者が決めた方針に基づいて営業活動も、新しい経営体制の元で新しい経営方針が発表され、その目標に向かって活動していくことになります。

M&A後には、譲受した会社(ここでは親会社とします)とのシナジー効果を模索したり、親会社が上場企業であれば、上場基準に則った会社の運営方法への変化する必要がでてきます。

そのためには、まずは子会社となった企業がどんなポテンシャルを持っているのか把握する必要があり、PMI業務ではM&Aの成立前のDD(デューデリジェンス)で得た情報をもとに、子会社の経営方法から事業運営方法まで、様々なポイントを確認していく作業を行います。

親会社が上場企業の場合には会計の方法が見直されたり、決算月を親会社に合わせて変更したりする業務が発生することもあります。

弊社のPMI支援業務においては、過去10年で複数の企業のPMIを行った経験から、一般的な企業のM&A後に必要なチェックリストを作成しており、PMI業務の際にチェックすべきポイントの抜け漏れ防止対策を行っております。

3.2 PMI業務内容「信頼関係構築」をわかりやすく解説M&Aによって子会社となった企業の従業員・取引先は、経営体制が変わることで「今後どうなるのか?」と不安になるものです。

この不安の解消が遅れると、人材の流出(退職)や仕入れ先や顧客などの取引先との関係悪化など、M&Aの目的を達成するのにマイナスの影響が発生してしまいます。

PMIを行う上で、慎重かつ早急に対応しなければならない最重要ポイントとも言えるでしょう。

POINT1従業員との信頼関係構築について上記ではマイナスの影響面について触れましたが、信頼関係構築が上手くいくとプラスの影響も発生します。

今までの子会社では当たり前とされていたルールや習慣も、第三者から見ると間違っていたり不効率に感じてる場合があります。

私の経験でも、信頼関係が深まっていく中で、徐々に相談や提案をしてくれる従業員が増えてきて、その中で「誰が見ても改善すべきその業界特有の商習慣や無駄なコストの話」があり、業績に急成長につながったケースも少なくありません。

子会社の従業員の中にも、他社から転職してきたが「この会社のここはこれでいいの?」と思っている従業員もいるので、PMIを行うことで信頼関係の構築ができれば業績の向上などM&Aの目的を達成に近づけることができるのです。

POINT2取引先との信頼関係構築についてここでの取引先とは主に、上流(仕入れ先)・下流(お客様)として解説します。

リスクとなるケース

経営体制が変更になった場合、リスクとなるのは「仕入れ先との取引が前経営陣との人間関係(信頼関係)によって成り立っていた場合」です。

中小企業では、お互いに持ちつ持たれつで助け合いながら事業運営している場合もあり、経済的な合理性だけで判断できない場合があります。

経営者が変わることで、仕入れコストが上がる・取引そのものを断られるなどのリスクを避けるために、場合によってはM&Aクロージング前に前経営者と共に挨拶に伺い、事前に理解を求めておくという手段を講じる場合もあります。

期待をしてくれるケース

取引先も不安だけではなく期待をしてくれるケースもあります。特に、同業界・同業種の場合、シナジー効果によって取引拡大を期待され歓迎してくれるのです。

PMI業務の中で、合併に伴う経営者の変更などのお知らせなど連絡を書類の送付だけで済ませるのではなく、主要取引先との信頼関係の構築・継続のために、取引先に挨拶・説明に伺い親会社の紹介や今後の経営方針などを共有していく必要があります。

お客様との信頼関係においても、同じことが言えます。子会社の業種・業態によっても異なりますが、

BtoBでの取引の場合
子会社よりも、他の信頼関係を構築してきた取引先に乗り換えられてしまうリスクが存在します。

BtoCの取引の場合
親会社が変わったことでの影響は大きくありませんが、親会社の都合で社名を変更する場合、社名への愛着や認知度が低下することで顧客の離反につながるケースがありますので、大きく何かを変える際はリスクをしっかりと把握してから行うようにしましょう。


3.3 PMI業務内容「業務統合」をわかりやすく解説

業務統合とは

業務統合をわかりやすく言うと、主に「事業・管理・社内制度」を統合していく作業です。

統合と言っても、必ずしも「親会社に合わせる」のではなく、必要に応じて「現状維持」や「新たな方法(取引先)に改善(変更)」することもあります。

事例を含めてわかりやすく解説します。

業務統合の「事業」とは?業務統合の「事業」とは、事業そのものの運営フローや事業の運営に必要なシステム・取引先などです。

通信販売会社に例えると、その業務は「お客様からご注文を頂き、商品をお手元に届けること」です。

お客様に自社商品を知ってもらうためには、商品を販売するHP(ホームページ)を作成し、そのページに来ていただくための広告を運用する。

HPやコールセンターで注文いただいた商品を、梱包して配送会社が商品を届けるという流れ(フロー)があります。

これだけでも、以下の取引先があります。

HP制作会社(ディレクター・デザイナー・ライター・カメラマンなど)
広告代理店(WEB広告・紙媒体の代理店・SNSに特化した代理店など)
コールセンター(お電話で注文を受け付けるなど)
物流会社(商品の保管・梱包作業・出荷作業など)
配送会社(佐川急便・ヤマト運輸・日本郵政など)

例えば
親会社やグループ会社で同じHP制作会社・広告代理店・コールセンター・物流会社・配送会社を利用し、グループ全体で価格交渉を行っている場合、M&Aした後には親会社と足並みを揃えて業者を変更するか、既存業者の方がコストやKPIなどの数値的にも効率的なのかをジャッジするのもPMIの業務内容と言えます。

これはM&Aの後で、多くの親会社のPMI担当者がコストダウンのために最初に見直そうとするチェックポイントとなります。

この場合でもPMI業務内容として「コスト削減」を考えるのは当たり前のことですが、現場を理解してから見直しを検討することをオススメ致します。

なぜかと言うと、通信販売であれば、上記のような取引先は「従業員にとって慣れ親しんだパートナー」なのです。

多くの場合、従業員と信頼関係が構築されており、阿吽の呼吸で業務を進められるパートナーとなっているケースが多く、コスト面だけで見直しを行うと子会社の業務がスムーズに進まなくなり、社内からの不満の声を高めてしまうことになるからです。

親会社側の目線としては、経済的な合理性を求めて業者を見直すことは当たり前のことですが、PMIの段階で現状を把握せずに行うことは避け、コスト面だけではないその業者を使うメリットなども関係部署からヒアリングを行い、慎重に進めていく必要があるのです。

業務統合の「管理・社内制度」とは?

業務統合の「管理・社内制度」とは

業務統合の「管理・社内制度」とは、人事制度・評価制度・稟議申請・会計・財務・法務などに関する制度や社内ルールを見直すことにあります。

M&A後の親会社・子会社間での人事異動や交流が行われる場合、異動先で同じような仕事をしていても給料に格差が生じてしまう場合や、経理・財務のように同じような仕事をしている人が親会社・子会社間に存在している場合は、業務を統合することで人員削減につながるケースがあります。

また、子会社が中小企業の場合、月次決算が遅く上場企業グループとして決算発表に間に合わないやり方をしている場合は、経理財務の業務は見直す必要があります。

PMI担当者は全体最適化を目指し、これらの制度や社内ルール、体制や人員の見直しを行うこともPMIの業務内容となります。

管理・社内制度を経営統合する場合では、制度・ルール・人材の見直しだけではなく、システムや情報セキュリティや契約行為の管理体制の見直しを行うことがあります。

これは、中小企業を買収した場合によくみられる、以下のようなリスク・課題が存在している可能性があるからです。

主要取引先など多くの取引先と契約書を締結していない
社内のPCに個人ごとのログイン設定がされていない
人によって稟議申請したり、しなかったりと基準があいまい
会計方法の間違いに長年気づかずに来てしまった
評価制度がなく、上長次第で評価が異なっている
システムが古く欲しい情報があちこちに点在し、分析に役立っていない

PMIの業務内容は「経営統合プロセス」と説明されることが多いのですが、この経営統合とは本質的に以下の3つの選択肢で判断されます。

1親会社に合わせる
2既存のまま継続する
3親会社とも異なる新しい方法に変更する

このようにPMIによる経営統合プロセスを経て、譲渡された会社の弱い部分が改善され、強い会社に生まれ変わらせるのも子会社にとってのM&Aのメリットであり、PMIの業務内容なのです。


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4.【まとめ】PMIの業務内容このページでご紹介したPMIの業務内容は、ほんの一部と言えます。買収した企業・された企業共に、状況は十人十色・千差万別となるため、「PMIとはこんなもの」というニュアンスでお伝えいたしました。

今までのM&Aでは、多くの企業がM&Aは成約がゴールとなり、PMIを行わない事例が多かったように感じています。PMIを行っていたとしてもノウハウがなく、経験のないPMI担当者が親会社の意向を伝えるだけのものとなっていました。

このページで紹介したPMIの業務内容は、買収された企業が今後も発展成長を遂げるために、親会社の協力の元「強い会社」になることだとご説明しました。

経営統合

M&Aクロージング前(DDだけでは)ではわからなかった会社の状況を理解し、経営体制が変わることで新しい方針を打ち出し、目指すべきゴールを明確にすること。

信頼関係構築

不安と期待を持った従業員や取引先とどのように信頼関係を築き、発展成長につなげていくのか。

業務統合

今まで弱かった部分を明確にして「強い会社」に生まれ変わらせること。

このようなPMI業務について解説いたしました。

もし、M&Aをご検討されるのであれば、PMIを行うか否かではなく、社内の誰にPMIを任せるのかをイメージし、自社のPMIのあり方を考えてみてはいかがでしょうか。

譲渡する経営者の立場であれば、譲受企業がPMIまで行うのかどうかも判断材料とされ、会社の発展成長の確度を高められるM&Aを検討されてはいかがでしょうか。

編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。


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