M&Aの法律知識!買収・合併の法的ポイントや注意点

M&Aの法律知識!買収・合併の法的ポイントや注意点

M&A(合併・買収)を検討している経営者や担当者の方にとって、法律の理解は不可欠です。M&Aは企業の将来を左右する重要な意思決定であり、法的なリスクを理解せずに進めると、大きな損失を被る可能性があります。この記事では、M&Aにおける法律の役割、買収・合併の手続きにおける法的ポイント、失敗事例と法的リスクなどを分かりやすく解説します。

この記事を読むことで、M&Aに関する法律知識を深め、スムーズかつ安全なM&Aを実現するための道筋を理解することができます。M&Aを成功に導くために必要な法的知識を網羅的に解説しているので、ぜひ最後までお読みください。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。




1. M&Aにおける法律の役割

M&A(合併・買収)は、企業戦略において極めて重要な位置を占めています。M&Aを成功させるためには、複雑な手続きや関連法規への深い理解が不可欠です。法律は、M&Aのプロセス全体を適切に進め、リスクを最小限に抑え、最終的な目標達成を支える重要な役割を担っています。本項では、M&Aにおける法律の役割について詳しく解説します。

1.1 M&Aに関する法律・規制

M&Aに関わる法律・規制は多岐に渡り、それぞれの段階で異なる法律が適用されます。主な法律・規制は以下の通りです。

法律・規制 概要
会社法 株主総会決議、株式譲渡制限、合併手続きなど、M&Aの基本的な枠組みを規定
金融商品取引法 上場企業のM&Aにおける公開買付けやインサイダー取引規制などを規定
独占禁止法 M&Aによる市場の独占や競争制限を防止するための規制
法人税法 M&Aに伴う税務上の取扱い、例えば合併における繰越欠損金の取扱いなどを規定
労働関係法令(労働基準法、労働契約法など) M&Aに伴う従業員の雇用維持、労働条件の変更などに関する規定
下請法 親事業者と下請事業者間の取引における優越的地位の濫用を規制
外国為替及び外国貿易法 外国企業による日本企業のM&Aに関する規制

これらの法律・規制を遵守することは、M&Aを円滑に進める上で不可欠です。専門家のアドバイスを受けながら、適切な対応を行うことが重要です。

1.2 独占禁止法の観点

M&Aは、市場における競争に大きな影響を与える可能性があります。独占禁止法は、M&Aによって市場の独占や競争制限が生じることを防ぐために重要な役割を果たします。公正取引委員会は、一定規模以上のM&Aについて、企業結合審査を行います。審査の結果、競争を実質的に制限すると判断された場合、M&Aの中止や事業の一部売却などの措置が求められる可能性があります。

例えば、ヤフー株式会社とLINE株式会社の経営統合の際には、公正取引委員会による審査が行われました。結果として、一定の条件を付して統合が承認されました。これは、独占禁止法がM&Aにおいて重要な役割を果たしていることを示す一例です。

1.3 会社法の観点

会社法は、M&Aの手続きや意思決定プロセスを規定しています。例えば、株式譲渡によるM&Aの場合、株主総会の承認が必要となるケースがあります。また、合併を行う場合にも、株主総会の特別決議が必要となります。会社法は、M&Aにおける株主の権利保護や適切な意思決定を確保するために重要な役割を果たしています。

さらに、会社法は、M&Aにおける取締役の責任についても規定しています。取締役は、M&Aにおいて会社と株主の利益を最大限に考慮し、誠実に職務を遂行する義務を負っています。例えば、買収価格の決定において不当に低い価格を設定した場合、取締役は株主に対して責任を負う可能性があります。

2. M&Aの手続きと法的ポイント

M&Aのプロセスは複雑で、様々な法的ポイントが存在します。それぞれの段階で適切な法的措置を講じることで、M&Aを成功に導くことができます。ここでは、基本合意契約締結から最終契約締結までの主要な手続きと、それぞれの法的ポイントを解説します。

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2.1 基本合意契約締結

基本合意契約(LOI:Letter of Intent)は、M&Aの基本的な条件を定めるもので、法的拘束力を持つ条項と持たない条項が含まれます。主な内容としては、買収価格の概算、デューデリジェンスの実施、独占交渉権の付与などが挙げられます。

2.1.1 基本合意契約の法的ポイント
  • 法的拘束力の有無を明確にする
  • 独占交渉期間の設定
  • 秘密保持義務
  • 費用負担
  • 契約解除に関する規定

基本合意契約締結前に、秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を締結することも一般的です。NDAは、M&Aに関する情報の秘密保持を義務付けるもので、情報漏洩のリスクを軽減します。

2.2 デューデリジェンス

デューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査するプロセスです。デューデリジェンスの結果は、買収価格の最終決定、契約内容の決定、M&A後の統合計画策定に大きな影響を与えます。

2.2.1 デューデリジェンスの法的ポイント
  • 調査範囲の明確化
  • 資料提供の協力義務
  • 表明保証の獲得
  • デューデリジェンス報告書の作成
デューデリジェンスの種類 調査内容
財務デューデリジェンス 財務諸表の分析、収益性・安全性・成長性の評価
法務デューデリジェンス 契約書の確認、コンプライアンス体制の評価、潜在的な法的リスクの把握
事業デューデリジェンス 事業計画の妥当性評価、市場分析、競争環境分析
人事デューデリジェンス 従業員のスキル・経験・処遇の確認、人事制度の評価
2.3 最終契約締結

最終契約は、M&Aの全ての条件を定めるもので、法的拘束力を持つ重要な契約です。主な内容としては、買収価格、支払方法、株式譲渡または事業譲渡の条件、表明保証、契約解除に関する規定などが挙げられます。

2.3.1 最終契約の法的ポイント
  • 契約内容の精査
  • 表明保証の範囲と内容
  • 契約違反時の責任
  • 紛争解決手続き
  • クロージング条件の明確化

最終契約締結後、クロージングを行い、M&Aが完了します。クロージングでは、株式の譲渡または事業の譲渡が行われ、買収対価の支払いが行われます。

M&Aの手続きは複雑であり、各段階で専門家のアドバイスを受けることが重要です。弁護士、公認会計士、税理士などの専門家と連携し、適切な法的措置を講じることで、M&Aを成功に導くことができます。

3. M&Aにおける買収の法的ポイント

M&Aにおける買収とは、ある企業(買収者)が他の企業(対象会社)の支配権を取得することを指します。支配権の取得方法は、対象会社の株式を取得する「株式譲渡」と、対象会社の事業を譲り受ける「事業譲渡」の2種類に大別されます。それぞれに異なる法的ポイントが存在するため、適切な法的アドバイスを受けることが不可欠です。

3.1 買収価格の決定方法

買収価格の決定は、M&Aプロセスにおける重要な要素です。価格算定には様々な手法があり、対象会社の財務状況、将来性、市場環境などを考慮して決定されます。主な手法は以下の通りです。

手法 説明 メリット デメリット
DCF法 (割引キャッシュフロー法) 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出 将来性を加味した評価が可能 将来予測の精度に依存する
類似会社比較法 類似上場企業の株価倍率等を参考に算出 客観的な評価が可能 本当に類似した企業を見つけるのが難しい
純資産法 対象会社の純資産額をベースに算出 計算が容易 将来性を反映しにくい
時価純資産法 純資産法に含み益を加味して算出 より実態に近い評価が可能 含み益の実現可能性を検証する必要がある

これらの手法を単独または組み合わせて用いることで、適切な買収価格を決定します。ただし、買収価格の決定は交渉によって最終的に決定されるため、法的な観点からの妥当性も検証する必要があります。

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3.2 株式譲渡契約

株式譲渡契約は、買収者が対象会社の株式を譲り受ける際に締結する契約です。株式譲渡契約には、以下のような重要な条項が含まれます。

  • 譲渡株式数および譲渡価格
  • 表明保証条項(対象会社の財務状況や法的コンプライアンスに関する表明保証)
  • 誓約条項(クロージングまでの対象会社の行動を制限する条項)
  • 解除条件(クロージング前に一定の事由が発生した場合に契約を解除できる条項)
  • 補償条項(表明保証違反や誓約違反があった場合の損害賠償に関する条項)

これらの条項は、買収後の紛争を予防するために綿密に検討する必要があります。特に表明保証条項と補償条項は、買収リスクを適切に配分するために重要です。

3.2.1 株式譲渡契約における競業避止義務

株式譲渡契約においては、売主側に競業避止義務を課すことが一般的です。これは、売主が対象会社と競合する事業を一定期間行うことを禁止するものです。競業避止義務の範囲(期間、地域、事業内容)は、対象会社の事業内容や市場環境などを考慮して決定する必要があります。競業避止義務に違反した場合の違約金条項も併せて規定することが重要です。

3.3 事業譲渡契約

事業譲渡契約は、買収者が対象会社の一部の事業または全部の事業を譲り受ける際に締結する契約です。事業譲渡契約には、以下のような重要な条項が含まれます。

  • 譲渡事業の範囲
  • 譲渡価格
  • 従業員の承継
  • 許認可の移転
  • 債権債務の取扱い

事業譲渡契約においては、譲渡対象となる資産・負債、従業員、契約、許認可などを明確に特定し、それぞれの取扱いを定める必要があります。特に従業員の承継については、労働法上の手続きを遵守する必要があります。

3.3.1 事業譲渡契約におけるデューデリジェンスの重要性

事業譲渡においては、デューデリジェンスによって譲渡対象事業の実態を詳細に把握することが重要です。デューデリジェンスでは、財務状況、法務状況、事業状況などを調査し、隠れたリスクを洗い出します。デューデリジェンスの結果を踏まえ、譲渡価格の調整や契約条項の修正を行うことができます。また、デューデリジェンスによって発見された重大なリスクによっては、事業譲渡自体を中止することもあります。

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4. M&Aにおける合併の法的ポイント

合併とは、複数の会社が一つに統合される組織再編手法です。合併には、吸収合併(一つの会社が他の会社を吸収する)と新設合併(複数の会社が新しく一つの会社を設立する)の2種類があります。合併は、会社法上の厳格な手続きに従って行われなければならず、法的ポイントを理解することが不可欠です。

4.1 合併比率の決定

吸収合併の場合、消滅会社株主は、消滅会社の株式と引き換えに存続会社の株式を取得します。この交換比率が合併比率です。新設合併の場合、消滅会社株主は、消滅会社の株式と引き換えに新設会社の株式を取得します。この場合も同様に交換比率が合併比率となります。

合併比率は、各社の企業価値を適切に評価した上で決定される必要があり、株主総会での承認が必要となります。合併比率の算定方法には、純資産法、収益還元法、市場株価法など様々な方法があり、状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。不適切な合併比率は、株主間の紛争に発展する可能性もあるため、慎重な検討が必要です。

4.2 合併契約

合併契約は、合併の当事会社間で締結される契約で、合併の条件や手続き等を定めます。会社法では、合併契約に記載すべき必須事項が定められています。例えば、合併の方式、合併比率、効力発生日、新会社の定款などが挙げられます。合併契約の内容は、株主総会に提出され、承認を得る必要があります。合併契約の作成にあたっては、弁護士等の専門家のアドバイスを受けることが重要です。契約内容に不備があると、合併が無効となる可能性もあるため、細心の注意が必要です。

項目内容
合併の方式吸収合併 or 新設合併
合併比率消滅会社株式1株に対し、存続会社株式〇株
効力発生日令和〇年〇月〇日
新会社の定款新会社の目的、商号、本店所在地など
債権者保護手続き債権者異議申し立て手続きの実施
4.3 債権者保護手続き

合併により債権者が不利益を被る可能性があるため、会社法は債権者保護手続きを定めています。合併の当事会社は、官報に合併公告を掲載し、債権者に対して異議申し立ての機会を与えなければなりません。債権者が異議を申し立てた場合、当事会社は、債権者に対して相当の担保を提供するか、弁済をしなければなりません。

債権者保護手続きを適切に行わないと、合併が無効となる可能性もあるため、注意が必要です。例えば、合併公告の掲載期間が不足していたり、債権者への個別通知が漏れていたりすると、手続きに瑕疵があると判断される可能性があります。また、債権者からの異議申し立てに対して適切な対応を取らない場合も、問題となる可能性があります。

合併には、税法上の優遇措置が設けられている場合があります。例えば、一定の要件を満たす合併については、合併による資産の譲渡益が課税繰り延べの対象となることがあります。これらの優遇措置を適切に活用することで、合併に伴う税負担を軽減することができます。ただし、税法は複雑で改正も多い分野であるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。

5. M&A失敗事例と法的リスク

M&Aは企業成長の強力な手段となる一方で、綿密な準備と適切な法的対応を怠ると、大きなリスクを伴います。ここでは、M&Aの失敗事例とその背景にある法的リスクについて解説し、成功のための教訓を導き出します。

5.1 デューデリジェンスの不足によるリスク

デューデリジェンスは、M&Aにおける最重要プロセスの一つです。対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査することで、潜在的なリスクを洗い出し、買収価格の妥当性を判断します。デューデリジェンスの不足は、後々大きな損失につながる可能性があります。

5.1.1 事例:粉飾決算を見抜けなかったケース

買収対象企業の粉飾決算を見抜けずに買収を進めた結果、買収後に巨額の負債が発覚し、買収企業は経営危機に陥るケースが後を絶ちません。適切なデューデリジェンスを実施していれば、このような事態を回避できた可能性があります。

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5.1.2 事例:環境規制違反を見落としたケース

買収対象企業が環境規制に違反していた事実をデューデリジェンスで見落とした結果、買収後に多額の制裁金を支払うことになったり、環境浄化費用を負担することになったりするケースも発生しています。環境デューデリジェンスの重要性を示す事例です。

5.2 契約内容の不備によるリスク

M&Aにおける契約書は、取引の根幹を成す重要な書類です。契約内容に不備があると、後々思わぬ紛争に発展する可能性があります。弁護士などの専門家の助言を得ながら、綿密に契約内容を検討することが不可欠です。

5.2.1 事例:表明保証条項の不備

買収対象企業の財務状況や事業状況に関する表明保証条項が曖昧であったため、買収後に問題が発覚しても、売主に対して責任追及ができなかったケースがあります。表明保証条項は明確かつ具体的に記載する必要があります。

5.2.2 事例:競業避止義務違反

売却した事業と競合する事業を売主が開始した場合、競業避止義務違反となります。契約書に適切な競業避止義務条項を設けていないと、売主の行動を制限することが難しくなります。

5.3 統合後のPMI失敗と法的紛争

M&A後の統合プロセス(PMI)も、成功の鍵を握る重要な要素です。PMIが円滑に進まないと、従業員のモチベーション低下や顧客離れなどを招き、シナジー効果の実現が困難になります。また、PMIにおける法的紛争も発生する可能性があります。

5.3.1 事例:労働条件の不整合による紛争

買収企業と買収対象企業の労働条件に大きな差があった場合、従業員との間でトラブルが発生する可能性があります。PMIにおいては、労働条件の調整を慎重に進める必要があります。

5.3.2 事例:文化の違いによる対立

企業文化の違いが原因で、買収企業と買収対象企業の従業員間で対立が生じ、統合がスムーズに進まないケースも少なくありません。PMIにおいては、文化の違いを尊重し、相互理解を深めるための取り組みが重要です。

5.3.3 代表的なM&A失敗事例と法的リスク
失敗事例 法的リスク ポイント
雪印食品の牛肉偽装事件に端を発する雪印乳業と日本ミルクコミュニティの合併 消費者からの信頼失墜、株主代表訴訟 危機管理の重要性、コンプライアンス体制の強化
ライブドアによるニッポン放送買収 インサイダー取引疑惑、敵対的買収に対する法的対応 情報管理の徹底、買収防衛策の検討
ダイエーの経営破綻と産業再生機構による支援 債権者との交渉、会社更生法の適用 財務状況の健全性、事業再生計画の策定

これらの事例は、M&Aには様々な法的リスクが潜んでいることを示しています。M&Aを成功させるためには、事前の綿密なデューデリジェンス、明確な契約書の締結、そして統合後のPMIを適切に進めることが不可欠です。専門家のアドバイスを受けながら、リスクを最小限に抑え、最大限のシナジー効果を実現するよう努めましょう。

6. まとめ

M&Aは企業成長の重要な戦略ですが、法律の理解が不可欠です。独占禁止法や会社法など関連法規を遵守し、デューデリジェンスや契約締結を適切に行うことで、リスクを軽減できます。買収価格や合併比率の決定、株式譲渡契約や事業譲渡契約、合併契約など、各段階で法的な注意点が存在します。

デューデリジェンス不足や契約不備は、M&A失敗に繋がりかねません。ヤフーとLINEの経営統合のような成功事例を参考に、専門家の助言を得ながら慎重に進めることが、M&A成功の鍵となります。

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