簿外債務が招くM&A失敗。粉飾決算の発見方法とリスク回避策を専門家が解説

簿外債務が招くM&A失敗。粉飾決算の発見方法とリスク回避策を専門家が解説

「M&Aを検討しているが、簿外債務や粉飾決算のリスクが不安」「デューデリジェンスって具体的に何をすればいいの?」そんな悩みをお持ちの経営者・財務担当者の方へ。

本記事では、M&Aにおける簿外債務問題を分かりやすく解説します。簿外債務の種類や発生原因、M&Aに与える影響はもちろん、粉飾決算を見抜くためのデューデリジェンスの重要性や具体的なチェックポイントまで、専門家の視点から徹底解説。

さらに、過去のM&A失敗事例も交えながら、リスク回避策を具体的に提示します。安心してM&Aを進めるために、ぜひ本記事をご一読ください。

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1. 簿外債務とは何か?M&Aにおける影響を解説 1.1 簿外債務の種類と発生原因
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簿外債務とは、企業の財務諸表に計上されていない債務を指します。M&Aにおいて、買収対象企業に簿外債務が発見された場合、買収価格の減額や、最悪の場合にはM&A自体が白紙撤回になる可能性もあります。
そのため、M&Aを進める際には、簿外債務のリスクを十分に把握しておく必要があります。 簿外債務には、以下のような種類があります。

種類内容
保証債務 他の会社が借入を行う際に、保証人となっている場合の債務 関連会社や取引先の借入に対する保証
偶発債務 将来、何らかの事象が発生した場合に、債務を負う可能性があるもの 係争中の訴訟、未払いの税金など
将来発生債務 将来必ず発生する債務だが、現時点では計上されていないもの 長期リース契約、退職給付債務など
意図的な簿外処理 粉飾決算を目的として、意図的に債務を隠蔽しているもの 架空の取引による債務の隠蔽、循環取引など
簿外債務が発生する原因としては、以下のようなものが考えられます。

会計基準の解釈の誤り:複雑な会計基準を誤って解釈し、債務を計上していないケース
内部統制の不備:適切なチェック体制が整っていないため、不正な会計処理が行われてしまうケース
粉飾決算:意図的に利益を水増しするために、債務を隠蔽するケース

1.2 M&Aにおける簿外債務のリスク M&Aにおいて、買収対象企業に簿外債務が発見された場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。

買収価格の減額簿外債務が判明した場合、買収価格の減額を要求される可能性があります。これは、簿外債務が買収後の企業価値を毀損する要因となるためです。
M&A契約の解除簿外債務が重大な場合、M&A契約自体が解除に追い込まれる可能性があります。特に、買収前に簿外債務の存在を知りながら、開示しなかった場合には、契約違反として損害賠償請求を受ける可能性も考えられます。
レピュテーションリスク簿外債務が発覚した場合、企業の信用が失墜する可能性があります。これは、企業のコンプライアンス意識やガバナンス体制に問題があるとみなされるためです。
これらのリスクを回避するため、買収企業はM&Aを実施する前に、デューデリジェンスと呼ばれる調査を徹底的に行い、簿外債務のリスクを事前に洗い出す必要があります。

また、M&A契約書には、表明保証条項損害賠償条項を盛り込み、簿外債務による損害が発生した場合の責任の所在を明確にしておくことが重要です。

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特に、粉飾決算は、企業の経営者や従業員が共謀して行われるケースが多いため、財務諸表の分析だけでは見抜くことが困難です。そのため、デューデリジェンスの際には、契約書や議事録の精査、従業員へのヒアリングなど、多角的な調査を行う必要があります。
M&Aにおける簿外債務は、企業に大きな損害を与える可能性があります。買収企業は簿外債務のリスクを十分に認識し、適切な対策を講じる必要があります。詳細については、専門家にご相談ください。

2. 粉飾決算を見抜く!デューデリジェンスの重要性 M&Aにおいて対象会社の正確な企業価値を評価し、潜在的なリスクを洗い出すデューデリジェンスは非常に重要です。

特に、意図的に虚偽の財務情報を提示する「粉飾決算」は、M&A後に大きな損失を被る可能性があるため、徹底的に見抜く必要があります。

2.1 財務諸表分析だけでは不十分!
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粉飾決算を見抜くためには、財務諸表分析だけでは不十分です。なぜなら、財務諸表はあくまでも過去の数値をまとめたものであり、将来の業績や潜在的なリスクを完全に反映しているとは限らないからです。
粉飾決算は巧妙に数字を操作している場合があり、表面的な分析では見抜けないケースも少なくありません。

2.2 デューデリジェンスで確認すべきポイント 粉飾決算を疑うべきポイントは、企業の財務状況や経営状況、業界の特性などによって異なります。そのため、画一的なチェックリストだけで判断するのではなく、経験豊富な専門家の知見を借りながら、多角的な視点から分析することが重要です。

以下は、デューデリジェンスで特に注意深く確認すべきポイントの一部です。

契約書や議事録の精査 契約書や議事録などの書類は、企業活動の実態を把握する上で重要な情報源となります。例えば、以下の点に注意して確認する必要があります。

売上計上時期の妥当性売上計上基準を確認し、実際の商品・サービスの提供時期と整合性が取れているかを確認します。
取引先との関係性取引先が実在し、通常の取引関係にあるかを確認します。
資産計上額の妥当性資産の取得時期や価格、減価償却方法などを確認し、過計上や過小計上がないかを検証します。
負債計上額の妥当性借入金の存在や金額、返済条件などを確認し、簿外債務がないかを調査します。
重要な契約内容の確認M&A後に影響を与える可能性のある契約内容(例:有利な契約の解除条項など)を把握します。

従業員へのヒアリング 従業員へのヒアリングは、企業文化や組織風土、経営陣の資質などを把握する上で有効な手段です。特に、粉飾決算が行われている場合、現場では不自然な会計処理や取引が行われている可能性があります。そのため、従業員へのヒアリングを通じて、以下のような情報収集に努めます。

日常業務における会計処理の実態売上計上や経費処理など、日常業務における会計処理が適切に行われているかを確認します。
内部統制システムの運用状況不正な会計処理を防止するための内部統制システムが適切に設計・運用されているかを検証します。
経営陣の指示や圧力の有無粉飾決算を疑わせるような、経営陣からの指示や圧力がないかを確認します。
組織風土やコンプライアンス意識法令遵守や倫理的な行動を重視する組織風土があるか、コンプライアンス意識が根付いているかを評価します。
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これらのポイントに加え、必要に応じて外部調査会社や弁護士などの専門家を活用し、より詳細な調査を行うことも重要です。例えば、信用調査会社による取引先の信用調査や、弁護士による法務デューデリジェンスなどを実施することで、粉飾決算のリスクをより効果的に低減することができます。
デューデリジェンスは、M&Aを成功させるための重要なプロセスです。特に粉飾決算は企業価値を大きく毀損する可能性があるため、徹底的な調査と分析が不可欠です。

専門家の知見を借りながら、多角的な視点からデューデリジェンスを実施することで、粉飾決算のリスクを最小限に抑え、安全なM&Aを実現しましょう。

3. 具体的な事例で解説!簿外債務によるM&A失敗 3.1 事例1:過年度の売上計上による粉飾決算 架空売上による利益水増し 株式会社A社は、業績不振を隠蔽するために、実際には存在しない売上を架空計上していました。具体的には、実体のない取引先との間で架空の請求書や納品書を作成し、これを元に売上を計上していました。

この結果、A社の財務諸表上は黒字に見せかけていましたが、実際には多額の債務超過状態に陥っていました。

A社は、好調な財務状況をアピールすることで、B社からの買収提案を受けました。しかし、B社がデューデリジェンスを実施した結果、架空売上による粉飾決算が発覚。A社の信用は失墜し、M&Aは白紙化しました。

この事例は、粉飾決算がM&Aにおいて致命的となることを示す典型的な例です。たとえ短期間であっても、不正によって得た利益は、後になって大きな損失となって返ってくる可能性があります。企業は、健全な経営を維持し、透明性の高い財務報告を行うことが重要です。

循環取引による売上水増し 株式会社C社は、D社、E社と循環取引を行い、売上高を水増ししていました。循環取引とは、複数の会社が互いに商品やサービスを売買し合うことで、売上高を人為的ににかさ上げする行為です。

C社は、D社に商品を販売し、D社はE社に、E社は再びC社に商品を販売するという循環取引を行っていました。

この循環取引により、C社は実際よりも売上高が大きく見せていました。しかし、F社がC社を買収する際にデューデリジェンスを実施した結果、循環取引が発覚。F社は、C社の経営の透明性に不信感を抱き、M&Aを中止しました。

循環取引は企業の実際の経営状況を隠蔽し、投資家を欺く行為です。M&Aにおいては、デューデリジェンスによって循環取引が発見される可能性が高く、企業は大きな風評被害を受ける可能性があります。

3.2 事例2:関連会社への債務保証 不透明な取引によるリスク 株式会社G社は、関連会社であるH社に対して、多額の債務保証を行っていました。H社は、業績が低迷しており、資金繰りに苦しんでいました。G社は、H社を支援するために、金融機関からの借入に対して保証人となっていました。

G社は、H社に対する債務保証を適切に開示していませんでした。I社がG社を買収する際にデューデリジェンスを実施した結果、H社に対する多額の債務保証が発覚。I社は、H社の経営破綻によるG社への影響を懸念し、M&Aを断念しました。

関連会社への債務保証は、それ自体が違法な行為ではありません。しかし、不透明な形で債務保証が行われている場合、投資家にとっては大きなリスクとなります。企業は、関連会社との取引を適切に開示し、透明性を確保することが重要です。

連鎖倒産のリスク 株式会社J社は、子会社であるK社に対して、無担保かつ無期限の融資を行っていました。K社は、この融資を元に事業を拡大していましたが、業績が振らず、債務超過の状態に陥っていました。

L社がJ社を買収する際にデューデリジェンスを実施した結果、K社に対する多額の融資が発覚。L社は、K社の経営破綻がJ社に連鎖倒産を引き起こす可能性を懸念し、M&Aを中止しました。

子会社への過剰な融資は、親会社にとって大きなリスクとなります。子会社が経営破綻した場合、親会社は多額の損失を被る可能性があります。譲渡企業は子会社への融資について、適切なリスク管理を行うことが重要です。

4. M&Aのリスクを回避するための対策 M&Aにおけるリスクを回避し、取引を成功に導くためには、事前の周到な準備と適切な対策が不可欠です。ここでは、具体的な対策について詳しく解説します。

4.1 専門家による徹底的なデューデリジェンス
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M&Aにおけるデューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査し、潜在的なリスクや問題点を洗い出すプロセスです。特に簿外債務のリスクを回避するためには、財務デューデリジェンスにおいて、以下のポイントに重点を置く必要があります。

財務諸表の精査 過去の財務諸表を複数期にわたって分析し、売上や利益の推移、債務残高の変動などを確認します。特に、不自然な数値の変動や、業界の平均値と大きく乖離している項目がないか、注意深く分析することが重要です。

貸借対照表(B/S)では、資産、負債、純資産の構成比を分析し、健全性を評価します。特に、簿外債務となる可能性のある、偶発債務や未計上債務がないか、注記情報なども含めて詳細に確認します。

損益計算書(P/L)では、売上高、売上原価、販売費および一般管理費などの項目をチェックし、収益性や費用構造を分析します。特に、売上計上時期の操作や費用計上の遅延など、粉飾決算の疑いがないか、注意深く確認します。

キャッシュフロー計算書(C/F)では、営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュフローを分析し、資金繰りの状況を把握します。特に、営業活動によるキャッシュフローが恒常的に赤字でないか、投資や財務活動に依存した資金繰りになっていないか、確認することが重要です。

契約書や議事録の精査 買収対象企業が締結している契約書を精査し、債務保証やオプション契約など、簿外債務となる可能性のある項目がないかを確認します。契約書の文言を注意深く確認し、潜在的なリスクを洗い出すことが重要です。

取締役会や株主総会の議事録を精査し、過去の経営判断や重要な決定事項について把握します。特に、簿外債務に関連する議論や決定事項がないか、注意深く確認します。

従業員へのヒアリング 買収対象企業の経営陣や従業員へのヒアリングを実施し、財務状況や事業状況に関する内部情報を収集します。ヒアリングを通して財務諸表や契約書だけではわからない、潜在的なリスクや問題点を発見できる可能性があります。

これらのデューデリジェンスを専門家チームが主導することで、より精度の高い調査が可能となり、簿外債務のリスクを効果的に低減できます。

公認会計士財務デューデリジェンスを担当し、財務諸表の分析、会計処理の妥当性評価、簿外債務のリスク評価などを行います。
弁護士法務デューデリジェンスを担当し、契約書の精査、法令遵守状況の確認、潜在的な法的リスクの評価などを行います。
税理士税務デューデリジェンスを担当し、税務申告書の精査、税務リスクの評価、税務上のアドバイスなどを行います。

4.2 表明保証条項と損害賠償条項
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M&A契約書には、買収対象企業の財務状況や法務状況などについて、売主が買主に表明保証する条項(表明保証条項)と、表明保証に違反があった場合に、売主が買主に損害賠償する条項(損害賠償条項)を盛り込むことが一般的です。
表明保証条項では、買収対象企業に簿外債務が存在しないこと、財務諸表が適正に作成されていることなどを、売主が買主に表明保証します。

損害賠償条項では、表明保証に違反があった場合、例えば、買収後に簿外債務が発見された場合などに、売主が買主に損害を賠償することを定めます。

これらの条項を契約書に盛り込むことで、買収後のトラブル発生時における、買主の保護を強化できます。

4.3 リスク管理体制の構築 M&Aのリスクを効果的に管理するためには、社内にリスク管理体制を構築することが重要です。リスク管理体制には、以下の要素が含まれます。

リスクの特定と評価

M&Aプロセスにおける様々なリスクを特定し、それぞれの発生可能性や影響度を評価します。

リスク対応策の策定

特定したリスクに対して、回避、軽減、移転、保有などの対応策を策定します。

責任と権限の明確化

リスク管理体制の構築・運用にあたり、それぞれの担当部門や担当者の責任と権限を明確化します。

モニタリングと見直し

リスク管理体制の運用状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて見直しを行います。

これらの要素を含むリスク管理体制を構築することで、M&Aプロセス全体におけるリスクを効果的に管理し、取引の成功確率を高めることができます。

5. まとめ M&Aにおいて、簿外債務の存在は、買収後の想定外の損失や訴訟リスク、企業価値の毀損など、重大な問題を引き起こす可能性があります。

粉飾決算を見抜くためには、財務諸表分析だけでなく、契約書や議事録の精査、従業員へのヒアリングなど、多角的な視点を持つデューデリジェンスが不可欠です。

リスク回避のためには、弁護士や公認会計士などの専門家による徹底的な調査、表明保証条項や損害賠償条項などの法的対策、そして、企業全体でリスク管理を徹底する体制構築が重要です。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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