のれんの減損とは?M&A減損リスクへの事前対策・回避方法をわかりやすく解説

のれんの減損とは?M&A減損リスクへの事前対策・回避方法をわかりやすく解説

「のれんの減損」は、M&A後の企業にとって大きな経営リスクとなります。のれん減損が発生すると、企業の財務状況が悪化し、株価の下落や信用力の低下を招く可能性があります。

本記事では、M&A後に発生する「のれんの減損」について、その発生要因や企業に与える影響、回避策をわかりやすく解説します。

M&Aを行った64%の企業がM&Aを成功と捉えていない現状において、M&A後の統合プロセスであるPMIと、特に「のれんの減損」への理解を深めることは、M&Aを成功に導くための重要な要素と言えるでしょう。

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1. のれんとは?

「のれん(暖簾)」と聞くと、飲食店の軒先に掛かっている布製のものをイメージする方が多いかもしれません。これは、長年そのお店が商売を続ける中で、品質やサービス、そしてお客様との信頼関係を築き上げてきた証として、お店の顔ともいえる存在となっています。

M&Aにおける「のれん」も、これと似たような概念です。企業が長年の事業活動を通じて築き上げてきた、目には見えないけれど確かな価値を指します。具体的には、次のようなものが挙げられます。

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1.1 のれんの種類
営業権
顧客との良好な関係、ブランド力、知名度
優れた技術力、ノウハウ、研究開発能力
効率的な販売網、サプライチェーン

超過収益力
高い収益性、市場シェア
優秀な経営陣、従業員の能力
将来の成長性、収益機会

これらの要素は、財務諸表上には数値として明確に表れない場合もあります。しかし、企業の将来的な収益獲得能力に大きく影響を与えるため、M&Aにおいては重要な評価項目となります。


1.2 のれんの評価

M&Aにおいて、買手企業は、対象企業の将来性を評価し、その対価として買収価格を決定します。この買収価格が、対象企業の純資産価値(資産から負債を差し引いた金額)を上回る場合、その差額が「のれん」として計上されます。

例えば A社がB社を1,000億円で買収するとします。B社の純資産価値が600億円だった場合、残りの400億円が「のれん」としてA社の貸借対照表に計上されます。
買収価格 純資産価値 のれん
1,000億円 600億円 400億円

この「のれん」は、買収企業にとって、将来の収益獲得のために支払った対価、いわば将来への投資といえます。しかし、買収後に想定通りのシナジー効果が得られなかったり、市場環境が悪化したりすると、「のれん」の価値が毀損してしまう可能性があります。これが、「のれんの減損」と呼ばれるものです。


2. のれんの減損とは?
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のれんの減損は、「M&Aによる買収の失敗による損失」のことです。買収価格が高すぎたり想定した利益が出せていないという、買い手側のM&Aでの買収に対する期待値が高すぎたことが原因で、本来の帳簿価格にするために減損処理を行わなくてはならない状況になっています。

少し専門的に説明すると、企業がM&Aなどを通じて他の企業を取得する場合、取得価額が被取得企業の※純資産価額を超過することが一般的です。この超過額は、一般的に「のれん」として認識されます。のれんは、被取得企業の持つブランド力、顧客基盤、技術力、人材など、将来収益を生み出すことが期待される無形資産を表しています。

※純資産価額 = 資産総額 - 負債総額

しかし、買収後に想定していたシナジー効果が得られなかったり、市場環境が悪化したりするなど、様々な要因によって、買収された企業の収益性が低下する可能性があります。その結果、将来にわたって見込まれる収益が当初の想定を下回り、のれんの価値が減損してしまうことがあります。これが「のれんの減損」です。


2.1 のれん減損が発生する要因

のれん減損が発生する要因は、企業の内部環境・外部環境の両方に存在し、多岐にわたります。ここでは、代表的な要因を以下に示します。

要因 具体的な内容
市場環境の変化
  • 競合の出現・激化による市場競争の激化
  • 顧客ニーズの変化、技術革新による市場縮小
  • 景気後退、為替変動などのマクロ経済の変化
買収後の統合の失敗
  • 企業文化の衝突、組織体制の違いによる統合の遅延
  • 想定していたシナジー効果の未達
  • キーパーソンの退職による事業継続の困難化
被取得企業側の問題
  • 業績悪化、収益性の低下
  • 訴訟リスク、コンプライアンス違反
  • 重要な顧客の喪失

2.2 のれん減損はなぜ起きる?
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のれんの減損の発生要因は、M&Aでの企業買収失敗が起因して発生します。

のれん減損は、将来の収益獲得能力の低下を適切に評価・認識することが求められる会計処理の一つです。企業会計は、企業の経営成績や財政状態を正しく開示し、投資家をはじめとするステークホルダーの適切な意思決定を支援することを目的としています。

しかし、将来の収益予測は不確実性を伴うため、実際の収益が予測を下回り、結果として減損処理が必要となるケースも少なくありません。

特に、M&Aのように企業結合を伴う場合には、買収価格に将来のシナジー効果に対する期待が織り込まれているため、その後の業績動向によっては減損リスクが高まる可能性があります。

また、のれんは目に見える形のない無形資産であるため、その価値を客観的に評価することが難しいという側面も、減損発生の一因となっています。

企業は、将来のキャッシュフロー予測などを用いてのれんの価値を評価しますが、その前提となる仮定や予測の妥当性が問われることになります。


4. のれん減損による影響
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のれん減損は、企業に様々な負の影響をもたらします。財務状況の悪化だけでなく、企業の信用力低下や将来的な成長戦略の見直しを迫られるなど、その影響は多岐にわたります。
4.1 企業の財務状況への影響

のれん減損が発生すると、減損処理によって多額の損失が計上され、企業の財務諸表に大きな影響を与えます。具体的には、以下の様な項目が悪化する可能性があります。

純利益の減少
自己資本比率の低下
ROE(自己資本利益率)の低下

これらの指標の悪化は、投資家や金融機関からの評価を下げ、資金調達を困難にする可能性も孕んでいます。特に、銀行からの融資は、企業の格付けに大きく影響するため、のれん減損による財務状況の悪化は、企業の資金繰りを圧迫する可能性があります。


4.2 株価への影響

のれん減損は、投資家の企業に対する評価を大きく左右し、株価の下落を招く可能性があります。減損損失の計上は、企業の将来的な収益力に対する不安感を投資家に与え、売却注文の増加に繋がりかねません。

また、財務状況の悪化は、配当の減額や無配に繋がる可能性もあり、これもまた株価の下落要因となります。


4.3 企業の信用への影響

のれん減損は、企業の信用力にも大きな影響を与えます。多額の減損損失は、企業の経営能力に対する疑念を生み、取引先や顧客からの信頼を失墜させる可能性があります。

信用力の低下は、新たな取引の開始を阻害するだけでなく、既存の取引関係の解消に繋がる可能性もあり、企業の事業活動全体に悪影響を及ぼす可能性があります。


4.4 中小企業に与える影響

大企業と比較して、経営資源が限られている中小企業にとって、のれん減損の影響はより深刻なものとなります。財務基盤の脆弱な中小企業の場合、多額の減損損失によって、資金繰りが逼迫し、最悪の場合、倒産に追い込まれる可能性も否定できません。

また、信用力の低下は、新たな取引先の開拓や優秀な人材の確保を困難にし、中小企業の成長を阻害する要因となります。


5. M&Aにおけるのれんの減損リスクの事前対策・回避方法
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M&Aの買収に失敗し、買収した企業の業績が悪化することでのれんの減損が発生するため、以下のポイントを理解しておきましょう。
5.1 詳細なデューデリジェンスの実施 買収企業の業績の悪化の要因を、デューデリジェンスの段階で予測するのは難しいことではありますが、過去の3期分の決算書で売上・利益などが悪化傾向にある企業の場合、その要因をビジネスデューデリジェンスで把握する必要があります。

ここが重要

M&Aの成約前は期待が先行してしまい悪化傾向の理由をヒアリングしても都合の良い解釈をしてしまうものですので注意しましょう。対象企業側の改善策を確認する際も、実現実効性があるのか、抽象的なプランで期待できる成果が得られるのかをしっかりと検討し、企業価値算定にきちんと見積もりましょう。


デューデリジェンスの目的は確認することではなく、企業価値算定のために様々な状況や今後のプランなども実現性を評価するなど、具体的に行うようにしましょう。

事業計画・収益性の分析
事業の収益性を分析するには、過去・未来に分けて分析を行いましょう。過去の分析では、数字の変化の原因の確認を深堀して確認しましょう。

例えば 売上の変化を確認する場合、見込客・商談機会・契約率・客単価・新商品のリリースの有無など、売上変動に影響を与える要素で、どんな動きがあったのかまで確認すると良いでしょう。

この場合には、口頭での確認に留まらず、根拠となる資料の提出も求めることをオススメします。

また、未来の分析では、将来予測される重要指標のマックス(楽観的)・成り行き・ミニマム(悲観的)の数字に分けてシミュレーションを立てるようにしましょう。

この場合も過去の分析同様に、売上変動に影響を与える数値まで深堀し、過去の傾向・未来に向けて行う施策の実現性を考慮して、シミュレーションを行いましょう。

このシミュレーションは、買収価格を決定する大きな要因となるため、買収側の一方的な解釈でシミュレーションを行うのではなく、対象企業側にとって理解・納得できる根拠を示せるものにする必要があります。

資産・負債の評価
資産・負債を評価する場合の注意点を説明します。資産の評価する場合、資料だけで評価することは避けましょう。

例えば 在庫の価値算定を行う場合、倉庫にて簡易的な棚卸をして数を確かめたり、製造年月日の間違いがないかをチェック値ます。

製造年月日をチェックする理由は業種・業界によっても異なりますが、2年間売れずに残っている商品は、今後販売して売り切れる可能性が低いと評価し2年経過時に減損処理を行う場合など、企業価値算定の段階でこの部分を割り引いて見積する必要があります。

ただの在庫資産の金額として把握するだけでは、買収後の減損リスクを見逃す可能性が高いということです。

負債の評価で気を付けるべき点は、簿外債務の有無を確認することです。

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また、関連するチェックとして、会計上のチェックを行う際には、粉飾決算がないかを確認することも重要です。M&Aの交渉を進めている段階では「成約がゴール(買うことが目的)」になってしまい、チェックが甘くなるケースが少なくないからです。

のれんの減損を回避するためには、どんなに相手企業の経営者の人柄がよい場合でも、「粉飾決算がないか疑ってかかる」くらいの確認が必要なのです。

5.2 買収後のPMI支援の活用
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PMIを実施せず、対象企業の業績不振でのれんの減損が発生した場合、ステークホルダーからすると「経営者の判断ミス」と捉えられる可能性が高いものと理解しておきましょう。
また、PMIを実施したとしても、PMI経験がない(少ない)場合や、会計数字を基にした確認と分析レベルの不十分なPMIしか行わない場合、対象企業の業績悪化する可能性は高いのではないか思います。

特に、大企業が中小企業を買収する場合、大企業では当たり前なことが中小企業ではできていないことも多く、そのほとんどは現場で確認しなければわからないことの方が多いです。

例えば 全てのPCで同じログインパスワードが使われている情報セキュリティのリスクや、販売価格・粗利の設定・値引額の判断が現場の担当者まかせになっており、赤字の金額で受注しているが誰もそのことに気づいていない場合もあります。
このような確認を会計数字を見て、部門長に原因を聞くだけでは、本当の原因がわからないまま、放置されてしまうのが、不十分なPMIと言えます。

ここが重要

M&Aに積極的な上場企業・大企業であっても、過去のM&Aで失敗している場合は、PMI支援の専門家を入れて、自社のPMIのやり方が正しいのか・不足はないかを確認する必要があるのです。

もちろん、中小企業同士のM&Aによる買収では、上場企業・大企業でも上手くいかないPMIを、上手に行える経験値を持っている可能性が低いため、M&Aの買収コストに加え外注のPMI支援コストもM&A全体のコストとして見積もっておく必要があります。

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5.3 シナジー効果の発揮
種類 内容
コストシナジー 重複する部門や機能の統合、規模の経済による調達コスト削減など 工場の統廃合、システム統合によるコスト削減など
売上シナジー 販売チャネルの共有、クロスセル、アップセルなど 買収企業の顧客基盤を活用した新規顧客獲得など
技術シナジー 技術やノウハウの共有、共同研究開発など 買収企業の技術を活用した新製品開発など

5.4 事業計画の見直し
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もし、のれんの減損の可能性が出てきた場合、早急に事業計画の見直しを行う必要があります。事業計画を見直す前に、業績不振の原因が内部的なものか外部的なものかを把握し、具体的な改善案を見出さない限り、実現性の高い事業計画の再作成を行うことができません。
事業計画の見直し前に、まずは以下のポイントをチェックしてみましょう。

内部要因の確認
業績不振の原因は、内部に存在するケースが多いです。ただし、買収した企業の従業員に原因の特定を任せても、正しい分析ができるとは限りません。従業員は日々改善する意識を持って働いていても、これは仕方がないものと位置付けてあきらめている場合もあるからです。

内部要因の確認は、必ず買収した企業のPMI担当者が先頭に立って行うべきなのです。もし、PMI担当者がその事業に関する知見がない場合は、短期的に外部のコンサルを入れてチェックするなど、必ず業績不振の原因を特定し、その改善策を立ててから事業計画の見直しを行いましょう。

外部要因の確認
市場の変化などの外部要因で、業績不振になる可能性もあります。わかりやすい事例では、自社店舗の近くに大手競合他社の店舗が出店したり、商品によっては気温上昇によって売上が左右されたり、コロナなどで外出が自粛のアナウンスがされたりなどです。

ただし、業績不振だからと言って、のれんの減損が仕方ないとあきらめる訳にも行きません。業績不振の原因を外部要因のせいにせず、その状態からどのように売上・利益などの業績を伸ばすのかを考え事業計画の見直しを行いましょう。

5.5 会計の専門家への相談 もし、のれんの減損の可能性が出てきた場合、早急に会計士・税理士などの専門家に相談しましょう。多くの企業での改善策・対応策・回避策を知っているのは、会計士・税理士などの専門家だからです。

また、M&Aの経験のない会計士・税理士などの専門家の場合、有益なアドバイスが受けられない場合もあります。その他に詳しい情報を持っているのはM&A仲介会社ですが、仲介会社は成約後には関与しない企業が多いので、そもそもアドバイスを貰えないことが多いです。

この場合で、専門的な知識や人脈を持っているのは、PMI支援の専門家となります。でも、のれんの減損が確定する段階で相談するよりも、PMIを行う段階からPMI支援の専門家に依頼しておけば、そもそものれんの減損(業績不振)という状況が防げていた可能性が高いと思います。


何事も問題が起きてから慌てるのではなく、問題が起きないように先手を打つ経営を心掛けましょう。

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6. まとめ

今回は、M&Aにおけるのれんの減損リスクについて解説しました。M&A後のPMIがうまくいかず、当初想定していたシナジー効果が実現しない場合、のれんの減損が発生する可能性があります。のれんの減損は、企業の財務状況悪化や株価下落など、様々な負の影響をもたらします。

減損リスクを回避するためには、M&Aにおける事前対策が重要です。詳細なデューデリジェンスの実施や買収後のPMI支援の活用など、事前にしっかりと準備しておくことで、減損リスクを抑制できる可能性があります。

M&Aは、企業の成長を加速させるための有効な手段ですが、同時にリスクも伴います。M&Aを成功させるためには、のれんの減損リスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。



編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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