経営再建計画の成功事例と失敗事例から学ぶ!V字回復のための5つのステップ
業績悪化に直面し、経営再建計画の策定を迫られている経営者や担当者の方々にとって、成功への道筋を見つけることは容易ではありません。 本記事では、経営再建計画とは何かを分かりやすく解説し、V字回復を実現するための5つのステップを具体的に示します。
成功事例としてニッセイコムの事業ポートフォリオ見直し、シャープの構造改革と新事業展開、失敗事例としてタカキューの過剰な投資、山一證券の隠蔽体質を取り上げ、成功と失敗の分かれ道を分析することで、陥りやすい落とし穴を回避し、効果的な計画策定に役立つ知見を提供します。
財務状況の把握、事業環境の分析、SWOT分析といった現状分析から、数値目標とKPI設定、売上増加策・コスト削減策、PDCAサイクルによるモニタリング、従業員とのコミュニケーションまで、実践的な内容を網羅。本記事を読むことで、経営再建計画の全体像を理解し、自社に最適な計画を策定するための具体的な方法論を習得できます。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・事業再生などを10年経験。3か月の経営支援サポートで、9か月後には赤字の会社を1億円の利益を計上させるなどの実績を多数持つ専門家。
- 目次
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1. 経営再建計画とは何か
1.1 経営再建計画の目的
1.2 経営再建計画の必要性
1.3 経営再建計画と事業再生計画の違い
2. 経営再建計画を策定する前に確認すべき3つのポイント
2.1 現状分析の重要性
2.2 経営資源の棚卸し
2.3 目標設定の明確化
3. 経営再建計画の5つのステップ
3.1 ステップ1 現状分析
3.2 ステップ2 再建目標の設定
3.3 ステップ3 具体的な施策の立案
3.4 ステップ4 計画の実行とモニタリング
3.5 ステップ5 従業員とのコミュニケーション
4. 経営再建計画の成功事例
4.1 事例1 ニッセイコムの事業ポートフォリオ見直しによる成功
4.2 事例2 シャープの構造改革と新事業展開による成功
5. 経営再建計画の失敗事例
5.1 事例1 タカキューの過剰な投資による失敗
5.2 事例2 山一證券の隠蔽体質による失敗
5.3 事例3 カネボウの粉飾決算による失敗
6. まとめ
1. 経営再建計画とは何か
経営再建計画とは、業績が悪化し、経営危機に陥っている企業が、その状況を打破し、再び健全な経営状態へと回復するための計画のことです。 財務状況の改善、事業構造の改革、組織体制の変更など、多岐にわたる施策が含まれます。単なるコスト削減だけでなく、中長期的な視点で持続可能な成長を実現するための戦略的な計画であることが重要です。市場の動向や競合状況、自社の強み・弱みを分析し、具体的な目標を設定し、実行していくためのロードマップとなります。
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経営再建計画の目的は、企業の存続と将来の成長を確保することです。 具体的には、以下の項目が挙げられます。
債務超過の解消 | |
収益性の向上 | |
財務体質の強化 | |
企業価値の向上 | |
ステークホルダー(株主、従業員、取引先、金融機関など)の信頼回復 |
これらの目的を達成するために、現状分析に基づいた具体的な施策を立案し、実行していくことが重要です。短期的な目標だけでなく、中長期的な視点での成長戦略を描き、持続可能な経営基盤を構築していく必要があります。
1.2 経営再建計画の必要性
業績の悪化が続く場合、企業は資金繰りが困難になり、事業継続が危ぶまれる状況に陥ります。このような事態を避けるためには、早期に経営再建計画を策定し、実行に移すことが不可欠です。計画を策定することで、以下のメリットが得られます。
経営課題の明確化 | 現状を客観的に分析することで、問題点や課題を明確にできます。 |
---|---|
解決策の具体化 | 明確になった課題に対して、具体的な解決策を立案できます。 |
関係者への説明 | 計画を策定することで、金融機関や取引先など関係者への説明責任を果たし、協力を得やすくなります。 |
社内意識の改革 | 計画を共有することで、従業員の危機意識を高め、改革への意識統一を図ることができます。 |
早期の対応 | 早期に問題に対処することで、事態の悪化を防ぎ、再建の可能性を高めます。 |
1.3 経営再建計画と事業再生計画の違い
経営再建計画と事業再生計画はどちらも企業の再生を目指す計画ですが、その対象範囲や法的な手続きに違いがあります。以下の表に違いをまとめました。
項目 | 経営再建計画 | 事業再生計画 |
---|---|---|
対象 | 業績が悪化している企業全般 | 債務超過に陥っている、または陥る可能性の高い企業 |
法的手続き | 任意 | 会社更生法、民事再生法などの法的手続きに基づく |
計画内容 | 財務状況の改善、事業構造の改革、組織体制の変更など | 債務の削減、事業の再編、新規事業の展開など |
法的拘束力 | なし | あり |
関与者 | 経営陣、コンサルタントなど | 裁判所、弁護士、管財人など |
経営再建計画は、企業が自主的に策定・実行する計画であり、法的な拘束力はありません。一方、事業再生計画は、法的手続きに基づき策定され、裁判所の認可が必要となります。そのため、法的拘束力を持ち、関係者に対する強制力も伴います。
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経営再建計画を策定する前に、必ず確認すべき3つの重要なポイントがあります。これらをしっかりと把握することで、計画の精度を高め、成功へと導くための確固たる基盤を築くことができます。それは、「現状分析の重要性」「経営資源の棚卸し」「目標設定の明確化」です。これらのポイントを一つずつ丁寧に見ていきましょう。
2.1 現状分析の重要性
経営再建計画の策定において、現状分析は最も重要な出発点です。現状を正しく理解しないまま計画を立てても、的外れな施策を講じることになり、効果的な再建は望めません。現状分析を行う際には、客観的なデータに基づいて行うことが重要です。財務諸表だけでなく、市場動向、競合他社の状況、顧客ニーズの変化など、多角的な視点から分析を行いましょう。
現状分析の手法としては、財務分析、SWOT分析、3C分析などが有効です。これらの分析手法を用いることで、企業の強み・弱み、機会・脅威を客観的に把握し、問題点の特定や改善点の発見につなげることができます。
2.1.1 財務状況の把握
財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)を詳細に分析し、収益性、安全性、効率性、成長性といった観点から、企業の財務状況を正確に把握します。売上高、利益率、負債比率、流動比率などの主要な指標に着目し、問題点を明確にしましょう。
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PEST分析などを用いて、マクロ環境(政治・経済・社会・技術)の変化を分析し、自社事業への影響を評価します。また、ファイブフォース分析などを用いて、業界全体の競争状況や、取引先との力関係などを分析することで、事業環境における自社の立ち位置を客観的に把握します。例えば、少子高齢化やデジタル化の進展といった社会的な変化が、自社の事業にどのような影響を与えているかを分析することが重要です。
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自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析することで、現状を多角的に把握します。例えば、独自の技術力やブランド力といった強みを活かせる機会を特定したり、競合他社の攻勢や市場の縮小といった脅威への対策を検討したりする際に役立ちます。
2.2 経営資源の棚卸し
経営資源とは、企業が事業活動を行うために保有する、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営上のあらゆる資産を指します。経営再建を成功させるためには、これらの経営資源を最大限に活用することが不可欠です。現状分析で把握した自社の強み・弱みを踏まえ、保有する経営資源を棚卸し、活用可能な資源と不足している資源を明確にしましょう。
経営資源 | 具体的な内容 | 評価 |
---|---|---|
ヒト | 従業員のスキル、経験、モチベーション、組織文化など | |
モノ | 設備、工場、土地、在庫、製品、技術など | |
カネ | 自己資本、借入金、キャッシュフローなど | |
情報 | 顧客データ、市場情報、技術情報、ノウハウなど |
例えば、優秀な人材や独自の技術といった強みとなる資源をどのように活用するか、あるいは、資金不足や設備の老朽化といった弱みをどのように克服するかが、経営再建計画の成否を左右する重要な要素となります。特に、デジタル化の進展に伴い、データや情報といった無形資産の重要性が高まっているため、これらの資源を適切に評価し、活用していくことが重要です。
2.3 目標設定の明確化
現状分析と経営資源の棚卸しを踏まえ、具体的な再建目標を設定します。目標は、具体的で測定可能、達成可能、関連性があり、期限が明確であるSMARTな目標である必要があります。売上高の回復、利益率の向上、債務の削減など、数値目標を明確に設定することで、計画の進捗状況を客観的に評価することができます。
また、目標達成までの期間や、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することも重要です。設定した目標は、従業員に共有し、共通の認識を持つことで、組織全体のモチベーション向上に繋げることができます。目標設定においては、市場の成長性や競合他社の動向なども考慮し、現実的で達成可能な目標を設定することが重要です。過大な目標設定は、従業員のモチベーション低下や、計画の頓挫に繋がる可能性があります。
2.3.1 数値目標の設定
売上高、利益率、負債比率、自己資本比率など、具体的な数値目標を設定します。例えば、「3年後までに売上高を20%増加させる」「負債比率を50%以下に削減する」といった目標を設定することで、計画の進捗状況を客観的に評価することができます。これらの数値目標は、現状分析の結果や、業界の平均値などを参考に設定する必要があります。また、複数の指標を組み合わせて設定することで、バランスの取れた目標設定が可能になります。
2.3.2 達成期間の設定
目標達成までの期間を明確に設定します。短期的な目標と長期的な目標を設定し、段階的に目標を達成していくことで、モチベーションの維持に繋がります。例えば、「1年以内にキャッシュフローを黒字化する」「3年以内に新規事業を立ち上げる」といったように、期間を設定することで、計画の進捗状況を管理しやすくなります。
2.3.3 KPIの設定
目標達成度合いを測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。売上高成長率、顧客獲得数、顧客満足度、従業員満足度など、事業の特性に合わせて適切なKPIを設定することで、計画の実効性を高めることができます。例えば、ECサイトを運営している企業であれば、ウェブサイトへのアクセス数やコンバージョン率といったKPIを設定することで、売上高増加に向けた施策の効果を測定することができます。
これらの3つのポイントをしっかりと確認し、計画的に経営再建を進めることで、企業はV字回復を達成し、持続的な成長を実現できるでしょう。
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経営再建計画を策定し、実行していくには、体系的なアプローチが不可欠です。以下に示す5つのステップを踏むことで、より効果的な再建計画を立案し、実行していくことができます。
3.1 ステップ1 現状分析
再建計画の策定は、現状の正確な把握から始まります。現状分析を疎かにすると、的外れな施策を立案してしまう可能性があります。財務状況、事業環境、そして自社の強み・弱みを徹底的に分析しましょう。
3.1.1 財務状況の把握
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務諸表を詳細に分析し、財務状況の全体像を把握します。特に、売上高、利益率、債務比率、流動比率などの主要な指標に着目し、問題点を明確にします。例えば、債務超過に陥っている場合、その原因を負債の増加、収益性の悪化など、具体的に特定する必要があります。また、資金繰りの状況を把握するために、キャッシュフロー計算書を分析し、資金ショートの可能性についても検討します。
3.1.2 事業環境の分析
市場動向、競合他社の状況、技術革新など、自社を取り巻く外部環境を分析します。PEST分析、ファイブフォース分析などのフレームワークを活用することで、事業環境における機会と脅威を特定できます。例えば、市場の縮小傾向が顕著な場合、その原因や今後の見通しを分析し、対応策を検討する必要があります。また、競合他社の動向を分析することで、自社の競争優位性や劣位性を明確にすることができます。
3.1.3 SWOT分析の実施
自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を洗い出し、分析することで、経営資源の有効活用やリスクへの対応策を検討します。例えば、高い技術力という強みを活かせる新たな市場機会を模索したり、低いブランド認知度という弱みを克服するためのマーケティング戦略を立案したりすることができます。SWOT分析は、現状分析の結果を踏まえ、今後の戦略を策定する上で重要なツールとなります。
3.2 ステップ2 再建目標の設定
現状分析に基づき、具体的な再建目標を設定します。目標は、数値化し、達成期限を明確にすることで、進捗状況の管理を容易にします。また、目標達成のための主要な指標(KPI)を設定することで、より効果的なモニタリングが可能になります。
3.2.1 数値目標の設定
売上高、利益率、債務比率などの財務指標を具体的な数値目標として設定します。例えば、「3年後までに売上高を20%増加させる」「債務比率を50%以下にする」といった目標を設定します。これらの目標は、現状分析の結果を踏まえ、現実的で達成可能な範囲で設定する必要があります。
3.2.2 達成期間の設定
設定した数値目標の達成期限を明確にします。例えば、「1年後までに債務比率を60%以下にする」「3年後までに黒字化を達成する」といったように、具体的な期間を設定することで、計画の進捗状況を管理しやすくなります。
3.2.3 KPIの設定
目標達成に向けた進捗状況を測るための主要業績評価指標(KPI)を設定します。例えば、売上高増加を目標とする場合、新規顧客獲得数、既存顧客の維持率、顧客単価などをKPIとして設定することができます。KPIを設定することで、目標達成に向けた取り組みの有効性を評価し、必要に応じて軌道修正を行うことができます。
3.3 ステップ3 具体的な施策の立案
設定した目標を達成するために、具体的な施策を立案します。売上増加、コスト削減、事業ポートフォリオの見直しなど、多角的な視点から施策を検討する必要があります。
3.3.1 売上増加のための施策
新商品開発、新規市場開拓、販売チャネルの拡大、マーケティング戦略の強化など、売上増加につながる具体的な施策を立案します。例えば、新たな顧客層を獲得するために、既存製品の改良や新製品の開発を行う、あるいは、ECサイトを開設することで販売チャネルを拡大する、といった施策が考えられます。
3.3.2 コスト削減のための施策
固定費削減、変動費削減、業務効率化など、コスト削減につながる具体的な施策を立案します。例えば、不要な設備投資を抑制する、在庫管理を最適化する、アウトソーシングを活用する、といった施策が考えられます。
3.3.3 事業ポートフォリオの見直し
収益性の低い事業からの撤退、成長が見込める事業への投資など、事業ポートフォリオの見直しを検討します。例えば、市場の縮小が続く事業からの撤退を決定し、そのリソースを成長が見込める新規事業に投入する、といった施策が考えられます。コア事業の強化、新規事業の開拓など、将来を見据えた戦略的な判断が求められます。
3.4 ステップ4 計画の実行とモニタリング
策定した計画を実行に移し、進捗状況を定期的にモニタリングします。PDCAサイクルを回し、必要に応じて計画を修正することで、目標達成を目指します。
3.4.1 PDCAサイクルの活用
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のサイクルを回し、計画の実行状況を継続的にモニタリングし、改善を繰り返します。計画通りに進捗していない場合は、その原因を分析し、計画の見直しや新たな施策の追加などを検討します。
3.4.2 進捗状況の確認
設定したKPIに基づき、計画の進捗状況を定期的に確認します。例えば、月次、四半期、年次などの単位で進捗状況を確認し、目標達成に向けた取り組みの有効性を評価します。必要に応じて、関係部署とのミーティングを実施し、進捗状況の共有や課題の解決策を検討します。
3.4.3 必要に応じた計画の修正
市場環境の変化や予期せぬ事態の発生などにより、計画通りに進捗しない場合もあります。そのような場合は、現状を改めて分析し、必要に応じて計画の修正を行います。柔軟な対応が求められます。
3.5 ステップ5 従業員とのコミュニケーション
経営再建は、従業員の協力なしには達成できません。計画の内容を共有し、モチベーションを維持するためのコミュニケーションが重要です。
3.5.1 計画内容の共有
経営再建計画の内容を従業員に丁寧に説明し、理解と協力を得るためのコミュニケーションを図ります。説明会や社内報などを活用し、計画の目的、目標、具体的な施策などを共有します。透明性の高い情報公開が重要です。
3.5.2 モチベーションの維持
経営再建は、困難な道のりとなる場合もあります。従業員のモチベーションを維持するために、定期的な進捗状況の共有や、成功体験の共有など、積極的なコミュニケーションを図ることが重要です。また、従業員の不安や疑問に真摯に耳を傾け、適切な対応を行うことも重要です。
【関連】事業承継での従業員モチベーション管理|重要性と具体的な対策事例3.5.3 協力体制の構築
経営再建を成功させるためには、全従業員の協力が不可欠です。部門間の連携を強化し、一体となって目標達成に取り組むための協力体制を構築します。例えば、部門横断的なプロジェクトチームを結成し、具体的な施策の実行を推進する、といった取り組みが考えられます。
4. 経営再建計画の成功事例
経営再建計画の成功には、綿密な計画と徹底した実行、そして柔軟な対応が不可欠です。ここでは、日本企業の具体的な成功事例を通して、V字回復の鍵を探ります。
4.1 事例1 ニッセイコムの事業ポートフォリオ見直しによる成功
ニッセイコムは、日本生命グループの情報システム子会社として設立されました。バブル崩壊後の2000年代初頭、既存事業の収益性が悪化し、経営危機に陥りました。しかし、大胆な事業ポートフォリオの見直しを行い、収益性の高い新事業に注力することでV字回復を達成しました。
具体的には、従来の中核事業であったメインフレーム関連事業を縮小し、成長が見込まれる金融機関向けシステム開発やクラウドサービス事業に資源を集中投下しました。この戦略転換が功を奏し、業績はV字回復を遂げました。ニッセイコムの成功は、衰退市場への固執を避け、成長市場への迅速な参入が重要であることを示しています。市場動向を的確に捉え、将来性を見据えた事業ポートフォリオの見直しが、経営再建の成功に不可欠です。
4.1.1 成功のポイント
外部環境の変化を的確に捉えた | |
既存事業への固執を捨て、成長市場へ舵を切った | |
意思決定のスピードが速かった |
4.2 事例2 シャープの構造改革と新事業展開による成功
液晶テレビ事業への過剰投資やリーマンショックの影響により、2012年、シャープは創業以来最大の赤字を計上し、経営危機に陥りました。しかし、大胆な構造改革と新たな成長戦略によって、業績はV字回復を果たしました。
構造改革においては、不採算事業からの撤退、人員削減、固定費削減など、あらゆる面でコストカットを断行しました。同時に、液晶技術を応用した新たな事業領域への進出、例えば、太陽電池やスマートフォン向けディスプレイなどにも積極的に投資を行いました。これらの施策が相乗効果を生み、シャープは再び成長軌道に乗ることができました。シャープの事例は、リストラクチャリングと成長戦略の両輪が、企業の再生に不可欠であることを示しています。
4.2.1 成功のポイント
区分 | 内容 |
---|---|
リストラクチャリング | 不採算事業の売却、人員削減、固定費削減 |
成長戦略 | 液晶技術を応用した新事業展開(太陽電池、スマートフォン向けディスプレイ等) |
経営理念の浸透 | 全社一丸となった改革への取り組み |
これらの事例は、経営再建には、現状分析に基づいた適切な計画策定と、その計画を愚直に実行していく粘り強さ、そして市場変化への柔軟な対応が必要であることを示しています。また、ステークホルダー、特に従業員の理解と協力を得ることが、再建を成功させるための重要な要素となります。
5. 経営再建計画の失敗事例
成功事例から学ぶことと同じくらい、失敗事例から学ぶことも重要です。経営再建計画の失敗は、企業の存続を脅かす致命的な結果をもたらす可能性があります。ここでは、過去の失敗事例を分析し、その原因と教訓を学びます。失敗の要因は多岐に渡りますが、共通する点も多く存在します。
5.1 事例1 タカキューの過剰な投資による失敗
紳士服専門店チェーンのタカキューは、2000年代初頭に積極的な事業拡大戦略を展開しました。新規出店やM&Aに多額の投資を行い、売上高は一時的に増加しました。しかし、この急激な拡大は、経営基盤を脆弱化させる結果となりました。
市場の動力の変化や消費者の嗜好の変化に対応できず、過剰在庫を抱えることになりました。また、M&Aした企業との相乗効果も十分に発揮されず、収益性は悪化の一途を辿りました。最終的に、タカキューは2008年に会社更生法の適用を申請することとなりました。この事例は、市場環境の適切な分析と、無理な投資の危険性を示しています。綿密な市場調査、将来予測、そして堅実な財務戦略の重要性を学ぶことができます。
5.1.1 過剰投資の具体的な内容
短期間での多数の新規店舗出店 | |
関連性の低い事業へのM&A | |
大型物流センターの建設 |
5.1.2 失敗の要因
市場の需要を読み違えた過剰投資 | |
M&A後の統合の失敗によるシナジー効果の欠如 | |
急激な事業拡大による組織体制の不備 |
5.1.3 教訓
市場調査に基づいた慎重な投資判断 | |
M&A後の統合プロセスを綿密に計画・実行 | |
事業拡大に合わせた組織体制の整備 |
5.2 事例2 山一證券の隠蔽体質による失敗
山一證券は、1997年に自主廃業を選択した大手証券会社です。バブル経済崩壊後の巨額損失を隠蔽し続け、粉飾決算を繰り返していました。
この隠蔽体質は、経営の透明性を損ない、市場からの信頼を失墜させました。顧客や投資家からの信頼を失ったことで、資金繰りが悪化し、最終的には自主廃業に追い込まれました。この事例は、情報開示の重要性と、コンプライアンス遵守の必要性を示しています。経営の透明性を確保し、ステークホルダーとの信頼関係を構築することが、企業の存続に不可欠であることを学ぶことができます。
5.2.1 損失隠蔽の具体的な内容
損失補填のための飛ばし行為 | |
架空取引による利益の計上 | |
不正会計による財務諸表の粉飾 |
5.2.2 失敗の要因
問題の隠蔽による事態の悪化 | |
コンプライアンス意識の欠如 | |
経営陣の責任逃れ |
5.2.3 教訓
早期の損失開示と適切な対応 | |
コンプライアンス重視の企業文化の醸成 | |
経営陣の責任ある行動 |
5.3 事例3 カネボウの粉飾決算による失敗
カネボウは、2005年に粉飾決算が発覚し、上場廃止となりました。長年にわたり、赤字を隠蔽するために不正会計を繰り返していました。この粉飾決算は、投資家や取引先に多大な損害を与え、企業の信頼を大きく損ねました。カネボウの事例は、健全な財務管理の重要性と、コーポレートガバナンスの強化の必要性を示しています。透明性のある会計処理と、適切な内部統制システムの構築が、企業の持続的な成長に不可欠です。
5.3.1 粉飾決算の具体的な内容
架空売上計上 | |
在庫の過大評価 | |
損失の繰延 |
5.3.2 失敗の要因
業績悪化の隠蔽 | |
内部統制の不備 | |
監査機能の不全 |
5.3.3 教訓
適正な会計処理の実施 | |
有効な内部統制システムの構築 | |
監査機能の強化 |
これらの事例は、経営再建計画の策定・実行において、市場分析、財務管理、コンプライアンス、情報開示、組織体制など、多岐にわたる要素が重要であることを示しています。成功事例だけでなく、失敗事例からも学び、適切な経営判断を行うことが、企業の存続と発展には不可欠です。
6. まとめ
経営再建計画は、企業の存続を左右する重要な取り組みです。本記事では、V字回復を実現するための5つのステップを紹介しました。まず、現状分析を行い、財務状況や事業環境を正確に把握することが重要です。次に、具体的な数値目標と達成期間を設定し、KPIを設定することで進捗状況を客観的に評価できるようにします。
そして、売上増加やコスト削減といった具体的な施策を立案し、PDCAサイクルを活用しながら計画を実行、モニタリングします。最後に、従業員とのコミュニケーションを密にすることで、計画への理解と協力を得ることが不可欠です。ニッセイコムやシャープのような成功事例は、適切な戦略と実行力があれば経営再建が可能であることを示しています。
一方で、タカキューや山一證券の失敗事例は、過剰投資や情報隠蔽といった問題が深刻な事態を招くことを示唆しています。これらの事例から学び、自社に最適な経営再建計画を策定し、実行していくことが重要です。