事業再生の重要なKPI(重要業績評価指標)とは?

事業再生の重要なKPI(重要業績評価指標)とは?

事業再生を進める上で、適切なKPI設定は成功の鍵を握ります。しかし、多くの企業が「どのKPIを選定すべきか」「どのように活用すべきか」で悩んでいるのではないでしょうか。この記事では、事業再生におけるKPI設定の目的から、選定のポイント、具体的なKPI事例、そしてステージ別の設定例まで、網羅的に解説します。

この記事を読むことで、事業再生を成功に導くためのKPI設定のノウハウを習得し、現状の問題点に合わせた効果的なKPI選定が可能になります。具体的には、売上高やキャッシュフローといった財務KPIだけでなく、顧客満足度や従業員満足度といった非財務KPIの活用方法も理解することができます。結果として、再生計画の進捗状況を的確に把握し、迅速な意思決定と効果的なアクションにつなげ、持続可能な成長を実現するための道筋が見えてくるでしょう。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・事業再生などを10年経験。3か月の経営支援サポートで、9か月後には赤字の会社を1億円の利益を計上させるなどの実績を多数持つ専門家。



1. 事業再生におけるKPI設定の目的

事業再生において、KPI(重要業績評価指標)の設定は、再生計画の成功に不可欠な要素です。適切なKPIを設定することで、現状の把握、進捗状況の確認、そして最終的な目標達成への道筋を明確にすることができます。KPI設定の目的は、大きく以下の2点に集約されます。


1.1 なぜKPI設定が事業再生に不可欠なのか

事業再生は、企業が経営危機に陥った際に、その原因を分析し、財務体質や事業構造を改善することで、再び収益を上げ、持続可能な経営状態へと回復させるプロセスです。この複雑で困難なプロセスを成功させるためには、客観的な指標に基づいた現状把握と進捗管理が不可欠です。KPIを設定することで、以下のメリットが得られます。

現状の客観的な把握財務状況や事業パフォーマンスを数値化することで、問題点や改善点を明確に把握できます。
再生計画の効果測定KPIの推移をモニタリングすることで、再生計画の効果を測定し、必要に応じて計画を修正できます。
関係者間の共通認識の形成KPIを共有することで、経営陣、従業員、債権者など、関係者間で現状認識と目標を共有し、一体感を醸成できます。
モチベーションの向上達成可能なKPIを設定することで、従業員のモチベーション向上に繋げ、再生への取り組みを促進できます。
早期の経営改善KPIに基づいた迅速な意思決定と対策実行により、早期の経営改善を実現できます。

KPIを設定せずに事業再生を進めることは、羅針盤を持たずに航海に出るようなものです。具体的な指標に基づかないままでは、現状を正確に把握できず、適切な対策を講じることも難しく、再生への道筋を見失う可能性が高まります。

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1.2 KPI設定による事業再生プロセスの可視化

KPIを設定することで、事業再生プロセスを可視化し、進捗状況を明確に把握することができます。これは、再生計画の進捗を関係者間で共有し、迅速な意思決定を行う上で非常に重要です。例えば、以下のような形でKPIを活用することで、事業再生プロセスの可視化を実現できます。

段階 KPIの例 モニタリングのポイント
初期段階(現状分析) 売上高、粗利益、キャッシュフロー、債務償還率 問題点の特定と再生計画策定のための基礎データとする。
中期段階(再生計画実行) 営業利益、EBITDA、顧客満足度、新規顧客獲得数 再生計画の進捗状況を把握し、必要に応じて軌道修正を行う。
最終段階(再生計画完了と成長) 自己資本比率、従業員満足度、離職率 再生計画の達成度を評価し、持続的な成長に向けた新たな目標を設定する。

このように、各段階における適切なKPIを設定し、定期的にモニタリングすることで、事業再生の進捗状況を可視化し、効果的なPDCAサイクルを回すことが可能となります。これにより、再生計画の精度を高め、成功確率を向上させることができます。


2. 事業再生のKPI選定における3つのポイント

事業再生におけるKPI選定は、その成否を大きく左右する重要なプロセスです。闇雲にKPIを設定するのではなく、以下の3つのポイントを踏まえることで、より効果的なKPI設定が可能となります。


2.1 ポイント1. 事業再生計画との整合性

KPIは事業再生計画の達成度合いを測るための指標です。そのため、KPIは事業再生計画と整合性が取れている必要があります。事業再生計画で設定された目標を達成するために、どのようなKPIを設定すべきかを明確に定義しましょう。例えば、事業再生計画で「3年以内に債務超過を解消する」という目標が設定されている場合、「債務償還率」や「自己資本比率」といった財務KPIを設定することが適切です。

また、「新規事業の立ち上げによる収益基盤の確立」を目指す場合には、「新規顧客獲得数」や「新規事業売上高」といったKPIを設定する必要があります。事業再生計画の内容とKPIが乖離していると、計画の進捗状況を正しく把握できず、適切な軌道修正を行うことが難しくなります。計画の各目標に対応するKPIを設定することで、事業再生の進捗を効果的に管理し、成功へと導くことができます。


2.2 ポイント2. 現状の問題点に合わせたKPI

事業再生が必要な企業は、それぞれ異なる問題を抱えています。売上減少、過剰債務、低い収益性など、問題点は多岐にわたります。そのため、KPIは現状の問題点に即したもの、そしてその解決に繋がるものを設定する必要があります。例えば、売上減少が問題であれば、「売上高」「顧客獲得単価」「顧客生涯価値」といったKPIを設定し、売上増加のための施策の効果測定を行います。

過剰債務が問題であれば、「債務償還率」「自己資本比率」「有利子負債比率」といったKPIを設定し、財務体質の改善状況をモニタリングします。収益性が低い場合は、「売上高粗利率」「営業利益率」といったKPIを設定し、収益改善に向けた取り組みの成果を評価します。このように、現状の問題点に合わせたKPIを設定することで、具体的な課題解決に繋げ、事業再生を成功に導くことができます。

問題点 KPI例
売上減少 売上高、顧客獲得単価、顧客生涯価値、ウェブサイトアクセス数、コンバージョン率
過剰債務 債務償還率、自己資本比率、有利子負債比率、運転資本
低い収益性 売上高粗利率、営業利益率、経常利益率、人件費比率、固定費比率
低い顧客満足度 顧客満足度、顧客ロイヤルティ、解約率、クレーム件数
低い従業員満足度 従業員満足度、離職率、採用コスト

2.3 ポイント3. 測定可能性と客観性

設定したKPIは、客観的なデータに基づいて測定可能でなければ意味がありません。曖昧な指標では、事業再生の進捗状況を正確に把握することができません。例えば、「ブランドイメージの向上」といった定性的な目標を設定する場合でも、それを測定するための具体的なKPIを設定する必要があります。

例えば、「ウェブサイトへのアクセス数」「ソーシャルメディアにおけるフォロワー数」「ポジティブな口コミ数」などをKPIとして設定し、ブランドイメージ向上への取り組みがどの程度効果を上げているかを定量的に評価します。また、KPIの測定は、担当者によって結果が変わるような恣意的なものであってはなりません。

誰が測定しても同じ結果が得られるような客観的な指標を設定することで、事業再生の進捗状況を正確に把握し、適切な意思決定を行うことができます。データに基づいた客観的な評価は、事業再生の成功に不可欠です。

これらの3つのポイントを踏まえ、適切なKPIを設定することで、事業再生の進捗状況を可視化し、効果的なPDCAサイクルを回すことが可能となります。結果として、事業再生の成功確率を高めることに繋がります。


3. 事業再生でよく使われる財務KPI

事業再生においては、現状を正確に把握し、再生計画の進捗を測定するために、適切な財務KPIを設定することが重要です。以下に、事業再生でよく使われる財務KPIとその活用方法について解説します。


3.1 売上高

売上高は、企業の事業規模や市場における競争力を示す基本的な指標です。事業再生においては、売上高の推移を分析することで、市場の動向や顧客のニーズの変化を把握し、今後の事業戦略に反映させることができます。売上高の増加は、事業再生の成功を示す重要な指標の一つとなります。ただし、売上高のみを重視するのではなく、収益性やキャッシュフローなどの他の指標と合わせて分析することが重要です。


3.2 粗利益

粗利益は、売上高から売上原価を差し引いた金額であり、企業の本業における収益性を示す指標です。事業再生においては、粗利益率の改善は重要な目標となります。粗利益率を高めるためには、売上原価の削減や販売価格の見直しなど、様々な施策が必要となります。競合他社の粗利益率をベンチマークすることで、自社の改善余地を把握することができます。


3.3 営業利益

営業利益は、粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額であり、企業の本業からの収益力を示す指標です。事業再生においては、営業利益の黒字化は重要な目標となります。営業利益率を向上させるためには、売上高の増加だけでなく、コスト削減や業務効率化などの取り組みも必要です。


3.4 EBITDA

EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)は、金利、税金、減価償却費、および償却費控除前利益のことです。事業再生においては、EBITDAは企業の収益力を示す重要な指標として用いられます。EBITDAは、財務レバレッジや税制の影響を受けないため、異なる企業間の収益力を比較する際に有用です。また、事業再生計画の策定において、EBITDAをベースとした将来のキャッシュフロー予測を行うこともあります。


3.5 キャッシュフロー

キャッシュフローは、一定期間における企業の現金の出入りを示す指標です。事業再生においては、キャッシュフローの改善は非常に重要です。安定したキャッシュフローを確保することで、債務の返済や事業への投資を円滑に行うことができます。キャッシュフロー計算書を分析することで、資金繰りの現状を把握し、改善策を検討することができます。例えば、売掛金の回収期間の短縮や在庫の適正化などが挙げられます。


3.6 自己資本比率

自己資本比率は、総資本に占める自己資本の割合を示す指標です。事業再生においては、自己資本比率の向上は財務体質の強化につながります。自己資本比率を高めるためには、債務の削減や増資などが有効です。自己資本比率が高いほど、企業の財務リスクは低くなります。


3.7 債務償還率

債務償還率は、企業の債務返済能力を示す指標です。事業再生においては、債務償還率の改善は債権者からの信頼回復につながります。債務償還率を高めるためには、収益の増加や債務の削減が必要です。債務償還年数やインタレスト・カバレッジ・レシオなども合わせて分析することで、より詳細な債務返済能力を把握することができます。

KPI 説明 改善策の例
売上高 企業の事業規模や市場における競争力を示す 新商品開発、販路拡大、マーケティング強化
粗利益 本業における収益性を示す 売上原価削減、販売価格の見直し
営業利益 本業からの収益力を示す コスト削減、業務効率化
EBITDA 金利、税金、減価償却費控除前利益 事業構造改革、コスト最適化
キャッシュフロー 一定期間における企業の現金の出入り 売掛金回収期間短縮、在庫適正化
自己資本比率 総資本に占める自己資本の割合 債務削減、増資
債務償還率 企業の債務返済能力を示す 収益増加、債務削減
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4. 事業再生のステージ別KPI設定事例

事業再生は一過性の取り組みではなく、段階的なプロセスを経て実現されます。それぞれのステージで適切なKPIを設定することで、進捗状況を的確に把握し、軌道修正を迅速に行うことができます。ここでは、事業再生のステージを初期・中期・最終の3段階に分け、それぞれに適したKPI設定事例を紹介します。


4.1 初期段階:現状分析と課題特定

事業再生の初期段階では、企業の現状を詳細に分析し、再生を阻害する根本的な課題を特定することが重要です。財務状況、事業構造、市場環境など多角的な視点から分析を行い、具体的な問題点を明確化します。この段階では、現状把握のための財務KPIを中心に設定します。

4.1.1 主要KPI例:売上高、粗利益、キャッシュフロー、債務償還率
KPI 目的 測定方法 注意点
売上高 事業規模と収益力の現状把握 月次/四半期/年次売上高 市場全体の動向も考慮する
粗利益 売上原価と販売価格のバランス把握 売上高 - 売上原価 原価管理の効率性を評価
キャッシュフロー 資金繰りの健全性把握 営業活動/投資活動/財務活動によるキャッシュフロー 短期的な資金不足リスクを把握
債務償還率 債務返済能力の把握 返済済債務 / 総債務 債務超過の危険性を評価

これらのKPIを分析することで、企業の財務状況の全体像を把握し、事業再生計画策定の基礎データとします。例えば、キャッシュフローが慢性的に不足している場合は、資金繰り改善策を最優先で検討する必要があるでしょう。


4.2 中期段階:再生計画の実行

中期段階では、策定した事業再生計画に基づき、具体的な施策を実行します。この段階では、計画の進捗状況をモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行うことが重要です。財務KPIに加え、事業の効率性や顧客満足度といった非財務KPIも活用し、多角的な視点から事業再生の進捗を管理します。

4.2.1 主要KPI例:営業利益、EBITDA、顧客満足度、新規顧客獲得数
KPI 目的 測定方法 注意点
営業利益 本業の収益性評価 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費 事業の効率性を評価
EBITDA 事業本来の収益力評価 営業利益 + 減価償却費 + 償却費 企業価値評価の指標
顧客満足度 顧客ロイヤリティの向上度合いを把握 顧客満足度調査 継続的な調査と改善が必要
新規顧客獲得数 事業成長性の把握 月次/四半期/年次新規顧客数 マーケティング戦略の効果検証

例えば、営業利益率の向上を目標とする場合、売上高の増加だけでなく、コスト削減や業務効率化といった施策も並行して実施する必要があります。顧客満足度や新規顧客獲得数は、中長期的な成長に向けた取り組みの成果を測る指標として重要です。


4.3 最終段階:再生計画の完了と成長

最終段階では、事業再生計画の目標達成度を評価し、今後の持続的な成長に向けた戦略を策定します。財務基盤の安定化に加え、企業価値の向上や競争力の強化といった視点も重要になります。この段階では、長期的な視点に立ったKPIを設定し、健全な企業経営の実現を目指します。

4.3.1 主要KPI例:自己資本比率、従業員満足度、離職率
KPI 目的 測定方法 注意点
自己資本比率 財務の健全性評価 自己資本 / 総資産 倒産リスクの低さを評価
従業員満足度 従業員のモチベーション把握 従業員満足度調査 離職率低減への取り組み効果を評価
離職率 人材定着率の把握 一定期間の離職者数 / 平均従業員数 組織の安定性を評価

自己資本比率は、企業の財務基盤の安定性を示す重要な指標です。従業員満足度や離職率は、企業の持続的な成長にとって重要な人的資源の状況を把握する指標となります。これらのKPIをモニタリングすることで、事業再生後の持続的な成長を実現するための課題を早期に発見し、適切な対策を講 seじることができます。また、市場シェアや新規事業の売上高といった、将来の成長性を示すKPIを設定することも有効です。

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5. まとめ

事業再生を成功させるためには、適切なKPI設定が不可欠です。この記事では、事業再生におけるKPI設定の目的、選定のポイント、具体的な財務KPI、そしてステージ別の設定事例を紹介しました。KPI設定の目的は、事業再生プロセスの可視化と進捗管理です。曖昧な目標設定ではなく、具体的な数値目標を設定することで、関係者全員が共通認識を持ち、再生への取り組みを一つにまとめることができます。

KPI選定のポイントは、事業再生計画との整合性、現状の問題点への対応、そして測定可能性と客観性の確保です。これらのポイントを踏まえ、売上高やキャッシュフローといった財務KPIを中心に、事業の現状や課題に合わせたKPIを設定することが重要です。また、事業再生のステージごとに適切なKPIを設定することで、各段階での目標達成度を明確に把握し、柔軟な対応が可能となります。

初期段階ではキャッシュフローの改善、中期段階では収益性の向上、最終段階では安定的な財務基盤の構築といったように、段階ごとのKPIを設定することで、事業再生の進捗を効果的に管理できます。

本記事で紹介した内容を参考に、自社の状況に最適なKPIを設定し、事業再生を成功に導きましょう。

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