SES事業の会社売却を考える基礎知識|価格・手法・準備を解説

SES事業の会社売却を考える基礎知識|価格・手法・準備を解説

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公開日:2024年11月8日
最終更新日:2026年8月27日

SES事業の会社売却は、後継者問題や採用難を解決し、従業員と顧客を守りながら事業を次へつなぐ選択肢です。売却可能性、価格、手法、準備を順序立てて確認します。

1. 会社売却を考えるSES事業の基礎知識と全体像

SES(システムエンジニアリングサービス)は、システム開発、インフラ構築、運用、保守などに必要なエンジニアの技術力を顧客へ提供する事業です。多くの場合、準委任契約により業務遂行の対価を受け取ります。売上は、エンジニアの人数、稼働率、月額契約単価、稼働期間で決まり、給与、社会保険料、外注費、採用費、管理費を差し引いた残りが利益になります。

会社売却では、株主が株式を譲渡し、法人格、契約、従業員、資産、負債を含む会社全体の経営権を移します。一方、事業譲渡では、SES部門の顧客契約や人材、資産などを選んで切り出します。判断の順番は、目的の整理、会社と事業の評価、契約・労務リスクの確認、買い手候補の探索、条件交渉、デューデリジェンス、契約締結、クロージングです。

【文脈】SES事業の会社売却と事業譲渡の違い

まずは「会社全体を売るのか、SES部門だけを売るのか」を決める前に、直近3期の決算書と事業別の収益を分けて確認してください。

1-1. SES契約で売上が生まれる仕組みと収益構造

売上の基本式は「エンジニア数×稼働率×月額契約単価×稼働月数」です。たとえば、10人が稼働率90%、月額単価70万円で12か月稼働すると、年間売上の単純計算は7,560万円です。ここから給与、社会保険料、外注費、採用費、営業・管理費を引き、粗利と営業利益を把握します。待機率が5%から15%へ上がるだけでも、売上と利益は大きく変動します。

1-2. 準委任・請負・派遣契約を実務で比較する

契約書の名称ではなく、現場の実態で判断されます。特に、顧客がエンジニアへ直接指示している場合、準委任契約でも偽装請負を疑われる可能性があります。

項目

準委任契約(SES)

請負契約

派遣契約

目的

業務の遂行

成果物の完成

労働力の提供

指揮命令

受託側

受託側

派遣先

完成責任

原則なし

あり

なし

許認可

原則不要

原則不要

労働者派遣事業の許可

承継確認

顧客承諾条項を確認

成果物・知財を確認

許可と派遣契約を確認

自社の全契約を、契約形態、指揮命令者、再委託の可否、契約期間、更新条件、チェンジ・オブ・コントロール条項の5項目で一覧化します。

1-3. IT人材不足と多重下請けが売却に与える影響

IT人材不足は買い手の取得意欲を高める一方、採用費と人件費を押し上げます。経済産業省の推計では、2030年に最大約79万人のIT人材不足が予測されています。多重下請けでは中間マージンにより粗利が下がり、直請け比率が低い会社ほど価格決定力も弱くなります。買い手は、人数よりも稼働率、技術領域、商流の浅さを重視します。

1-4. SES企業のM&Aが増える背景と買い手の目的

買い手の目的は、即戦力エンジニアの確保、顧客基盤の獲得、採用・教育ノウハウの取得、地域拠点の開設、上流工程への進出に分解できます。AI、クラウド、セキュリティ、PMなどの人材は、採用だけで集めるよりM&Aでチームごと取得する方が早い場合があります。売り手は「人数」ではなく、技術、顧客、採用力、定着率を一つの事業価値として示してください。

2. SES会社売却と事業譲渡の選択基準を整理する

会社全体が健全なら株式譲渡、不採算事業や過去のリスクを切り離したいなら事業譲渡が基本的な判断軸です。ただし、最適な手法は税務、契約承継、従業員の同意、許認可、買い手の意向を合わせて決めます。

比較項目

株式譲渡

事業譲渡

対象

会社全体

指定した事業・資産

契約

原則維持

個別承継・再契約

従業員

雇用契約を維持

転籍に個別同意が必要

債務

原則すべて承継

対象を選択可能

税務

個人株主の譲渡所得課税が中心

法人の売却益課税、消費税の確認が必要

手続き

比較的簡便

資産・契約ごとの手続きが必要

2-1. 株式譲渡で会社ごと引き継ぐ範囲と注意点

株式譲渡は、株主が保有株式を買い手へ譲渡し、法人格を維持したまま経営権を移す方法です。顧客契約、雇用契約、銀行口座、許認可を維持しやすく、手続きも事業譲渡より簡素です。一方、簿外債務、未払い残業代、過去の税務処理、訴訟、契約違反なども会社に残ります。表明保証の範囲と補償条項を慎重に確認します。

2-2. 事業譲渡でSES部門だけを切り出す方法

事業譲渡では、対象となる顧客契約、エンジニア、営業資料、商標、ソースコード、設備などを契約書で特定します。買い手が不要な負債を引き継がずに済む点は利点です。ただし、顧客の承諾、従業員の転籍同意、資産の移転、許認可の取得などが発生します。エンジニアが転籍しなければ事業価値が失われるため、説明順序と条件設計が重要です。

2-3. 株式譲渡と事業譲渡を判断する比較シミュレーション

SES以外に赤字の受託事業があり、過去の労務問題も残る会社なら、SES部門だけを事業譲渡する方が買い手の検討対象になりやすい場合があります。ただし、顧客契約が個別承諾制で、主要エンジニアの転籍同意が得られなければ実行は困難です。

反対に、会社全体が黒字で、顧客契約と雇用関係が安定し、許認可や借入にも問題がないなら、株式譲渡の方が手続きと事業継続の負担を抑えやすくなります。

自社の「残したい資産」と「引き継がせたくないリスク」を左右に書き出すと、手法の候補が明確になります。

2-4. 契約承継とチェンジ・オブ・コントロールの確認

株主変更で契約解除や事前承諾が必要になる条項を、チェンジ・オブ・コントロール条項と呼びます。顧客別に、売上構成比、契約形態、契約期間、更新日、再委託制限、株主変更の承諾要否を一覧にしてください。上位1社の売上が全体の50%を占める場合、承諾漏れは価格交渉を大きく左右します。

3. SES会社の売却価格を左右する評価指標と相場

SES会社の売却価格に一律の相場はありません。簡易的には「時価純資産+調整後営業利益の3〜5年分」が目安として使われますが、実際にはエンジニアの質、稼働率、契約継続性、顧客集中度、定着率を加味して交渉で決まります。

例えば、時価純資産5,000万円、営業利益2,000万円の場合、営業利益の3〜5年分は6,000万円〜1億円です。単純計算の企業価値は1億1,000万円〜1億5,000万円となります。ただし、これは評価額の目安であり、負債、運転資金、現預金、リスクによって株主価値は変わります。

3-1. エンジニア数と稼働率から人材価値を測る

在籍人数だけでは不十分です。稼働中の人数、待機率、技術領域、資格、経験年数、平均勤続年数、代替可能性を分けて示します。10人全員が稼働していても、1社の案件に依存している場合と、複数顧客で継続稼働している場合では安定性が異なります。クラウド、AI、セキュリティ、上流工程の人材は、買い手の戦略と合えば評価が上がります。

3-2. 契約単価と粗利率で収益力を数値化する

エンジニア別に月額単価、給与、社会保険料、交通費、外注費を並べ、案件単位の粗利を算定します。月額単価70万円、給与等の直接費が45万円なら、直接費控除後の粗利は25万円です。ここから営業・管理費を差し引きます。単価が高くても外注費や採用費が大きければ利益は残りません。過去3年の粗利率と稼働率を折れ線で示すと、継続収益の説明に有効です。

3-3. 直請け比率と顧客集中度が価格に及ぼす影響

直請け比率が高い会社は中間マージンが少なく、顧客の課題を直接把握できます。さらに、上位5社の売上比率、契約更新回数、平均契約期間、終了理由を確認します。顧客が分散し、複数年の更新実績がある会社は安定性を説明しやすい一方、1社依存が高い会社は、契約解除や単価引き下げのリスクが価格に反映されます。

3-4. 簡易評価式で売却可能性をセルフ診断する

次の表で、各項目を「高・中・低」に分類してください。低評価が2項目以上ある場合は、売却活動より先に改善計画を作る方が合理的です。

項目

確認する数値

評価の見方

エンジニア数

在籍・稼働人数

人数だけでなく専門性を確認

稼働率

直近12か月

待機率と推移を確認

契約単価

1人月単価

技術領域と商流を比較

粗利率

売上−直接費

継続性と改善余地を確認

直請け比率

直請け売上÷全売上

価格決定力の指標

顧客集中度

上位顧客の売上比率

依存度が高いほど要注意

定着率

過去12か月・36か月

退職理由と合わせて評価

【文脈】SES会社の企業価値を左右する7指標を

セルフ診断では、まず低評価の項目を一つだけ選び、直請け開拓、待機削減、給与・単価の見直し、顧客分散のいずれかを実行します。

4. 売却前六か月から始める準備とM&A実務手順

売却は相談から成約まで半年程度で進む場合もありますが、資料整理やリスク是正を含めると、少なくとも6か月前から準備する方が安全です。急いで売りに出すと、契約不備や労務問題がデューデリジェンスで発覚し、価格減額や交渉中止につながります。

時期

主な作業

6か月前

目的、希望条件、株主、財務、契約、労務の整理

5〜4か月前

企業価値評価、匿名概要書、買い手候補の選定

4〜3か月前

秘密保持契約、詳細資料開示、トップ面談

3〜2か月前

意向表明書、基本合意、デューデリジェンス

2〜1か月前

最終条件交渉、契約書確認、承諾取得

クロージング後

代金決済、権利移転、従業員・顧客説明、PMI

4-1. 売却前に経営者が確認する三十項目一覧

次の30項目をチェックリストにし、不明点には担当者と期限を付けます。

  • 直近3期の決算書、試算表、勘定科目内訳、資金繰り

  • 借入金、個人保証、担保、リース、未払金

  • 株主構成、株券、定款、取締役会議事録

  • 顧客別売上、契約期間、更新率、契約形態、再委託制限

  • チェンジ・オブ・コントロール条項、上位顧客の承諾要否

  • エンジニア一覧、雇用形態、給与、勤続年数、資格、スキル

  • 稼働率、待機率、単価、案件実績、退職者数、退職理由

  • 就業規則、雇用契約、36協定、勤怠、残業代、社会保険

  • 知的財産、ソースコード、商標、秘密情報、個人情報管理

  • 許認可、訴訟、事故、税務申告、補助金、関連当事者取引

4-2. 偽装請負・社会保険・残業代のリスクを確認する

現場責任者が誰か、勤務時間や休暇を誰が承認するか、作業指示を誰が出すかを案件ごとに確認します。契約書が準委任でも、顧客が直接指揮命令していれば、実態との不一致が問題になります。派遣契約に該当する場合は、労働者派遣事業の許可と管理体制を確認します。

社会保険の加入漏れ、固定残業代の計算根拠、勤怠記録、36協定、未払い残業代も調査対象です。問題を見つけたら、過去記録を改ざんせず、専門家と是正方針、追加支給、契約変更、再発防止策を整理します。

4-3. 秘密保持契約から基本合意までの交渉手順

最初にM&A専門家へ譲渡目的と希望条件を伝え、会社名を伏せた匿名概要書を作ります。関心を示す候補には秘密保持契約を締結した後、決算書、顧客構成、エンジニア情報を開示します。トップ面談では価格だけでなく、雇用維持、ブランド、経営者の残留期間、買収後の成長方針を確認してください。

意向表明書では価格、手法、対象範囲、独占交渉の有無を確認し、基本合意書では合意事項と今後の調査範囲を確定します。

4-4. デューデリジェンスから契約締結後の統合まで

デューデリジェンスでは、財務、法務、税務、労務、事業、IT・情報セキュリティを調査します。質問への回答は口頭で済ませず、契約書、勤怠、請求書、給与台帳などの根拠資料を添えます。リスクが判明した場合は、価格減額だけでなく、補償上限、表明保証、解除条件、役員退職金などで調整します。

最終契約締結後、株式または事業の移転と代金決済を行います。従業員と顧客への説明は、情報漏えいを防ぎつつ、雇用条件、指揮命令系統、問い合わせ先を具体的に伝えます。クロージング後のPMIでは、営業、勤怠、給与、案件管理、評価制度を統合し、90日間の実行計画を作ると進捗を管理しやすくなります。

【文脈】売却前6か月からクロージング後の統合までの実務スケジュールを 5. SES事業の売却メリットと失敗を防ぐ相談先

SES事業の売却には、後継者不在の解消、創業者利益の実現、採用力や営業力の補完、従業員の雇用維持というメリットがあります。一方、経営権を失い、企業文化や待遇が変わる可能性もあります。価格だけでなく、売却後の運営方針を契約前に確認することが重要です。

5-1. 後継者不在と採用難を解消する売却効果

買い手の営業網や採用基盤、教育制度を活用できれば、自社単独では難しかった大型案件や採用活動を進められます。経営者は個人保証や日々の採用負担から離れ、一定期間の引き継ぎ後に引退する設計も可能です。エンジニアにとっても、技術研修、福利厚生、キャリア選択肢が広がる場合があります。

5-2. 従業員離反と顧客流出を招く失敗パターン

代表的な失敗は、秘密情報の管理不備、価格だけで買い手を選ぶこと、キーパーソンへの説明不足、顧客承諾の確認漏れです。交渉初期に社名や個人情報を広く開示すると、従業員や顧客に噂が伝わり、退職や契約解除を招く可能性があります。

対策は、開示資料を匿名化し、アクセス権を限定することです。キーパーソンには最終契約前でも必要な範囲で説明し、雇用条件、役割、経営者の引き継ぎ期間を整理します。顧客契約は承諾取得の担当者と期限を一覧化してください。

5-3. 売却にかかる税金と専門家費用の見積もり方

個人株主の株式譲渡では、譲渡益に対して所得税・住民税等が課税され、税率は復興特別所得税を含め約20.315%とされています。事業譲渡では法人の売却益に法人税等がかかり、資産によって消費税の確認も必要です。仲介手数料、FA費用、弁護士、税理士、財務DD費用を含め、売却価格ではなく手取り額で比較します。

5-4. 金融機関・公的機関・M&A専門家の選び方

金融機関は借入や取引関係を踏まえた相談、公的機関は事業承継の初期相談、弁護士・税理士・公認会計士は契約・税務・財務の確認、仲介会社は売り手と買い手の調整、FAは一方当事者の交渉支援を担います。選ぶ際は、SES契約、派遣、偽装請負、エンジニアの労務管理に関する実績を確認してください。

6. SES会社売却を検討する経営者のよくある質問 6-1. エンジニアが少ないSES会社でも売却できますか

可能性はあります。人数だけでなく、専門スキル、稼働率、顧客との継続関係、利益、定着率、経営者からの自立度を確認します。5人でも高単価の専門人材と直請け顧客がいれば、買い手の戦略に合う場合があります。

6-2. 赤字や利益率が低い会社は売却できますか

赤字の原因が一時的な待機、採用投資、特定案件の損失であれば、改善余地が評価されることがあります。買い手の営業網で再配置できる人材や、既存顧客との契約があれば、赤字だけで判断されません。原因と改善策を数値で示します。

6-3. 従業員へ会社売却を伝える適切な時期はいつですか

早すぎる開示は情報漏えいと離職を招き、遅すぎる説明は不信感につながります。一般には、基本合意後から最終契約前後に、キーパーソンを含めて計画的に説明します。雇用条件、勤務地、給与、評価制度、買収後の役割を資料化してください。

6-4. 無料相談では何を準備して伝えるべきですか

決算書3期分、顧客別売上、主要契約書、従業員一覧、スキル、稼働率、単価、借入、株主構成、許認可を準備します。あわせて、売却理由、希望時期、希望価格、雇用維持、経営者の残留期間など、譲れない条件も伝えます。

7. 会社売却を支援するAI・IT事業の専門M&A仲介サービスとは

AI・IT事業の専門M&A仲介サービスは、AI事業を中心に、技術、人材、顧客契約、知的財産を踏まえて買い手候補を探すサービスです。SES会社でも、AI開発、クラウド、データ分析、セキュリティなどの技術人材を抱える場合は、一般的な会社評価だけでは価値を捉えきれないことがあります。

AI・IT事業の専門M&A仲介サービスは、「AI事業を積極的に買収する企業とのマッチング」や「技術価値を踏まえた売却戦略」を特徴としています。匿名で初期接触を行い、機密情報の漏えいリスクを抑えながら候補先を探せる点も、エンジニア情報を扱う会社と相性があります。

さらに、特許、ソースコード、データセットなどの知的財産整理、開発チームの維持、アーンアウト条項や技術保証を含む契約構造について案内しています。事業規模の大小を問わず相談でき、AI事業の売却相談は完全無料です。SES事業にAI・IT要素がある場合は、通常の収益評価に加えて技術価値を説明できるか確認するとよいでしょう。

専門家へ相談する際は、AI関連売上、技術者のスキル、知的財産の帰属、顧客契約、開発継続に必要な人材を分けて提示してください。

8. まとめ

SES事業の会社売却では、エンジニア数だけでなく、稼働率、契約単価、粗利率、直請け比率、顧客集中度、定着率が企業価値を左右します。会社全体を引き継ぐ株式譲渡と、SES部門を切り出す事業譲渡は、リスクと手続きが異なります。

売却を考え始めた時点で、直近3期の財務、顧客契約、エンジニア情報、勤怠、社会保険、残業代、許認可を整理してください。次に、売却目的と譲れない条件を決め、SES契約と労務リスクを理解する専門家へ相談します。準備の早さが、選べる買い手と売却条件を増やします。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT

代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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