アクハイヤー×M&A!人材獲得競争を勝ち抜く買収戦略とは?【前編】

アクハイヤー×M&A!人材獲得競争を勝ち抜く買収戦略とは?【前編】

IT人材不足が深刻化する中、従来の採用活動では優秀な人材の獲得が困難になりつつあります。そこで注目されているのが、企業買収によって人材を獲得する「アクハイヤー」という戦略です。

この記事では、アクハイヤーとM&Aの違いを分かりやすく解説し、成功事例や失敗しないためのポイントを紹介します。従来の人材獲得の限界を感じている経営者や人事担当者必見の内容です。

M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。



1. アクハイヤーとは? M&Aとは違うの?
1.1 従来の人材獲得の課題と限界

従来の人材獲得方法は、主に中途採用や新卒採用、人材紹介会社への依頼などが挙げられます。しかし、これらの方法では変化の激しい現代において、企業が求めるスキルや経験を持つ人材を必要なタイミングで獲得することが難しいという課題があります。

特に、IT業界など成長分野では専門性の高い人材の獲得競争が激化しており、従来の方法では限界が見え始めています。

従来の人材獲得方法の具体的な課題と限界
時間とコスト

中途採用や新卒採用は、募集広告の出稿から選考、採用決定までに多くの時間とコストを必要とします。また、採用した人材が企業に定着せず、短期間で離職してしまうケースも少なくありません。その場合、再度採用活動を行うことになり、時間とコストのロスが大きくなってしまいます。

ミスマッチのリスク

書類選考や面接だけでは、応募者のスキルや経験、企業文化への適応力などを完全に把握することは難しく、採用後にミスマッチが発生するリスクがあります。ミスマッチは、従業員の定着率低下や、企業の業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。

即戦力となる人材の不足

企業は、変化の激しいビジネス環境に対応するために、即戦力となるスキルや経験を持つ人材を求めています。しかし、従来の採用方法では、育成に時間のかかる新卒や、経験の浅い若手層の採用が中心となることが多く、即戦力となる人材の確保は難しい状況です。


1.2 アクハイヤーのメリット・デメリット

アクハイヤーは、従来の人材獲得方法では解決できない課題を克服し、企業が求める人材を迅速かつ確実に獲得するための有効な手段として注目されています。しかし、アクハイヤーにはメリットだけでなく、デメリットも存在することを理解しておく必要があります。

メリット
即戦力となる人材の獲得

アクハイヤーの最大のメリットは、すでにチームとして機能している、即戦力となる人材を一度に獲得できることです。買収対象企業で培われたチームワークや特殊なスキル・ノウハウを、自社にスムーズに取り込むことが期待できます。

時間とコストの削減

アクハイヤーは従来の採用活動に比べて、時間とコストを大幅に削減できます。また、採用後のミスマッチリスクを低減できる点もメリットです。

新規事業の立ち上げ

買収対象企業の持つ技術やノウハウを活用することで、新規事業を迅速に立ち上げ、新たな市場に参入することが可能になります。

競争優位の獲得

競合他社よりも早く、優秀な人材や技術を獲得することで競争優位性を築き、市場における優位な立場を確立することにつながります。

デメリット
高額な買収費用

アクハイヤーには買収対象企業の価値に応じた、高額な買収費用が必要となります。買収資金の調達や、買収後の資金繰りなど、財務的な負担が大きくなる可能性があります。

企業文化の衝突

企業文化や価値観の異なる企業同士の統合は、従業員の反感や摩擦を生み、組織の混乱を招く可能性があります。最悪の場合、キーマンとなる人材の離職や、組織パフォーマンスの低下につながる可能性があります。

買収後の統合プロセス

買収後の統合プロセスは組織文化の融合、人事制度の統一、システムの統合など、複雑で時間のかかる作業となります。統合プロセスが円滑に進まないと、従業員のモチベーション低下や、シナジー効果の実現を阻害する要因となる可能性があります。

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ブランドイメージの毀損

買収の目的や方法によっては、企業のブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。特に、 買収対象企業との間に、事業内容や企業倫理に関する大きな差異がある場合、ステークホルダーからの反発や、ブランド価値の低下につながる可能性があります。

アクハイヤーを成功させるために

アクハイヤーを成功させるためには、事前の綿密な計画と準備、そして買収後の統合プロセスにおける、 丁寧なコミュニケーションと人材マネジメントが不可欠です。企業文化の融合や、従業員のモチベーション維持など、人的資本に関する課題に適切に対処することで、アクハイヤーのメリットを最大限に活かすことができるでしょう。


2. 人材獲得競争激化! アクハイヤーが注目される背景

近年、日本国内外問わず、アクハイヤーという言葉を耳にする機会が増加しています。アクハイヤーは、従来型のM&Aとは異なり、企業の持つ技術やノウハウ、顧客基盤といった無形資産の中でも、特に「人材」に着目した買収戦略として注目されています。この背景には、現代社会におけるビジネス環境の急速な変化と、それに伴う企業の課題が存在します。


2.1 IT人材不足、優秀な人材の争奪戦

現代社会は、情報化社会、デジタル化社会と形容されるように、IT技術がビジネスの根幹を支えています。AI、IoT、ビッグデータといった最新技術が次々と生まれ、これらの技術を活用できる人材は、企業にとって喉から手が出るほど欲しい存在となっています。

しかしながら、IT人材の育成は容易ではなく、多くの企業が深刻な人材不足に悩まされています。特に、高度な専門知識やスキルを持つ、経験豊富なIT人材の獲得競争は激化しており、従来の採用活動だけでは、必要な人材を確保することが難しくなっているのが現状です。

このような状況下で、アクハイヤーは、即戦力となる優秀な人材を一度に複数人獲得できる有効な手段として注目されています。企業は、将来性のあるスタートアップ企業や、特定の技術分野に強みを持つ企業をアクハイヤーすることで、自社に不足しているIT人材を迅速に確保し、競争優位性を築こうとしているのです。


2.2 コロナ禍における企業の採用活動の変化

2020年初頭から続く新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、私たちの生活様式だけでなく、企業の採用活動にも大きな変化をもたらしました。多くの企業が、オンライン面接やオンラインでの会社説明会など、従来の対面中心の採用活動から、オンラインを活用した採用活動へとシフトしました。

また、経済活動の停滞や先行き不透明感から、新規採用を抑制する企業も増加しました。このような状況下において、企業は、限られた予算と時間で、より効率的かつ効果的に人材を獲得する必要性に迫られています。アクハイヤーは、従来の採用活動と比較して、短期間で確実に人材を獲得できるという点で、コロナ禍における新たな採用戦略としても注目されています。

加えて、コロナ禍によって多くの企業がリモートワークを導入した結果、場所に捉われずに働ける環境が整いつつあります。優秀な人材が地方や海外に分散する傾向が強まる中、アクハイヤーは、地理的な制約を超えて、必要な人材を獲得するための有効な手段となり得ると考えられます。

アクハイヤーは、単なる人材不足の解決策としてだけでなく、企業が新たな技術やノウハウを獲得し、競争の激しい市場環境を生き抜くための戦略的な選択肢として、その重要性を増しています。今後、ビジネス環境の変化が加速する中で、アクハイヤーは、企業の成長戦略において、より一層重要な役割を担っていくことが予想されます。


3. アクハイヤーとM&Aの違い

企業の成長戦略として注目されるアクハイヤーとM&A。どちらも企業の合併や買収を伴う手法ですが、その目的や対象には明確な違いが存在します。それぞれの違いを理解することで、自社の戦略に最適な選択が可能となります。

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3.1 買収対象の違い:事業 vs 人材

アクハイヤーとM&Aの最も大きな違いは、買収の対象です。M&Aが事業全体またはその一部を対象とするのに対し、アクハイヤーは「人材」を主な買収対象とします。

M&Aでは、買収対象の企業が持つ顧客基盤、販売チャネル、ブランド力、生産設備などを獲得することで、事業規模の拡大や市場シェアの獲得を目指します。一方、アクハイヤーでは、高度な技術や専門知識を持つ人材を獲得することで、組織全体の技術力や開発力の向上を図ります。


3.2 目的の違い:事業拡大 vs 人材獲得

目的の違いは、買収対象の違いと密接に関係しています。M&Aの主な目的は、事業の拡大や多角化、新規事業への進出など、企業としての成長を加速させることです。一方、アクハイヤーは、人材不足を解消し、組織の競争力を強化することを目的とします。

変化の激しい現代社会において、企業は新たな技術や市場に対応できる柔軟性とスピード感が求められます。しかし、従来型の採用活動だけでは、必要な人材を必要なタイミングで確保することが難しいケースも少なくありません。そこで、即戦力となる人材を獲得できるアクハイヤーが注目されています。


3.3 手続きや費用、期間の違い

手続きや費用、期間にも違いが見られます。一般的に、M&Aはアクハイヤーに比べて規模が大きく、複雑な手続きが必要となります。そのため、費用や期間も大きくなる傾向があります。

項目 M&A アクハイヤー
手続き 複雑で時間と費用がかかる 比較的簡易で、時間と費用を抑えられる場合が多い
費用 高額になる傾向 M&Aに比べて低額になる傾向
期間 長期にわたる場合が多い M&Aに比べて短期間で完了する場合が多い

ただし、アクハイヤーにおいても、買収対象企業の規模や業種、買収後の統合プロセスなどによって、手続きや費用、期間は大きく変動します。そのため、事前に専門家のアドバイスを受けるなど、慎重に進めることが重要です。


4. アクハイヤーによる人材獲得事例
4.1 事例1:株式会社〇〇による株式会社△△の買収

2023年、ECサイト構築・運営事業を展開する株式会社〇〇は、急成長するEC市場において、競争力を強化し、事業拡大を加速させるため、AIによる需要予測や顧客分析に強みを持つスタートアップ企業である株式会社△△をアクハイヤーしました。

株式会社△△は、創業3年ながら、精度の高いAI予測モデルを開発し、大手EC企業との取引実績を持つなど、その技術力は高く評価されていました。しかし、開発資金や人材不足が課題となっており、事業拡大に苦戦していました。

株式会社〇〇は、株式会社△△の持つAI技術と人材を獲得することで、自社ECサイトの機能強化、新規サービスの開発、顧客満足度の向上などを目指しました。買収額は約10億円。株式会社△△は株式会社〇〇の完全子会社となり、代表取締役社長をはじめとする従業員全員が株式会社〇〇に移籍しました。

株式会社〇〇は、株式会社△△の開発体制を強化するために、資金や人材を投入し、AI技術の活用範囲を拡大しました。また、株式会社△△の企業文化を尊重し、従業員のモチベーション維持にも努めました。

その結果、株式会社〇〇は、AI技術を活用した新規サービスをリリースし、売上高を大幅に伸ばすことに成功しました。また、株式会社△△の従業員は、より大きな舞台で活躍することができ、スキルアップやキャリアアップを実現しています。

この事例における成功ポイント
株式会社〇〇は、買収の目的を明確化し、株式会社△△のAI技術と人材が自社の事業成長に不可欠であることを認識していました。
株式会社〇〇は、買収額だけでなく、買収後の統合プロセスや人材管理にも配慮し、株式会社△△の従業員とのコミュニケーションを重視しました。
株式会社△△は、自社の技術力と成長性に自信を持っていましたが、資金や人材不足という課題を抱えていました。株式会社〇〇のアクハイヤーは、自社の課題を解決し、事業をさらに発展させるための最良の選択肢となりました。

4.2 事例2:株式会社□□による株式会社××の買収

2022年、老舗家電メーカーである株式会社□□は、近年、デザイン性の高い製品が市場で人気を集めていることを受け、自社製品のデザイン力の強化を図るため、受賞歴を持つデザイナーを多数抱えるデザイン会社である株式会社××をアクハイヤーしました。

株式会社××は、家電製品から自動車、家具まで幅広い分野のデザインを手掛け、その洗練されたデザインは国内外で高い評価を得ていました。しかし、小規模な会社であったため、大手企業との競争や人材育成に限界を感じていました。

株式会社□□は、株式会社××の持つデザイン力と人材を獲得することで、自社製品のデザイン力の底上げ、ブランドイメージの向上、新規顧客の開拓などを目指しました。買収額は約5億円。株式会社××は株式会社□□の完全子会社となり、代表取締役社長をはじめとする従業員全員が株式会社□□に移籍しました。

株式会社□□は、株式会社××のデザイナーの創造性を最大限に活かすため、独立した組織体制を維持し、デザイン開発の自由度を保証しました。また、株式会社××のデザイナーが家電製品のデザインに携わるのは初めてであったため、研修やOJTなどを通して、家電製品の知識や技術を習得させました。

その結果、株式会社□□は、株式会社××のデザイナーと共同開発した、従来の家電製品の概念を覆すような斬新なデザインの家電製品を発売し、デザイン賞を受賞するなど高い評価を獲得しました。また、株式会社××のデザイナーは、新たな分野に挑戦することで、刺激ややりがいを感じながら、さらにスキルアップすることができました。

この事例における成功ポイント
株式会社□□は、自社の弱みであるデザイン力を補完するために、株式会社××のアクハイヤーを決断しました。これは、従来の製造業の枠にとらわれず、外部の力を取り入れる柔軟な姿勢を示すものです。
株式会社□□は、株式会社××の企業文化や働き方を尊重し、デザイナーのモチベーションや創造性を維持できるような統合プロセスを進めました。これは、人材こそがアクハイヤーの成功の鍵であるという認識に基づくものです。
株式会社××は、自社のデザイン力を活かせる新たな活躍の場を求めていました。株式会社□□のアクハイヤーは、自社の強みをさらに伸ばし、社会に貢献できるチャンスとなりました。

4.3 その他のアクハイヤー事例

上記以外にも、近年では様々な業界でアクハイヤーが積極的に活用されています。以下に、代表的な事例をまとめます。

買収企業 買収対象企業 目的・背景
株式会社ZOZO 株式会社VASILY(ファッションアプリ「iQON」運営) ファッション領域におけるデータ分析やAI技術の強化
ヤフー株式会社 株式会社一休(高級ホテル・旅館予約サイト「一休.com」運営) 旅行・レジャー事業の強化、ユーザー基盤の拡大
株式会社メルカリ 株式会社ソウゾウ(フリマアプリ「メルカリ」の開発協力) 開発体制の強化、サービス開発のスピードアップ

これらの事例からわかるように、アクハイヤーは、人材獲得競争が激化する中、企業が成長するために重要な戦略の一つとなっています。自社の事業戦略や課題、そして買収対象企業との相性を考慮した上で、アクハイヤーを成功させるためのポイントを押さえることが重要です。


5. 【前編】まとめ 最近のIT企業のM&Aの買いニーズの多くが、「人材不足を解消するためにM&Aを行いたい」というケースです。この動きは何年も前から発生しており、私の個人的な友人のIT企業では、海外で会社を作りIT人材を採用し育て、事業に活用する動きを取っていました。

M&Aが採用戦略の一部となり、又はIT企業拡大の事業戦略の中心となっているようです。さらに詳しい情報を、後編でもお届けいたしますので、是非そちらもご覧ください。

●後編はこちら
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