M&Aのリスク管理:成功へと導く徹底対策と事例|失敗回避のポイント

M&Aのリスク管理:成功へと導く徹底対策と事例|失敗回避のポイント

M&Aは企業成長の大きなチャンスである一方、様々なリスクも潜んでいます。本記事では、M&Aにおける財務リスク、事業リスク、人事リスク、法務リスク、情報リスク、レピュテーションリスクといった主要なリスクの種類を網羅的に解説。それぞれの具体的な例を挙げながら、失敗事例を回避するためのポイントを分かりやすく説明します。

さらに、デューデリジェンスの重要性や、リスク評価・対応策、PMI(Post Merger Integration)といったリスクマネジメントの手法についても詳しく解説。M&Aを成功に導くための実践的な知識を得て、潜在的なリスクを最小限に抑えるための具体的な対策を理解することができます。本記事を読むことで、M&Aの成功確率を高め、企業価値向上を実現するための道筋が見えてくるでしょう。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月の経営支援にて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。


1. M&Aにおけるリスクの種類

M&Aには様々なリスクが潜んでおり、事前にそれらを正しく理解し、適切な対策を講じることがM&Aの成否を大きく左右します。リスクの種類は大きく分けて財務リスク、事業リスク、人事リスク、法務リスク、情報リスク、レピュテーションリスクの6つに分類できます。

1.1 財務リスク

財務リスクは、M&Aに伴う財務的な問題から生じるリスクです。買収対象企業の財務状況を正しく把握できていない場合、M&A後に予期せぬ損失を被る可能性があります。

1.1.1 過大な負債による資金繰り悪化

買収対象企業の負債が過大であった場合、M&A後に資金繰りが悪化し、最悪の場合、倒産に陥る可能性があります。買収前にデューデリジェンスを実施し、負債の状況を詳細に確認することが重要です。

1.1.2 不正会計の発覚

買収対象企業で不正会計が行われていた場合、M&A後にその事実が発覚し、企業価値が大きく下落するリスクがあります。また、訴訟問題に発展する可能性も高く、多大な損失を被る可能性があります。粉飾決算は特に注意が必要です。

1.1.3 のれんの減損

買収価格が買収対象企業の純資産価額を上回る場合、その差額はのれんとして計上されます。M&A後に買収対象企業の業績が悪化した場合、のれんの減損処理が必要となり、多額の損失を計上する可能性があります。将来のキャッシュフロー予測を慎重に行い、適切な買収価格を算定することが重要です。

1.2 事業リスク

事業リスクは、M&A後の事業運営に関するリスクです。M&Aによって期待されるシナジー効果が実現しない場合、業績が悪化する可能性があります。

1.2.1 シナジー効果の実現困難

M&Aの目的の一つはシナジー効果による企業価値の向上ですが、想定していたシナジー効果が実現しない場合、業績が伸び悩み、投資回収が困難になるリスクがあります。文化の違いや事業統合の難しさなどが原因となるケースが多いです。買収前に綿密な事業計画を策定し、シナジー効果の実現可能性を慎重に検討する必要があります。

1.2.2 事業統合後の業績悪化

M&A後の事業統合がスムーズに進まず、業績が悪化するリスクがあります。事業統合に伴う混乱や従業員のモチベーション低下、顧客離れなどが原因となるケースが多いです。統合プロセスを綿密に計画し、円滑な事業統合を実現することが重要です。

1.2.3 事業環境の変化

M&A成立後に、市場の急激な変化や競合の出現など、事業環境が変化するリスクがあります。これらの変化に対応できず、業績が悪化する可能性があります。市場動向を常に注視し、変化に柔軟に対応できる体制を構築することが重要です。

1.3 人事リスク

人事リスクは、M&Aに伴う人事に関するリスクです。M&Aによって企業文化が変化し、従業員のモチベーションが低下したり、キーパーソンが退職したりするリスクがあります。

1.3.1 キーパーソンの退職

買収対象企業のキーパーソンがM&A後に退職してしまうと、事業継続に支障をきたす可能性があります。キーパーソンとの関係構築を図り、退職防止策を講じる必要があります。適切なインセンティブプランの導入なども有効です。

1.3.2 従業員のモチベーション低下

M&Aによって企業文化や人事制度が変化することで、従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。従業員とのコミュニケーションを密にし、不安や不満を解消するための取り組みを行うことが重要です。合併後の新しい企業文化の構築や、従業員のキャリアパスに関する明確なビジョンを示すことが重要です。

1.3.3 労働紛争の発生

M&Aに伴う人事制度変更や人員整理などを巡り、労働紛争が発生するリスクがあります。労働法規を遵守し、従業員との適切な交渉を行うことが重要です。弁護士等の専門家のアドバイスを受けることも有効です。

1.4 法務リスク

法務リスクは、M&Aに伴う法令遵守に関するリスクです。M&Aに関する法令を遵守していない場合、法的 sanctions を受ける可能性があります。

1.4.1 独占禁止法抵触の可能性

M&Aによって市場における競争が制限される場合、独占禁止法に抵触する可能性があります。公正取引委員会の審査が必要となる場合もあり、M&A前に専門家による法的アドバイスを受けることが重要です。市場シェアや競合状況を分析し、独占禁止法抵触の可能性を慎重に検討する必要があります。

1.4.2 契約上のトラブル

M&A契約の内容が不明確であったり、契約締結後に予期せぬ事態が発生したりした場合、契約上のトラブルが発生するリスクがあります。契約内容を詳細に確認し、リスクを最小限に抑える必要があります。弁護士等の専門家のサポートを受けることが重要です。

1.4.3 知的財産権に関する問題

買収対象企業の知的財産権に瑕疵があった場合、M&A後に事業展開に支障をきたす可能性があります。特許権や商標権などの知的財産権について、デューデリジェンスで詳細に調査する必要があります。

1.5 情報リスク

情報リスクは、M&Aに伴う情報管理に関するリスクです。M&Aの過程で機密情報が漏洩したり、システム統合に失敗したりするリスクがあります。

1.5.1 情報漏洩

M&Aの過程で、顧客情報や技術情報などの機密情報が漏洩するリスクがあります。適切な情報管理体制を構築し、情報漏洩防止策を講じる必要があります。NDA(秘密保持契約)の締結やアクセス制限の実施などが有効です。

1.5.2 システム統合の失敗

M&A後にシステム統合を行う場合、システムの互換性やデータ移行の問題などから、システム統合に失敗するリスクがあります。事前に綿密な計画を立て、テスト運用を実施するなど、システム統合のリスクを最小限に抑える必要があります。

1.5.3 サイバー攻撃

M&Aプロセスはサイバー攻撃の標的となる可能性があります。機密情報の窃取やシステムの破壊など、深刻な被害を受けるリスクがあります。セキュリティ対策を強化し、サイバー攻撃への備えを万全にする必要があります。

1.6 レピュテーションリスク

レピュテーションリスクは、M&Aによって企業の評判が損なわれるリスクです。M&Aに関するネガティブな情報が拡散した場合、企業イメージが低下し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

1.6.1 企業イメージの低下

M&Aの目的や方法がステークホルダーに理解されなかった場合、企業イメージが低下するリスクがあります。M&Aに関する情報を積極的に開示し、ステークホルダーとの良好な関係を構築することが重要です。メディア対応や広報活動にも力を入れる必要があります。

1.6.2 風評被害

M&Aに関する誤った情報やネガティブな情報が拡散した場合、風評被害が発生するリスクがあります。風評被害対策を事前に準備し、迅速かつ適切な対応を行うことが重要です。ソーシャルメディアのモニタリングや、プレスリリースの発信などが有効です。

1.6.3 不祥事の発覚

M&A後に買収対象企業の不祥事が発覚した場合、買収企業のレピュテーションにも悪影響が及ぶ可能性があります。デューデリジェンスを徹底し、不祥事のリスクを事前に把握することが重要です。

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2. M&Aのリスク特定のためのデューデリジェンス

M&Aにおけるリスクを最小限に抑え、成功の可能性を高めるためには、対象企業の現状を詳細に調査するデューデリジェンスが不可欠です。デューデリジェンスは、買収後のトラブルを未然に防ぎ、適切な買収価格を決定するための重要なプロセスです。主なデューデリジェンスの種類と、それぞれで着目すべきポイントは以下の通りです。

2.1 財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、対象企業の財務状況を詳細に分析し、財務リスクを洗い出すプロセスです。過去の財務諸表、会計処理の妥当性、資産負債の状況、収益性、キャッシュフローなどを精査します。粉飾決算や簿外債務などの隠れたリスクを早期に発見することで、買収後の予期せぬ損失を回避できます。

2.1.1 財務デューデリジェンスの主な着目点
  • 収益認識の妥当性
  • 棚卸資産の評価方法
  • 減損会計の適切性
  • 債権の回収可能性
  • 偶発債務の有無
  • 税務リスク
  • 内部統制の有効性
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2.2 事業デューデリジェンス

事業デューデリジェンスは、対象企業の事業内容、市場環境、競争優位性、将来性などを分析し、事業リスクを評価するプロセスです。事業計画の妥当性、市場シェア、顧客基盤、技術力、知的財産権などを調査し、買収後のシナジー効果や成長性を評価します。市場の将来性や競争環境の変化によるリスクを把握することで、買収後の事業戦略を適切に策定できます。

2.2.1 事業デューデリジェンスの主な着目点
  • 市場規模と成長性
  • 競合企業の分析
  • 主要顧客の依存度
  • サプライチェーンの安定性
  • 技術革新への対応力
  • 事業計画の現実性
  • 知的財産権の保護状況
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2.3 法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、対象企業の法令遵守状況、契約関係、訴訟リスクなどを調査し、法務リスクを評価するプロセスです。許認可の有無、契約書の確認、係争中の訴訟の有無、コンプライアンス体制などを精査することで、買収後の法的トラブルを回避できます。独占禁止法抵触の可能性や環境規制への適合性なども重要な確認事項です。

2.3.1 法務デューデリジェンスの主な着目点
  • 契約書のレビュー(取引先、従業員、賃貸借契約など)
  • 許認可の取得状況
  • 訴訟・紛争の有無
  • 知的財産権関連の紛争
  • 独占禁止法、下請法等の遵守状況
  • 環境規制への適合性
  • 内部通報制度の整備状況
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2.4 人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスは、対象企業の人事制度、従業員のスキル、組織文化などを調査し、人事リスクを評価するプロセスです。従業員の年齢構成、勤続年数、退職率、人事評価制度、労働組合との関係などを分析することで、買収後の組織統合における課題を特定し、適切な人事戦略を策定できます。キーパーソンの引き留め策や従業員のモチベーション維持策なども重要な検討事項です。

2.4.1 人事デューデリジェンスの主な着目点
  • 従業員のスキル・経験
  • キーパーソンの存在と引き留め策
  • 人事制度(賃金、評価、昇進など)
  • 組織文化、従業員のモチベーション
  • 労働組合との関係
  • 退職金・年金制度
  • 労務問題の発生状況

これらのデューデリジェンスを適切に実施することで、M&Aにおけるリスクを正確に把握し、効果的な対策を講じることが可能になります。それぞれのデューデリジェンスは相互に関連しているため、包括的な視点で分析することが重要です。また、必要に応じて外部の専門家を活用することも有効です。

3. M&Aリスクへの対策

M&Aにおけるリスクへの対策は、取引の成否を大きく左右する重要な要素です。綿密な計画と実行が不可欠であり、リスクを最小限に抑え、シナジー効果を最大化するための戦略的なアプローチが求められます。以下に、M&Aリスクへの対策における重要なポイントを解説します。

3.1 リスク評価と優先順位付け

M&Aプロセスにおける最初の一歩は、潜在的なリスクの特定と評価です。財務、事業、人事、法務、情報、レピュテーションなど、多岐にわたるリスクを洗い出し、それぞれの発生確率と影響度を評価することで、優先順位を付けます。リスクマトリクスなどを活用し、視覚的にリスクを把握することも有効です。

3.1.1 リスクマトリクスの活用

リスクマトリクスは、リスクの発生確率と影響度を縦軸と横軸にとり、各リスクをプロットすることで、視覚的にリスクの大きさを把握できるツールです。発生確率と影響度が高いリスクは優先的に対策を講じる必要があります。

影響度 低い 中程度 高い
発生確率:低い 監視 対応策検討 一部対応策実施
発生確率:中程度 対応策検討 一部対応策実施 重点対応策実施
発生確率:高い 一部対応策実施 重点対応策実施 緊急対応策実施
3.2 リスク対応策の策定と実行

リスクの優先順位に基づき、具体的な対応策を策定します。リスク回避、リスク軽減、リスク転嫁、リスク保有といった対応策の中から、状況に応じて最適な方法を選択します。例えば、買収対象企業に多額の負債がある場合、債務免除交渉や買収価格の調整といったリスク軽減策が考えられます。また、独占禁止法抵触のリスクがある場合は、事業の一部売却といったリスク回避策を検討する必要があるでしょう。

3.2.1 リスク対応策の例
  • リスク回避:事業の一部売却、M&Aの中止
  • リスク軽減:債務免除交渉、買収価格の調整、内部統制の強化、従業員への丁寧な説明
  • リスク転嫁:保険加入、表明保証条項の締結
  • リスク保有:一定のリスクを許容し、発生した場合の対応策を準備
3.3 PMI(Post Merger Integration)の重要性

PMIは、M&A後の統合プロセスを円滑に進め、シナジー効果を実現するために不可欠です。統合計画の策定、組織文化の融合、人事制度の統一、システム統合など、多岐にわたる課題に取り組む必要があります。PMIを成功させるためには、綿密な計画と、関係者間の円滑なコミュニケーションが重要です。文化の違いによる摩擦や、キーパーソンの退職など、想定外の事態が発生することも考慮し、柔軟な対応が必要です。PMIを円滑に進めることで、M&Aのリスクを最小限に抑え、成功へと導くことができます。

3.3.1 PMIにおける主要課題
  • 統合計画の策定:統合スケジュール、責任分担、目標設定
  • 組織文化の融合:企業理念の共有、コミュニケーションの促進、共同イベントの実施
  • 人事制度の統一:給与体系、評価制度、福利厚生
  • システム統合:基幹システム、情報システム
3.4 適切な専門家への相談

M&Aは複雑なプロセスであり、専門的な知識と経験が不可欠です。M&Aアドバイザー、弁護士、会計士、税理士など、適切な専門家に相談することで、リスクを適切に評価し、効果的な対策を講じることができます。専門家のアドバイスは、M&Aを成功させるための重要な鍵となります。特に、クロスボーダーM&Aのような複雑な取引においては、現地の法律や商慣習に精通した専門家のサポートが不可欠です。

M&Aにおけるリスクへの対策は、事前の準備と計画が重要です。潜在的なリスクを早期に特定し、適切な対策を講じることで、M&Aを成功へと導くことができます。

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4. まとめ

M&Aは企業成長の大きなチャンスである一方、様々なリスクを孕んでいます。本記事では、財務リスク、事業リスク、人事リスク、法務リスク、情報リスク、レピュテーションリスクといったM&Aにおける主要なリスクの種類を解説し、それぞれの具体的な例を示しました。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、デューデリジェンスの実施が不可欠です。財務、事業、法務、人事といった多角的な視点から対象企業を精査することで、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることが可能となります。また、リスク評価に基づいた優先順位付けや、PMIを通じた統合プロセスを綿密に計画・実行することも重要です。

M&Aを成功に導くためには、専門家への相談も有効です。弁護士、会計士、コンサルタントといった専門家の知見を活用することで、リスク管理をより強固なものにできます。リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることで、M&Aによる企業価値向上を実現しましょう。

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