中小企業のM&Aで見送られる原因「仲介手数料が高額」だからも
先日、買い手企業様から「この案件を買うべきか?」というご相談を頂きました。当社からすると別案件のPMIサポートのクライアント様だったのですが、株式譲渡価格3000万円(非課税)で仲介手数料2500万円(税別)とのこと。買い手からしても高額な仲介手数料ですが、売り手にとっては、3000万円で会社を売却し仲介手数料を税込みで払うと2750万円。さらに税金を払うと・・・。
中小企業が大手M&A仲介会社を利用して、会社売却を行う上で見送られる理由の一つに「仲介手数料が高額」にあるようです。
M&Aは企業成長の大きなチャンスですが、中小企業にとって仲介手数料は大きなハードルとなることがあります。この記事では、M&A仲介手数料の相場や中小企業への影響、そして手数料がM&Aを見送る原因となる理由を解説します。手数料以外のM&A見送り要因、デューデリジェンス費用などのM&A関連費用についても網羅的に解説。
さらに、仲介手数料を適切に抑えるための具体的な方法、例えば実績のある仲介会社の選び方や手数料交渉のポイントなども詳しく説明します。この記事を読むことで、M&Aに関する費用全体を理解し、M&Aを成功に導くための費用戦略を立てることができるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
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1. M&A仲介手数料の相場と中小企業への影響
1.1 M&A仲介手数料の一般的な料金体系
1.2 中小企業にとって仲介手数料が負担となる理由
2. M&Aが中小企業で見送られる原因
2.1 仲介手数料以外の要因
2.2 高額な仲介手数料が与える影響
3. 仲介手数料を適切に抑えるための方法
3.1 仲介会社選びのポイント
3.2 手数料交渉のポイント
4. M&A仲介手数料以外の費用
4.1 デューデリジェンス費用
4.2 弁護士費用
4.3 アドバイザリー費用
5. まとめ
1. M&A仲介手数料の相場と中小企業への影響
M&A仲介手数料は、M&Aプロセスにおける重要な要素であり、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。M&Aを検討する際には、手数料の相場や料金体系を理解し、自社の状況に適した仲介会社を選ぶことが重要です。
【関連】会社売却の全手順を徹底解説!M&Aを検討する経営者向け基本ガイド1.1 M&A仲介手数料の一般的な料金体系
M&A仲介手数料の料金体系は、主に以下の3つのタイプに分類されます。
タイプ | 計算方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
レーマン方式 |
買収金額に応じて段階的に手数料率が設定される方式。 例えば、1億円までは5%、1億円超5億円までは4%、5億円超は3%など。 |
買収金額が大きくなるほど手数料率が低くなるため、大型案件に有利。 |
中小企業のM&Aでは、手数料率が高くなる可能性がある。 |
成功報酬型 | M&Aが成立した場合のみ、成果に応じて手数料が支払われる方式。 |
M&Aが成立しない場合は手数料が発生しないため、リスクを抑えられる。 |
成功報酬を得るために、仲介会社が無理なM&Aを勧める可能性がある。 |
タイムチャージ型 | 作業時間に応じて手数料が支払われる方式。 |
作業内容が明確になるため、費用の透明性が高い。 |
作業時間が長引くと、手数料が高額になる可能性がある。 |
多くのM&A仲介会社では、レーマン方式または成功報酬型を採用しています。レーマン方式は、国際的に広く採用されている料金体系であり、日本国内でも一般的な方式となっています。成功報酬型は、M&Aが成立した場合のみ手数料が発生するため、依頼企業にとってはリスクを抑えることができるメリットがあります。ただし、仲介会社によっては、成功報酬を得るために無理なM&Aを勧める可能性もあるため、注意が必要です。
1.2 中小企業にとって仲介手数料が負担となる理由
中小企業にとって、M&A仲介手数料は大きな負担となる可能性があります。その理由は主に以下の2点です。
1.2.1 資金調達の難しさ
中小企業は、大企業に比べて資金調達が難しい傾向にあります。M&A仲介手数料に加えて、買収資金やデューデリジェンス費用など、M&Aには多額の費用がかかります。そのため、資金調達が困難な中小企業にとって、M&A仲介手数料は大きな負担となる可能性があります。特に、レーマン方式の場合、買収金額が大きくなるほど手数料も高額になるため、資金繰りが厳しくなる可能性があります。
1.2.2 投資対効果の見極めの難しさ
中小企業は、大企業に比べて経営資源が限られています。そのため、M&Aにかかる費用に見合うだけの効果が得られるかどうかを慎重に見極める必要があります。M&A仲介手数料が高額な場合、投資対効果が低くなる可能性があり、M&Aの実行をためらう要因となる可能性があります。中小企業は、M&A仲介手数料だけでなく、M&A後の統合費用やシナジー効果などを考慮し、総合的に判断する必要があります。例えば、日本M&Aセンターやストライクといった大手M&A仲介会社は豊富な実績と専門性を有していますが、手数料も高額になる傾向があります。中小企業は、自社の規模や予算に合わせて、適切な仲介会社を選ぶ必要があります。
2. M&Aが中小企業で見送られる原因
M&Aが中小企業で見送られる原因は、仲介手数料の高さだけではありません。高額な仲介手数料は確かに大きな負担となりますが、それ以外にも様々な要因が複雑に絡み合い、M&Aを断念せざるを得ない状況に追い込まれるケースが少なくありません。ここでは、仲介手数料以外のM&A見送りの原因を詳しく解説します。
2.1 仲介手数料以外の要因
M&Aが成立しない背景には、しばしば以下の要因が挙げられます。これらは中小企業特有の事情も含まれており、大企業のM&Aとは異なる難しさがあります。
2.1.1 価格交渉の難航
買収価格や譲渡価格をめぐる交渉が難航し、最終的に合意に至らないケースは非常に多く見られます。特に中小企業の場合、事業規模が小さいため、価格算定の根拠となる財務情報や将来予測が複雑になりやすく、評価額の隔たりが生じやすい傾向にあります。また、経営者にとって会社は自身の人生そのものである場合も多く、感情的な側面が交渉に影響を与えることもあります。
2.1.2 事業の継続性の懸念
M&A後、事業が円滑に継続できるかどうかの懸念も、M&Aを見送る大きな要因となります。特に、長年地域に根ざした事業を展開してきた中小企業の場合、買収後の経営方針変更や事業縮小などにより、既存顧客や取引先との関係が損なわれることを懸念する経営者は少なくありません。また、従業員の雇用維持や企業文化の継承についても不安を抱くケースが多く見られます。
2.1.3 従業員の雇用維持の問題
中小企業にとって従業員は貴重な財産です。M&Aによって従業員の雇用が維持されるか、待遇が悪化しないか、といった点は経営者にとって大きな懸念事項となります。買収後にリストラが行われる可能性や、企業文化の変化に対する不安から、従業員のモチベーションが低下し、事業に悪影響を及ぼすことも考えられます。従業員の雇用維持に関する明確なビジョンを示せない場合、M&Aは難航する可能性が高まります。
2.1.4 デューデリジェンスにおける問題の発見
デューデリジェンスは、M&Aにおける重要なプロセスです。買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査し、隠れたリスクや問題点を洗い出します。この過程で、想定外の負債や訴訟リスク、環境問題などが発覚した場合、M&Aを見送る判断が下されるケースがあります。特に中小企業の場合、内部統制が十分に整備されていないケースもあり、デューデリジェンスで予期せぬ問題が発見されるリスクが高まります。
見送り原因 | 詳細 |
---|---|
価格交渉の難航 | 事業規模の小ささから評価額の隔たりが生じやすい。経営者の感情的な側面も影響する。 |
事業継続性の懸念 | 既存顧客や取引先との関係悪化、従業員の雇用維持、企業文化の継承などへの不安。 |
従業員の雇用維持の問題 | 買収後のリストラや待遇悪化、企業文化の変化に対する懸念。従業員のモチベーション低下による事業への悪影響。 |
デューデリジェンスにおける問題の発見 | 想定外の負債、訴訟リスク、環境問題など。内部統制の不備によるリスクの高さ。 |
2.2 高額な仲介手数料が与える影響
高額な仲介手数料は、M&Aプロセス全体に様々な影響を及ぼします。特に資金力に乏しい中小企業にとっては、大きな負担となり、M&A戦略の進め方に深刻な影響を与える可能性があります。
2.2.1 M&A戦略全体の遅延
高額な仲介手数料を捻出するために、追加の資金調達が必要となる場合があります。この資金調達に時間を要すると、M&A戦略全体のスケジュールが遅延し、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。また、資金調達に失敗した場合、M&A自体が白紙に戻ってしまうリスクも抱えています。
2.2.2 M&Aそのものの断念
仲介手数料が高額すぎる場合、M&Aによるメリットを上回るコスト負担が発生することがあります。このような状況では、M&Aそのものを断念せざるを得ないケースも少なくありません。特に中小企業の場合、限られた経営資源を有効活用する必要があり、費用対効果を慎重に検討した結果、M&Aを見送る判断に至るケースが多く見られます。
3. 仲介手数料を適切に抑えるための方法
M&Aにおける仲介手数料は、特に中小企業にとって大きな負担となる可能性があります。しかし、適切な方法を用いることで、この手数料を適正な範囲に抑えることが可能です。以下、仲介会社選びと手数料交渉のポイントを詳しく解説します。
【関連】新しい仲介サービス「Hands on M&A」誕生!業績向上までサポートします。3.1 仲介会社選びのポイント
仲介会社選びは、M&Aの成否を左右する重要な要素であり、手数料にも大きく影響します。以下のポイントを踏まえて、自社に最適な仲介会社を選びましょう。
【関連】新しい仲介サービス「Hands on M&A」誕生!業績向上までサポートします。3.1.1 実績と専門性
M&Aの実績が豊富で、特定の業界や事業規模に特化した専門性を持つ仲介会社を選ぶことが重要です。実績は過去の成約件数や金額だけでなく、成約までの期間やPMI支援の有無なども確認しましょう。例えば、IT企業のM&Aを検討しているなら、IT業界に強い仲介会社を選ぶことで、よりスムーズな取引が期待できます。日本M&Aセンターやストライクなど、実績と専門性を兼ね備えた仲介会社は複数存在しますので、それぞれの強みを比較検討しましょう。
3.1.2 料金体系の透明性
仲介手数料の料金体系が明確で、不明瞭な追加費用が発生しないかを確認しましょう。料金体系は、レーマン方式、成功報酬型、タイムチャージ型など様々です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の状況に合った料金体系を採用している仲介会社を選ぶことが重要です。また、着手金や中間金、契約書作成費用など、仲介手数料以外の費用についても事前に確認しておきましょう。
3.1.3 担当者との相性
M&Aは長期にわたる複雑なプロセスとなるため、担当者との良好なコミュニケーションが不可欠です。担当者の経験や知識はもちろんのこと、人柄や相性も重視して選びましょう。気軽に相談できる雰囲気かどうか、レスポンスが迅速かどうかなども重要なポイントです。面談の機会を設けて、実際に話を聞いてみることで、相性を判断することができます。
3.2 手数料交渉のポイント
仲介会社との手数料交渉は、費用を抑える上で重要なステップです。以下のポイントを参考に、積極的に交渉を行いましょう。
3.2.1 相見積もりの活用
複数の仲介会社から見積もりを取り、比較検討することで、適正な手数料水準を把握できます。また、相見積もりを取ることで、交渉の材料にもなります。各社の料金体系やサービス内容を比較し、自社にとって最適な条件を提示してくれる仲介会社を選びましょう。例えば、日本M&Aセンター、ストライク、レコフなど、複数の仲介会社に見積もりを依頼し、比較検討することをお勧めします。
3.2.2 成功報酬型の検討
成功報酬型の料金体系は、M&Aが成立した場合のみ手数料が発生するため、リスクを抑えることができます。ただし、成功報酬の料率は、他の料金体系よりも高くなる傾向があります。成功報酬型のメリット・デメリットを理解した上で、自社の状況に合致するかを検討しましょう。例えば、買収金額が大きくなるほど、成功報酬額も大きくなるため、中小企業にとっては負担が大きくなる可能性があります。
4. M&A仲介手数料以外の費用
M&Aには、仲介手数料以外にも様々な費用が発生します。これらの費用についても事前に把握し、全体のコストを適切に管理することが重要です。
【関連】M&Aで企業価値評価(バリュエーション)3つの算定方法4.1 デューデリジェンス費用
デューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを調査するプロセスです。この調査には専門家による分析が必要となるため、費用が発生します。デューデリジェンスの範囲や深度によって費用は変動します。例えば、財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、事業デューデリジェンスなど、様々な種類のデューデリジェンスがあります。
4.2 弁護士費用
M&A契約書の作成やレビュー、法的アドバイスなど、弁護士への依頼が必要となる場面が多くあります。弁護士費用は、案件の複雑さや弁護士事務所の規模によって異なります。M&Aに精通した弁護士を選ぶことで、スムーズな取引を実現し、費用を抑えることにも繋がります。
4.3 アドバイザリー費用
財務アドバイザーやM&Aアドバイザーなど、専門家によるアドバイスを受けることで、M&Aを成功させる可能性を高めることができます。アドバイザリー費用は、提供されるサービスの内容や期間によって異なります。例えば、財務モデリング、バリュエーション、交渉支援、PMI支援など、様々なサービスがあります。
費用項目 | 内容 | 目安 |
---|---|---|
仲介手数料 | M&A仲介会社への報酬 | 買収金額の3%~10%程度 |
デューデリジェンス費用 | 買収対象企業の調査費用 | 数百万円~数千万円 |
弁護士費用 | 契約書作成、法的アドバイス等 | 数百万円~ |
アドバイザリー費用 | 財務アドバイザー、M&Aアドバイザー等への報酬 | 数百万円~ |
これらの費用を事前に見積もり、予算計画をしっかりと立てることが、M&Aを成功させるための重要なポイントです。また、各費用項目について、複数の業者から見積もりを取り、比較検討することで、費用を抑えることが可能です。M&Aは、企業の成長戦略において重要な役割を果たしますが、高額な費用が発生することも事実です。費用を抑えるための戦略を事前に立て、M&Aのプロセスをスムーズに進めるようにしましょう。
5. まとめ
中小企業にとってM&Aは事業承継や成長戦略において重要な選択肢となります。しかし、M&Aプロセスには様々な費用が発生し、中でも仲介手数料は大きな負担となる可能性があります。本記事では、中小企業のM&Aにおいて仲介手数料が高額となる理由とその影響、そして手数料を適切に抑える方法について解説しました。
M&A仲介手数料は、成約金額に一定の料率を乗じて算出されるのが一般的です。そのため、成約金額が大きくなるほど手数料も高額になります。資金調達力に限りがある中小企業にとって、この高額な手数料はM&A戦略全体の遅延や、場合によってはM&Aそのものの断念につながる可能性があります。手数料以外の費用、例えばデューデリジェンス費用や弁護士費用なども発生することを考えると、資金計画を綿密に行う必要があります。
仲介手数料を適切に抑えるためには、複数の仲介会社から相見積もりを取り、実績や専門性、料金体系の透明性などを比較検討することが重要です。また、担当者との相性も重要な要素です。信頼できる担当者を選ぶことで、スムーズなM&Aプロセスを実現できるでしょう。さらに、成功報酬型の料金体系を検討するのも一つの方法です。成功報酬型であれば、M&Aが成立した場合のみ手数料が発生するため、リスクを軽減できます。
M&Aは、企業の成長にとって大きなチャンスとなる一方、高額な仲介手数料をはじめとする様々な費用が発生します。中小企業がM&Aを成功させるためには、仲介手数料の仕組みを理解し、適切な仲介会社を選び、綿密な資金計画を立てることが不可欠です。手数料だけに囚われず、M&A全体の費用対効果を冷静に見極め、自社の成長戦略に最適な選択をすることが重要です。M&Aを検討する際は、専門家への相談も有効な手段です。専門家のアドバイスを受けることで、M&Aプロセスをスムーズに進め、成功の可能性を高めることができるでしょう。