事業再生におけるM&Aの役割とは?

事業再生におけるM&Aの役割とは?

事業再生においてM&Aは強力なツールとなり得ますが、その役割を正しく理解し、適切に活用しなければ期待する効果を得られないばかりか、状況を悪化させる可能性も潜んでいます。この記事では、事業再生におけるM&Aの役割を、スポンサーによる再生、事業の選択と集中、シナジー効果による再生という3つの側面から詳しく解説します。

また、M&Aを活用した事業再生の成功事例として、シャープや日産自動車の再生過程におけるM&Aの活用方法を分析し、その成功要因を探ります。

一方で、M&Aによる事業再生が失敗に終わった事例も検証し、失敗を避けるためのポイントを明確化することで、M&Aのリスクを最小限に抑える方法を提示します。さらに、法的リスク、財務リスク、人的リスクといったM&A特有の注意点についても詳しく解説することで、読者が事業再生におけるM&Aを適切に判断し、実行するための確かな知識を得られるように構成しています。

この記事を読み終えることで、事業再生におけるM&Aの全体像を理解し、自社の状況に最適なM&A戦略を策定するための基礎を固めることができるでしょう。

【無料】M&A前の経営再建支援のオンライン無料相談会
「赤字解消(経営再建)してからM&Aしたい」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。

365日開催オンライン個別相談会

編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・事業再生などを10年経験。3か月の経営支援サポートで、9か月後には赤字の会社を1億円の利益を計上させるなどの実績を多数持つ専門家。



1. 事業再生におけるM&Aの役割

M&Aは、事業再生において強力なツールとなり得ます。財務状況の悪化や市場環境の変化など、様々な要因で経営難に陥った企業にとって、M&Aは経営資源の最適化、事業構造の改革、成長戦略の実現など、多様なメリットをもたらします。本項では、事業再生におけるM&Aの具体的な役割について解説します。

【関連】事業再生とは?基本戦略と成功へのステップ

1.1 スポンサーによる事業再生

スポンサーによる事業再生は、経営難に陥った企業(ターゲット企業)に、資金力や経営ノウハウを持つスポンサー企業が資本参加し、経営再建を支援する手法です。スポンサーは、ターゲット企業の事業価値を評価し、出資比率に応じた経営権を取得します。そして、新たな経営陣の派遣、事業構造の改革、財務体質の改善など、多角的な支援を通じて、ターゲット企業の再生を図ります。

1.1.1 スポンサーの選定基準

スポンサーの選定は、事業再生の成否を大きく左右する重要なプロセスです。ターゲット企業は、自社の事業内容や経営課題に最適なスポンサーを選定する必要があります。主な選定基準は以下の通りです。

財務基盤の安定性
事業再生の実績
経営理念や企業文化との適合性
シナジー効果創出の可能性
1.1.2 デューデリジェンスの重要性

M&Aにおけるデューデリジェンスは、ターゲット企業の財務状況、事業内容、法務リスクなどを詳細に調査するプロセスです。事業再生においては、特に財務デューデリジェンスが重要となります。隠れた負債や簿外債務の有無、将来のキャッシュフロー予測などを精緻に分析することで、M&A後のリスクを最小限に抑え、適切な再生計画を策定することができます。

【関連】M&Aで失敗しないデューデリジェンス!目的・種類・費用は?【前編】

1.2 事業の選択と集中

事業再生においては、収益性の低い事業や将来性が見込めない事業を整理し、コア事業に経営資源を集中させることが重要です。M&Aは、この事業の選択と集中を迅速かつ効率的に実現するための有効な手段となります。

1.2.1 ノンコア事業の売却

ノンコア事業の売却は、M&Aを通じて不採算事業を売却することで、財務体質の改善を図り、コア事業への投資余力を確保する戦略です。売却によって得られた資金は、設備投資や研究開発、人材育成などに活用することで、コア事業の競争力強化につなげることができます。

1.2.2 コア事業の強化

コア事業の強化は、M&Aを通じて同業他社や関連企業を買収することで、市場シェアの拡大、技術力の向上、販売チャネルの拡充などを図り、コア事業の競争優位性を高める戦略です。買収対象企業とのシナジー効果を最大化することで、持続的な成長を実現することができます。


1.3 シナジー効果による再生

M&Aによるシナジー効果は、事業再生において重要な役割を果たします。シナジー効果とは、企業同士が合併または買収することで、個々の企業の単純合計以上の価値を生み出す効果のことです。事業再生においては、売上増加シナジーとコスト削減シナジーが特に重要です。

1.3.1 売上増加のシナジー

売上増加のシナジーは、M&Aを通じて販売チャネルの拡大、製品ラインナップの拡充、顧客基盤の共有などを図ることで、売上高の増加を目指すものです。例えば、販売網が異なる企業同士が合併することで、互いの販売網を活用し、より広範な顧客層に製品やサービスを提供することが可能になります。

1.3.2 コスト削減のシナジー

コスト削減のシナジーは、M&Aを通じて重複部門の統合、規模の経済効果、調達コストの削減などを図ることで、コストの削減を目指すものです。例えば、生産拠点が重複する企業同士が合併することで、生産拠点を集約し、生産効率の向上とコスト削減を実現することができます。

シナジーの種類 内容 具体例
売上増加シナジー 販売チャネル拡大、クロスセル、新市場参入 全国展開の企業が地方企業を買収し、販売網を拡大
コスト削減シナジー 重複部門統合、規模の経済、調達コスト削減 類似業務を行う企業同士が合併し、管理部門を統合
財務シナジー 資金調達コスト削減、税務メリット 信用力の高い企業が資金繰りの厳しい企業を買収
技術シナジー 技術共有、共同研究開発 異なる技術を持つ企業同士が合併し、新製品を開発
【関連】会社売却でシナジー効果を狙う!中小企業のM&A成功の虎の巻

2. M&Aを活用した事業再生の成功事例

M&Aは、事業再生の強力なツールとなり得ます。ここでは、M&Aを活用して事業再生に成功した企業の事例を2つ紹介します。これらの事例から、成功要因やM&Aの活用方法を学び、事業再生へのヒントを得てください。


2.1 事例1:カネボウ化粧品株式会社

2004年、カネボウは粉飾決算が発覚し、経営危機に陥りました。事業再生の一環として、2006年に花王株式会社がカネボウの化粧品事業を買収しました。花王はカネボウのブランド力や販売網を活かしつつ、経営の効率化や研究開発力の強化を行いました。結果として、カネボウ化粧品は高収益企業へと変貌を遂げ、事業再生に成功しました。

2.1.1 成功要因
花王とのシナジー効果両社の強みを組み合わせることで、相乗効果が生まれました。
ブランド力の維持カネボウが長年培ってきたブランドイメージを維持することに成功しました。
迅速な経営改革花王の主導による迅速な経営改革が功を奏しました。
項目 内容
買収企業 花王株式会社
被買収企業 カネボウ化粧品株式会社
買収時期 2006年
主なシナジー効果 経営効率化、研究開発力強化、販売網拡大

2.2 事例2:シャープ株式会社

2012年、シャープは液晶事業の不振により、経営危機に陥りました。2016年に台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)がシャープを買収しました。ホンハイはシャープの技術力やブランド力を活かしつつ、生産コストの削減や販売網の拡大を行いました。結果として、シャープは業績を回復し、事業再生に成功しました。

2.2.1 成功要因
ホンハイとのシナジー効果ホンハイの生産能力とシャープの技術力を組み合わせることで、競争力を強化しました。
グローバル展開の加速ホンハイのグローバルネットワークを活用することで、海外市場での販売を拡大しました。
大胆なリストラ不採算事業の売却や人員削減など、大胆なリストラを実行しました。
項目 内容
買収企業 鴻海精密工業(ホンハイ)
被買収企業 シャープ株式会社
買収時期 2016年
主なシナジー効果 生産コスト削減、販売網拡大、技術力向上

これらの事例は、M&Aが事業再生において有効な手段となり得ることを示しています。適切なパートナー企業の選定、明確な事業戦略、迅速な実行が成功の鍵となります。


3. M&Aを活用した事業再生の失敗事例

M&Aは事業再生の有効な手段となり得ますが、常に成功が保証されているわけではありません。綿密な計画と実行が不可欠であり、そうでなければ失敗に繋がり、企業の状況をさらに悪化させる可能性もあります。以下、M&Aを活用した事業再生の失敗事例を具体的に見ていきましょう。


3.1 失敗事例1:ヤマダ電機株式会社(架空のシナリオ)

ヤマダ電機は、競争激化による業績悪化を打開するため、地方の家電量販店B社を買収しました。B社は独自の顧客基盤と地域密着型の営業戦略を持っていましたが、ヤマダ電機はB社の強みを活かすことができず、自社のシステムを押し付けました。結果、B社の既存顧客は離れ、従業員のモチベーションも低下し、シナジー効果は生まれませんでした。買収費用による財務負担も重く、ヤマダ電機の業績はさらに悪化しました。この事例は、デューデリジェンスの不足、PMI(買収後統合)の失敗、文化の衝突といったM&Aにおける典型的な失敗要因を示しています。

3.1.1 失敗要因分析
要因詳細
デューデリジェンス不足B社の財務状況、顧客基盤、従業員の状況などを十分に調査しなかった。
PMIの失敗B社の強みを活かすことができず、自社のシステムを一方的に押し付けた。
文化の衝突大企業と中小企業の文化の違いを理解せず、従業員のモチベーション低下を招いた。

3.2 失敗事例2:オンワードホールディングス株式会社(架空のシナリオ)

オンワードホールディングスは、新たな成長市場への進出を目指し、IT企業C社を買収しました。しかし、アパレル業界とIT業界の事業内容や企業文化は大きく異なり、経営陣の連携も不足していました。買収後の事業統合は難航し、シナジー効果は発揮されず、C社の業績は悪化の一途を辿りました。最終的にオンワードホールディングスはC社を売却しましたが、多額の損失を計上することとなりました。この事例は、異業種へのM&Aにおけるリスク、経営陣の連携不足、買収後の事業統合の難しさなどを示しています。

3.2.1 失敗要因分析
要因詳細
異業種M&AのリスクアパレルとITという異業種のM&Aは、事業内容や企業文化の相違による統合の難しさを孕んでいた。
経営陣の連携不足買収後の経営体制が明確でなく、経営陣間のコミュニケーション不足により迅速な意思決定ができなかった。
事業統合の失敗事業計画の策定や実行が不十分で、シナジー効果を生み出すことができなかった。

3.3 失敗を避けるためのポイント

これらの失敗事例から、M&Aを成功させるためには、以下のポイントが重要であることが分かります。

綿密なデューデリジェンスの実施財務状況、事業内容、企業文化など、買収対象企業を詳細に調査する必要があります。
明確なPMI計画の策定買収後の統合プロセスを明確に定義し、実行していく必要があります。従業員の理解と協力を得ることも重要です。
適切な企業価値評価買収価格を適切に評価し、過大な買収額を支払わないように注意する必要があります。
文化の融合買収対象企業と自社の文化の違いを理解し、融合のための取り組みを行う必要があります。
外部専門家の活用M&Aアドバイザーや弁護士などの専門家の助言を得ることで、リスクを軽減することができます。

M&Aは事業再生の強力なツールですが、適切な戦略と実行が不可欠です。失敗事例を教訓とし、成功のためのポイントを踏まえることで、M&Aによる事業再生を成功に導くことができるでしょう。

【関連】M&Aで失敗する理由!失敗したときの対処法や成功させるポイント先に知っておこう

4. 事業再生におけるM&Aの注意点

事業再生におけるM&Aは、企業の存続を左右する重要な決断です。成功すれば企業の再建につながりますが、失敗すれば更なる経営悪化を招く可能性もあります。そのため、M&Aを実施する際には、様々なリスクを想定し、適切な対策を講じる必要があります。主なリスクとして、法的リスク、財務リスク、人的リスクなどが挙げられます。


4.1 法的リスク

M&Aには、独占禁止法、会社法、金融商品取引法など、様々な法律が関わってきます。これらの法律に抵触すると、M&Aが無効になるだけでなく、多額の罰金や刑事罰が科される可能性もあります。特に、デューデリジェンスを適切に行わずに隠れた負債や訴訟リスクを見落とした場合、後々大きな問題に発展する可能性があります。

また、M&A契約書の条項に不備があると、予期せぬトラブルが発生する可能性もあります。例えば、表明保証条項に不備があると、売主が買主に対して損害賠償責任を負う可能性があります。契約締結前に弁護士等の専門家に相談し、法的リスクを最小限に抑えることが重要です。

4.1.1 契約書の確認

M&A契約書は、M&Aの成否を左右する重要な書類です。契約内容を十分に理解しないまま署名すると、後々不利な立場に立たされる可能性があります。契約書には、売買価格、支払方法、表明保証、誓約、解除条件など、様々な条項が含まれています。これらの条項を一つ一つ丁寧に確認し、不明点があれば専門家に相談することが重要です。特に、表明保証条項や誓約条項は、M&A後のトラブルを防止するために重要な役割を果たします。これらの条項に不備があると、買主が売主に対して損害賠償請求を行う可能性があります。

4.1.2 デューデリジェンスの徹底

デューデリジェンスとは、M&Aの対象となる企業の財務状況、事業内容、法務状況などを調査することです。デューデリジェンスを徹底することで、隠れた負債や訴訟リスクなどを早期に発見し、M&Aのリスクを軽減することができます。デューデリジェンスは、財務デューデリジェンス、事業デューデリジェンス、法務デューデリジェンスなど、様々な分野にわたって行われます。それぞれの分野の専門家と連携して、多角的な視点から調査を行うことが重要です。


4.2 財務リスク

M&Aには、買収資金の調達、買収後の資金繰りなど、財務的なリスクが伴います。買収資金が不足した場合、M&Aが頓挫する可能性があります。また、買収後に想定外の負債が発覚した場合、資金繰りが悪化し、経営危機に陥る可能性もあります。買収資金の調達方法や買収後の資金計画を綿密に検討し、財務リスクを最小限に抑えることが重要です。例えば、LBO(レバレッジド・バイアウト)のように負債を活用した買収を行う場合は、金利上昇リスクや債務不履行リスクなどを考慮する必要があります。

4.2.1 過大な買収額

買収価格が高すぎると、買収後の投資回収が困難になり、財務状況が悪化する可能性があります。買収価格を決定する際には、対象企業の将来収益力や資産価値などを慎重に評価する必要があります。DCF法や類似会社比較法など、様々な評価手法を用いて、適正な買収価格を算定することが重要です。

4.2.2 想定外の負債

デューデリジェンスで発見できなかった負債が、買収後に発覚する可能性があります。例えば、環境汚染問題や訴訟リスクなどが隠蔽されている場合、多額の費用負担が発生する可能性があります。買収前に、想定外の負債が発生するリスクを十分に考慮し、適切な対策を講じる必要があります。例えば、表明保証条項や補償条項などを契約書に盛り込むことで、売主の責任を明確化することができます。


4.3 人的リスク

M&A後には、企業文化の違いや人事制度の違いなどから、従業員のモチベーションが低下したり、優秀な人材が流出したりするリスクがあります。また、経営陣の交代によって、経営方針が変更され、従業員の不安が高まる可能性もあります。M&A後の人事制度や組織体制を事前に検討し、従業員の不安を解消するための対策を講じる必要があります。例えば、従業員説明会を開催したり、社内報などでM&Aの目的やメリットを説明したりすることで、従業員の理解と協力を得ることが重要です。

4.3.1 文化の衝突
買収企業 被買収企業 課題
トップダウン型 ボトムアップ型 意思決定の遅延
成果主義 年功序列 評価制度への不満
積極的な事業展開 保守的な経営 新規事業への抵抗

上記のように、企業文化の衝突は様々な形で発生する可能性があります。M&A前に、両社の企業文化を分析し、衝突が予想される場合には、事前に対策を講じる必要があります。例えば、人事交流や合同研修などを実施することで、相互理解を深めることができます。

4.3.2 人材流出

M&A後には、将来への不安から優秀な人材が流出するリスクがあります。特に、被買収企業の従業員は、雇用の継続性や待遇の変化について不安を抱く可能性があります。人材流出を防ぐためには、M&A後の経営方針や人事制度を明確に示し、従業員の不安を解消することが重要です。例えば、雇用契約の維持や待遇の改善を保証することで、従業員の安心感を高めることができます。また、優秀な人材に対しては、昇進や昇給などのインセンティブを与えることで、モチベーションの維持を図ることができます。

これらのリスクを適切に管理し、M&Aを成功に導くためには、専門家を活用することが重要です。弁護士、会計士、税理士、M&Aアドバイザーなどの専門家は、M&Aに関する豊富な知識と経験を有しており、様々なリスクへの対応策を提案することができます。専門家のサポートを受けることで、M&Aのリスクを最小限に抑え、企業価値の向上につなげることが可能になります。


5. まとめ

事業再生においてM&Aは、スポンサーによる支援、事業の選択と集中、シナジー効果の創出といった重要な役割を果たします。スポンサーによる再生では、財務基盤の強化や経営ノウハウの提供が期待できます。事業の選択と集中では、ノンコア事業売却による資金調達やコア事業への資源集中が可能です。シナジー効果としては、売上増加やコスト削減による収益改善が挙げられます。

M&Aは再生の強力なツールとなる一方、法的リスク、財務リスク、人的リスクといった注意点も存在します。例えば、デューデリジェンスの不足による想定外の負債発覚や、企業文化の clashesによる従業員のモチベーション低下などがリスクとして挙げられます。これらのリスクを最小限に抑えるためには、綿密なデューデリジェンスの実施、PMI(Post Merger Integration、合併後統合)の綿密な計画策定、文化融合への取り組みなどが不可欠です。

成功事例と失敗事例を参考に、自社に最適なM&A戦略を策定し、実行することが事業再生の成功には不可欠と言えるでしょう。

メニュー