合同会社でも売却は可能!M&Aや事業承継の合同会社ならではのポイントも解説【後編】
こちらを読む前に、前編をご覧いただければ「より合同会社のM&Aのポイント」が理解できると思います。
一般的には「合同会社は売れない」という意見もありますが、株式会社との譲渡・買収方法に比べて少し困難な部分はありますが、M&Aを行う企業も増えてきています。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
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1. 合同会社のM&Aとは?
1.1 M&Aでできること
1.2 M&Aのメリット
1.3 M&Aのデメリット
2. 合同会社売却のスキーム
2.1 株式譲渡
2.2 事業譲渡
2.3 合併
2.4 会社分割
3. 合同会社売却のスキームごとのメリット・デメリット
4. 合同会社売却のスキームごとのメリット・デメリット
4.1 株式譲渡のメリット・デメリット
4.2 事業譲渡のメリット・デメリット
4.3 合併のメリット・デメリット
4.4 会社分割のメリット・デメリット
5. まとめ
1. 合同会社のM&Aとは?
合同会社のM&Aは、株式会社のM&Aとは異なる点があり、注意が必要です。合同会社のM&Aでは、主に「事業譲渡」と「持分譲渡」という2つのスキームが用いられます。
1.1 M&Aでできること
合同会社のM&Aでできることは、大きく分けて以下の3つです。
事業の拡大・成長 | |
事業承継 | |
事業の再編・撤退 |
事業の拡大・成長
M&Aによって、既存事業の市場シェア拡大や、新規事業への進出を図ることができます。例えば、同業他社を買収することで、顧客基盤やノウハウを獲得し、短期間で事業を拡大させることが可能になります。
事業承継
後継者不足の問題を抱える企業にとって、M&Aは有効な事業承継の手段となります。M&Aによって、後継者に事業を承継させ、事業の継続性を確保することができます。特に、合同会社は株式を発行しないため、後継者への株式の承継が難しく、M&Aが有力な選択肢となります。
事業の再編・撤退
業績不振の事業を売却したり、逆に成長が見込める事業に経営資源を集中させるために、M&Aが活用されます。例えば、不採算事業を売却することで、経営の効率化を図り、財務体質の改善を図ることができます。
1.2 M&Aのメリット
合同会社のM&Aには、次のようなメリットがあります。
事業の存続 | |
経営資源の取得 | |
時間的優位性 | |
リスク分散 | |
従業員の雇用維持 |
事業の存続
後継者問題の解決策として、M&Aは有効な手段です。後継者が見つからない場合でも、M&Aによって事業を存続させることができます。
経営資源の取得
M&Aによって、人材、技術、ノウハウ、顧客基盤などの経営資源を獲得することができます。これらの経営資源を獲得することで、事業の成長を加速させることができます。
時間的優位性
M&Aは、新規事業を立ち上げるよりも、短期間で事業を拡大・成長させることができるというメリットがあります。時間をかけて新規事業を立ち上げるよりも、M&Aによって既存事業のノウハウや顧客基盤を獲得する方が、効率的に事業を成長させることができます。
リスク分散
複数の事業を持つことで、事業リスクを分散させることができます。1つの事業が不振に陥っても、他の事業でカバーすることで、経営全体の安定化を図ることができます。
従業員の雇用維持
事業を売却する場合でも、M&Aによって従業員の雇用を維持できる可能性があります。事業譲渡の場合、従業員は譲渡先の会社に引き継がれることが一般的です。
1.3 M&Aのデメリット
合同会社のM&Aには、以下のようなデメリットも考えられます。
価格交渉の難航 | |
組織文化の違い | |
従業員の反発 | |
情報漏洩のリスク |
価格交渉の難航
M&Aにおいては、売主と買主の間で、適切な価格交渉を行う必要があります。しかし、会社の価値評価は複雑であり、双方の意見が対立し、価格交渉が難航する可能性があります。そのため、専門家のサポートを受けながら、適正な価格でM&Aを進めることが重要です。
組織文化の違い
M&A後には、異なる企業文化を持つ組織同士の統合が課題となります。組織文化の違いが大きい場合は、従業員の反発や、組織のパフォーマンス低下を招く可能性があります。統合をスムーズに進めるためには、事前に双方の企業文化を理解し、従業員への丁寧な説明や、文化融合のための取り組みが重要となります。
従業員の反発
M&Aによって、雇用条件の変更や、職場環境の変化が起こる可能性があり、従業員の反発を招く可能性があります。従業員の不安を解消するため、M&Aの目的や、雇用条件について、事前に丁寧に説明することが重要です。
情報漏洩のリスク
M&Aのプロセスでは、秘密保持契約を締結しますが、機密情報が漏洩するリスクは避けられません。情報漏洩は、会社の信用を失墜させたり、競争上の優位性を失う可能性があります。情報管理を徹底し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
これらのメリット・デメリットを踏まえ、M&Aが最善の選択肢かどうかを慎重に検討する必要があります。
2. 合同会社売却のスキーム
合同会社のM&Aによる譲渡は、主に以下の4つのスキームで行われます。特徴やメリット・デメリットを踏まえ、自社にとって最適なスキームを選択することが重要です。
2.1 株式譲渡
株式譲渡は、会社の株式を売買するスキームです。合同会社は株式会社ではないため、株式を発行していません。そのため、株式譲渡を行うためには、事前に合同会社を株式会社へ組織変更する必要があります。
メリット
手続きが比較的容易である | |
譲渡所得税が課税されるため、法人税よりも税負担が軽くなる場合がある |
デメリット
組織変更の手続きや費用がかかる | |
債務や契約も全て引き継ぐことになる |
2.2 事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を、他の会社に譲渡するスキームです。事業譲渡は、合併や会社分割と比較して、手続きが比較的容易であるというメリットがあります。また、譲渡する事業を自由に選択できるため、会社の経営戦略に合わせて、柔軟に対応することができます。
【関連】株式譲渡と事業譲渡の違いとは?|目的とメリット・デメリットを徹底解説メリット
譲渡する事業を自由に選択できる | |
会社全体の債務を引き継がずに、一部の事業のみを譲渡できる |
デメリット
個々の資産や負債について、個別に契約交渉や名義変更手続きが必要となる | |
従業員の雇用関係については、個別に承継の同意を得る必要がある |
2.3 合併
合併とは、2つ以上の会社が、1つの会社に統合されるスキームです。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併は、存続会社が、消滅会社を吸収合併する形態です。新設合併は、新たに会社を設立し、合併する会社が全て消滅する形態です。
メリット
対外的信用力が高まる | |
経営資源を統合することで、シナジー効果が期待できる |
デメリット
手続きが複雑で、時間や費用がかかる | |
合併後の組織運営が難航する可能性がある |
2.4 会社分割
会社分割とは、会社の事業の一部または全部を、他の会社に承継させるスキームです。会社分割には、吸収分割と新設分割の2種類があります。吸収分割は、承継会社が、分割会社から事業を承継する形態です。新設分割は、新たに会社を設立し、分割会社から事業を承継する形態です。
メリット
事業の選択と集中を図ることができる | |
事業のリスクを分散させることができる |
デメリット
手続きが複雑で、時間や費用がかかる | |
分割後の事業が、当初の想定通りに進まない可能性がある |
3. 合同会社売却のスキームごとのメリット・デメリット
上記の4つのスキームについて、メリット・デメリットをまとめると、以下のようになります。
スキーム | メリット | デメリット |
---|---|---|
株式譲渡 |
|
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事業譲渡 |
|
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合併 |
|
|
会社分割 |
|
|
合同会社を売却する際には、これらのメリット・デメリットを比較検討し、自社にとって最適なスキームを選択することが重要です。専門家のアドバイスを受けるなどして、慎重に進めるようにしましょう。
4. 合同会社売却のスキームごとのメリット・デメリット
合同会社の売却スキームには、それぞれメリット・デメリットがあります。自社にとって最適なスキームを選択するためにも、それぞれのメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。
4.1 株式譲渡のメリット・デメリット
株式譲渡は、会社の株式を譲渡することで、会社そのものの支配権を移転するスキームです。合同会社の場合、株式譲渡を行うためには、株式会社へ組織変更する必要があります。そのため、ここでは、合同会社を株式会社へ組織変更した場合の株式譲渡のメリット・デメリットについて解説します。
会社法上の手続きが比較的容易
株式譲渡は、事業譲渡や合併と比較して、会社法上の手続きが比較的容易です。事業譲渡や合併の場合、債権者保護手続きなどが必要となる場合がありますが、株式譲渡では原則としてこれらの手続きは不要です。
従業員や取引先への影響が少ない
株式譲渡は、会社の経営者が変わるだけで、会社自体は存続するため、従業員や取引先への影響が比較的小さいです。事業譲渡や合併の場合、従業員の雇用関係や取引関係に変更が生じる可能性がありますが、株式譲渡では原則としてこれらの関係はそのまま引き継がれます。
組織変更の手続きが必要
合同会社の場合、株式譲渡を行うためには、株式会社へ組織変更する必要があります。組織変更の手続きは、煩雑で時間と費用がかかる場合があるため注意が必要です。
潜在的な負債を引き継ぐリスク
株式譲渡は、会社そのものを譲り受けるため、潜在的な負債を引き継ぐリスクがあります。譲渡前に、十分なデューデリジェンスを実施し、負債のリスクを把握しておくことが重要です。
4.2 事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を、他の会社に譲渡するスキームです。会社の売却ではなく、あくまで事業の譲渡であるため、譲渡後も会社は存続します。
必要な事業のみを譲渡できる
事業譲渡は、会社全体ではなく、事業の一部のみを譲渡することができます。そのため、成長事業に経営資源を集中させたい場合や、不採算事業から撤退したい場合などに有効なスキームです。
手続きが比較的容易
事業譲渡は、合併と比較して、手続きが比較的容易です。合併の場合、株主総会の特別決議などが必要となりますが、事業譲渡では原則として取締役会の決議のみで実行できます。ただし、事業譲渡の内容によっては、債権者保護手続きなどが必要となる場合があります。
譲渡契約の内容が複雑になりやすい
事業譲渡では、譲渡する事業の範囲や内容を明確に定める必要があります。譲渡契約の内容が曖昧だと、後々トラブルになる可能性があるため、注意が必要です。そのため、契約書の作成には、専門家のサポートを受けることが推奨されます。
従業員の同意を得ることが難しい場合がある
事業譲渡に伴い、従業員の雇用関係が譲渡会社から譲受会社に移転する場合があります。従業員の同意を得ることが難しい場合は、事業譲渡が困難になる可能性があります。
4.3 合併のメリット・デメリット
合併は、2つ以上の会社が1つになるスキームです。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併とは、存続会社が消滅会社を吸収合併し、消滅会社の権利義務を全て承継する合併です。新設合併とは、複数の会社が合併して、全く新しい会社を設立する合併です。合同会社の場合、株式会社との合併はできません。そのため、ここでは、合同会社同士の合併のメリット・デメリットについて解説します。
シナジー効果を期待できる
合併により、経営資源を統合することで、シナジー効果を期待することができます。例えば、販売網の共有や、研究開発力の向上などが期待できます。
経営の効率化を図れる
合併により、重複する部門を統合することで、経営の効率化を図ることができます。例えば、間接部門の統合や、システムの統一などが考えられます。
組織統合が難しい
合併により、異なる企業文化を持つ組織を統合する必要があるため、組織統合が難しい場合があります。組織統合がうまくいかないと、従業員のモチベーション低下や、離職率の増加につながる可能性があります。
合併後の企業文化の統一が必要
合併により、異なる企業文化を持つ組織が1つになるため、合併後の企業文化の統一が必要となります。企業文化の統一がうまくいかないと、社内の混乱を招き、業務に支障が生じる可能性があります。
4.4 会社分割のメリット・デメリット
会社分割とは、会社の一部の事業を、他の会社に承継させるスキームです。会社分割には、吸収分割と新設分割の2種類があります。吸収分割とは、分割会社の一部の事業を、既存の会社に承継させる分割です。新設分割とは、分割会社の一部の事業を、新たに設立する会社に承継させる分割です。
【関連】吸収分割とは?種類、メリット・デメリット、手続きまで徹底解説!【事例付き】事業の選択と集中が可能
会社分割により、成長事業に経営資源を集中させたり、不採算事業から撤退したりすることができます。また、事業部門の独立性を高めることで、意思決定の迅速化や、責任の明確化を図ることもできます。
事業の継承を円滑に進められる
会社分割は、事業の承継方法として、株式譲渡や事業譲渡と比較して、従業員や取引先への影響が比較的小さいです。そのため、事業の継承を円滑に進めることができます。
手続きが煩雑
会社分割は、株式譲渡や事業譲渡と比較して、手続きが煩雑です。会社分割契約書の作成や、債権者保護手続きなどが必要となります。
費用がかかる
会社分割には、登録免許税や、弁護士費用などの費用がかかります。会社分割の規模や、手続きの複雑さによって費用は異なりますが、高額になる場合もあるため、注意が必要です。
今回は、合同会社売却のスキームについて解説しました。それぞれのスキームにはメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせて、最適なスキームを選択することが重要です。どのスキームが最適か判断が難しい場合には、専門家に相談することをおすすめします。
5. まとめ
合同会社は株式会社と比較して設立が容易なため、近年多くの企業が合同会社を選択しています。しかし、事業承継の観点から見ると、後継者問題や売却時の買い手探しなど、株式会社よりも不利な点があることも事実です。
もしあなたが経営する合同会社の将来について、事業承継やM&Aを検討しているのであれば、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
M&Aや事業承継は、会社の規模や経営状況、業界によって最適な方法が異なります。
専門家のサポートを受けることで、円滑な事業承継やM&Aを実現できる可能性が高まります。