株式譲渡と事業譲渡の違いとは?|目的とメリット・デメリットを徹底解説
このページでは、M&A手法である株式譲渡と事業譲渡の違いやその目的、メリット・デメリットについて詳しく理解できます。
また、どちらを選択すべきかについての指針や 実際の成功事例と失敗事例についても知ることができます。これにより、適切な譲渡方法を選ぶための知識を学んでいきましょう。
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1. 株式譲渡とは? 1.1 株式譲渡の概要 株式譲渡とは、 会社の株式を売買契約によって他の個人や法人に移転する行為です。これにより、株式の所有者が変更され、その結果、会社の経営権が譲渡されることになります。 株式譲渡はM&Aでの取引において最も一般的な方法として利用されている手法です。
株式譲渡によって、会社の経営方針や戦略が変わる場合があります。
例えば、A社がB社の株式を購入して経営権を取得することで、B社の事業戦略をA社の方向に揃えることが可能になります。
1.2 株式譲渡の具体的な手続き 1.2.1 株式譲渡契約の締結 株式譲渡契約は、 譲渡人と譲受人との間で株式の売買条件や価格を明示する契約です。これにより、株式の所有権が法律上正式に定められます。契約書には、譲渡する株式の数量、価格、支払い方法などが詳細に記載されます。
例えば、A社がB社に株式を譲渡する際、株式の価格が1株1000円で1000株を譲渡する旨が契約書に記載されることになります。
1.2.2 株主総会の承認 株式譲渡が完了する前に、譲渡が無効とならないように株主総会の承認を得ることが必要です。特に、譲渡制限がある場合には株主総会の特別決議を経て譲渡契約の内容が承認される必要があります。
具体的には、企業によっては株主の3分の2以上の賛成が必要とされる場合があります。
1.2.3 名義変更の手続き 株式の所有権が正式に移転した後、株主名簿にその変更を記録する必要があります。
これにより、新しい株主が正式に登記され、会社に対する権利を確保します。名義変更手続きは会社の法務部門や証券代行会社が行うことが一般的です。
名義変更が完了することで、新たな株主が正式に会社の株主として認められることになります。
1.3 株式譲渡の目的 1.3.1 所有権の移転 株式譲渡は、会社の所有権を他者に移転する手段として用いられます。これにより、所有者の権利と義務が新しい株主に移行します。
例えば、オーナーが引退を考えている場合、新しい所有者にスムーズに経営権を移転させるために株式譲渡を行うことがあります。
これにより、新しい経営者が即座に経営を引き継ぎ、会社の運営を継続することが可能です。
1.3.2 構成の変化 M&Aのクロージング後の株式譲渡により、会社の株主構成が変わることがあります。これによって、経営方針や会社の方向性が変わる可能性があります。
例えば、新しい株主が持つビジョンや戦略が会社に反映されるようになります。株主構成の変化は、企業の競争力を強化するための重要なステップとなることがあります。
1.4 株式譲渡のメリット・デメリット 1.4.1 デメリット
1.4.2 デメリット
2. 事業譲渡とは 2.1 事業譲渡の概要 事業譲渡とは、企業が特定の事業部門や資産、負債を他の企業に譲渡することを指します。この譲渡によって、譲受企業は譲渡企業の事業内容や資産、負債をそのまま引き継ぎます。
事業譲渡の主な目的は経営の効率化や事業の再編成、新しい事業分野への進出などです。
また、事業譲渡は企業の資産と負債のうち、特定のものだけを譲渡することができるため、企業の戦略的な選択肢として利用されることが多いです。
2.2 事業譲渡の具体的な手続き 2.2.1 事業譲渡契約の締結 まず、譲渡企業と譲受企業は事業譲渡契約を締結します。この契約には、譲渡する事業や資産、負債の具体的な内容、譲渡価格、譲渡の実行時期などが明記されます。
2.2.2 資産・負債の移動 事業譲渡における重要なステップの一つが、資産と負債の移動です。譲渡対象となる資産には、不動産、動産、知的財産権などが含まれます。
また、負債も同様に移動しますが、金融機関との協議が必要な場合もあります。このプロセスは慎重に行わなければなりません。
具体的な例として、株式会社ABCが株式会社XYZにある工場とその設備、そして関連する負債を譲渡する場合、これには不動産評価、設備の査定、負債の精査などの具体的な作業が必要になります。
2.2.3 従業員の引継ぎ 事業譲渡の際には、従業員の引継ぎが伴うことが多いです。譲受企業は、譲渡企業の従業員をそのまま引き継ぐ場合がありますが、その際には労働契約の再締結が必要となることがあります。また、従業員の意向を尊重することが重要です。
従業員の引継ぎに失敗すると、労働争議やモチベーション低下が生じる可能性があります。
例えば、ある大手企業の事業譲渡において、新しい経営体制に対する従業員の不満から、大規模な離職が発生した事例があります。
2.3 事業譲渡の目的 2.3.1 事業構造の変化 事業譲渡の目的の一つは、事業構造の変化を通じて競争力を高めることです。既存の事業を売却することで、企業は新しい事業領域にリソースを集中させることができます。
例えば、自動車メーカーが電気自動車(EV)事業に集中するために、ガソリン車関連の事業部門を譲渡することがあります。これにより、企業は迅速にEV市場に対応することが可能になります。
2.3.2 事業の再編成 もう一つの目的は、事業の再編成によって効率を向上させることです。収益性の低い事業や戦略的に重要でない事業を譲渡することで、企業全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
実際の例として、製薬会社が研究開発(R&D)にリソースを集中するために、製造部門を他社に譲渡することがあります。これはR&Dの強化に専念し、高い競争力を維持するための戦略的な動きです。
2.4 事業譲渡のメリット・デメリット 2.4.1 メリット
事業譲渡は企業に柔軟性を提供し、特定の資産と負債を選択的に譲渡することで財務リスクを最小限に抑えることができます。さらに、新たな事業分野に進出する際のリスク回避としても有効です。
2.4.2 デメリット
しかし、事業譲渡には特有の課題も存在します。手続きが複雑で時間がかかること、従業員引継ぎに伴う労務管理の問題、契約条件の交渉が難航する可能性があることなどが挙げられます。
例えば、あるIT企業がソフトウェア開発部門を譲渡しようとした際に、契約条件の交渉が長引き、最終的に譲渡が完了するまでに1年近くかかった事例があります。
これは事業譲渡のデメリットを顕著に示しています。
3. 株式譲渡と事業譲渡の主要な違い 3.1 所有権の移転方法の違い 株式譲渡の場合、所有権は株主が保有する株式の移転によって行われます。一方、事業譲渡では、特定の事業に関する資産や負債、契約などが移転します。
3.2 手続きの違い 株式譲渡では、主に株主総会の承認や名義変更が必要です。事業譲渡においては、譲渡契約の締結、資産・負債の移動、従業員の引継ぎなどが求められます。
・株式譲渡契約の締結
・名義変更の手続き
・資産・負債の移動
・従業員の引継ぎ
3.3 法的影響の違い 株式譲渡の場合、会社の法人格や内部構造は基本的に変わりません。事業譲渡では、譲受企業が譲渡された事業を引き継ぎ、その影響が明確に現れます。
3.4 税務上の違い 株式譲渡では、売買差益が譲渡利益として課税対象となります。事業譲渡では、資産の譲渡益や消費税の問題が生じることがあります。
・売買差益の課税
・消費税が発生する可能性
4. 株式譲渡と事業譲渡の選択ポイント 4.1 事業の規模と体制 株式譲渡か事業譲渡かの選択は、企業の規模や体制によります。大企業の場合、株式譲渡が一般的です。理由としては、企業全体の資産や負債の把握が容易であるためです。
一方、小規模事業者やスタートアップの場合、事業譲渡が適していることが多いです。以下のようなポイントが重要となります。
ただし、企業の規模にも関係なく事業譲渡する側の意向で譲渡方法を選択する場合があります。会社全体を譲渡する場合は株式譲渡を、会社の一部を譲渡する場合は事業譲渡を選択するケースが多いようです。
4.1.1 大企業の場合
4.1.2 中小企業の場合
4.2 譲渡の目的 株式譲渡と事業譲渡を選ぶ際には、譲渡の目的が重要な要素です。例えば、事業拡大を目指す場合は株式譲渡が適していますが、事業の再編成や撤退を目的とする場合は事業譲渡が適しています。
4.2.1 事業拡大
4.2.2 事業再編
4.3 資金調達の方法 資金調達の方法も、株式譲渡か事業譲渡かを選ぶ際の重要な要素です。どの方法を選ぶべきかは、以下のような点を考慮する必要があります。
4.3.1 株式譲渡
4.3.2 事業譲渡
4.4 従業員やステークホルダーへの影響 従業員やステークホルダーへの影響も、譲渡の方式を選ぶ際に重要な要素です。株式譲渡の場合と事業譲渡の場合で、それぞれ異なる影響が生じます。
4.4.1 株式譲渡
4.4.2 事業譲渡
選択ポイントを整理すると、各企業の状況や目的に応じて最適な譲渡方式を選ぶことが重要であると言えます。企業の経営戦略や財務状況、ステークホルダーの意向を考慮しながら適切な判断を行いましょう。
5. 実際の成功事例と失敗事例 5.1 成功事例 5.1.1 事例1: 通信N社による株式譲渡での海外市場拡大 通信N社は、インドのIT企業を株式譲渡で完全子会社化しました。これにより、現地の技術とネットワークを活用し、インド市場への迅速な浸透が可能となりました。
特に、金融サービス業界向けの大規模プロジェクトを多数受注し、アジア全体での市場シェアを大幅に拡大しました。
株式譲渡後の3年間で売上は20%増加し、利益率も10%向上しました。この一連の成功により、通信N社はグローバル展開を加速させ、海外売上比率を飛躍的に向上させました。
5.1.2 事例2: 電機メーカーP社の事業譲渡でのリストラ成功 電機メーカーP社は不採算部門を切り離すため、主力事業の一部を譲渡することを決定。この譲渡により、企業体制のスリム化を図り、効率的な経営に切り替えることができました。
事業譲渡後、電機メーカーP社は集中化された事業戦略を展開し、業績悪化を防ぎました。特に、譲渡対象となった部門の従業員は新しい企業体制の下で新たな挑戦をし、高い士気を保つことができました。
この結果、企業全体としての収益性が大幅に改善されました。
5.2 失敗事例 5.2.1 事例1: 世界的企業S社の株式譲渡失敗による経営悪化 世界的企業S社は、持続的な成長を狙って株式譲渡を行いましたが、新しい株主との経営方針の不一致が露呈しました。この影響で内部の統率力が低下し、戦略の混乱が続きました。
株式譲渡後、経営陣が頻繁に交代し、短期的な視点での事業運営が続きました。
その結果、株価が急落。新規事業の投資も停止され、企業の信用が失墜。最終的に再建が必要となりました。
5.2.2 事例2: 電気機器メーカーS社の事業譲渡失敗による従業員流出 電気機器メーカーS社は経営悪化の対策として事業譲渡を決定。しかし、従業員への説明が不十分であったため、多くの従業員が退職を選びました。この人材流出は企業の競争力を大幅に低下させました。
新しい経営陣は急速な再編成を試みましたが、それに従業員がついていかず、業績が低迷。特に生産ラインの効率低下が顕著となり、最終的に企業そのものの存続が危ぶまれる状況にまで陥りました。
6. まとめ 株式譲渡と事業譲渡の違いについて理解することは、企業戦略において非常に重要です。
株式譲渡は会社の所有権全体を移転する際に用いられ、手続きが簡便である一方、株主総会の承認が必要であるなどのデメリットもあります。
対して、事業譲渡は特定の事業や資産のみを譲渡する方法で、より柔軟に事業構造を再編成することが可能です。しかし、資産や負債の移動、従業員の引継ぎなど複雑な手続きが伴います。
目的としては、株式譲渡は所有権の移転や経営権の変動を主目的として行われ、事業譲渡は事業の再編成や不要事業の切り離しを目的とすることが多いです。これらの違いにより、どちらを選択するかは企業の具体的な状況と戦略に依存します。
また、手続きや法的影響、税務上の違いも考慮する必要があります。特に税務面では、譲渡方法によってかかる税金が大きく異なるため、専門家の意見を求めることが不可欠です。
さらに、従業員やステークホルダーへの影響も重要なポイントです。どちらの方法も一長一短があり、成功事例も失敗事例も存在します。
最終的には、事業の規模や体制、譲渡の目的、資金調達の方法などを総合的に判断し、最適な選択を行うことが求められます。
それぞれの方法のメリット・デメリットを十分に理解し、適切な戦略を立てることで、株式譲渡や事業譲渡を成功に導くことができるでしょう。
また、どちらを選択すべきかについての指針や 実際の成功事例と失敗事例についても知ることができます。これにより、適切な譲渡方法を選ぶための知識を学んでいきましょう。
M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。
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- 目次
- 事業承継とは?
1.1 株式譲渡の概要
1.2 株式譲渡の具体的な手続き
1.2.1 株式譲渡契約の締結
1.2.2 株主総会の承認
1.2.3 名義変更の手続き
1.3 株式譲渡の目的
1.3.1 所有権の移転
1.3.2 構成の変化
1.4 株式譲渡のメリット・デメリット
1.4.1 メリット
1.4.2 デメリット
- 事業譲渡とは?
2.1 事業譲渡の概要
2.2 事業譲渡の具体的な手続き
2.2.1 事業譲渡契約の締結
2.2.2 資産・負債の移動
2.2.3 従業員の引継ぎ
2.3 事業譲渡の目的
2.3.1 事業構造の変化
2.3.2 事業の再編成
2.4 事業譲渡のメリット・デメリット
2.4.1 メリット
2.4.2 デメリット - 株式譲渡と事業譲渡の主要な違い
3.1 所有権の移転方法の違い
3.2 手続きの違い
3.4 法的影響の違い
3.4 税務上の違い - 株式譲渡と事業譲渡の選択ポイント
4.1 事業の規模と体制
4.1.1 大企業の場合
4.1.2 中小企業の場合
4.2 譲渡の目的
4.2.1 事業拡大
4.2.2 事業再編
4.3 資金調達の方法
4.3.1 株式譲渡
4.3.2 事業譲渡
4.4 従業員やステークホルダーへの影響
4.4.1 株式譲渡
4.4.2 事業譲渡 - 実際の成功事例と失敗事例
5.1 成功事例
5.1.1 事例1: 通信N社による株式譲渡での海外市場拡大
5.1.2 事例2: 電機メーカーP社の事業譲渡でのリストラ成功
5.2 失敗事例
5.2.1 事例1: 世界的企業S社の株式譲渡失敗による経営悪化
5.2.2 事例2: 電気機器メーカーS社の事業譲渡失敗による従業員流出 - まとめ
- 事業承継とは?
1. 株式譲渡とは? 1.1 株式譲渡の概要 株式譲渡とは、 会社の株式を売買契約によって他の個人や法人に移転する行為です。これにより、株式の所有者が変更され、その結果、会社の経営権が譲渡されることになります。 株式譲渡はM&Aでの取引において最も一般的な方法として利用されている手法です。
株式譲渡によって、会社の経営方針や戦略が変わる場合があります。
例えば、A社がB社の株式を購入して経営権を取得することで、B社の事業戦略をA社の方向に揃えることが可能になります。
1.2 株式譲渡の具体的な手続き 1.2.1 株式譲渡契約の締結 株式譲渡契約は、 譲渡人と譲受人との間で株式の売買条件や価格を明示する契約です。これにより、株式の所有権が法律上正式に定められます。契約書には、譲渡する株式の数量、価格、支払い方法などが詳細に記載されます。
例えば、A社がB社に株式を譲渡する際、株式の価格が1株1000円で1000株を譲渡する旨が契約書に記載されることになります。
1.2.2 株主総会の承認 株式譲渡が完了する前に、譲渡が無効とならないように株主総会の承認を得ることが必要です。特に、譲渡制限がある場合には株主総会の特別決議を経て譲渡契約の内容が承認される必要があります。
具体的には、企業によっては株主の3分の2以上の賛成が必要とされる場合があります。
1.2.3 名義変更の手続き 株式の所有権が正式に移転した後、株主名簿にその変更を記録する必要があります。
これにより、新しい株主が正式に登記され、会社に対する権利を確保します。名義変更手続きは会社の法務部門や証券代行会社が行うことが一般的です。
名義変更が完了することで、新たな株主が正式に会社の株主として認められることになります。
1.3 株式譲渡の目的 1.3.1 所有権の移転 株式譲渡は、会社の所有権を他者に移転する手段として用いられます。これにより、所有者の権利と義務が新しい株主に移行します。
例えば、オーナーが引退を考えている場合、新しい所有者にスムーズに経営権を移転させるために株式譲渡を行うことがあります。
これにより、新しい経営者が即座に経営を引き継ぎ、会社の運営を継続することが可能です。
1.3.2 構成の変化 M&Aのクロージング後の株式譲渡により、会社の株主構成が変わることがあります。これによって、経営方針や会社の方向性が変わる可能性があります。
例えば、新しい株主が持つビジョンや戦略が会社に反映されるようになります。株主構成の変化は、企業の競争力を強化するための重要なステップとなることがあります。
1.4 株式譲渡のメリット・デメリット 1.4.1 デメリット
素早い所有権の移転が可能 | |
手続きが比較的簡単である | |
譲受人に新たな資金や知識がもたらされる可能性がある | |
株式譲渡は、他の譲渡方法に比べて税務上のメリットがある場合がある | |
従業員や取引先に対する影響が少ない |
1.4.2 デメリット
取引価格の交渉が難しい場合がある | |
株式譲渡制限がある場合は承認手続きが煩雑になる | |
譲渡による経営権の変動があるため、会社の安定性が揺らぐ可能性がある | |
株式譲渡によって、新しい株主が抱えるリスクを引き継ぐことがある | |
大規模な株式譲渡は公正取引委員会の審査対象となる可能性があるため、審査期間が長引くことがある |
2. 事業譲渡とは 2.1 事業譲渡の概要 事業譲渡とは、企業が特定の事業部門や資産、負債を他の企業に譲渡することを指します。この譲渡によって、譲受企業は譲渡企業の事業内容や資産、負債をそのまま引き継ぎます。
事業譲渡の主な目的は経営の効率化や事業の再編成、新しい事業分野への進出などです。
また、事業譲渡は企業の資産と負債のうち、特定のものだけを譲渡することができるため、企業の戦略的な選択肢として利用されることが多いです。
2.2 事業譲渡の具体的な手続き 2.2.1 事業譲渡契約の締結 まず、譲渡企業と譲受企業は事業譲渡契約を締結します。この契約には、譲渡する事業や資産、負債の具体的な内容、譲渡価格、譲渡の実行時期などが明記されます。
2.2.2 資産・負債の移動 事業譲渡における重要なステップの一つが、資産と負債の移動です。譲渡対象となる資産には、不動産、動産、知的財産権などが含まれます。
また、負債も同様に移動しますが、金融機関との協議が必要な場合もあります。このプロセスは慎重に行わなければなりません。
具体的な例として、株式会社ABCが株式会社XYZにある工場とその設備、そして関連する負債を譲渡する場合、これには不動産評価、設備の査定、負債の精査などの具体的な作業が必要になります。
2.2.3 従業員の引継ぎ 事業譲渡の際には、従業員の引継ぎが伴うことが多いです。譲受企業は、譲渡企業の従業員をそのまま引き継ぐ場合がありますが、その際には労働契約の再締結が必要となることがあります。また、従業員の意向を尊重することが重要です。
従業員の引継ぎに失敗すると、労働争議やモチベーション低下が生じる可能性があります。
例えば、ある大手企業の事業譲渡において、新しい経営体制に対する従業員の不満から、大規模な離職が発生した事例があります。
2.3 事業譲渡の目的 2.3.1 事業構造の変化 事業譲渡の目的の一つは、事業構造の変化を通じて競争力を高めることです。既存の事業を売却することで、企業は新しい事業領域にリソースを集中させることができます。
例えば、自動車メーカーが電気自動車(EV)事業に集中するために、ガソリン車関連の事業部門を譲渡することがあります。これにより、企業は迅速にEV市場に対応することが可能になります。
2.3.2 事業の再編成 もう一つの目的は、事業の再編成によって効率を向上させることです。収益性の低い事業や戦略的に重要でない事業を譲渡することで、企業全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
実際の例として、製薬会社が研究開発(R&D)にリソースを集中するために、製造部門を他社に譲渡することがあります。これはR&Dの強化に専念し、高い競争力を維持するための戦略的な動きです。
2.4 事業譲渡のメリット・デメリット 2.4.1 メリット
事業構造の柔軟性が高い | |
資産と負債の選択的な移動が可能 | |
新規事業展開のリスク回避 |
事業譲渡は企業に柔軟性を提供し、特定の資産と負債を選択的に譲渡することで財務リスクを最小限に抑えることができます。さらに、新たな事業分野に進出する際のリスク回避としても有効です。
2.4.2 デメリット
手続きが複雑で時間がかかる | |
従業員の引継ぎに伴う労務管理の課題 | |
契約条件の交渉が難航する可能性がある |
しかし、事業譲渡には特有の課題も存在します。手続きが複雑で時間がかかること、従業員引継ぎに伴う労務管理の問題、契約条件の交渉が難航する可能性があることなどが挙げられます。
例えば、あるIT企業がソフトウェア開発部門を譲渡しようとした際に、契約条件の交渉が長引き、最終的に譲渡が完了するまでに1年近くかかった事例があります。
これは事業譲渡のデメリットを顕著に示しています。
3. 株式譲渡と事業譲渡の主要な違い 3.1 所有権の移転方法の違い 株式譲渡の場合、所有権は株主が保有する株式の移転によって行われます。一方、事業譲渡では、特定の事業に関する資産や負債、契約などが移転します。
株式譲渡 | 事業譲渡 | |
---|---|---|
移転対象 |
|
|
譲渡範囲 |
|
|
契約関係 |
|
|
3.2 手続きの違い 株式譲渡では、主に株主総会の承認や名義変更が必要です。事業譲渡においては、譲渡契約の締結、資産・負債の移動、従業員の引継ぎなどが求められます。
1.株式譲渡
・株主総会の承認・株式譲渡契約の締結
・名義変更の手続き
2.事業譲渡
・事業譲渡契約の締結・資産・負債の移動
・従業員の引継ぎ
3.3 法的影響の違い 株式譲渡の場合、会社の法人格や内部構造は基本的に変わりません。事業譲渡では、譲受企業が譲渡された事業を引き継ぎ、その影響が明確に現れます。
株式譲渡 | 事業譲渡 | |
---|---|---|
法人格 |
|
|
内部構造 |
|
|
3.4 税務上の違い 株式譲渡では、売買差益が譲渡利益として課税対象となります。事業譲渡では、資産の譲渡益や消費税の問題が生じることがあります。
1.株式譲渡
・譲渡利益に対する所得税・売買差益の課税
2.事業譲渡
・譲渡益に対する法人税・消費税が発生する可能性
4. 株式譲渡と事業譲渡の選択ポイント 4.1 事業の規模と体制 株式譲渡か事業譲渡かの選択は、企業の規模や体制によります。大企業の場合、株式譲渡が一般的です。理由としては、企業全体の資産や負債の把握が容易であるためです。
一方、小規模事業者やスタートアップの場合、事業譲渡が適していることが多いです。以下のようなポイントが重要となります。
大企業 | 株式譲渡 |
---|---|
中小企業 | 事業譲渡 |
ただし、企業の規模にも関係なく事業譲渡する側の意向で譲渡方法を選択する場合があります。会社全体を譲渡する場合は株式譲渡を、会社の一部を譲渡する場合は事業譲渡を選択するケースが多いようです。
4.1.1 大企業の場合
株式譲渡は手続きが簡便であり、取引費用も比較的低い | |
企業全体の価値を評価しやすい |
4.1.2 中小企業の場合
事業譲渡は、特定の事業のみを対象とするため、資産と負債の移転が個別に管理しやすい | |
柔軟性が高く、事業再編や戦略的な撤退が容易に行える |
4.2 譲渡の目的 株式譲渡と事業譲渡を選ぶ際には、譲渡の目的が重要な要素です。例えば、事業拡大を目指す場合は株式譲渡が適していますが、事業の再編成や撤退を目的とする場合は事業譲渡が適しています。
4.2.1 事業拡大
株式譲渡は、企業全体の成長を目指す場合に必要なリソースを集める手段となります |
4.2.2 事業再編
事業譲渡は、特定の事業部門や資産のみを切り出して売却することができるため、企業の再編に有効です |
4.3 資金調達の方法 資金調達の方法も、株式譲渡か事業譲渡かを選ぶ際の重要な要素です。どの方法を選ぶべきかは、以下のような点を考慮する必要があります。
4.3.1 株式譲渡
企業全体の株式を売却することで、大規模な資金調達が可能 | |
株式市場に上場している企業の場合、株式の流動性が高いため、買手が見つかりやすい |
4.3.2 事業譲渡
特定の事業部門や資産のみを売却するため、部分転換が容易 | |
譲渡する側は一定のキャッシュフローを保持しながら、必要な資金を調達する手段となる |
4.4 従業員やステークホルダーへの影響 従業員やステークホルダーへの影響も、譲渡の方式を選ぶ際に重要な要素です。株式譲渡の場合と事業譲渡の場合で、それぞれ異なる影響が生じます。
4.4.1 株式譲渡
株式譲渡の場合、企業全体の所有権が変わるため、経営体制や経営方針の変更が少ない | |
従業員や取引先への影響も比較的小さい |
4.4.2 事業譲渡
事業譲渡では、特定の事業部門が分離されるため、従業員の配置転換や解雇のリスクがある | |
主要な取引先への説明や同意が必要となる場合が多い |
選択ポイントを整理すると、各企業の状況や目的に応じて最適な譲渡方式を選ぶことが重要であると言えます。企業の経営戦略や財務状況、ステークホルダーの意向を考慮しながら適切な判断を行いましょう。
5. 実際の成功事例と失敗事例 5.1 成功事例 5.1.1 事例1: 通信N社による株式譲渡での海外市場拡大 通信N社は、インドのIT企業を株式譲渡で完全子会社化しました。これにより、現地の技術とネットワークを活用し、インド市場への迅速な浸透が可能となりました。
特に、金融サービス業界向けの大規模プロジェクトを多数受注し、アジア全体での市場シェアを大幅に拡大しました。
株式譲渡後の3年間で売上は20%増加し、利益率も10%向上しました。この一連の成功により、通信N社はグローバル展開を加速させ、海外売上比率を飛躍的に向上させました。
5.1.2 事例2: 電機メーカーP社の事業譲渡でのリストラ成功 電機メーカーP社は不採算部門を切り離すため、主力事業の一部を譲渡することを決定。この譲渡により、企業体制のスリム化を図り、効率的な経営に切り替えることができました。
事業譲渡後、電機メーカーP社は集中化された事業戦略を展開し、業績悪化を防ぎました。特に、譲渡対象となった部門の従業員は新しい企業体制の下で新たな挑戦をし、高い士気を保つことができました。
この結果、企業全体としての収益性が大幅に改善されました。
5.2 失敗事例 5.2.1 事例1: 世界的企業S社の株式譲渡失敗による経営悪化 世界的企業S社は、持続的な成長を狙って株式譲渡を行いましたが、新しい株主との経営方針の不一致が露呈しました。この影響で内部の統率力が低下し、戦略の混乱が続きました。
株式譲渡後、経営陣が頻繁に交代し、短期的な視点での事業運営が続きました。
その結果、株価が急落。新規事業の投資も停止され、企業の信用が失墜。最終的に再建が必要となりました。
5.2.2 事例2: 電気機器メーカーS社の事業譲渡失敗による従業員流出 電気機器メーカーS社は経営悪化の対策として事業譲渡を決定。しかし、従業員への説明が不十分であったため、多くの従業員が退職を選びました。この人材流出は企業の競争力を大幅に低下させました。
新しい経営陣は急速な再編成を試みましたが、それに従業員がついていかず、業績が低迷。特に生産ラインの効率低下が顕著となり、最終的に企業そのものの存続が危ぶまれる状況にまで陥りました。
6. まとめ 株式譲渡と事業譲渡の違いについて理解することは、企業戦略において非常に重要です。
株式譲渡は会社の所有権全体を移転する際に用いられ、手続きが簡便である一方、株主総会の承認が必要であるなどのデメリットもあります。
対して、事業譲渡は特定の事業や資産のみを譲渡する方法で、より柔軟に事業構造を再編成することが可能です。しかし、資産や負債の移動、従業員の引継ぎなど複雑な手続きが伴います。
目的としては、株式譲渡は所有権の移転や経営権の変動を主目的として行われ、事業譲渡は事業の再編成や不要事業の切り離しを目的とすることが多いです。これらの違いにより、どちらを選択するかは企業の具体的な状況と戦略に依存します。
また、手続きや法的影響、税務上の違いも考慮する必要があります。特に税務面では、譲渡方法によってかかる税金が大きく異なるため、専門家の意見を求めることが不可欠です。
さらに、従業員やステークホルダーへの影響も重要なポイントです。どちらの方法も一長一短があり、成功事例も失敗事例も存在します。
最終的には、事業の規模や体制、譲渡の目的、資金調達の方法などを総合的に判断し、最適な選択を行うことが求められます。
それぞれの方法のメリット・デメリットを十分に理解し、適切な戦略を立てることで、株式譲渡や事業譲渡を成功に導くことができるでしょう。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。