資本業務提携とM&Aの違いとは?目的別で最適な戦略を選択する方法
「資本業務提携」と「M&A」の違い、きちんと理解できていますか?どちらも企業同士の連携方法ですが、その内容は大きく異なります。なんとなく理解しているつもりでも、出資比率や経営への関与度合い、契約期間など、具体的な違いを把握していないと、最適な戦略を選択することはできません。この記事では、資本業務提携とM&Aの5つの違いを分かりやすく解説。出資比率や経営関与、契約期間、目的、手続きの面から、それぞれの特徴を比較します。
さらに、それぞれのメリット・デメリット、具体的な事例も紹介することで、より深く理解を深めることができます。事業拡大、経営資源の確保、事業再生、シナジー効果創出など、それぞれの目的別に最適な戦略は何か?この記事を読むことで、その疑問を解消し、あなたのビジネス戦略に役立つ知識を手に入れることができるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
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1. 資本業務提携とM&Aの概要
1.1 資本業務提携とは
1.2 M&Aとは
2. 資本業務提携とM&Aの5つの違い
2.1 出資比率の違い
2.2 経営への関与の違い
2.3 契約期間の違い
2.4 目的の違い
2.5 手続きの違い
3. 資本業務提携とM&Aのメリット・デメリット
3.1 資本業務提携のメリット・デメリット
3.2 M&Aのメリット・デメリット
4. 資本業務提携とM&Aの事例
4.1 資本業務提携の事例
4.2 M&Aの事例
5. 目的別で最適な戦略を選択する方法
5.1 事業拡大を目指す場合
5.2 経営資源の確保を目指す場合
5.3 事業再生を目指す場合
5.4 シナジー効果を狙う場合
6. まとめ
1. 資本業務提携とM&Aの概要
企業が成長戦略を描く上で、資本業務提携とM&Aは重要な選択肢となります。どちらも外部の企業と連携することで自社の事業を強化・拡大する手法ですが、その内容には大きな違いがあります。この章では、資本業務提携とM&Aの概要、それぞれの定義や基本的な仕組みについて解説します。それぞれの違いを理解することで、自社にとって最適な戦略を選択する上で重要な判断材料となります。
1.1 資本業務提携とは
資本業務提携とは、2社以上の企業が相互に株式を持ち合う、もしくは一方の企業が他方の企業に出資することで、長期的な協力関係を構築する戦略的提携です。単なる取引関係を超えて、技術提携、販売提携、共同開発など、幅広い分野での協業を実現します。出資を通じて相互の信頼関係を強化し、リスクを共有しながら新たな事業展開や市場開拓を目指すことが目的です。
提携関係にある企業同士は、互いの強みを活かし、シナジー効果を生み出すことで競争優位性を築き、持続的な成長を目指します。近年、異業種間での資本業務提携も増加しており、新たなイノベーション創出の手段としても注目されています。オープンイノベーションやデジタル・トランスフォーメーション(DX)推進の文脈でも、資本業務提携は重要な役割を果たしています。
1.2 M&Aとは
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併と買収を指します。合併とは、2つ以上の企業が対等な立場で統合し、新たな1つの企業となることを指します。買収とは、ある企業が他の企業の経営権を取得することを指し、買収される側の企業は買収する側の企業の子会社となるか、吸収合併されるケースが一般的です。
M&Aは、企業規模の拡大、市場シェアの獲得、新技術やノウハウの取得、事業ポートフォリオの再構築、経営効率の向上などを目的として行われます。友好的M&Aと敵対的M&Aがあり、友好的M&Aは、買収対象企業の経営陣の合意に基づいて行われるのに対し、敵対的M&Aは、買収対象企業の経営陣の反対を押し切って行われます。M&Aは、企業戦略において非常に重要な位置づけとなっており、企業の成長や競争力の強化に大きく貢献する可能性を秘めています。
一方で、M&Aには、文化の違いによる統合の難しさ、買収価格の高騰、デューデリジェンスの重要性など、様々なリスクも伴います。M&Aを成功させるためには、綿密な計画と実行が不可欠です。
項目 | 資本業務提携 | M&A |
---|---|---|
定義 | 企業同士が株式の持ち合いなどを通じて協力関係を築くこと | 企業の合併または買収 |
目的 | 相互の強みを活かしたシナジー創出、新事業展開、市場開拓 | 規模拡大、市場シェア獲得、技術取得、事業再編 |
関係性 | 対等なパートナーシップ | 買収企業が主導権を握る |
法的拘束力 | 提携契約による | 法的統合または子会社化 |
2. 資本業務提携とM&Aの5つの違い
資本業務提携とM&Aは、どちらも企業間の連携強化を目的とした戦略ですが、その手法や効果には大きな違いがあります。ここでは、出資比率、経営への関与、契約期間、目的、手続きの5つの観点から、両者の違いを詳しく解説します。
2.1 出資比率の違い
2.1.1 資本業務提携の出資比率
資本業務提携における出資比率は、提携の目的や規模によって大きく変動します。一般的には、少数出資から過半数未満の出資まで幅広く、提携先の経営権を握ることは稀です。例えば、技術提携や販売提携を目的とした場合、出資比率は低く抑えられる傾向があります。一方で、より緊密な関係を構築する場合や、共同事業を展開する場合は、出資比率が高くなることもあります。具体的な出資比率は、提携企業間の交渉によって決定されます。
2.1.2 M&Aの出資比率
M&Aでは、買収企業が対象企業の株式の過半数以上を取得するのが一般的です。これにより、買収企業は対象企業の経営権を掌握し、意思決定に大きな影響力を持つことができます。完全子会社化を目指す場合は100%の株式取得を目指します。少数株主買収といった形態もありますが、経営権の取得を目的とするM&Aでは、高い出資比率が求められます。
2.2 経営への関与の違い
2.2.1 資本業務提携における経営関与
資本業務提携では、出資比率に応じて経営への関与度合いが変化します。少数出資の場合は、取締役の派遣や業務提携など限定的な関与にとどまることが多いです。一方、比較的高い出資比率の場合は、経営戦略への助言や共同事業の推進など、より深いレベルでの関与が行われることもあります。ただし、最終的な経営権は提携先の企業に残るため、買収企業のように経営を完全にコントロールすることはできません。
2.2.2 M&Aにおける経営関与
M&Aでは、買収企業が対象企業の経営権を取得するため、経営への関与は非常に大きくなります。経営陣の刷新、事業戦略の変更、組織 restructuring など、買収企業の意向を反映した経営が行われます。買収後、対象企業は買収企業の子会社となる場合が多く、その経営は買収企業の戦略に沿って進められます。
2.3 契約期間の違い
2.3.1 資本業務提携の契約期間
資本業務提携の契約期間は、提携の目的や内容によって様々です。短期的な提携の場合は数年間、長期的な提携の場合は10年以上となることもあります。契約期間満了後、契約を更新することも可能ですし、提携を解消することもできます。また、一定の成果が達成された場合や、提携関係が破綻した場合など、契約期間中でも提携を解消する条項が設けられることもあります。
2.3.2 M&Aの契約期間
M&Aは、株式の取得によって企業の支配権を移転させるため、原則として永続的なものです。一度買収が完了すると、買収企業は対象企業の経営権を保持し続けます。ただし、買収後に業績が悪化した場合や、戦略変更などにより、買収した企業を売却するケースもあります。
2.4 目的の違い
2.4.1 資本業務提携の目的
資本業務提携の目的は多岐に渡ります。新技術の開発、新市場への進出、販売チャネルの拡大、経営基盤の強化、リスク分散など、様々な目的で提携が行われます。例えば、ソフトバンクとヤフーの提携は、インターネットサービス事業の強化を目的としていました。
2.4.2 M&Aの目的
M&Aの目的も様々ですが、市場シェアの拡大、競合企業の排除、新たな事業領域への進出、経営効率の向上、技術力の獲得などが主な目的として挙げられます。例えば、NTTドコモによるKDDIの買収は、市場シェアの拡大と競争力の強化を目的としていました(仮定)。
2.5 手続きの違い
2.5.1 資本業務提携の手続き
資本業務提携の手続きは、提携の内容によって異なりますが、一般的には、デューデリジェンス、契約交渉、契約締結、株式の取得といった流れで進められます。デューデリジェンスでは、提携先の企業の財務状況や事業内容などを調査し、提携のリスクを評価します。契約交渉では、出資比率、経営への関与、契約期間など、提携の条件を決定します。
2.5.2 M&Aの手続き
M&Aの手続きは、資本業務提携よりも複雑で、より多くの時間と費用を要します。主な手続きとしては、デューデリジェンス、株式評価、買収価格の交渉、契約締結、資金調達、株式の取得、PMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)などがあります。M&Aにおいては、法令遵守や株主への説明責任なども重要です。
項目 | 資本業務提携 | M&A |
---|---|---|
出資比率 | 少数出資から過半数未満 | 過半数以上(完全子会社化の場合は100%) |
経営への関与 | 限定的 | 支配権取得 |
契約期間 | 数年~10年以上(更新・解消あり) | 永続的(売却の可能性あり) |
目的 | 新技術開発、新市場進出、販売チャネル拡大など | 市場シェア拡大、競合排除、新事業進出など |
手続き | デューデリジェンス、契約交渉、株式取得など | デューデリジェンス、株式評価、価格交渉、資金調達、PMIなど |
3. 資本業務提携とM&Aのメリット・デメリット
資本業務提携とM&Aは、どちらも企業の成長戦略として重要な役割を果たしますが、それぞれにメリットとデメリットが存在します。戦略を決定する際には、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の状況に合わせて最適な選択をする必要があります。
3.1 資本業務提携のメリット・デメリット
3.1.1 メリット
柔軟な提携解消 | M&Aと比較して、提携関係の解消が比較的容易です。市場環境の変化や戦略の見直しなど、状況に応じて柔軟に対応できます。 |
---|---|
段階的な協業 | 段階的に関係を深めていくことができるため、リスクを抑制しながら相互理解を深め、シナジー効果を最大化できます。まずは小規模な提携から始め、状況に応じて本格的なM&Aに発展させることも可能です。 |
経営の独立性維持 | 完全子会社化とは異なり、経営の独立性を維持しながら、必要な経営資源やノウハウを獲得できます。独自のブランドや企業文化を守りながら、成長を目指すことができます。 |
少額投資での協業 | M&Aに比べて少ない投資で協業関係を構築できるため、財務負担を抑えながら新たな事業展開や市場参入が可能になります。 |
リスク分散 | 単独での事業展開に比べて、リスクを分散させることができます。提携先との協業により、市場の変動や競争激化の影響を軽減できます。 |
3.1.2 デメリット
意思決定の遅延 | 提携先の合意形成が必要となるため、迅速な意思決定が困難になる場合があります。市場の変化への対応が遅れ、競争劣位に陥る可能性もあります。 |
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情報漏洩リスク | 提携先との情報共有が不可欠となるため、機密情報やノウハウの漏洩リスクが存在します。適切な情報管理体制の構築が重要です。 |
シナジー効果の発揮の難しさ | 提携先の企業文化や経営方針の違いにより、シナジー効果の発揮が難しい場合があります。綿密なコミュニケーションと相互理解が重要です。 |
提携解消時のコスト | 提携解消時に違約金や損害賠償が発生する可能性があります。契約内容を慎重に検討する必要があります。 |
経営の主導権争い | 提携先との間で経営の主導権争いが発生する可能性があります。明確な役割分担と合意形成が重要です。 |
3.2 M&Aのメリット・デメリット
3.2.1 メリット
迅速な意思決定 | 完全子会社化により、迅速な意思決定が可能になります。市場の変化への対応をスピーディーに行い、競争優位性を築くことができます。 |
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シナジー効果の最大化 | 経営資源の統合や事業の再編により、シナジー効果を最大化できます。規模の経済効果や範囲の経済効果により、収益性を向上させることができます。 |
市場シェアの拡大 | 競合企業を買収することで、市場シェアを迅速に拡大できます。市場における競争力を強化し、優位な地位を築くことができます。 |
新たな技術・ノウハウの獲得 | 技術力やノウハウを持つ企業を買収することで、新たな技術やノウハウを迅速に獲得できます。研究開発コストを削減し、製品開発を加速させることができます。 |
ブランド力の強化 | 知名度の高いブランドを持つ企業を買収することで、自社のブランド力を強化できます。顧客基盤の拡大や販売チャネルの強化につながります。 |
3.2.2 デメリット
高額な買収コスト | M&Aには多額の資金が必要となるため、財務負担が大きくなります。買収後の資金繰りに注意する必要があります。 |
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統合プロセスにおける課題 | 買収後の統合プロセスには、人事、組織文化、システム統合など、様々な課題が発生します。円滑な統合を実現するために、綿密な計画と実行が必要です。 |
買収対象企業の評価の難しさ | 買収対象企業の価値を正確に評価することは難しく、過大評価による損失が発生する可能性があります。デューデリジェンスを徹底的に行う必要があります。 |
従業員のモチベーション低下 | 買収に伴う組織変更や人事異動により、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。従業員への適切な説明とコミュニケーションが重要です。 |
レピュテーションリスク | 買収対象企業に問題がある場合、自社のレピュテーションに悪影響を与える可能性があります。買収対象企業の調査を徹底的に行う必要があります。 |
4. 資本業務提携とM&Aの事例
ここでは、資本業務提携とM&Aの具体的な事例をそれぞれ紹介します。有名企業の事例を通して、それぞれのスキームがどのように活用されているのかを理解しましょう。
4.1 資本業務提携の事例
4.1.1 トヨタ自動車とスズキの提携
2019年、トヨタ自動車とスズキは資本業務提携契約を締結しました。世界的な環境規制の強化や自動運転技術の開発競争激化といった課題に対応するため、両社は小型車技術、ハイブリッド車技術、自動運転技術などの分野で協力を進めています。この提携により、トヨタはスズキの持つ小型車技術や新興国市場でのプレゼンスを活用し、スズキはトヨタの持つ先進技術やグローバルネットワークを活用できるようになりました。
互いの強みを活かすことで、競争優位性を高めることを目的とした提携です。具体的には、トヨタはスズキにハイブリッドシステムを提供し、スズキはインドで生産する小型車をトヨタにOEM供給しています。この提携は、技術開発における費用負担の軽減、新興国市場への進出強化、環境規制への対応といった両社共通の課題解決に貢献しています。また、競争関係にある自動車メーカー同士が提携することで、業界全体の競争環境にも変化をもたらしました。
4.1.2 ヤフーとLINEの経営統合
2021年3月、ヤフー株式会社とLINE株式会社は経営統合し、Zホールディングス株式会社の子会社となりました。この統合は、国内インターネットサービス市場における競争激化、グローバルIT企業の台頭といった背景の中で、両社の経営資源を統合することで競争力を強化することを目的としていました。
統合により、メッセージングアプリ、ポータルサイト、EC、決済サービスなど、幅広いサービスをワンストップで提供できるようになり、ユーザー利便性の向上と事業シナジーの創出を目指しています。統合の効果として、ユーザー基盤の拡大、データ活用によるサービス向上、広告事業の強化などが期待されています。この事例は、国内IT業界の再編を象徴する大規模な資本業務提携と言えるでしょう。
4.2 M&Aの事例
4.2.1 日本郵政による豪州物流大手トール・ホールディングスの買収
2015年、日本郵政は豪州の物流大手であるトール・ホールディングスを約6,500億円で買収しました。これは、日本郵政の国際物流事業拡大戦略の一環であり、海外市場でのプレゼンス強化と収益基盤の多様化を目的としたM&Aでした。
買収により、日本郵政はアジア太平洋地域における物流ネットワークを大幅に拡充し、グローバルな物流企業としての地位を確立することを目指しました。しかし、買収後にトール社の業績が悪化し、日本郵政は巨額の減損損失を計上することになりました。この事例は、M&Aに伴うリスク管理の重要性を示すものとなっています。
4.2.2 ソフトバンクグループによるアーム・ホールディングスの買収
2016年、ソフトバンクグループはイギリスの半導体設計大手であるアーム・ホールディングスを約3.3兆円で買収しました。これは、ソフトバンクグループのIoT事業への投資戦略の一環であり、AI、IoT、ロボティクスといった成長分野での主導権を握ることを目的としたM&Aでした。
アームはモバイル端末向けCPUの設計で高いシェアを誇っており、買収によりソフトバンクグループはIoT時代におけるキーテクノロジーを手に入れることができました。その後、2020年にはNVIDIAによるアーム買収が発表されましたが、各国規制当局の承認が得られず、2022年に買収は撤回されました。この事例は、M&Aにおける技術シナジーの追求と、国際的な規制当局の動向を考慮する必要性を示しています。
項目 | 資本業務提携(トヨタ自動車とスズキ) | M&A(日本郵政とトール・ホールディングス) |
---|---|---|
目的 | 小型車技術、ハイブリッド車技術、自動運転技術などの分野での協力、互いの強みを活かすことで競争優位性を高める | 国際物流事業拡大戦略、海外市場でのプレゼンス強化と収益基盤の多様化 |
規模 | トヨタがスズキに960億円を出資(発行済み株式の4.94%取得) | 約6,500億円 |
結果 | 協業による新技術開発、新興国市場への進出強化 | 買収後に業績悪化、巨額の減損損失計上 |
上記のように、資本業務提携とM&Aはそれぞれ異なる特徴と目的を持ちます。企業は自社の置かれた状況や戦略目標に応じて、最適な手法を選択する必要があります。
5. 目的別で最適な戦略を選択する方法
資本業務提携とM&Aは、いずれも企業の成長戦略において重要な役割を果たしますが、それぞれの目的によって最適な戦略は異なります。ここでは、代表的な目的別に最適な戦略の選択方法を解説します。
5.1 事業拡大を目指す場合
新たな市場への進出や製品・サービスの拡充といった事業拡大を目指す場合、資本業務提携とM&Aのどちらを選択するかは、スピード感とコントロールのバランスによって判断されます。
5.1.1 迅速な事業拡大を目指す場合
短期間で事業を拡大したい場合は、M&Aが有効です。M&Aは、対象企業の経営権を取得することで、既存の事業基盤や顧客基盤を迅速に取り込むことができます。例えば、新たな地域への進出を図る際に、その地域で既に事業を展開している企業をM&Aすることで、早期に市場シェアを獲得することが可能です。
5.1.2 段階的な事業拡大を目指す場合
時間をかけて段階的に事業を拡大したい場合は、資本業務提携が適しています。資本業務提携では、提携先企業と協力しながら、新たな事業を共同で開発したり、既存事業を相互に補完したりすることで、リスクを抑えながら事業を拡大していくことができます。例えば、新しい技術を開発するために、その技術を持つ企業と資本業務提携を結び、共同で研究開発を進めるといった方法が考えられます。
5.2 経営資源の確保を目指す場合
資金、技術、人材など、経営資源の確保を目的とする場合も、資本業務提携とM&Aを使い分けることができます。
5.2.1 資金調達を目的とする場合
資金調達を主な目的とする場合は、資本業務提携が有効な手段となります。株式の一部を売却することで資金を調達しつつ、提携先企業の経営ノウハウやネットワークを活用することも可能です。例えば、ベンチャー企業が事業拡大のための資金を調達するために、大手企業と資本業務提携を行うケースが挙げられます。
【関連】資金調達コストを徹底比較!計算方法とコストを抑えるための注意点5.2.2 技術・ノウハウの獲得を目的とする場合
特定の技術やノウハウを獲得したい場合は、M&Aまたは資本業務提携のいずれかを選択できます。M&Aであれば、対象企業の技術やノウハウを完全に自社に取り込むことができますが、多額の費用が必要となる場合もあります。資本業務提携であれば、M&Aに比べて費用を抑えながら、必要な技術やノウハウにアクセスすることが可能です。例えば、AI技術を保有する企業と資本業務提携を結び、自社製品へのAI技術の導入を図るといった方法が考えられます。
5.3 事業再生を目指す場合
経営不振に陥った企業の事業再生を図る場合、M&Aや資本業務提携が有効な手段となります。
5.3.1 スポンサー企業によるM&A
事業再生を目的としたM&Aでは、スポンサー企業が経営不振企業を買収し、経営の立て直しを図ります。スポンサー企業は、自社の経営資源を活用することで、買収先企業の事業を再建し、収益性を改善することができます。例えば、経営難に陥った地方銀行が、大手銀行に買収されるケースなどが挙げられます。
5.3.2 事業提携による再生
事業提携による再生は、健全な企業と提携することで、経営資源の共有や事業の再編を行い、再生を図る方法です。例えば、経営不振に陥ったアパレルメーカーが、大手商社と資本業務提携を結び、販売網の強化や商品開発力の向上を図るといった方法が考えられます。
【関連】企業再生・事業再生・PMI違いを分かりやすく解説。M&A後に行うにはどれが最適?5.4 シナジー効果を狙う場合
シナジー効果を狙う場合、資本業務提携とM&Aのどちらが適切かは、シナジー効果の種類と規模によって異なります。
5.4.1 売上増加のシナジー
売上増加のシナジーを狙う場合は、M&Aまたは資本業務提携のいずれかを選択できます。M&Aであれば、対象企業の販売網や顧客基盤を活用することで、自社製品の販売拡大を図ることができます。資本業務提携であれば、提携先企業と共同で新たな販路を開拓したり、相互に顧客を紹介したりすることで、売上増加を図ることができます。例えば、食品メーカーが飲料メーカーとM&Aすることで、販売チャネルを共有し、売上増加を狙うといった戦略が考えられます。
5.4.2 コスト削減のシナジー
コスト削減のシナジーを狙う場合は、M&Aが有効な手段となります。M&Aによって重複する部門や機能を統合することで、コスト削減を実現することができます。例えば、物流会社同士がM&Aすることで、配送網を統合し、物流コストを削減するといった戦略が考えられます。
目的 | 最適な戦略 | 具体例 |
---|---|---|
迅速な事業拡大 | M&A | 地方スーパーが都市圏のスーパーを買収 |
段階的な事業拡大 | 資本業務提携 | IT企業と製造業が提携し新製品開発 |
資金調達 | 資本業務提携 | スタートアップ企業が大手企業から出資を受ける |
技術・ノウハウ獲得 | M&A/資本業務提携 | ゲーム会社がVR技術を持つ企業を買収/提携 |
事業再生(スポンサー型) | M&A | 経営不振の百貨店が大手流通グループに買収される |
事業再生(提携型) | 資本業務提携 | 地方銀行同士が提携し経営基盤強化 |
売上増加のシナジー | M&A/資本業務提携 | ECサイトと物流会社が提携し配送網強化 |
コスト削減のシナジー | M&A | 同業種の中小企業同士が合併し経費削減 |
上記はあくまで一般的な例であり、個々の企業の状況によって最適な戦略は異なります。専門家のアドバイスを受けながら、自社にとって最適な戦略を選択することが重要です。
【関連】M&Aのシナジー効果を徹底解説!種類・予測方法からフレームワークまで網羅6. まとめ
この記事では、資本業務提携とM&Aの違いについて、出資比率、経営への関与、契約期間、目的、手続きの5つの観点から解説しました。資本業務提携は、比較的低い出資比率で、経営への関与も限定的である一方、M&Aは高い出資比率で、経営への関与も大きくなります。契約期間は、資本業務提携は比較的短期間であることが多いですが、M&Aは長期間にわたる場合が多いです。
目的も、資本業務提携は新たな技術やノウハウの獲得、販路拡大など、M&Aは事業規模の拡大や競争力の強化など、それぞれ異なります。手続きについても、資本業務提携はM&Aに比べて簡易です。
それぞれのメリット・デメリットも比較しました。資本業務提携は、リスクを抑えながら新たな事業展開が可能となる一方、シナジー効果が限定的になる可能性があります。M&Aは、大きなシナジー効果が期待できる一方、多額の費用が必要となり、統合プロセスも複雑です。
例えば、トヨタ自動車とスズキの資本業務提携は、技術提携による次世代技術の開発を目的としたもので、比較的リスクを抑えながら新たな技術開発を進める戦略と言えます。一方、日本郵政による豪州物流大手トール・ホールディングスの買収は、海外市場への進出を目的としたM&Aで、大きな事業拡大を図る戦略です。
事業拡大、経営資源確保、事業再生、シナジー効果創出など、それぞれの目的に最適な戦略を選択することが重要です。自社の状況や目的を明確にし、資本業務提携とM&Aのメリット・デメリットを比較検討することで、最適な戦略を選択し、企業価値の向上を目指しましょう。