M&Aのシナジー効果を徹底解説!種類・予測方法からフレームワークまで網羅

M&Aのシナジー効果を徹底解説!種類・予測方法からフレームワークまで網羅

「M&Aでシナジー効果が出ると言うけれど、具体的にどんな効果があるの?」「シナジー効果って本当に予測できるの?」といった疑問をお持ちではありませんか?

M&Aは、企業成長の大きなカギとなる一方で、その成否はシナジー効果をどれだけ創出できるかにかかっています。

本記事では、M&Aにおけるシナジー効果の種類や予測方法、そして具体的な事例を交えながら、フレームワークを用いたシナジー創出の方法までを分かりやすく解説します。本記事を読むことで、M&Aのシナジー効果に関する理解を深め、成功確率を高めるためのノウハウを習得することができます。

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1. M&Aのシナジー効果とは?
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M&Aにおけるシナジー効果とは、企業の合併や買収によって、単独では実現できなかった成果を生み出したり、両社の強みを組み合わせることで1+1が2以上の効果を得たりすることを指します。
シナジーは、売上増加やコスト削減など、企業価値向上に貢献する様々な形で現れます。M&Aは、企業にとって大きな成長の機会をもたらしますが、その成功にはシナジー効果の創出が不可欠です。

シナジー効果を最大限に引き出すためには、事前の綿密な計画と、両社の経営資源や企業文化の統合に向けた戦略的な取り組みが重要となります。

1.1 シナジー効果が生み出される理由 シナジー効果は、なぜ生み出されるのでしょうか?主な理由としては、以下の点が挙げられます。

規模の経済企業規模が大きくなることで、原材料の調達コストや製造コストが低下する
範囲の経済既存の事業や販売網を活用して、新規事業展開や新商品販売を効率的に行う
技術の融合異なる技術を持つ企業が統合することで、革新的な製品やサービスを生み出す
経営資源の共有人材、資金、ブランドなどを共有することで、効率的な経営を実現する

1.2 シナジー効果とM&Aの成功の関係性 M&Aの成功は、シナジー効果の実現と密接に関係しています。企業はM&Aを行う際、シナジー効果を事前に予測し、その実現可能性を評価することが重要です。

シナジー効果が期待できないM&Aは、失敗する可能性が高く、企業価値を損なう可能性もあります。そのため、M&A戦略においては、シナジー効果をどのように創出し、最大化していくかが重要なポイントとなります。

例えば、シナジー効果の最大化を図るためのポイントとして、以下の3点が挙げられます。

1統合計画の策定段階におけるシナジー効果の具体化と数値目標の設定
2統合責任者・担当者の明確化と権限付与
3統合プロセスにおけるシナジー効果創出状況のモニタリングと軌道修正

2. M&Aのシナジー効果の種類 M&Aによって期待されるシナジー効果は、大きく5つに分類できます。

1売上シナジー
2コストシナジー
3技術シナジー
4経営・財務シナジー
5組織シナジー
5つのシナジー効果については、後章にて説明いたします。

2.1 売上シナジー 売上シナジーとは、M&Aによって企業全体の売上が増加することです。 売上シナジーは、さらに以下の3つに分類されます。

新規顧客の獲得 M&Aによって、これまでアプローチできなかった顧客層に販売チャネルを拡大することで、新規顧客を獲得できる可能性があります。

例えば

海外企業を買収することで、海外市場に進出し、新たな顧客を獲得することができます。

クロスセル・アップセル 買収企業の顧客に対して、自社の製品・サービスを販売すること(クロスセル)や、既存顧客に対してより高価格帯の製品・サービスを販売すること(アップセル)によって、売上増加を図ることができます。

例えば

アパレル企業が靴メーカーを買収した場合、アパレルの顧客に対して靴を販売したり、既存顧客に対して高価格帯のアパレル商品を販売したりすることができます。

販売力強化 M&Aによって、営業ノウハウやブランド力を共有することで、販売力を強化し売上増加につなげることができます。

例えば

営業力に強みを持つ企業が、ブランド力のある企業を買収することで、互いの強みを活かして販売チャネルを拡大し、売上増加を図ることができます。

2.2 コストシナジー コストシナジーとは、M&Aによって企業全体のコストを削減することです。コストシナジーには、以下のようなものがあります。

規模の経済 M&Aによって企業規模が大きくなることで、原材料や製品の仕入れ、製造、物流などのコストを削減できる可能性があります。大量仕入れによる割引や、工場の稼働率向上による効率化などが期待できます。

範囲の経済 M&Aによって、異なる事業や機能を統合することで、重複するコストを削減できる可能性があります。

例えば

管理部門やシステム、物流網などを統合することで、コスト削減につながります。

調達コスト削減 M&Aによって、原材料や部品の調達先を統合することで、調達コストを削減できる可能性があります。 統合による大量発注や、サプライチェーンマネジメントの効率化などが考えられます。


2.3 技術シナジー 技術シナジーとは、M&Aによって企業全体の技術力向上や新たな技術革新を生み出すことです。技術シナジーには、以下のようなものがあります。

研究開発力の強化 M&Aによって、研究開発部門や技術者を統合することで、研究開発力を強化し、技術革新を促進することができます。

例えば

異なる分野の技術を持つ企業同士がM&Aを行うことで、新たな技術や製品を生み出すことが期待できます。

生産技術の向上 M&Aによって、生産技術やノウハウを共有することで、生産効率を向上させたり、製品の品質向上につなげたりすることができます。

例えば

生産技術に優れた企業を買収することで、自社の製品の品質向上やコスト削減を図ることができます。

新製品・サービスの開発 M&Aによって、それぞれの企業が持つ技術やノウハウを組み合わせることで、新製品やサービスの開発を促進することができます。

例えば

ソフトウェア開発会社がハードウェア開発会社を買収することで、新たなIoT製品を開発することができます。

2.4 経営・財務シナジー 経営・財務シナジーとは、M&Aによって企業全体の経営効率を高めたり、財務状況を改善したりすることです。経営・財務シナジーには、以下のようなものがあります。

経営資源の最適化 M&Aによって、経営資源(人材、資金、ブランドなど)を統合し、最適に配分することで、経営効率を高めることができます。

例えば

経営人材が不足している企業が、優秀な経営陣を持つ企業を買収することで、経営体制を強化することができます。

資金調達力の強化 M&Aによって、信用力や企業規模が向上することで、資金調達力を強化することができます。 より有利な条件で資金調達が可能となり、事業拡大のための投資がしやすくなります。

税制上のメリット M&Aによって、税制上の優遇措置を受けられる場合があります。

例えば

赤字企業を買収することで、税負担を軽減できる場合があります。
ただし、税制は頻繁に変更される可能性があるため注意が必要です。

2.5 組織シナジー 組織シナジーとは、M&Aによって企業文化や組織風土を融合させ、より良い組織を構築することです。組織シナジーには、以下のようなものがあります。

人材の交流・活性化 M&Aによって、異なる企業文化やバックグラウンドを持つ人材同士が交流することで、組織全体の活性化や人材育成を促進することができます。新しいアイデアや発想が生まれやすくなり、イノベーションを促進する効果も期待できます。

企業文化の融合 M&Aによって、それぞれの企業の優れた企業文化を融合させることで、より良い企業文化を創造することができます。ただし、企業文化の融合には、相互理解やコミュニケーションが重要となります。

ブランド力の向上 M&Aによって、ブランドイメージやブランド認知度を高めることができます。

例えば

高いブランド力を持つ企業を買収することで、自社のブランドイメージ向上につなげることができます。

これらのシナジー効果は、M&Aの目的や統合後の戦略によって、その重要性が異なります。 M&Aを成功させるためには、事前にそれぞれのシナジー効果を分析し、どのシナジー効果を重視するのかを明確にすることが重要です。
3. M&Aにおけるシナジー効果の予測方法とは?
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M&Aにおいて、シナジー効果を予測することは、投資判断を行う上で非常に重要です。しかし、シナジー効果は必ずしも実現するものではなく、その予測は困難を伴います。
ここでは、シナジー効果の予測方法として、定性的な方法と定量的な方法の2つに分けて解説します。

3.1 シナジー効果の定性的な予測方法 定性的な予測方法とは、過去の事例や業界の動向、企業文化の違いなどを考慮して、シナジー効果を分析する方法です。具体的には、以下の様な方法があります。

ケーススタディ

過去のM&A事例を分析し、類似するM&Aにおけるシナジー効果の実現状況や、成功・失敗要因を分析します。特に、自社と類似した業界や規模のM&A事例を参考にすることが重要です。

インタビュー調査

M&A対象企業の経営層や従業員、顧客、取引先などにインタビューを行い、シナジー効果の可能性や課題点、企業文化の違いなどを分析します。インタビューを通じて、定量的なデータだけでは見えてこない、現場の実態や潜在的なリスクを把握することができます。

SWOT分析

M&A当事会社の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を分析することで、シナジー効果を生み出す可能性や課題を明確化します。SWOT分析は、M&A後の事業戦略を策定する上でも役立ちます。


3.2 シナジー効果の定量的な予測方法 定量的な予測方法とは、財務データや統計データなどを用いて、シナジー効果を数値化する方法です。具体的な方法としては、以下の様なものがあります。

割引キャッシュフロー法(DCF法) 割引キャッシュフロー法(DCF法)は、将来発生するキャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業価値を算定する方法です。

M&Aにおいては、M&A後の統合会社における将来キャッシュフローを予測し、現在価値に割り引くことで、M&Aの経済価値を評価します。

シナジー効果は、M&A後の統合会社において、売上増加やコスト削減などによって創出される追加的なキャッシュフローとして評価されます。

DCF法は、M&Aにおけるシナジー効果を定量的に評価する上で、最も一般的な方法の一つです。

メリット将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことで、時間価値を考慮した評価が可能。客観的なデータに基づいて評価を行うため、評価の精度が比較的高い。
デメリット将来キャッシュフローの予測が難しい。割引率の設定によって評価額が大きく変動する可能性がある。

類似会社比較法 類似会社比較法は、M&A対象企業と類似した業種や規模の企業の財務データや市場データと比較して、M&A対象企業の価値を評価する方法です。

シナジー効果は、類似会社と比較して、M&A後の統合会社が享受できると期待される、売上高倍率や利益率などの向上として評価されます。

類似会社比較法は、DCF法と比較して、評価に必要なデータが少なく、短期間で評価できるというメリットがあります。

メリット市場で評価されている類似会社のデータに基づいて評価を行うため、客観性が高い。DCF法と比較して、評価が容易で短期間で実施できる。
デメリット本当に類似した企業を見つけることが難しい。類似会社のデータが必ずしも適切な比較対象となるとは限らない。

これらの予測方法を組み合わせることで、より精度の高いシナジー効果の予測が可能になります。例えば、DCF法で算出したシナジー効果を、類似会社比較法で検証するといった方法が考えられます。

しかし、いずれの予測方法を用いる場合でも、将来予測は不確実性を伴うため、複数のシナリオを想定して分析することが重要です。

また、定量的な分析結果だけでなく、定性的な分析結果も踏まえて、総合的に判断することが重要です。

シナジー効果の予測における注意点 シナジー効果の予測は、M&Aの成否を左右する重要な要素の一つですが、過大評価や過小評価のリスクがあります。シナジー効果を適切に予測するためには、以下の点に注意する必要があります。

楽観的な見通しを避ける

シナジー効果は、必ずしも実現するとは限りません。むしろ、当初想定していたシナジー効果が実現しないケースも少なくありません。そのため、シナジー効果を過大評価しないように、現実的な見通しを持つことが重要です。

統合コストを考慮する

M&A後の統合プロセスには、システム統合や人員整理など、多大なコストが発生します。シナジー効果を予測する際には、これらの統合コストを考慮することが重要です。統合コストを過小評価すると、シナジー効果が期待したほど得られない可能性があります。

シナジー効果の実現時期を明確化する

シナジー効果は、すぐに実現するとは限りません。シナジー効果の実現には、数年単位の期間を要する場合もあります。シナジー効果を予測する際には、いつまでにどの程度のシナジー効果を実現するのか、具体的な時期を明確化することが重要です。

シナジー効果の予測は、M&Aの成功を保証するものではありません。しかし、適切な予測方法を用い、注意点を踏まえることで、シナジー効果を最大限に実現できる可能性を高めることができます。

M&Aを検討する際には、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に検討を進めるようにしましょう。

4. M&Aでシナジー効果を生み出すフレームワーク
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M&Aにおいてシナジー効果を最大化するためには、適切なフレームワークを用いて戦略的に統合プロセスを進めることが重要です。
ここでは、代表的なフレームワークとして、アンゾフの成長マトリックスバリューチェーン分析を紹介します。

4.1 アンゾフの成長マトリックス(製品・市場マトリックス) アンゾフの成長マトリックスは、既存事業・新規事業、既存市場・新規市場の2軸を組み合わせた4象限から成り、それぞれの象限に対応する成長戦略を分析するフレームワークです。

M&Aにおいては、どの戦略でシナジー効果を狙うのかを明確化するために有効です。

市場浸透戦略 既存市場において既存製品のシェア拡大を目指す戦略です。M&Aを通じて、営業力強化、販売チャネル拡大、ブランド力強化などを図り、シナジー効果を生み出すことを目指します。

事例: 大手コンビニエンスストアチェーンによる、競合他社の買収

買収によって店舗網を拡大し、スケールメリットを活かした商品調達や物流の効率化によるコスト削減効果を狙う。

新市場開拓戦略 既存製品を新たな顧客層や地域に投入し、新規市場を開拓する戦略です。M&Aによって、新たな販売チャネルや顧客基盤を獲得し、シナジー効果を創出します。

事例: 地方銀行による、都市部の中小企業向け金融機関の買収

買収によって、地理的な事業領域を拡大し、新たな顧客層へのアプローチを実現する。

新製品開発戦略 既存市場に対して新しい製品やサービスを投入する戦略です。M&Aによって、技術力や開発リソースを獲得し、シナジー効果を生み出すことを目指します。

事例: 化粧品メーカーによる、バイオベンチャー企業の買収

買収によって、先進的なバイオテクノロジーを獲得し、新規化粧品開発に活用する。

多角化戦略 新規市場に対して新しい製品やサービスを投入する戦略です。M&Aによって、全く異なる事業領域に進出し、シナジー効果を追求します。

事例: IT企業による、飲食店チェーンの買収

買収によって、IT技術を活用した飲食店の業務効率化や顧客体験向上を図る。

4.2 バリューチェーンに合わせたシナジー分析のフレームワーク バリューチェーンとは、企業が製品やサービスを顧客に提供するまでの一連の活動のことです。

M&Aにおいては、それぞれの企業のバリューチェーンを分析することで、具体的なシナジー効果を特定し、その実現可能性や効果を評価することができます。

バリューチェーンシナジー効果事例
調達
  • スケールメリットによる調達コスト削減
  • サプライヤーとの交渉力強化
大手自動車メーカーによる、部品メーカーの買収。
部品の共同調達によるコスト削減や、安定供給体制の構築。
開発
  • 技術力やノウハウの共有による開発期間短縮
  • 共同研究開発によるイノベーション創出
製薬会社による、バイオテクノロジー企業の買収。
共同研究開発による新薬開発のスピードアップや、革新的な医薬品開発。
生産
  • 生産設備の共有による稼働率向上
  • 生産技術の融合による品質向上
食品メーカーによる、競合他社の工場買収。
生産拠点の集約による効率化や、生産技術の共有による品質向上。
販売
  • 販売チャネルの共有による販路拡大
  • クロスセル・アップセルによる売上増加
アパレルメーカーによる、ECサイト運営会社の買収。
オンライン販売チャネルを獲得し、販路を拡大。
マーケティング
  • ブランド力強化
  • 顧客基盤の共有によるマーケティング効率化
高級ブランドによる、新興ブランドの買収。
ブランドポートフォリオを拡充し、新たな顧客層を獲得。

4.3 アナジー効果とは シナジー効果と対比して用いられる概念として、アナジー効果があります。アナジー効果とは、M&Aによって期待した効果が得られない、またはマイナスの影響が生じることを指します。

アナジー効果が発生する要因としては、以下のようなものが挙げられます。

企業文化の衝突
組織統合の失敗
シナジー効果の過大評価
統合プロセスにおける混乱による機会損失
アナジー効果を最小限に抑えるためには、M&A前のデューデリジェンスや統合計画を綿密に行うことが重要です。

5. まとめ この記事では、M&Aにおけるシナジー効果について解説しました。シナジー効果には、売上シナジー、コストシナジー、技術シナジー、経営・財務シナジー、組織シナジーといった種類があります。

M&Aを成功させるためには、事前にこれらのシナジー効果を正しく予測することが重要です。そのために、定性的な予測方法と定量的な予測方法を組み合わせることが有効です。

さらに、シナジー効果を最大化するためのフレームワークとして、アンゾフの成長マトリックスやバリューチェーン分析などを活用することが重要です。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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