テール条項とは?契約前に知っておくべき意味、期間、注意点。M&A後のリスクヘッジ!

テール条項とは?契約前に知っておくべき意味、期間、注意点。M&A後のリスクヘッジ!

M&A後の予期せぬトラブルから自社を守るために、「テール条項」の理解は欠かせません。本記事では、M&Aにおけるテール条項の意味や期間、具体的な内容に加え、買収側・売却側それぞれの注意点やリスクヘッジ策を、事例を交えながら分かりやすく解説します。

10年以上のM&Aの経験から参考になる、M&Aを成功に導くための知識を網羅的にご紹介します。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。



1. テール条項とは
1.1 M&Aにおけるテール条項とは

M&Aにおけるテール条項(Tail Provisions)とは、M&A契約において、買収対象会社(売却会社)の過去の経営や事業に関する表明保証(Representations and Warranties)について、一定期間、買収会社が損害賠償請求などの責任追及を行うことができる権利を定めた条項です。

簡単に言えば、M&A成立後に発覚した過去の問題について、一定期間内であれば売却側に責任を問えるというものです。

M&Aでは、買収前にデューデリジェンスを実施して対象会社の財務状況や法令遵守などを調査しますが、すべての問題を事前に発見することは困難です。そこで、テール条項を設定することで、買収後に発覚した隠れた問題に対して、買収側が一定の保護を受けることができるようにしています。


1.2 類似用語との違い(表明保証条項、補償条項など)

テール条項と混同されやすい用語に、「表明保証条項」や「補償条項」があります。それぞれの違いを明確にしておきましょう。

条項 内容
表明保証条項 売却会社が、対象会社の財務状況、法令遵守、契約関係などについて、一定の事実または状況が真実かつ正確であることを表明し、保証する条項です。
テール条項 表明保証条項に違反があった場合に、買収会社が売却会社に対して、一定期間、責任追及を行うことができる権利を定めた条項です。
補償条項 表明保証条項に違反があった場合の、具体的な損害賠償の範囲や方法などを定めた条項です。

上記のように、これらの条項はそれぞれ異なる役割を担っており、相互に関連しています。テール条項は、表明保証条項とセットで規定されることが一般的で、表明保証違反に対する責任追及の期間を定めることで、買収後のリスクヘッジを図る役割を担います。


2. テール条項が適用される期間

テール条項が適用される期間は、M&A取引の内容や対象事業の特性、合意契約書の記載などによって異なり、一概に断定することはできません。しかし、一般的には、一定の期間が設定されることが一般的です。この期間は、買収後の事業の安定化や潜在的なリスクの発現可能性などを考慮して決定されます。


2.1 一般的な期間設定

M&Aにおけるテール条項の適用期間は、一般的に、2年から5年程度とされています。これは、多くの企業会計において、5年が重要な節目となることが多いためです。例えば、法人税の更正請求期間や、会計帳簿等の保存期間などが5年と定められています。これらの期間を考慮し、テール条項の適用期間も同様に設定されることが多いと考えられます。

ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、実際の適用期間はケースバイケースで決定されます。例えば、対象事業の性質や規模、過去の訴訟リスク、デューデリジェンスの結果などを踏まえて、期間が短縮されたり、延長されたりすることがあります。

期間 特徴
2年 比較的短い期間設定。
対象事業のリスクが低い場合や、買収後の統合がスムーズに進められると予想される場合に設定されることが多い。
小規模な事業のM&A、財務状況が安定している企業のM&A
3年~5年 一般的な期間設定。
多くのM&A取引において採用される。
中規模の事業のM&A、一定のリスクが想定される事業のM&A
5年以上 比較的長い期間設定。
対象事業のリスクが高い場合や、買収後の統合に時間を要すると予想される場合に設定されることが多い。
大規模な事業のM&A、訴訟リスクが高い事業のM&A

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2.2 期間が延長されるケース

テール条項の適用期間は、以下の様な場合には、延長されるケースがあります。

2.2.1 1. 隠れた瑕疵が発見された場合

M&A取引後のデューデリジェンスでは発見できなかった隠れた瑕疵が、後に発覚した場合、テール条項の適用期間が延長されることがあります。これは、買収側が、隠れた瑕疵によって被った損害に対する救済措置を講じるために必要な時間的猶予を与えるためです。

2.2.2 2. 訴訟等の法的紛争が発生した場合

M&A対象事業に関連する訴訟や法的紛争が発生した場合、その解決までに長期間を要することが予想されます。このような場合には、訴訟等の解決までの期間を考慮して、テール条項の適用期間が延長されることがあります。

2.2.3 3. 合意によって期間延長が認められた場合

買収側と売却側の合意によって、テール条項の適用期間が延長されることがあります。例えば、買収後の事業統合が当初の想定よりも遅れている場合や、予期せぬ問題が発生した場合などに、期間延長が合意されることがあります。


3. テール条項の内容と注意点

テール条項の内容は、M&A取引の内容や当事者の交渉力によって異なりますが、一般的には以下の要素が含まれます。


3.1 一般的な内容
項目 内容
対象となる表明保証 テール条項の対象となる表明保証が具体的に特定されます。全ての表明保証が対象となるわけではなく、財務諸表の正確性、重要な契約の有効性、法令遵守など、特に重要なものについて期間制限を設けることが多いです。
責任の範囲 買収後の事業活動で発生した損害が、買収前の表明保証違反に起因する場合にのみ、売主が責任を負うことが明確化されます。買収後の経営判断の誤りや市場環境の変化による損害は、通常、売主の責任範囲外となります。
損害賠償の上限 売主が負担する損害賠償の上限額が設定されます。上限額は、買収金額に対して一定の割合で設定されるケースや、具体的な金額で設定されるケースがあります。
免責事項 売主が責任を負わないケースが具体的に規定されます。例えば、買収側が表明保証違反について知っていた場合や、買収側の重大な過失によって損害が発生した場合などが免責事項として挙げられます。

3.2 買収側が注意すべきポイント

買収側としては、テール条項の内容によってM&A後のリスクヘッジの程度が大きく変わるため、以下の点に注意する必要があります。

3.2.1 デューデリジェンスの徹底

買収対象会社の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査し、潜在的なリスクを事前に洗い出すことが重要です。デューデリジェンスの結果に基づいて、テール条項の対象となる表明保証、責任範囲、損害賠償の上限などを検討する必要があります。

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3.2.2 期間と責任範囲の明確化

テール条項の適用期間や売主の責任範囲について、契約書上に明確に記載しておくことが重要です。曖昧な表現は避け、将来的なトラブルを防止するために、具体的な期間や範囲を定めるべきです。


3.3 売却側が注意すべきポイント

売却側も、テール条項の内容次第で、M&A後に想定外の責任を負う可能性があるため、以下の点に注意する必要があります。

3.3.1 適切な情報開示

買収側に対して、財務状況、法務状況、事業状況などに関する情報を正確かつ十分に開示する必要があります。情報開示が不十分な場合、表明保証違反として責任を問われる可能性があります。

3.3.2 リスクヘッジ策の検討

テール条項によるリスクをヘッジするために、表明保証保険の加入やエスクロー契約の締結などを検討する必要があります。表明保証保険は、表明保証違反による損害を補償する保険であり、エスクロー契約は、売却代金の一部を第三者に預託し、テール条項に基づく損害賠償請求があった場合に備える契約です。


4. テール条項に関するよくある質問
4.1 Q1. テール条項は必ず設定する必要がある?

M&Aにおいて、テール条項の設定は法律で義務付けられているわけではありません。しかし、実際には多くのケースで設定されています。これは、M&A後に発覚する可能性のある潜在的なリスクから、買収側が自らの利益を守るための重要な役割を果たすからです。

テール条項を設定するかどうかは、ケースバイケースで、買収対象企業の事業内容や規模、リスクの程度などを考慮して決定されます。例えば、訴訟リスクの高い事業や、複雑な許認可が関係する事業などでは、テール条項を設定することが一般的です。

設定しない場合のリスクとしては、M&A後に予期せぬ問題が発生し、買収側が大きな損害を被る可能性があります。そのため、たとえ売却側との交渉が難航する可能性があったとしても、買収側としては、自らの利益を守るためにテール条項の設定を積極的に検討するべきです。


4.2 Q2. 期間や責任範囲はどのように決めれば良い?

テール条項の期間や責任範囲は、M&A取引の規模や内容、対象事業のリスク特性などを考慮して決定されます。明確な基準はありませんが、一般的な傾向としては以下の点が挙げられます。

4.2.1 期間設定の例
表明保証の内容財務諸表の正確性など、比較的短期間で確認できるものは1~2年程度
表明保証の内容環境規制の遵守など、長期にわたる影響が懸念されるものは5~10年程度
4.2.2 責任範囲設定の例
対象となる表明保証すべての表明保証を対象とする場合
対象となる表明保証重要な表明保証に限定する場合
責任の範囲故意または重大な過失による違反のみを対象とする場合
責任の範囲軽過失による違反も対象とする場合

これらの設定は、買収側と売却側の交渉によって決定されます。買収側としては、可能な限り長期の期間設定や広範な責任範囲を求めることが一般的ですが、売却側としては、将来のリスクを最小限に抑えるために、短期間の期間設定や限定的な責任範囲を求めることが考えられます。

期間や責任範囲の設定は、M&A後のトラブルを避けるためにも非常に重要です。そのため、双方が納得できる条件となるよう、十分な協議と検討を重ねることが不可欠です。


4.3 Q3. トラブルを避けるためには?

テール条項に関連するトラブルを避けるためには、M&A契約締結前に、買収側と売却側が以下の点について十分に協議し、合意しておくことが重要です。

買収側 売却側
テール条項の内容
  • 期間、責任範囲、対象となる表明保証などを明確に定義する
  • 自社のリスク許容度を踏まえ、納得できる内容にする
  • 期間、責任範囲、対象となる表明保証などを明確に定義する
  • 将来的なリスクを最小限に抑えられる内容にする
情報開示
  • デューデリジェンスを徹底し、買収対象企業の状況を把握する
  • 不明点や懸念点があれば、売却側に確認する
  • 買収対象企業に関する情報を正確かつ網羅的に開示する
  • 意図的な情報隠蔽や虚偽の開示は避ける
専門家によるサポート
  • 弁護士や会計士などの専門家に相談し、契約内容の妥当性を確認する
  • 専門家の意見を参考に、交渉戦略を立てる
  • 弁護士や会計士などの専門家に相談し、契約内容の妥当性を確認する
  • 専門家の意見を参考に、交渉戦略を立てる

上記に加え、契約書は明確でわかりやすい表現を用いること、将来的な解釈の相違を防ぐために曖昧な表現を避けることなども重要です。また、M&A後の良好な関係を維持することも、トラブル防止には有効です。そのため、契約締結後も、必要に応じて情報交換を行うなど、良好なコミュニケーションを心がけることが大切です。


5. まとめ

今回は、M&Aにおける重要なリスクヘッジ条項である「テール条項」について解説しました。買収後の予期せぬトラブルから自身を守るため、買収側にとってはデューデリジェンスを徹底し、期間や責任範囲を明確にすることが重要です。

一方、売却側も適切な情報開示とリスクヘッジ策を講じることで、将来的な紛争リスクを軽減できます。テール条項は、M&A取引を成功させるために欠かせない要素と言えるでしょう。

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