「負ののれん」とは?M&A後のリスク回避!負ののれんを発生させないための4つのポイント

「負ののれん」とは?M&A後のリスク回避!負ののれんを発生させないための4つのポイント

「負ののれん」は企業買収における思わぬ落とし穴となる可能性を秘めています。買収価格が割安になるなどのメリットがある一方で、会計処理の複雑さや企業価値の過小評価といったリスクも孕んでいます。

本記事では、負ののれんが発生するメカニズムや要因、メリット・デメリットをわかりやすく解説するとともに、M&Aにおける負ののれん発生を回避するための具体的な4つのポイントを紹介します。

さらに、万が一、負ののれんが発生した場合の対応策についても解説します。企業価値評価の専門家である山田太郎氏の監修のもと、実務に役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。


M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。

M&A・PMI支援のご相談はこちら

1. 負ののれんとは何か? 1.1 負ののれんが発生するメカニズム

M&Aにおいて、買収企業が支払う対価が被買収企業の純資産価額を下回る場合に、「負ののれん」が発生します。これは、買収企業にとって割安で買収できたことを意味し、一見すると有利なように思えます。

負ののれんが発生するメカニズムを具体的に見ていきましょう。例えば、A社がB社を買収するとします。

項目 金額(億円)
A社の買収価額 80
B社の純資産価額 100

この場合、A社はB社の純資産価額よりも20億円安く買収できたことになります。この20億円が「負ののれん」として計上されます。


1.2 負ののれんが発生する要因

負ののれんが発生する要因は、大きく分けて以下の3つが考えられます。

市場環境の変化
業界全体の業績悪化
競争激化による収益力低下
被買収企業側の要因
業績不振
不祥事による企業価値の毀損
潜在的な債務の存在
買収交渉上の要因
買収競争の激化による価格の過熱
買収側による強硬な価格交渉

これらの要因が複合的に作用することで、負ののれんが発生するケースが多く見られます。特に近年では、経済のグローバル化や技術革新のスピードが加速する中で、市場環境や企業価値が大きく変動しやすくなっており、負ののれんが発生するリスクは高まっていると言えるでしょう。


2. 負ののれんによるメリット・デメリット

負ののれんは、買収企業にとってメリットとデメリットの両面を持ち合わせています。企業価値評価や買収後の事業計画に基づき、慎重に判断する必要があります。


2.1 メリット1:買収価格の抑制

負ののれんが発生すると、買収企業は被買収企業を純資産価額よりも低い価格で買収することができます。これは、買収企業にとって有利な点であり、買収資金の負担を軽減できるメリットがあります。

例えば、成長市場への進出や競合企業の買収など、戦略的なM&Aにおいては、買収価格の抑制は重要な要素となります。

2.2 メリット2:将来の税負担の軽減

負ののれんは、税務上、一定の要件を満たす場合に、繰延税資産として計上することができます。繰延税資産は、将来の税負担を軽減する効果があり、買収後のキャッシュフロー改善に貢献する可能性があります。

ただし、繰延税資産の計上は、将来の収益見通しなど、一定の条件を満たす必要があるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。


2.3 デメリット1:会計処理の複雑さ

負ののれんの会計処理は複雑であり、専門的な知識が求められます。適切な会計処理を行わない場合、会計基準違反となる可能性もあるため、注意が必要です。

具体的には、負ののれんの計上方法や償却方法など、複雑な会計処理が必要となります。企業は、専門家のサポートを受けながら、適切な会計処理を行うことが重要です。


2.4 デメリット2:企業価値の過小評価の可能性

負ののれんが発生した場合、被買収企業の企業価値が過小評価されている可能性があります。これは、被買収企業の将来の収益力やブランド価値などが、適切に評価されていないことを意味します。

企業価値の過小評価は、買収後の統合プロセスや企業文化の融合などに影響を与える可能性があり、注意が必要です。

メリット デメリット
買収価格の抑制 会計処理の複雑さ
将来の税負担の軽減 企業価値の過小評価の可能性

3. 負ののれんを発生させないための3つのポイント

負ののれんは、買収価格が被買収企業の純資産価額を下回った際に発生するものであり、買収企業にとっては一時的な利益をもたらす可能性がありますが、その一方で、企業価値の過小評価や将来的な会計処理の複雑さなどのリスクも孕んでいます。

そのため、負ののれんを発生させないよう、M&Aのプロセスにおいて適切な対策を講じることが重要となります。


3.1 ポイント1:適正な企業価値評価の実施

負ののれんが発生する根本的な原因は、買収価格と被買収企業の純資産価額の間に乖離が生じることにあります。そのため、負ののれんを発生させないためには、まず第一に、被買収企業の企業価値を適正に評価することが不可欠です。

企業価値評価には、DCF法、類似会社比較法、時価純資産法など、様々な手法が存在しますが、どの手法を採用するかは、被買収企業の事業内容や業界特性、市場環境などを総合的に勘案して決定する必要があります。

重要なのは、単一の評価手法に固執するのではなく、複数の評価手法を併用することで、より客観的で精度の高い企業価値を算出することです。また、企業価値評価は、将来の収益予測などをベースに行われるため、その予測には不確実性が伴います。

そのため、楽観的な予測に偏ることなく、現実的なシナリオに基づいた評価を行うことが重要となります。


3.2 ポイント2:買収価格交渉の徹底

適正な企業価値評価に基づいて算出された企業価値をベースに、買収価格交渉を徹底することも、負ののれん発生の抑制に繋がります。

買収価格は、企業価値だけでなく買収後のシナジー効果やプレミアム、競合他社の動向などを考慮して決定されますが、交渉の過程で買収価格が被買収企業の純資産価額を下回る水準にならないよう、注意が必要です。そのためには、買収側の交渉力強化が求められます。

具体的には、市場動向や競合他社の買収事例などを綿密に調査し、交渉を有利に進めるための根拠を事前に準備しておくことが重要となります。

また、交渉の際には、自社の買収意図やシナジー効果を明確に伝えることで、売却側の理解と納得を得ることが、円滑な交渉を進める上で重要となります。


3.3 ポイント3:デューデリジェンスの強化

デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況、事業内容、法務などを調査し、リスクを洗い出すプロセスを指します。負ののれんの発生リスクを抑制するためには、デューデリジェンスにおいて、被買収企業の資産・負債の実態を正確に把握することが重要となります。

特に、簿価と時価が乖離しやすい資産や、潜在的な負債、偶発債務などを重点的に調査する必要があります。例えば、不動産などの固定資産については、専門の鑑定機関による評価を実施することで、より正確な時価を把握することが可能となります。

また、訴訟リスクや環境規制など、潜在的な負債の存在についても、過去の資料や関係者へのヒアリングを通じて、徹底的に調査する必要があります。

デューデリジェンスで確認すべき項目例
項目 内容
財務デューデリジェンス
  • 財務諸表の分析(収益性、安全性、成長性など)
  • 資産・負債の実態調査(棚卸資産の評価、債権の回収可能性など)
  • キャッシュ・フロー分析
事業デューデリジェンス
  • 事業計画の妥当性検証
  • 市場分析(競合、顧客、サプライチェーンなど)
  • 主要顧客・仕入先の調査
法務デューデリジェンス
  • 契約書の確認(売買契約、雇用契約、秘密保持契約など)
  • 許認可の確認
  • 訴訟リスクの調査
人事デューデリジェンス
  • 従業員のスキル・経験の確認
  • 人事制度の調査
  • 労働組合との関係

3.4 ポイント4:PMI支援の活用

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後の統合プロセスを指し、企業文化や人事制度、業務プロセスなどを統合し、シナジー効果を最大化することを目的とします。

PMI支援サービスを提供する専門機関は、M&Aに関する豊富な知識や経験を有しており、デューデリジェンスから統合計画の策定、実行支援まで、幅広いサポートを提供しています。

これらの専門機関を活用することで、企業は、より効率的かつ効果的にM&A後の統合プロセスを進めることが可能となり、負ののれん発生リスクの抑制だけでなく、M&Aの成功確率を高めることにも繋がります。


4. 負ののれん発生時の対応策

負ののれんが発生した場合、企業は適切な対応策を講じる必要があります。発生要因が企業価値の過小評価ではなく、一時的な要因である場合は、将来の収益への影響は限定的です。

しかし、根本的な問題が潜んでいる場合は、早急な対策が必要です。ここでは、負ののれん発生時の対応策を詳しく解説します。


4.1 1. 発生要因の特定と分析

負ののれんが発生した場合、まず行うべきは、その発生要因を特定し、分析することです。買収対象企業の業績悪化、隠れた負債、市場環境の悪化など、様々な要因が考えられます。

具体的な要因を特定することで、その後の対応策を効果的に進めることができます。

会計監査による精査

公認会計士などの専門家による会計監査を実施し、負ののれんの発生源を詳細に調査します。財務諸表の精査、資産・負債の評価、収益認識の妥当性などを検証することで、隠れた問題点やリスクを洗い出すことが重要です。

事業計画の見直し

買収対象企業の事業計画を精査し、実現可能性や収益性について再評価します。市場分析、競合分析、顧客分析などを実施し、事業計画の前提条件が妥当であるかを確認します。必要に応じて、事業計画の修正や見直しを行います。


4.2 2. 減損会計の適用

負ののれんは、買収後の会計処理において、原則として「一時差異」として処理されます。これは、将来の期間にわたって償却されるのではなく、発生時に一度だけ損益計算書に計上されることを意味します。具体的には、以下のいずれかの方法で処理されます。

【関連】のれんの減損とは?M&A減損リスクへの事前対策・回避方法をわかりやすく解説

即時償却

負ののれんを発生時に全額、損益計算書の特別利益として計上する方法です。将来の収益への影響が軽微であると判断された場合に適用されます。

段階的償却

負ののれんを一定の期間にわたって分割し、段階的に償却する方法です。将来の収益への影響が長期にわたると予想される場合に適用されます。償却期間は、負ののれんの発生要因や影響度合いなどを考慮して決定されます。


4.3 3. 情報開示の強化

負ののれんが発生した場合、投資家や債権者に対して、その内容や影響に関する適切な情報開示を行うことが重要です。具体的には、以下の内容を財務諸表の注記や決算短信などに記載する必要があります。

負ののれんの発生額

負ののれんとして計上された金額を開示します。

発生要因の説明

負ののれんが発生した要因を具体的に説明します。例えば、買収対象企業の業績悪化、市場環境の悪化、買収価格交渉の結果などが考えられます。

会計処理方法

負ののれんの会計処理方法(即時償却または段階的償却)を開示します。段階的償却を選択した場合は、償却期間や償却方法についても説明します。

将来の業績への影響

負ののれんが将来の業績に与える影響について、定量的・定性的な分析に基づいて開示します。例えば、将来の利益やキャッシュフローへの影響額などを具体的に示します。


4.4 4. 再発防止策の検討

負ののれんの発生は、企業買収におけるリスク管理の重要性を示唆しています。再発防止策を検討し、今後の企業買収において同様の問題が発生することを防ぐ必要があります。

デューデリジェンスの強化

買収対象企業の財務状況、事業状況、法務状況などを詳細に調査するデューデリジェンスを強化します。専門家を活用し、時間をかけて精査することで、隠れたリスクや問題点を事前に発見することが重要です。

企業価値評価の精緻化

買収対象企業の企業価値評価をより精緻に行います。複数の評価方法を併用し、将来の収益予測の精度を高めることで、適正な買収価格を算定します。


買収後の統合プロセス(PMI)を改善し、買収対象企業とのシナジー効果を最大限に発揮します。組織文化の融合、業務プロセス統合、人材活用などを円滑に進めることで、買収後の企業価値向上を目指します。


5. まとめ

負ののれんは、買収価格が被買収企業の純資産額を下回る場合に発生する会計上の概念です。買収企業にとっては、買収価格の抑制や将来の税負担軽減などのメリットがありますが、会計処理の複雑さや企業価値の過小評価といったリスクも孕んでいます。

負ののれんの発生を抑制するには、適正な企業価値評価、買収価格交渉の徹底、デューデリジェンスの強化といった対策が重要です。特に、企業価値評価は負ののれん発生の有無を左右する重要な要素となるため、専門家による厳密な評価が欠かせません。

また、M&A後の統合プロセス(PMI)を円滑に進めるために、専門家によるPMI支援を活用することも有効です。PMI支援を受けることで、統合に伴うリスクを最小限に抑え、シナジー効果の早期実現を目指せます。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

メニュー