事業再生のための新規事業開発とは?
事業再生を成功させるためには、既存事業の見直しだけでなく、新規事業開発が重要な鍵となります。しかし、ただ闇雲に新規事業を立ち上げれば良いというわけではありません。本記事では、事業再生と新規事業開発の密接な関係性について解説し、新規事業開発が事業再生にどのようなメリット・デメリットをもたらすのかを明らかにします。
具体的には、既存事業の拡張・深化といった再生方法から、市場ニーズや技術革新に合わせた新規事業の創出まで、事業再生における様々な新規事業開発の種類を紹介します。さらに、現状分析から事業計画の策定、実行、評価に至るまでの具体的なプロセスを、ブレインストーミングやデザイン思考といった手法も交えながら丁寧に説明します。
加えて、伝統産業や中小企業における成功事例も紹介することで、より実践的な理解を深めることができます。本記事を読むことで、事業再生における新規事業開発の全体像を掴み、自社に最適な戦略を立案するための具体的なノウハウを習得できるでしょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・事業再生などを10年経験。3か月の経営支援サポートで、9か月後には赤字の会社を1億円の利益を計上させるなどの実績を多数持つ専門家。
- 目次
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1. 事業再生と新規事業開発の関係
1.1 なぜ事業再生に新規事業開発が必要なのか
1.2 新規事業開発が事業再生にもたらすメリット・デメリット
2. 事業再生における新規事業開発の種類
2.1 既存事業の拡張・深化
2.2 新規事業の創出
3. 事業再生のための新規事業開発プロセス
3.1 現状分析
3.2 新規事業アイデアの発想
3.3 事業計画の策定
3.4 実行と評価
4. 新規事業開発の成功事例
4.1 伝統産業の再生
4.2 中小企業の再生
5. まとめ
1. 事業再生と新規事業開発の関係
事業再生とは、業績が悪化し経営危機に陥っている企業が、その原因を分析し、経営体質を改善することで再び収益を上げ、成長軌道に乗せるための取り組みです。一方、新規事業開発とは、企業が新たな収益源を確保するために、既存事業とは異なる新しい製品やサービス、市場を開拓していく活動です。一見すると別々の取り組みのように見えますが、事業再生において新規事業開発は非常に重要な役割を担っており、両者は密接に関係しています。
【関連】事業再生とは?基本戦略と成功へのステップ1.1 なぜ事業再生に新規事業開発が必要なのか
多くの場合、企業が事業再生に取り組む必要が生じるのは、既存事業の収益性が悪化している、もしくは将来的な成長が見込めなくなっているためです。市場の縮小や競争の激化、顧客ニーズの変化など、様々な要因が考えられますが、いずれにしても既存事業だけでは企業の存続が難しくなっている状況です。
このような状況下で、新規事業開発は新たな収益源を創出し、企業の成長を牽引するエンジンとしての役割を果たします。既存事業の衰退を補い、企業全体の収益基盤を強化することで、事業再生を成功に導くための重要な戦略となります。
1.2 新規事業開発が事業再生にもたらすメリット・デメリット
新規事業開発は事業再生において大きなメリットをもたらしますが、同時にデメリットも存在します。メリットとデメリットを理解した上で、慎重に進めていく必要があります。
1.2.1 メリット
新たな収益源の創出 | |
企業イメージの刷新 | |
従業員のモチベーション向上 | |
将来への投資 | |
競争優位性の獲得 |
1.2.2 デメリット
時間とコストの発生 | |
失敗のリスク | |
既存事業との競合 | |
人材不足 | |
経営資源の分散 |
メリット | 詳細 |
---|---|
新たな収益源の創出 | 既存事業の衰退を補い、新たな収益の柱を築くことで、企業の財務状況を改善し、事業再生を加速させることができます。 |
企業イメージの刷新 | 革新的な新規事業を立ち上げることで、企業イメージを刷新し、顧客や投資家からの信頼回復に繋がります。 |
従業員のモチベーション向上 | 新規事業への挑戦は、従業員のモチベーション向上や新たな人材の獲得に繋がり、企業全体の活性化に貢献します。 |
将来への投資 | 新規事業は将来への投資であり、事業再生後の持続的な成長を支える基盤となります。 |
競争優位性の獲得 | 独自の技術やノウハウを活かした新規事業は、競争優位性を獲得し、市場での競争力を高めます。 |
デメリット | 詳細 |
---|---|
時間とコストの発生 | 新規事業の立ち上げには、一定の時間とコストが必要となります。事業再生中の企業にとっては大きな負担となる可能性があります。 |
失敗のリスク | 新規事業は成功が保証されているわけではなく、失敗のリスクが伴います。事業再生中の企業にとっては、失敗が致命的な打撃となる可能性があります。 |
既存事業との競合 | 新規事業が既存事業と競合してしまう可能性があります。既存事業の顧客や市場を奪ってしまう可能性も考慮する必要があります。 |
人材不足 | 新規事業を成功させるためには、優秀な人材が必要です。しかし、事業再生中の企業は人材確保が難しい場合があります。 |
経営資源の分散 | 新規事業に経営資源を投入することで、既存事業への投資が不足する可能性があります。経営資源の配分を慎重に行う必要があります。 |
これらのメリットとデメリットを踏まえ、事業再生における新規事業開発は、綿密な計画と適切な実行が不可欠です。市場調査や競合分析、財務計画などをしっかりと行い、リスクを最小限に抑えながら、新たな収益源の創出を目指していく必要があります。既存事業とのシナジー効果や、自社の強み・弱みを十分に考慮することで、事業再生を成功に導く強力な武器となるでしょう。
2. 事業再生における新規事業開発の種類
事業再生において、新規事業開発は大きく2つの種類に分けられます。既存事業を拡張・深化させる方法と、全く新しい事業を創出する方法です。それぞれの特性を理解し、自社の状況に合った戦略を選択することが重要です。
2.1 既存事業の拡張・深化
既存事業の拡張・深化は、現在の事業基盤を活かしながら新たな収益源を創出する方法です。比較的小規模な投資で始められる場合が多く、既存顧客へのアプローチも容易であるため、事業再生の初期段階において有効な手段となります。具体的には、以下の方法が考えられます。
種類 | 内容 | 例 |
---|---|---|
新商品・サービス開発 | 既存製品・サービスの改良や、新たなバリエーションの開発 | 食品メーカーが既存の人気商品に新フレーバーを追加する、美容院が新しいトリートメントメニューを導入する |
新市場開拓 | 既存製品・サービスを新たな顧客層や地域に展開する | 地方の特産品を都市圏で販売する、高齢者向けに既存サービスをカスタマイズする |
販売チャネルの拡大 | ECサイトの開設、海外への進出など、新たな販売経路を構築する | 実店舗販売に加えてオンラインストアを開設する、百貨店への出店に加えて自社ECサイトを強化する |
業務提携・アライアンス | 他社との提携を通じて新たな顧客層を獲得したり、シナジー効果を生み出す | 異業種企業と提携して共同で新商品を開発する、物流会社と提携して配送網を強化する |
2.2 新規事業の創出
新規事業の創出は、全く新しい市場や顧客ニーズに対応した事業を立ち上げる方法です。既存事業の枠にとらわれず、大きな成長を目指すことができますが、市場調査や技術開発など、多大な時間と費用を要する場合があります。大きく分けて、市場ニーズに合わせた新規事業と、技術革新に基づいた新規事業の2つのアプローチがあります。
2.2.1 市場ニーズに合わせた新規事業
市場のニーズを的確に捉え、それに対応した商品やサービスを提供することで、新たな市場を創造するアプローチです。市場調査や顧客分析が重要となります。例えば、少子高齢化社会における介護サービスの需要増加に対応した事業や、環境問題への意識の高まりに対応したエコ関連事業などが挙げられます。
具体例としては、宅配クリーニングサービス、家事代行サービス、オンラインフィットネスサービスなどが挙げられます。これらは、共働き世帯の増加や健康志向の高まりといった社会変化を捉えたサービスとして成功を収めています。
2.2.2 技術革新に基づいた新規事業
新たな技術やノウハウを活用し、革新的な商品やサービスを開発することで、競争優位性を築き、新たな市場を切り開くアプローチです。研究開発や技術者育成への投資が重要となります。例えば、AI技術を活用した自動運転システムの開発や、バイオテクノロジーを活用した新薬の開発などが挙げられます。近年では、再生医療や宇宙開発といった分野での技術革新も注目されています。
具体例としては、ドローンを使った配送サービス、3Dプリンターを活用した製造業、VR技術を活用したゲーム開発などが挙げられます。これらは、技術革新をビジネスチャンスに変えることで、新たな市場を創造しています。
3. 事業再生のための新規事業開発プロセス
事業再生を成功させるためには、綿密な計画に基づいた新規事業開発プロセスが不可欠です。ここでは、効果的な新規事業開発のプロセスを4つの段階に分けて解説します。
3.1 現状分析
現状分析は、新規事業開発の出発点であり、成功を左右する重要な段階です。現状を正確に把握することで、課題やニーズを明確化し、適切な方向へ進むことができます。
3.1.1 事業環境の分析
事業環境分析では、PEST分析や5フォース分析を用いて、マクロ環境とミクロ環境の両面から分析を行います。マクロ環境分析では、政治、経済、社会、技術の各側面から、事業に影響を与える要因を洗い出します。ミクロ環境分析では、業界内の競争状況、顧客のニーズ、サプライヤーとの関係性などを分析します。これらの分析を通じて、事業を取り巻く機会と脅威を明らかにします。
3.1.2 自社の強み・弱みの分析
自社の強み・弱み分析は、SWOT分析を用いて行います。自社の強みと弱み、機会と脅威を洗い出し、現状を客観的に把握することで、新規事業開発の方向性を定めることができます。例えば、既存事業で培ってきた技術力や顧客基盤を強みとして活用できる新規事業領域を検討したり、弱みとなっている経営資源の不足を補うための提携戦略を検討したりすることが可能になります。財務状況、人材、技術力、ブランドイメージなど、多角的な視点から分析することが重要です。
3.2 新規事業アイデアの発想
現状分析に基づき、具体的な新規事業アイデアを創出します。革新的なアイデアだけでなく、既存事業の延長線上にあるアイデアも検討することで、実現可能性の高い事業を見つけることができます。
3.2.1 ブレインストーミング
ブレインストーミングは、複数人で自由にアイデアを出し合う手法です。批判や評価をせずに、量を重視することで、多様なアイデアを生み出すことができます。事業再生という状況下では、既存の枠にとらわれず、自由な発想が重要です。例えば、「既存顧客のニーズをさらに深掘りするには?」「他業種の成功事例を参考にできることはないか?」といった問いを起点に、アイデアを広げることが有効です。
3.2.2 デザイン思考
デザイン思考は、顧客中心のアプローチでアイデアを生み出す手法です。顧客のニーズや課題を深く理解し、共感に基づいてアイデアを創出することで、顧客にとって真に価値のある新規事業を開発することができます。プロトタイプを作成し、顧客に試用してもらうことで、フィードバックを得ながらアイデアを洗練させていくことが重要です。事業再生においては、顧客のニーズを満たすだけでなく、収益性も確保できるアイデアを生み出す必要があります。
3.3 事業計画の策定
選定した新規事業アイデアを具体化するために、詳細な事業計画を策定します。市場調査や収益計画など、実現可能性を検証する根拠となる情報を盛り込むことが重要です。
3.3.1 市場調査
市場調査では、新規事業のターゲット市場規模、競合状況、顧客ニーズなどを調査します。市場の成長性や競争優位性を分析することで、新規事業の成功可能性を評価します。例えば、アンケート調査やインタビュー調査を通じて、顧客のニーズや購買意欲を把握したり、競合他社の製品・サービスを分析することで、自社の優位性を明確化したりすることが重要です。
3.3.2 収益計画
収益計画では、売上予測、コスト予測、利益予測などを具体的に数値化します。初期投資額、固定費、変動費などを考慮し、事業の収益性を評価します。事業再生においては、早期の黒字化が求められるため、現実的な収益計画を策定することが重要です。キャッシュフロー計画も併せて作成し、資金繰りの安全性も確認する必要があります。
3.4 実行と評価
策定した事業計画に基づき、新規事業を実行に移します。実行段階では、KPIを設定し、進捗状況をモニタリングすることで、計画とのずれを早期に発見し、必要な修正を行うことが重要です。
3.4.1 KPI設定とモニタリング
KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的にモニタリングすることで、新規事業の進捗状況を客観的に評価します。売上高、顧客獲得数、顧客単価など、事業目標に合わせたKPIを設定し、目標達成に向けた取り組みを推進します。ダッシュボードなどを活用し、KPIの推移を可視化することで、問題点を早期に発見し、迅速な対応が可能になります。
KPI | 目標値 | 実績値 | 評価 |
---|---|---|---|
売上高 | 1億円 | 8,000万円 | 目標未達 |
顧客獲得数 | 1,000人 | 1,200人 | 目標達成 |
3.4.2 PDCAサイクルの実施
PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を継続的に実施することで、新規事業を改善・発展させていきます。計画(Plan)に基づき実行(Do)し、結果を検証(Check)し、改善策を検討・実施(Action)します。
このサイクルを繰り返すことで、市場の変化や顧客ニーズへの対応を迅速に行い、事業の成長を促進します。事業再生においては、PDCAサイクルを短いスパンで回し、迅速な意思決定と実行が求められます。市場環境の変化に柔軟に対応し、事業計画を適宜見直すことが重要です。
4. 新規事業開発の成功事例
事業再生における新規事業開発の成功事例を、伝統産業と中小企業の事例を通して見ていきましょう。これらの事例は、異なる状況下での新規事業開発のアプローチと、その成功要因を理解する上で貴重な示唆を与えてくれます。
4.1 伝統産業の再生
4.1.1 老舗和菓子店「亀屋万年堂」の挑戦
東京・自由が丘に本店を構える老舗和菓子店「亀屋万年堂」は、和菓子の需要低迷という厳しい状況に直面していました。しかし、伝統を守りつつ新たな価値を創造することで事業再生を図りました。看板商品である「ナボナ」を進化させ、季節限定フレーバーや斬新なパッケージデザインを導入。
さらに、洋菓子のエッセンスを取り入れた新商品開発にも積極的に取り組み、若年層の顧客獲得に成功しました。伝統を守りながらも変化を恐れない柔軟な姿勢が、事業再生の鍵となりました。
4.1.2 加賀友禅工房「加賀染織」の革新
石川県金沢市に拠点を置く加賀友禅工房「加賀染織」は、着物需要の減少に歯止めがかからない状況下で、伝統技術を活かした新規事業開発に着手しました。加賀友禅の繊細な模様をスマートフォンケースやバッグなどの小物に展開し、新たな顧客層を開拓。また、伝統工芸士によるワークショップを開催することで、加賀友禅の魅力を広く発信し、ブランド価値の向上に成功しました。伝統技術を現代のライフスタイルに融合させることで、新たな市場を創造した好例です。
4.2 中小企業の再生
4.2.1 地方の印刷会社「〇〇印刷」のデジタルシフト
地方都市で印刷業を営む「〇〇印刷」は、インターネットの普及による印刷需要の減少という課題に直面していました。そこで、デジタル印刷技術を導入し、小ロット・短納期印刷に対応することで、新たな顧客ニーズを獲得。さらに、Webサイト制作やデザイン事業にも進出し、総合的なマーケティングソリューションを提供する企業へと変革を遂げました。既存事業の強みを活かしつつ、時代の変化に合わせた事業転換が成功の要因です。
【関連】中小企業のための事業再生ガイド4.2.2 精密機器メーカー「△△製作所」の事業多角化
精密機器メーカー「△△製作所」は、主要取引先の業績悪化に伴い、経営危機に陥っていました。そこで、長年培ってきた精密加工技術を活かし、医療機器部品の製造という新たな事業領域に進出。医療機器市場は成長性が高く、安定した収益基盤を築くことに成功しました。コアとなる技術を応用し、新たな市場を開拓することで、事業の多角化を実現した事例です。
企業名 | 業種 | 課題 | 新規事業 | 成功要因 |
---|---|---|---|---|
亀屋万年堂 | 和菓子製造販売 | 和菓子需要の低迷 | ナボナの新フレーバー開発、洋菓子風商品の開発 | 伝統と革新の両立 |
加賀染織 | 加賀友禅製造販売 | 着物需要の減少 | 加賀友禅柄の小物販売、ワークショップ開催 | 伝統技術の現代への応用 |
〇〇印刷 | 印刷業 | 印刷需要の減少 | デジタル印刷、Webサイト制作、デザイン事業 | 時代の変化への対応 |
△△製作所 | 精密機器製造 | 主要取引先の業績悪化 | 医療機器部品製造 | コア技術の応用、事業多角化 |
これらの成功事例は、事業再生において新規事業開発が重要な役割を果たすことを示しています。市場環境の変化や企業の強みを的確に捉え、適切な戦略を策定・実行することで、企業は再生の道を切り開くことができるのです。
5. まとめ
事業再生において、新規事業開発は重要な役割を果たします。既存事業の縮小や市場の変化への対応といった守りの側面だけでなく、新たな収益源の確保や企業イメージの刷新といった攻めの側面からも、事業再生を成功に導くためには必要不可欠です。この記事では、事業再生における新規事業開発の必要性、種類、プロセス、成功事例を解説しました。
新規事業開発には、既存事業の拡張・深化と全く新しい事業の創出という2つのアプローチがあります。それぞれの企業の状況に合わせて適切な方法を選択することが重要です。また、新規事業開発のプロセスにおいては、現状分析から始まり、アイデア発想、事業計画策定、実行と評価という段階を踏むことで、成功確率を高めることができます。市場調査や収益計画の策定など、各段階における綿密な計画と実行が不可欠です。
伝統産業や中小企業の成功事例からもわかるように、規模や業種に関わらず、新規事業開発は事業再生の有効な手段となります。事業再生に取り組む企業は、この記事で紹介した内容を参考に、自社に最適な新規事業開発戦略を策定し、実行していくことが重要です。綿密な計画と迅速な実行によって、企業は新たな成長軌道を描くことができるでしょう。