事業承継の法的リスクと回避法|失敗しないためのチェックリスト&専門家相談ガイド
事業承継は、企業の存続を左右する重要な経営課題です。しかし、多くの経営者が法的リスクへの対策不足から、事業承継に失敗しています。事業承継には、税務、債務、労働法、知的財産権など、様々な法的リスクが潜んでいます。これらのリスクを事前に理解し、適切な回避策を講じなければ、企業の存続を脅かす事態になりかねません。
本記事では、事業承継における代表的な法的リスクの種類を解説し、それぞれの具体的な回避策をステップバイステップで示します。親族内承継、従業員承継(MBO)、第三者承継(M&A)それぞれのケースに合わせたチェックリストも用意しました。
さらに、事業承継をスムーズに進めるための専門家相談ガイドも掲載。弁護士、税理士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家の役割や選び方、相談方法を具体的に解説することで、読者の皆様が安心して事業承継を進められるようサポートします。本記事を読むことで、事業承継の法的リスクを網羅的に理解し、失敗を回避するための具体的な対策を学ぶことができます。
「M&Aは何から始めればいいかわからない」という経営者からも数多くのご相談をいただいています。M&Aを成功に導くはじめの一歩は無料のオンライン相談から。お気軽にご相談ください。
365日開催オンライン個別相談会
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
-
1. 事業承継における法的リスクとは
1.1 事業承継の種類とそれぞれの法的リスク
1.2 よくある法的リスクの具体例
2. 事業承継の法的リスク回避法
2.1 事前の準備が重要!リスク回避のための3つのステップ
2.2 各法的リスクへの具体的な回避策
3. 失敗しない事業承継のためのチェックリスト
3.1 親族内承継チェックリスト
3.2 従業員承継(MBO)チェックリスト
3.3 第三者承継(M&A)チェックリスト
4. 事業承継をスムーズに進めるための専門家相談ガイド
4.1 相談すべき専門家
4.2 専門家選びのポイント
4.3 専門家への相談方法
5. まとめ
1. 事業承継における法的リスクとは
事業承継とは、会社の経営権や所有権を後継者に引き継ぐことを指します。スムーズな事業承継は、企業の存続と発展に不可欠ですが、様々な法的リスクが潜んでいます。これらのリスクを適切に理解し、回避策を講じなければ、事業承継が失敗に終わり、企業の存続を脅かす可能性も出てきます。本稿では、事業承継に潜む法的リスクの種類とその回避策について詳しく解説します。
1.1 事業承継の種類とそれぞれの法的リスク
事業承継には、大きく分けて親族内承継、従業員承継(MBO)、第三者承継(M&A)の3つの種類があります。それぞれに異なる法的リスクが存在するため、承継の種類に応じた対策が必要です。
1.1.1 親族内承継の法的リスク
親族内承継は、経営の安定性や企業文化の継承というメリットがある一方で、後継者の経営能力不足、親族間の感情的な対立、相続問題との絡み合いなど、特有の法的リスクが存在します。例えば、後継者への株式贈与や相続に際して、多額の贈与税や相続税が発生する可能性があります。また、他の親族との間で遺産分割協議が紛糾し、事業承継が滞ってしまうケースも少なくありません。
1.1.2 従業員承継(MBO)の法的リスク
従業員承継(MBO)は、経営陣のモチベーション向上や企業文化の維持に繋がる一方、資金調達の問題や従業員間の公平性確保などが課題となります。特に、MBOの実行に際して金融機関からの融資を受ける場合、事業計画の妥当性や後継者としての経営能力が厳しく審査されます。また、MBOに参加できなかった従業員との間で待遇格差が生じ、労務問題に発展する可能性も考慮しなければなりません。
【関連】M&Aのバイアウト3つの手法MBO・EBO・LBOの違いは?1.1.3 第三者承継(M&A)の法的リスク
第三者承継(M&A)は、新たな経営資源の獲得や事業拡大の機会をもたらす一方、買収価格の決定、デューデリジェンス(買収監査)における情報開示、PMI(買収後統合)における文化やシステムの融合など、複雑な法的リスクが伴います。例えば、デューデリジェンスで想定外の負債やコンプライアンス違反が発覚した場合、買収価格の見直しや契約解除に繋がる可能性があります。また、PMIが円滑に進まず、従業員のモチベーション低下や顧客離れを引き起こすリスクも存在します。
1.2 よくある法的リスクの具体例
事業承継においては、様々な法的リスクが存在しますが、特に注意が必要なものを以下に挙げます。
リスクの種類 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
税務リスク | 事業承継に関連する税金の問題 | 相続税、贈与税、株式評価をめぐる税務調査 |
債務リスク | 企業の負債に関する問題 | 後継者への債務の引継ぎ、連帯保証人の問題 |
労働法リスク | 従業員の権利に関する問題 | 解雇、労働条件の変更、MBOにおける従業員間の公平性 |
知的財産権リスク | 特許権、商標権などの保護に関する問題 | 知的財産権の承継、侵害対策 |
これらのリスクは、事業承継の種類や個々の企業の状況によって複雑に絡み合っているため、専門家のサポートを受けながら、適切な対策を講じることが重要です。
2. 事業承継の法的リスク回避法
事業承継を成功させるためには、法的リスクを事前に把握し、適切な回避策を講じることが不可欠です。事前の準備を怠ると、後々大きなトラブルに発展する可能性があり、事業の継続性さえ危ぶまれる事態になりかねません。事業承継における法的リスク回避は、「現状分析」「事業承継計画の策定」「実行とモニタリング」という3つのステップで進めていくことが重要です。
2.1 事前の準備が重要!リスク回避のための3つのステップ
事業承継における法的リスク回避は、事前の綿密な準備が成功の鍵を握ります。以下の3つのステップを踏まえ、計画的かつ着実に進めていきましょう。
2.1.1 ステップ1 現状分析
まずは、自社の現状を客観的に分析することが重要です。事業内容、財務状況、従業員の状況、知的財産、関連会社との関係など、あらゆる側面から現状を把握します。この段階では、後継者の選定や承継方法の検討はまだ行いません。あくまで現状把握に徹することが、適切な事業承継計画を策定する上で重要となります。
たとえば、財務諸表を分析することで、潜在的な債務リスクや税務リスクを洗い出すことができます。また、従業員へのヒアリングを通して、後継者候補に対する従業員の意見や、社内の潜在的な問題点を把握することも可能です。
2.1.2 ステップ2 事業承継計画の策定
現状分析に基づき、具体的な事業承継計画を策定します。後継者の選定、承継方法の決定、承継時期の設定、財産や株式の移転方法、事業承継後の経営体制など、詳細な計画を立てます。この段階では、想定される法的リスクを洗い出し、具体的な回避策を盛り込むことが重要です。
例えば、親族内承継の場合、相続法や贈与税に関する規定を理解し、適切な対策を講じる必要があります。また、M&Aによる事業承継の場合は、独占禁止法や労働法などの関連法規を遵守する必要があります。事業規模や業種、後継者の状況などを考慮し、最適な計画を策定しましょう。
2.1.3 ステップ3 実行とモニタリング
策定した事業承継計画に基づき、実行に移します。計画通りに進んでいるか、予期せぬ問題が発生していないか、定期的にモニタリングを行い、必要に応じて計画を修正することも重要です。
例えば、後継者の育成状況が計画通りに進まなければ、研修内容の見直しや、メンター制度の導入などを検討する必要があるかもしれません。また、事業環境の変化によって、当初の計画が適切でなくなる場合もあります。常に状況を把握し、柔軟に対応していくことが、事業承継を成功させるために不可欠です。
2.2 各法的リスクへの具体的な回避策
事業承継においては、様々な法的リスクが存在します。それぞれの法的リスクに対して、具体的な回避策を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
2.2.1 税務リスクの回避策
事業承継においては、相続税や贈与税、法人税など、様々な税金が発生する可能性があります。税務リスクを回避するためには、税理士などの専門家と相談し、適切な納税計画を立てることが重要です。例えば、株式の贈与を活用する場合、贈与税の納税猶予制度などを活用することで、税負担を軽減できる場合があります。また、事業承継に際して生じる譲渡所得についても、特例措置の適用要件などを確認し、適切な対策を講じる必要があります。
2.2.2 債務リスクの回避策
後継者が事業を承継する際に、既存の債務も引き継ぐことになります。債務リスクを回避するためには、事業承継前に債務の状況を正確に把握し、返済計画を立てることが重要です。保証債務についても、後継者がどこまで責任を負うのか明確にしておく必要があります。また、必要に応じて、債務保証契約の見直しや、債務の繰り上げ返済などを検討する必要があるでしょう。
2.2.3 労働法リスクの回避策
事業承継に伴い、従業員の雇用条件が変更される場合、労働法上の問題が発生する可能性があります。労働法リスクを回避するためには、就業規則の整備や、従業員代表との適切な協議を行うことが重要です。特に、M&Aによる事業承継の場合、労働契約の承継や、人事制度の統合など、複雑な問題が発生する可能性があります。弁護士や社会保険労務士などの専門家と相談し、適切な対応を行うことが重要です。
2.2.4 知的財産権リスクの回避策
事業承継においては、特許権や商標権、著作権などの知的財産権も重要な資産となります。知的財産権リスクを回避するためには、知的財産権の現状を把握し、適切な管理体制を構築することが重要です。事業承継前に、知的財産権の登録状況や、ライセンス契約の内容などを確認し、必要な手続きを行う必要があります。また、従業員が開発した知的財産権の帰属についても、明確なルールを定めておくことが重要です。
リスク | 回避策 | 相談すべき専門家 |
---|---|---|
税務リスク | 納税計画の策定、特例措置の活用 | 税理士 |
債務リスク | 債務状況の把握、返済計画の策定、保証債務の明確化 | 弁護士、税理士 |
労働法リスク | 就業規則の整備、従業員代表との協議、労働契約の承継 | 弁護士、社会保険労務士 |
知的財産権リスク | 知的財産権の現状把握、管理体制の構築、権利関係の明確化 | 弁護士、弁理士 |
上記以外にも、事業承継には様々な法的リスクが潜んでいます。それぞれの状況に応じて適切な対策を講じるためには、専門家への相談が不可欠です。事業承継をスムーズに進めるためには、早期に専門家と連携し、綿密な計画を立てていくことが重要です。
3. 失敗しない事業承継のためのチェックリスト
事業承継を成功させるためには、綿密な準備と適切な手続きが不可欠です。承継タイプ別のチェックリストを活用し、漏れのない準備を行いましょう。
【関連】事業承継の進め方ガイド|後継者と考える引継ぎ、コスト対策まで徹底解説!3.1 親族内承継チェックリスト
項目 | 確認事項 | 備考 |
---|---|---|
後継者決定 | 後継者の意思確認、経営能力の確認、他の親族の同意 | 後継者育成計画の策定も重要 |
事業の現状分析 | 財務状況、事業の強み・弱み、市場環境の分析 | SWOT分析などを活用 |
承継スキームの検討 | 贈与、売買、株式交換など、最適な方法を選択 | 税理士・弁護士への相談が推奨される |
税務対策 | 相続税、贈与税の試算と対策の実施 | 税務上の特例措置の活用も検討 |
事業計画の策定 | 後継者による事業計画の作成と関係者への共有 | 事業の将来像を明確化 |
従業員への説明 | 承継計画の内容と今後の展望を従業員に説明 | 従業員の不安解消に繋げる |
関係金融機関との調整 | 事業承継計画について金融機関に説明し、理解を得る | 融資条件の変更等も検討 |
3.2 従業員承継(MBO)チェックリスト
項目 | 確認事項 | 備考 |
---|---|---|
後継者(経営陣)の選定 | 経営能力、事業へのコミットメント、資金調達力 | 複数名の選定も可能 |
事業価値の評価 | 適正な事業価値の算定、デューデリジェンスの実施 | 専門家による評価が重要 |
資金調達計画 | 自己資金、金融機関からの融資、投資ファンドからの出資 | 資金調達方法の多様化 |
株式譲渡契約の締結 | 譲渡価格、譲渡時期、経営権の移行方法などを明確化 | 弁護士のサポートが必須 |
事業計画の策定と実行 | MBO後の事業計画、成長戦略の策定と実行 | 従業員のモチベーション向上策も重要 |
既存経営陣との関係構築 | 円滑な引継ぎのための良好な関係構築 | 引継ぎ期間の設定も有効 |
3.3 第三者承継(M&A)チェックリスト
項目 | 確認事項 | 備考 |
---|---|---|
買収候補先の選定 | 事業内容、財務状況、企業文化、シナジー効果などを考慮 | M&Aアドバイザーの活用 |
デューデリジェンスの実施 | 財務、法務、事業、税務など多角的な調査 | 専門家チームによる徹底的な調査 |
事業価値の評価 | 適正な価格での買収交渉 | DCF法、類似会社比較法など |
買収契約の締結 | 買収価格、買収条件、クロージング時期などを明確化 | 弁護士のサポートが必須 |
PMI(Post Merger Integration)の実施 | 統合プロセス、組織体制、人事制度などを整備 | 文化の違いへの配慮も重要 |
関係者への説明 | 従業員、顧客、取引先などへの丁寧な説明 | 信頼関係の維持 |
これらのチェックリストはあくまで一般的なものであり、個々の状況に合わせて修正が必要となる場合があります。専門家と相談しながら、自社に最適な事業承継計画を策定しましょう。
4. 事業承継をスムーズに進めるための専門家相談ガイド
事業承継は、企業の存続と発展を左右する重要なプロセスです。法的リスクを回避し、スムーズな事業承継を実現するためには、専門家のサポートが不可欠です。それぞれの専門家の役割を理解し、適切なタイミングで相談することで、多くの問題を未然に防ぎ、成功へと導くことができます。
【関連】中小企業向け事業承継コンサルティング|M&A、親族内承継など最適な方法をご提案4.1 相談すべき専門家
事業承継には様々な専門家が関わりますが、特に重要な役割を担うのは、弁護士、税理士、公認会計士、中小企業診断士です。それぞれの専門分野と事業承継における役割を理解し、適切な専門家を選びましょう。
専門家 | 専門分野 | 事業承継における役割 |
---|---|---|
弁護士 | 法律 | 事業承継に関する契約書の作成・チェック、法的紛争の解決、株主総会・取締役会の運営に関するアドバイス、各種法令に関する助言など |
税理士 | 税務 | 事業承継に伴う税務対策、相続税・贈与税の申告、税務調査対応、事業承継計画の策定支援など |
公認会計士 | 会計・監査 | 企業価値の評価、財務デューデリジェンス、事業計画の策定支援、会計監査など |
中小企業診断士 | 経営全般 | 事業承継計画の策定支援、後継者育成支援、事業戦略の策定、経営改善支援など |
4.1.1 弁護士
弁護士は、事業承継における契約書(例えば、株式譲渡契約、事業譲渡契約、会社分割契約、遺言書など)の作成やチェック、法的紛争の解決、株主総会・取締役会の運営に関するアドバイス、各種法令(例えば、会社法、民法、税法など)に関する助言などを行います。複雑な法律問題を解決し、法的リスクを最小限に抑えるために不可欠な存在です。
4.1.2 税理士
税理士は、事業承継に伴う税務対策(例えば、納税猶予制度の活用、事業承継税制の適用など)、相続税・贈与税の申告、税務調査対応、事業承継計画の策定支援などを行います。事業承継は多額の税金が発生する可能性があるため、税務の専門家である税理士のサポートは非常に重要です。
4.1.3 公認会計士
公認会計士は、企業価値の評価、財務デューデリジェンス(財務状況の調査)、事業計画の策定支援、会計監査などを行います。企業の財務状況を客観的に分析し、適正な評価を行うことで、円滑な事業承継をサポートします。M&Aを伴う事業承継においては特に重要な役割を果たします。
4.1.4 中小企業診断士
中小企業診断士は、事業承継計画の策定支援、後継者育成支援、事業戦略の策定、経営改善支援など、経営全般に関するアドバイスを行います。事業承継は単なる財産の承継ではなく、経営の承継でもあります。中小企業診断士は、後継者がスムーズに経営を引き継げるよう、多角的な視点からサポートします。
4.2 専門家選びのポイント
専門家を選ぶ際には、事業承継に関する豊富な経験と実績を持つ専門家を選ぶことが重要です。また、コミュニケーションが円滑に取れるか、親身になって相談に乗ってくれるかなども重要なポイントです。複数の専門家に相談し、相性の良い専門家を選ぶことをおすすめします。料金体系についても事前に確認しておきましょう。明確な料金体系を提示してくれる専門家の方が安心です。
【関連】新しい仲介サービス「Hands on M&A」誕生!業績向上までサポートします。4.3 専門家への相談方法
専門家への相談は、事業承継を検討し始めた段階から行うことが理想的です。早い段階から相談することで、より多くの選択肢の中から最適な方法を選ぶことができます。相談内容を事前に整理し、必要な資料を準備しておくことで、スムーズな相談が可能です。相談時には、疑問点や不安な点を遠慮なく質問し、納得いくまで説明を受けるようにしましょう。
【関連】オンライン個別相談会3655. まとめ
事業承継は、企業の存続と成長にとって極めて重要なプロセスです。しかし、様々な法的リスクが潜んでおり、事前の準備と適切な対応を怠ると、事業の継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、親族内承継、従業員承継(MBO)、第三者承継(M&A)といった様々な事業承継の種類における法的リスクと、その具体的な回避策について解説しました。
税務、債務、労働法、知的財産権など、事業承継に関連する法的リスクは多岐に渡ります。これらのリスクを最小限に抑えるためには、現状分析に基づいた綿密な事業承継計画の策定と、計画に基づいた実行、そして定期的なモニタリングが不可欠です。また、各承継タイプに合わせたチェックリストを活用することで、見落としがちなポイントを確実に確認できます。
さらに、弁護士、税理士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家のサポートを受けることは、スムーズな事業承継を実現する上で非常に有効です。専門家選びのポイントを押さえ、適切な相談を行うことで、複雑な法的手続きやリスクへの対応を円滑に進めることができます。事業承継を成功に導くためには、事前の準備と専門家との連携が鍵となります。