垂直統合と水平統合の違いとは?M&Aによるメリット・デメリットをわかりやすく解説

垂直統合と水平統合の違いとは?M&Aによるメリット・デメリットをわかりやすく解説

「垂直統合」と「水平統合」の違いって、言葉ではなんとなく分かっても、具体的にどんなメリット・デメリットがあるのか、イメージしづらいですよね?

この記事では、製造業などでおなじみの川上・川下の関係性を例に「垂直統合」を、コンビニ業界を例に「水平統合」を解説することで、その違いを明確にします。

さらに、国内企業のM&A事例を通して、それぞれのメリット・デメリットを比較分析。企業戦略におけるM&Aの意義や、潜在的なリスクについても理解を深めることができます。

M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。

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編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。



1. 垂直統合とは

垂直統合とは、企業が自社のバリューチェーンにおいて、原材料の調達から製造、販売、アフターサービスまでの一連の流れのうち、複数の段階を統合することを指します。例えば、製造業であれば、原材料メーカーを買収したり、自社で販売会社を設立したりすることで、垂直統合を進めることができます。


1.1 バリューチェーンの川上から川下へ統合

垂直統合は、バリューチェーンの川上(原材料調達)から川下(販売、アフターサービス)に向かって統合を進める「川下型」と、逆に川下から川上に向かって統合を進める「川上型」の2種類に分けられます。

統合の方向 説明
川下型 川上から川下へ統合を進める 原材料メーカーが製品の製造や販売に乗り出す
川上型 川下から川上へ統合を進める 小売業者が商品の企画や製造に乗り出す

1.2 垂直統合のメリット
コスト削減中間マージンの削減や、生産・物流の効率化によるコスト削減効果
品質管理の強化原材料調達から販売までの全工程を自社で管理することで、品質管理を強化できる
安定供給の確保原材料の調達や販売先の確保が容易になり、安定供給を実現できる
競争優位の確立独自の技術やノウハウをバリューチェーン全体で活用することで、競争優位を築ける

1.3 垂直統合のデメリット
投資コストの増大統合する企業の買収や設備投資に多額の資金が必要となる
経営の硬直化意思決定のスピードが遅くなり、市場の変化に柔軟に対応できなくなる可能性
リスクの集中特定の事業分野に依存する状態となり、その事業が不振に陥ると、企業全体に大きな影響が及ぶ

2. 水平統合とは

水平統合とは、同一の事業段階にある企業同士が統合すること、つまり競合企業同士が一緒になることを指します。同じ業界内の競合企業を買収したり、合併したりすることで、市場におけるシェアを拡大し、競争力を高めることを目指します。


2.1 水平統合のメリット 規模の経済 統合により事業規模が拡大し、大量生産が可能になることで、製品やサービスの製造・提供コストを削減できます。これは、原材料の調達、製造、物流、販売などの各段階において効率化が図れるためです。

市場支配力の強化 競合企業を傘下に入れることで、市場におけるシェアを拡大し、価格決定力や交渉力を高めることができます。これは、顧客やサプライヤーに対して優位な立場を築き、収益性を向上させることに繋がります。

重複部門の削減 統合により、重複する部門や機能を統合・廃止することで、コスト削減と効率化を実現できます。例えば、管理部門、人事部門、経理部門などを統合することで、間接費の削減につながります。

製品・サービスの拡充 統合により、お互いの強みを持つ製品やサービスを組み合わせることで、顧客に提供できる価値を高めることができます。これは、顧客満足度向上や新規顧客獲得に繋がり、市場での競争優位性を築くことに繋がります。


2.2 水平統合のデメリット 独占禁止法の規制 市場における競争を阻害する可能性があるため、独占禁止法の審査対象となる可能性があります。統合が認められるためには、消費者利益を損なわないことや、市場の競争性を維持することが求められます。

企業文化の衝突 異なる企業文化を持つ企業同士の統合は、従業員間の摩擦や組織全体の混乱を招く可能性があります。統合を成功させるためには、企業文化の融合や組織風土の改革など、入念な準備と計画が必要です。

統合コストの増大 統合には、法務、会計、人事など、様々な分野における専門家への費用や、システム統合などの費用が発生します。統合によるメリットがコストを上回るかどうか、慎重な検討が必要です。

ブランドイメージの低下 統合により、一方のブランドイメージが低下する可能性があります。特に、買収される側の企業やブランドイメージが強い場合には、統合による影響を慎重に検討する必要があります。


2.3 水平統合の事例

日本の携帯電話業界では、激しい競争環境の中で、水平統合による事業再編が進みました。

統合元 統合先 統合の目的
NTTドコモ NTTコミュニケーションズ 固定通信と移動体通信の融合による競争力強化
KDDI auひかり 通信とコンテンツの融合による収益基盤の拡大
ソフトバンク スプリント グローバル展開による事業規模の拡大

これらの統合は、通信業界の競争激化、技術革新、グローバル化といった要因によって引き起こされました。各社は、水平統合を通じて規模の経済を追求し、競争優位性を築くことを目指しました。


3. M&Aにおける垂直統合と水平統合の違い

M&Aにおいて、垂直統合と水平統合は全く異なる戦略です。それぞれの目的や効果を理解し、自社の成長戦略に最適な方法を選択することが重要です。ここでは、具体的な企業事例を交えながら、垂直統合と水平統合の違いを詳しく解説していきます。


3.1 ケーススタディ:サントリーホールディングス株式会社の事例

日本の飲料メーカーであるサントリーホールディングス株式会社は、積極的なM&Aを通じて事業を拡大してきた企業として知られています。ここでは、サントリーによるM&Aの中でも、垂直統合と水平統合のそれぞれの事例を挙げながら、その違いを具体的に見ていきましょう。

水平統合の例:ビール事業における統合

サントリーは2009年、ビール事業において、当時のサッポロホールディングス傘下であったサッポロビールを買収しようと試みました。これは、競合企業を買収することで、ビール市場におけるシェア拡大と競争力強化を狙った水平統合の事例と言えます。

目的ビール市場でのシェア拡大、ブランドポートフォリオの強化
結果買収は実現しなかったものの、その後のキリンビールとの業務提携など、水平統合的な戦略は継続して模索されている
垂直統合の例:飲料原料の調達網強化

サントリーは、飲料原料の安定調達と品質管理の強化を目的として、世界各地の農園や生産者と提携を進めています。

例えば、オレンジジュースの原料となるオレンジについては、ブラジルやアメリカの農園と長期的な契約を締結し、高品質なオレンジの安定供給を実現しています。

これは、バリューチェーンの上流である原料調達を統合することで、品質とコスト競争力を高める垂直統合の戦略と言えます。

目的飲料原料の安定調達、品質管理の強化、コスト削減
結果高品質な飲料の安定供給体制を構築し、ブランドイメージ向上にも貢献

3.2 垂直統合と水平統合のメリット・デメリット比較

垂直統合と水平統合は、それぞれ異なるメリットとデメリットを持っています。企業は、それぞれのメリットとデメリットを比較検討し、自社の置かれている状況や目指す方向性に合わせて、最適な戦略を選択する必要があります。

項目 垂直統合 水平統合
メリット
  • バリューチェーンの効率化によるコスト削減
  • 品質管理の強化
  • 競争優位性の確保
  • 市場シェアの拡大
  • 規模の経済によるコスト削減
  • 競争相手の排除
デメリット
  • 経営資源の分散
  • 市場変化への対応力の低下
  • 統合によるシナジー効果が期待できない場合もある
  • 独占禁止法上の問題
  • 企業文化の融合の難しさ
  • 統合によるシナジー効果が期待できない場合もある

このように、垂直統合と水平統合は、それぞれ異なる特徴を持つM&A戦略です。企業は、自社の置かれている状況や目指す方向性に合わせて、最適な戦略を選択していく必要があります。


4. M&Aのメリット

M&Aを実施するメリットは、大きく以下の3つに分類できます。

シナジー効果による企業価値向上
市場競争の激化に対応
新規事業への進出

4.1 シナジー効果による企業価値向上

M&Aの最大のメリットは、企業同士の融合によってシナジー効果を生み出し、単独では実現できない企業価値向上を図れる点にあります。シナジー効果には、次のような種類があります。

売上シナジー
販路拡大買収企業の販路を活用することで、自社の製品やサービスの販売機会を拡大
クロスセル既存顧客に対して、買収企業の製品やサービスを販売
ブランド力強化買収企業の持つブランド力と自社のブランド力を組み合わせることで、より強力なブランドを構築
コストシナジー
規模の経済生産量や購買量の増加により、製品やサービスの単位あたりのコストを削減
範囲の経済複数の事業を組み合わせることで、共通の資源やノウハウを活用し、コスト削減
重複部門の統合重複する部門や機能を統合することで、コスト削減
技術シナジー
技術補完買収企業の持つ技術と自社の技術を組み合わせることで、新たな技術や製品を開発
開発期間短縮買収企業の技術を活用することで、自社で開発するよりも短期間で新製品やサービスを市場に投入
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4.2 市場競争の激化に対応

グローバル化や技術革新の進展により、多くの業界で市場競争が激化しています。企業は、M&Aを通じて、競争優位性を構築し、生き残りを図る必要があります。具体的には、次のような対応が考えられます。

規模拡大による競争力強化

M&Aによって企業規模を拡大することで、コスト競争力を高めたり、より多くの資源を投入して研究開発やマーケティング活動を強化したりすることができます。これは、価格競争が激しい業界や、規模の経済が働きやすい業界において有効な戦略です。

競合企業の買収による競争回避

競合企業を買収することで、市場シェアを拡大し、競争を回避することができます。また、買収によって競合企業の技術やノウハウを獲得し、自社の競争力を高めることもできます。ただし、独占禁止法などの規制に抵触する可能性もあるため注意が必要です。


4.3 新規事業への進出

既存事業の成長が鈍化する中、新たな収益源の確保は多くの企業にとって喫緊の課題です。M&Aは、新規事業に迅速に進出し、成長を加速させる有効な手段となります。具体的には、次のようなメリットがあります。

時間とコストの削減

自社で新規事業を立ち上げる場合、市場調査、製品開発、人材採用などに多大な時間とコストがかかります。M&Aであれば、既に事業を行っている企業を買収することで、これらの時間とコストを大幅に削減することができます。

リスクの低減

新規事業は、成功する保証はなく、失敗するリスクも伴います。M&Aの場合、既に実績のある事業を買収することで、リスクを低減することができます。また、買収対象企業の経営陣や従業員をそのまま引き継ぐことで、円滑な事業承継を実現することも可能です。

シナジー効果による新規事業の成功確率向上

既存事業とのシナジー効果によって、新規事業の成功確率を高めることができます。例えば、既存事業の販路や顧客基盤を活用することで、新規事業の立ち上げをスムーズに行うことができます。

M&Aは、企業の成長戦略において重要な役割を果たします。企業は、自社の経営戦略に基づき、M&Aを有効に活用することで、企業価値の向上を目指していく必要があります。


5. M&Aのデメリット
5.1 統合コストの増大 買収金額 買収対象企業の価値評価に基づき、買収金額が決定されますが、プレミアムが上乗せされる場合も多く、多額の資金が必要となります。

アドバイザリー費用 M&Aのプロセスには、金融機関、弁護士、会計士、コンサルタントといった専門家のアドバイスが不可欠です。これらの専門家への報酬も大きな負担となります。

統合費用 買収後、組織、システム、文化などを統合するためには、多大な時間と費用が必要です。従業員の配置転換、システムの再構築、新ブランドの確立など、多岐にわたる費用が発生します。


5.2 企業文化の衝突 経営方針や価値観の相違 意思決定のプロセス、顧客との接し方、従業員に対する考え方など、企業文化の根幹をなす部分で食い違いが生じると、統合後の事業運営に支障をきたす可能性があります。

コミュニケーションの問題 社風や慣習の違いから、コミュニケーションが円滑に進まず、誤解や不信感を招くことがあります。特に、言語や文化の異なる企業間では、相互理解を深めるための努力が不可欠です。

従業員のモチベーション低下 統合による環境変化や雇用不安、新しい企業文化への適応などにより、従業員のモチベーションが低下することがあります。優秀な人材の流出に繋がる可能性もあり、組織力の低下は深刻な問題です。


5.3 独占化による競争の阻害 価格支配力の増大 競争相手が減ることで、統合後の企業は価格支配力を持ちやすくなります。消費者にとって、価格上昇やサービス低下といった不利益が生じる可能性があります。

イノベーションの停滞 競争が減少すると、企業は新たな製品やサービスの開発に力を入れなくなる可能性があります。市場全体の停滞に繋がり、経済全体に悪影響を及ぼす可能性も懸念されます。

公正取引委員会による規制 一定規模以上のM&Aは、公正取引委員会の審査対象となり、独占禁止法に抵触すると判断された場合、統合が認められない場合があります。


5.4 その他のデメリット
デメリット 内容
買収後の業績悪化 統合プロセスが円滑に進まなかった場合、売上減少や収益悪化に陥る可能性があります。
負債の増加 買収資金を借入で賄った場合、負債比率が上昇し、財務リスクが高まります。
ブランドイメージの低下 統合による混乱や、買収対象企業のネガティブなイメージが、自社のブランドイメージに悪影響を与える可能性があります。

6. まとめ

今回は、企業成長戦略における重要な選択肢である垂直統合と水平統合、そしてM&Aについて解説しました。

垂直統合は、バリューチェーンの川上から川下までを統合することで、コスト削減や品質管理の強化といったメリットがある一方、市場変化への対応が遅れる可能性も孕んでいます。

水平統合は、競合との統合により市場支配力を高めることが期待できますが、独占禁止法の観点からの注意が必要です。

M&Aは、シナジー効果による企業価値向上や新規事業進出を加速させる一方で、統合コストや企業文化の違いによる課題も存在します。

企業は、それぞれの戦略のメリット・デメリットを理解した上で、自社の置かれた状況や目指す将来像に応じて最適な選択をすることが重要です。

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