中小M&Aガイドライン(第3版)に改定されました。【2024年8月30日】
2023年8月30日に「中小M&Aガイドライン」の第3版が公表されました。今回の改定は、中小企業のM&Aをより健全かつ円滑に進めることを目的としており、M&A仲介会社やFAの手数料体系の見直し、広告・営業活動の規制強化、利益相反に関する禁止事項の具体化など、多岐にわたる変更点があります。
本記事では、中小企業の経営者やM&A担当者に向けて、改定されたガイドラインの内容を分かりやすく解説します。第3版の内容を正しく理解し、今後のM&A戦略に役立てましょう。
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編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったM&A・PMIの専門家。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。
- 目次
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1. 中小M&Aガイドラインとは
1.1 ガイドライン策定の趣旨・目的
1.2 中小M&Aガイドラインの目的
1.3 ガイドラインの内容
1.4 対象となるM&A
1.5 ガイドラインの構成
1.6 ガイドラインの活用方法
2. 今回の改定ポイント
2.1 仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)の手数料・提供業務に関する事項
2.2 広告・営業の禁止事項の明記
2.3 利益相反に係る禁止事項の具体化
2.4 ネームクリア・テール条項に関する規律
2.5 最終契約後の当事者間のリスク事項について
2.6 譲り渡し側の経営者保証の扱いについて
2.7 不適切な事業者の排除について
3. 中小M&Aガイドライン(第3版)を入手するには
3.4 その他
4. まとめ
1. 中小M&Aガイドラインとは
中小M&Aガイドラインとは、経済産業省が中心となって策定した、中小企業の合併・買収(M&A)に関するガイドラインです。2020年3月に初版が公表され、その後、2023年9月に第2版、そして2024年8月に最新の第3版が公表されました。
1.1 ガイドライン策定の趣旨・目的
中小企業を取り巻く環境は、グローバル化の進展、技術革新の加速、少子高齢化の進展など、大きく変化しています。このような中で、中小企業が持続的な成長・発展を遂げていくためには、M&Aを事業戦略の一つとして積極的に活用していくことが重要となっています。
しかしながら、中小企業のM&Aは、当事者にとって不慣れな取引である場合が多く、専門家も不足していることから、トラブルが発生するリスクも少なくありません。そこで、中小企業のM&Aをより円滑かつ適正に進めるために策定されたのが、中小M&Aガイドラインです。
1.2 中小M&Aガイドラインの目的
中小M&Aガイドラインは、以下の目的で策定されました。
中小M&Aに関する基本的な考え方や留意点を示すことで、当事者の理解を深め、トラブルを未然に防止する。 | |
M&Aに関する情報開示を促進することで、透明性・公正性を高め、M&A市場の健全な発展を促す。 | |
M&Aの成功事例や失敗事例などを共有することで、中小企業がM&Aを適切に活用できる環境を整備する。 |
1.3 ガイドラインの内容
中小M&Aガイドラインでは、M&Aのプロセスを以下の7つの段階に分け、各段階における基本的な考え方や留意点、具体的な事例などを示しています。
準備段階 | |
相手先探索段階 | |
基本合意段階 | |
デューデリジェンス・条件交渉段階 | |
最終契約段階 | |
統合準備段階 | |
統合後段階 |
1.4 対象となるM&A
中小M&Aガイドラインは、以下のいずれにも該当するM&Aを対象としています。
当事者の一方または双方が中小企業であるM&A | |
合併、会社分割、株式譲渡、事業譲渡など、様々なスキームによるM&A | |
友好的M&A、敵対的M&A |
1.5 ガイドラインの構成
中小M&Aガイドライン(第3版)は、以下の構成となっています。
第1章 後継者不在の中小企業向け
I 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等 1.後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義2.中小 M&A の事例
3.譲り渡し側にとっての基本姿勢
4.譲り渡し側にとっての留意点
II 中小 M&A の進め方 1.中小 M&A フロー図
2.中小 M&A に向けた事前準備
3.中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)
III M&A プラットフォーム 1.M&A プラットフォームの基本的な特徴
2.M&A プラットフォーム利用の際の留意点
3.M&A プラットフォームの手数料
IV 事業承継・引継ぎ支援センター 1.事業者同士の中小 M&A の支援
2.その他の支援
V 仲介者・FA の手数料についての考え方の整理 1.手数料の種類
2.レーマン方式及び最低手数料
3.具体例
4.仲介契約・FA 契約前の手数料に係る確認・対応
VI 問い合わせ窓口 1.意見や相談を求めるための主な問い合わせ窓口
2.不適切事例や苦情を申し出るための主な窓口
第2章 支援機関向けの基本事項
I 支援機関としての基本姿勢 1.依頼者(顧客)の利益の最大化2.それぞれの役割に応じた適切な支援
3.支援機関間の連携
II M&A 専門業者 1.M&A 専門業者による中小 M&A 支援の特色
2.行動指針等の策定の必要性
3.支援の質の確保・向上に向けた取組
4.各工程の具体的な行動指針
5.仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
6.不適切な譲り受け側の排除に向けた取組
7.専任条項の留意点
8.直接交渉の制限に関する条項の留意点
9.テール条項の留意点
III 金融機関 1.金融機関による中小 M&A 支援の特色
2.主な支援内容
3.中小 M&A 支援に関する留意点
IV 商工団体 1.商工団体による中小 M&A 支援の特色
2.主な支援内容
3.中小 M&A 支援に関する留意点
V 士業等専門家 1.公認会計士
2.税理士
3.中小企業診断士
4.弁護士
5.その他の士業等専門家
VI M&A プラットフォーマー 1 M&A プラットフォーマーによる支援の特色
2 主な支援内容
3 中小 M&A 支援に関する留意点
1.6 ガイドラインの活用方法
中小M&Aガイドラインは、中小企業の経営者や従業員、M&A仲介業者、弁護士、会計士などの専門家など、中小M&Aに関わるすべての人にとって役立つ情報が満載です。M&Aを検討する際には、ぜひ本ガイドラインをご活用ください。
2. 今回の改定ポイント
今回の第3版への改定では、M&A実務の最新動向やこれまでの運用状況を踏まえ、以下の7つのポイントが改定されました。
2.1 仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)の手数料・提供業務に関する事項
M&Aプロセスにおける透明性と公正性を高めるため、仲介者やFAの手数料に関する規定が強化されました。具体的には、以下の点が明記されました。
手数料の算定基準を明確化すること | |
手数料の支払時期を明確化すること | |
成功報酬の定義を明確化し、成功報酬の支払い条件を具体的に定めること |
また、仲介者・FAが提供する業務内容についても、以下の点が明確化されました。
対象企業の調査・分析 | |
M&Aのスキーム構築の支援 | |
契約交渉の支援 | |
クロージングまでのプロセス管理 |
2.2 広告・営業の禁止事項の明記
不適切なM&A案件への勧誘や、虚偽の情報を用いた営業活動などを防止するため、広告・営業活動における禁止事項が明記されました。具体的には、以下の行為が禁止されています。
虚偽の情報や誤解を招くような情報を提供すること | |
相手方の意に反して執拗に勧誘すること | |
不当な影響力を行使して契約を締結させようとすること |
2.3 利益相反に係る禁止事項の具体化
M&Aプロセスにおいて、仲介者・FAが一方の当事者の利益を図り、他方の当事者に不利益を与えることを防ぐため、利益相反に関する禁止事項が具体化されました。具体的には、以下の行為が禁止されています。
一方の当事者から報酬を受け取りながら、他方の当事者にも報酬を請求すること | |
一方の当事者と秘密保持契約を締結しながら、他方の当事者に秘密情報を漏洩すること | |
一方の当事者のために活動しながら、同時に他方の当事者の利益を害する活動を行うこと |
2.4 ネームクリア・テール条項に関する規律
M&A契約におけるネームクリア・テール条項の規定内容が明確化されました。ネームクリア・テール条項とは、M&A契約締結後に、譲渡対象事業に関連して発生した債務や損害について、譲渡側が一定期間責任を負うことを定めた条項です。改定では、以下の点が明確化されました。
ネームクリア・テール条項の対象となる債務・損害の範囲 | |
ネームクリア・テール条項の責任期間 | |
ネームクリア・テール条項に基づく責任の限度額 |
2.5 最終契約後の当事者間のリスク事項について
M&A契約締結後、クロージングまでの間に発生する可能性のあるリスク事項について、当事者が事前に認識し、適切な対応をとることができるよう、以下の事項が明記されました。
最終契約締結後に発生する可能性のある重要な事象 | |
重要な事象が発生した場合の当事者の義務 | |
重要な事象が発生した場合の契約解除の可否 |
2.6 譲り渡し側の経営者保証の扱いについて
M&Aにおいて、譲渡対象会社の経営者が、買収後の事業の継続性や債務の弁済などを保証するために、買収会社に対して経営者保証を提供することがあります。改定では、経営者保証の扱いについて、以下の点が明確化されました。
経営者保証の範囲 | |
経営者保証の期間 | |
経営者保証の解除条件 |
2.7 不適切な事業者の排除について
反社会的勢力や法令違反を繰り返す事業者など、不適切な事業者がM&A市場に関与することを防止するため、以下の対策が強化されました。
M&A仲介会社は、顧客が反社会的勢力と関与していないか、適切な調査を行う義務を負うこと | |
M&A契約において、反社会的勢力の排除に関する条項を設けることが推奨されること | |
不適切な事業者に関する情報共有の体制を構築すること |
3. 中小M&Aガイドライン(第3版)を入手するには 中小M&Aガイドライン(第3版)は、以下のURLより入手可能です。
中小企業庁 「中小M&Aガイドライン」を改訂しました
3.1 その他
経済産業省では、中小M&Aガイドラインに関する説明会やセミナーを定期的に開催しています。最新情報は、経済産業省のウェブサイトをご確認ください。
4. まとめ
中小M&Aガイドラインは、中小企業のM&Aが公正かつ円滑に行われるよう、経済産業省が策定したガイドラインです。
2023年9月の改定では、M&A仲介会社やFAの手数料に関する透明性向上、広告・営業活動の規制強化、利益相反行為の禁止など、より実効性を高めるための見直しが行われました。
M&Aを検討する際には、本ガイドラインの内容を理解し、専門家のアドバイスを受けながら、取引を進めることが重要です。