エスクローとは?M&Aとの関連性・意味、メリット・デメリット、活用方法を解説

エスクローとは?M&Aとの関連性・意味、メリット・デメリット、活用方法を解説

「M&Aにおけるエスクローって実際どういうこと?」「導入するメリット・デメリットって?」企業の合併や買収といった場面で耳にする機会が増えてきた「エスクロー」ですが、その具体的な内容や活用方法について、疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、エスクローの基礎知識から、M&Aにおける役割やメリット・デメリット、具体的な活用事例まで、分かりやすく解説していきます。M&A取引をスムーズかつ安全に進めるためのエスクロー活用術を、ぜひ本記事で習得してください。


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1. エスクローとは 1.1 第三者預託を意味する

エスクローとは、売買取引などの契約において、当事者の一方が相手方に金銭や有価証券、権利などを直接渡すのではなく、信頼できる第三者に預けておき、契約条件が全て満たされた際に、その第三者が相手方に引き渡す仕組みを指します。日本語では「第三者預託」とも呼ばれます。


1.2 売買の場面でよく使われる

エスクローは売買取引において、売主と買主の間に生じる「商品を受け取れるか」「支払いを受け取れるか」という不安を解消するために利用されます。

例えば、インターネットオークションなどで個人間取引を行う際、商品を発送したにも関わらず、代金が支払われない、あるいは、代金を支払ったにも関わらず、商品が届かないといったトラブルが発生するリスクがあります。

エスクローサービスを利用することで、このようなトラブルを未然に防ぎ、安全な取引を実現することができます。

エスクローは、インターネットオークション以外にも、不動産取引、M&A、ソフトウェア開発など、様々な場面で利用されています。

取引 預けるもの エスクローの役割
インターネットオークション 購入代金 売主が商品を発送したことを確認してから、買主に代金を支払う。
不動産取引 売買代金 所有権移転登記が完了したことを確認してから、売主に代金を支払う。
M&A 株式、事業譲渡代金 契約条件が全て満たされたことを確認してから、売却側に株式や事業譲渡代金を支払う。
ソフトウェア開発 開発費用 ソフトウェアが納品されたことを確認してから、開発者に費用を支払う。

1.3 エスクローサービスを提供する企業

日本では、以下のような企業がエスクローサービスを提供しています。

GMOペイメントゲートウェイ株式会社
株式会社イーコンテクスト
三菱UFJ信託銀行株式会社

これらの企業は、インターネットオークションやECサイト、不動産取引、M&Aなど、様々な取引において、安全な取引を実現するためのエスクローサービスを提供しています。


2. M&Aにおけるエスクローの役割 2.1 M&Aにおけるエスクローの必要性
当事者 不安・リスク エスクローによる解決策
買い手 合意通りの事業・資産の引渡し 条件を満たした場合のみ売主に資金が支払われる仕組み
買い手 隠れた負債・契約上の問題 デューデリジェンスの結果を反映した契約、問題発生時の補償条項
売り手 合意金額の不払い 資金を事前にエスクロー口座に預託
売り手 買収後の経営介入・雇用不安 エスクロー契約に介入範囲や雇用に関する条項を盛り込む

2.2 M&Aにおけるエスクロー契約の内容 M&A(Mergers and Acquisitions、企業の合併・買収)におけるエスクロー契約は、買収契約に関連する特定の資金や資産を第三者であるエスクローエージェント(通常は信託銀行や弁護士事務所)に預ける仕組みを指します。この契約の目的は、買い手と売り手の双方の利益を保護し、取引の安全性と信頼性を高めることです。

エスクロー契約の主な内容 1.預託資金の管理 一定の資金(通常は取引価格の一部)をエスクロー口座に預け入れます。この資金は、取引が完了するまで、エスクローエージェントが管理します。
2.条件付き支払い 売り手が特定の条件(例えば、特定の業績目標の達成や未解決の法的リスクの解消など)を満たす場合、エスクロー口座から資金が支払われます。条件が満たされない場合は、買い手に資金が返還されることもあります。
3.紛争解決 買い手と売り手の間で取引後に発生する可能性のある紛争を解決するための仕組みとして機能します。例えば、売り手が取引前に開示していなかった負債が後で発見された場合、エスクロー資金を使ってその負債をカバーすることができます。
4.エスクロー期間 エスクロー期間が設定され、その期間が経過するとエスクロー口座から資金が開放されます。この期間は通常、取引の性質やリスクによって異なります。
5.エスクローエージェントの役割 エスクローエージェントは中立的な第三者として、契約内容に基づき資金や資産を管理・保管し、必要に応じて売り手または買い手に支払います。エスクローエージェントの義務や報酬も契約で明示されます。
エスクロー契約は、M&A取引のリスクを軽減し、売り手と買い手双方が安心して取引を進められるようにする重要な手段です。

3. M&Aでエスクローを活用するメリット

M&Aにおいて、エスクローを活用することには、買収側・売却側の双方にとって、様々なメリットがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。


3.1 買収側にとってのメリット
取引の安全性の確保

エスクローを利用することで、買収側としては、売買代金を支払ったにも関わらず、株式や事業の譲渡が適切に行われないといったリスクを回避できます。事前に定められた条件が満たされない限り、エスクロー業者は売却側に代金を支払わないため、買収側は安心して取引を進めることができます。

デューデリジェンスの期間を有効活用できる

M&Aでは、買収対象企業の調査を行うデューデリジェンスが不可欠です。エスクローを活用することで、デューデリジェンスで発見された問題点に対する売却企業側の対応を条件に、株式や事業の譲渡を進めることができます。

例えば、デューデリジェンスで発覚した想定外の債務問題について、売却企業側が解決することを条件に、取引を進めることが可能になります。

隠れた負債のリスク軽減

買収後に、想定外の負債や偶発債務が判明するケースは少なくありません。エスクローを活用することで、売却代金の中から、こうした負債や債務を弁済するための費用を確保することができます。

例えば、買収後に発覚した環境汚染問題の処理費用を、エスクローされた売却代金から充当することが可能になります。


3.2 売却側にとってのメリット
売却代金の支払いを確実化

売却側としては、株式や事業の譲渡後、買収側が合意した売却代金を支払わないというリスクが考えられます。エスクローを利用することで、売却代金は、あらかじめエスクロー業者に預託されるため、売却側は代金回収のリスクを回避できます。安心して取引を進めることができるでしょう。

条件交渉を有利に進める

エスクローを導入することで、売却側も、買収側に対して、より有利な条件で交渉を進めることが可能になります。例えば、株式や事業の譲渡後も、一定期間、経営に関与することを条件に、エスクローされた売却代金の一部を、後に受け取れるように交渉することができます。

スムーズな事業承継

後継者問題を抱える企業にとって、M&Aは有効な事業承継手段となります。エスクローは、M&Aプロセスにおける金銭的なリスクを軽減することで、スムーズな事業承継を支援します。

例えば、後継者となる予定だった人物が、急遽、経営参加を辞退せざるを得ない状況になった場合でも、エスクローを通じて売却代金の支払いが保証されているため、安心して事業を譲渡することができます。


4. M&Aでエスクローを活用するデメリット

M&Aにおいてエスクローは、取引の安全性や透明性を高める有効な手段ですが、一方でデメリットも存在します。エスクロー導入を検討する際には、メリットだけでなく、デメリットも理解した上で、総合的に判断することが重要です。主なデメリットとしては、費用面と手続き面が挙げられます。


4.1 費用面

エスクローサービスを利用するには、当然ながら費用が発生します。費用の負担者はケースバイケースですが、一般的には、買収側と売却側の双方が負担することが多いです。エスクロー費用は、以下の要素によって決定されます。

取引金額一般的に、取引金額が大きくなるほど、エスクロー費用も高額になります。
エスクロー契約の内容複雑な条件や手続きが含まれる場合、エスクロー費用は高くなる傾向があります。
エスクロー業者の手数料体系エスクロー業者によって、手数料体系は異なります。事前に複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。

エスクロー費用を抑えるためには、取引金額やエスクロー契約の内容をできるだけシンプルにする、複数のエスクロー業者から見積もりを徴収して比較検討するなどの工夫が考えられます。


4.2 手続き面

エスクローを導入することで、M&Aの手続きが複雑化し、時間がかかる場合があります。具体的には、以下のような点が挙げられます。

エスクロー契約の締結

エスクローを利用するには、買収側、売却側、エスクロー業者の三者間で、エスクロー契約を締結する必要があります。エスクロー契約書には、預託する対象物、預託の条件、エスクロー業者の責任範囲などを明確に記載する必要があります。契約内容が複雑な場合、契約締結までに時間がかかる可能性があります。

事務手続きの増加

エスクローを導入すると、エスクロー業者とのやり取りや書類の提出など、事務手続きが増加する傾向があります。特に、M&A取引のように、取引規模が大きく関係者が多岐にわたる場合には、事務手続きが煩雑になり、担当者の負担が大きくなる可能性があります。

予期せぬトラブル発生の可能性

エスクロー契約の内容が不明確であったり、エスクロー業者との間で認識の齟齬があった場合、トラブルが発生する可能性があります。トラブルが発生した場合には、解決までに時間や費用がかかり、M&A取引全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性も否定できません。

手続き面でのデメリットを最小限に抑えるためには、経験豊富な専門家(弁護士や公認会計士など)のサポートを受けることが重要です。専門家の助言を得ることで、エスクロー契約の内容を明確化し、円滑な取引を実現することができます。


5. M&Aにおけるエスクローの活用事例 5.1 株式譲渡における活用事例
譲渡株式の預託

A社がB社の株式を取得するM&Aにおいて、エスクロー契約を締結し、株式譲渡の手続きが完了するまでの間、譲渡対象となるB社の株式をエスクロー業者であるC信託銀行に預託します。

株式譲渡代金の預託

A社は、株式譲渡代金をC信託銀行に預託します。

条件達成時の株式譲渡実行

株式譲渡契約で定められた条件(例えば、デューデリジェンスの結果、A社がB社の財務状況に問題がないと判断することなど)が達成された場合、C信託銀行は、預託を受けているB社の株式をA社に譲渡し、A社が預託した株式譲渡代金をB社に支払います。

条件未達成時の取引中止

株式譲渡契約で定められた条件が達成されなかった場合、株式譲渡は中止となり、C信託銀行は、預託を受けているB社の株式をB社に返還し、A社が預託した株式譲渡代金をA社に返還します。


5.2 事業譲渡における活用事例
事業譲渡代金の預託

X社がY社の事業の一部を譲り受けるM&Aにおいて、エスクロー契約を締結し、事業譲渡の手続きが完了するまでの間、X社は、事業譲渡代金をエスクロー業者であるD保証株式会社に預託します。

債権債務の精算

事業譲渡契約において、譲渡対象となる事業に関連する債権債務は、X社に移転することとなりますが、事業譲渡の手続きが完了するまでの間、D保証株式会社が、これらの債権債務の管理を行います。具体的には、D保証株式会社は、Y社が受領するべき債権を回収し、Y社が支払うべき債務を弁済します。

条件達成時の事業譲渡実行

事業譲渡契約で定められた条件(例えば、競争法上の承認が得られることなど)が達成された場合、D保証株式会社は、預託を受けている事業譲渡代金をY社に支払い、債権債務の精算を完了させた上で、事業譲渡の手続きを完了させます。

条件未達成時の取引中止

事業譲渡契約で定められた条件が達成されなかった場合、事業譲渡は中止となり、D保証株式会社は、預託を受けている事業譲渡代金をX社に返還し、債権債務をY社に返還します。

取引 エスクロー対象 エスクロー業者 条件達成時の流れ 条件未達成時の流れ
株式譲渡 譲渡株式、株式譲渡代金 信託銀行など 株式譲渡、代金支払い 株式返還、代金返還
事業譲渡 事業譲渡代金、債権債務 保証会社など 代金支払い、債権債務精算、事業譲渡実行 代金返還、債権債務返還

上記はあくまで一例であり、M&Aにおけるエスクローの活用方法は、具体的な取引内容や契約内容によって異なります。専門家のアドバイスを受けながら、適切なエスクロー契約を締結することが重要です。


6. エスクロー導入の際に注意すべきポイント

M&Aにおけるエスクロー導入は、取引の安全性を高めるために有効ですが、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。信頼できるエスクロー業者を選定すること、契約内容を明確にすることなど、注意すべき点を具体的に見ていきましょう。


6.1 エスクロー業者の選定
信頼性と実績で選ぶ

エスクロー業者は、M&A取引において重要な役割を担うため、信頼性と実績が何よりも重要です。具体的には、金融庁の認可を受けているか、資本金や取引実績は十分か、経験豊富な専門スタッフが在籍しているかなどを確認しましょう。これらの情報は、各エスクロー業者のウェブサイトやパンフレットで確認できます。また、実際に複数の業者から見積もりを取り、比較検討することも重要です。

専門性で選ぶ

M&Aや株式譲渡、事業譲渡に関する専門知識や経験が豊富な業者を選ぶことも重要です。M&Aは複雑な手続きを伴う場合があり、専門性の高いエスクロー業者であれば、円滑な取引を進めるためのサポートを期待できます。例えば、過去に同様のM&A案件を対応した実績があるか、専門の弁護士や税理士と連携しているかなどを確認すると良いでしょう。

手数料体系の比較

エスクロー業者によって手数料体系は異なります。一般的には、預託金額に対して一定の料率で計算される場合が多いですが、別途、事務手数料や保管料などが発生する場合もあるため、事前に確認が必要です。また、見積もり内容が詳細で分かりやすいかどうかも、業者選定の重要なポイントとなります。


6.2 契約内容の明確化
当事者間の合意形成

エスクロー契約を締結する前に、売主と買主の間で、契約内容について十分な合意形成を行うことが重要です。特に、以下のような項目については、曖昧な点がないよう、明確に定めておく必要があります。

項目 内容
預託対象物 売買代金、株式、契約書などの書類など、具体的に何を預託するかを明確にする
預託金額/数量 金額や数量に誤りがないか、確認する
預託期間 いつからいつまで預託するか、具体的な期間を定める
支払条件 どのような条件を満たせば、買主から売主へ支払いが行われるのか、明確にする
解除条件 どのような場合にエスクロー契約が解除されるのか、具体的な条件を定める
専門家の確認

エスクロー契約は、法律や税務に関する専門知識が必要となる場合があるため、弁護士や税理士などの専門家に契約内容を確認してもらうことを強く推奨します。専門家の意見を踏まえることで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。


7. まとめ

この記事では、M&Aにおけるエスクローの役割やメリット・デメリット、活用事例などについて解説しました。エスクローは、M&A取引において、売主・買主双方にとって安全な取引を実現するための有効な手段です。

特に、企業価値の算定が困難な場合や、債務超過などのリスクがある場合に有効です。M&Aを検討する際には、エスクローの利用を検討することで、取引のリスクを軽減し、スムーズな取引を実現できる可能性があります。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのエキスパート。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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