失敗しない!M&Aのノンネームシート作成・企業概要書との違い、記載内容と注意点

失敗しない!M&Aのノンネームシート作成・企業概要書との違い、記載内容と注意点

M&Aを検討する上で、最初の関門となるのが「ノンネームシート」です。

企業名や経営者など、具体的な情報は伏せた状態で事業概要をまとめた資料ですが、はじめて作成する経営者にとっては、その作成には多くの疑問がつきもの。

「企業概要書とは何が違うの?」「どんな内容を書けばいいの?」「個人情報が流出するリスクは?」 この記事では、そんな疑問にお答えします。M&Aにおけるノンネームシートの役割や作成目的、企業概要書との違いを分かりやすく解説いたします。

さらに、具体的な記載項目や注意点、その後の流れまで網羅的に解説することで、M&Aプロセスをスムーズに進めるための準備をサポートします。

M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。

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1. M&Aのノンネームシートとは?
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M&Aのノンネームシートとは、企業の買収や合併のプロセスにおいて初期段階で使用される重要な資料です。このシートは、売却対象企業(ターゲット企業)の具体的な名前や詳細を伏せた状態で、潜在的な買収者に対して提供されます。
1.1 M&Aにおけるノンネームシートの役割 ノンネームシートの主な目的は、機密情報を守りつつ、興味を持つ可能性のある買収者を特定することで、以下のような情報が含まれます。

事業内容ターゲット企業の主な業務や市場での立ち位置
財務情報収益、利益、主要な財務指標などの概要
成長の見込み将来的な成長機会やビジョン
記載内容の詳細は後述して詳しく説明いたしますが、この情報を元に買収者は興味を持つかどうかを初期判断します。もし興味を持った場合、次のステップとして機密保持契約(NDA)を結び、より詳細な情報(具体的な名前や財務データなど)を得るためのプロセスに進みます。

ノンネームシートはM&Aの初期段階における重要なツールであり、企業間の信頼関係を構築し、交渉を円滑に進めるための重要な資料なのです。

1.2 M&Aでノンネームシートを作成する目的 ノンネームシートを作成する主な目的は、以下の点が挙げられます。

機密保持企業名や具体的な情報を出さずに、多くの買い手候補に打診できます。情報漏洩のリスクを抑え、安心してM&Aを進めることが可能です。
効率的な売却活動興味を持つ可能性のある買い手候補を効率的に絞り込み、時間を節約できます。多数の企業に個別に説明する手間を省き、スムーズな売却活動を実現します。
競争環境の創出複数の買い手候補から関心を集めることで、より有利な条件で交渉を進めることが期待できます。競争原理が働き、企業価値の向上も見込めます。

1.3 企業概要書との違いを正しく理解する
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ノンネームシートと企業概要書は、どちらも企業情報をまとめた資料ですが、目的や内容、作成するタイミングが異なります。それぞれの違いを正しく理解しておくことが重要です。

ノンネームシート企業概要書
目的 M&Aにおける機密保持
買い手候補の探索
企業紹介、取引先への提出
M&Aを検討する初期段階
作成時期 随時作成、更新 随時作成、更新
情報量 概要レベルの情報 企業名、個人情報は非開示 詳細な企業情報 企業名、代表者名などを記載

企業概要書の目的

企業概要書は、取引先や顧客、金融機関などに自社の事業内容や経営状況を伝えるために作成します。企業の信頼獲得、事業内容の理解促進を目的としている点がノンネームシートとの大きな違いです。

開示する時期の違い

ノンネームシートは、M&Aを検討する初期段階、買い手候補を探す際に作成します。一方、企業概要書は、取引開始時や、金融機関への融資申し込みなど、必要に応じて随時作成・更新します。

内容や情報量の違い

ノンネームシートは、企業名や所在地、従業員数、売上高などの概略情報のみを記載します。一方、企業概要書は、企業理念やビジョン、事業内容の詳細、財務情報、組織図など、より詳細な情報を記載します。ノンネームシートはあくまで買い手候補企業の興味関心を集め、具体的な交渉に進むための資料であり、詳細な情報は後々の交渉段階で開示されます。


M&Aにおけるノンネームシート作成のポイントや注意点、記載例は、M&A用語集 | 野村企業再生パートナーも参照ください。

2. M&Aのノンネームシートに記載する内容 2.1 記載内容の概要・ポイント

M&Aのノンネームシートには、買い手企業の興味を引くために、事業の魅力を端的に伝えることが重要です。しかし、企業を特定できるような情報・機密情報・個人情報を含む詳細な情報は、この段階では省略します。ここでは、ノンネームシートに記載する主な項目とそのポイントを解説します。


事業内容 事業内容は、買い手企業が最も関心を持つ情報の一つです。具体的にどのような事業を行っているのか、主な製品・サービスは何かを簡潔に説明します。

例えば、製造業であれば、具体的な製品名や製造工程、顧客ターゲットなどを記載します。サービス業であれば、提供するサービス内容、顧客ターゲット、サービス提供地域などを記載します。

この際、専門用語を避ける、図表を効果的に使用することなどが重要です。

所在地 本社所在地に加え、工場、支店、営業所など、主要な事業所の所在地を記載します。(本社所在地のみの場合も多い)
所在地は、買い手企業にとって、事業展開を検討する上での重要な要素となります。

従業員数 従業員数は、企業規模を把握するための指標となります。正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態別の内訳も記載することが望ましいです。

従業員数の内訳は、企業の経営状況や人材構成を分析する際に役立ちます。

売上高 売上高は、企業の収益力を示す重要な指標です。過去3~5期程度の売上高を記載し、安定性や成長性をアピールします。売上高の推移は、買い手企業が企業価値を評価する上で重要な要素となります。

営業利益 営業利益は、本業からの収益力を示す指標です。売上高と同様に、過去3~5期程度の営業利益を記載します。営業利益率も合わせて記載することで、収益構造の健全性をアピールできます。

譲渡形式 希望する譲渡形式を記載します。主な譲渡形式には、株式譲渡、事業譲渡などがあります。
譲渡形式によって、税金や法的手続きが異なるため、事前に専門家に相談しておくことが重要です。

希望譲渡金額 希望する譲渡金額を記載します。金額は、根拠となるデータや算定方法とともに提示することが重要です。希望譲渡金額は、買い手企業との交渉の材料となります。

譲渡対象 譲渡対象となる事業や資産を具体的に記載します。株式譲渡の場合には、発行済株式の総数と譲渡株式数を明記します。事業譲渡の場合には、譲渡対象となる事業部門、資産、負債などを具体的に記載します。

譲渡対象を明確にすることで、買い手企業との認識の齟齬を防ぐことができます。

その他譲渡条件 その他、買い手企業に提示したい譲渡条件があれば記載します。例えば、従業員の雇用維持、既存経営陣の処遇、競業避止義務などに関する希望条件を記載します。

その他譲渡条件は、M&A後の事業継続を円滑に進める上で重要な要素となります。

これらの項目に加え、企業や事業の魅力が伝わるような情報を盛り込むことが重要です。

例えば、独自の技術やノウハウ、競争優位性、将来性などを具体的に記載することで、買い手企業の関心を高めることができます。

ノンネームシートはあくまでも概要を伝えるための資料です。詳細な情報は、秘密保持契約を締結した後に開示します。

内容ポイント
事業内容 具体的な事業内容、主な製品・サービス 専門用語を避ける、図表を効果的に使用
所在地 本社、工場、支店などの所在地 事業展開を検討する上での重要な要素
従業員数 従業員数、雇用形態別の内訳 企業規模、経営状況、人材構成を把握
売上高 過去3~5期程度の売上高 企業の収益力、安定性、成長性をアピール
営業利益 過去3~5期程度の営業利益 本業からの収益力、収益構造の健全性をアピール
譲渡形式 希望する譲渡形式(株式譲渡、事業譲渡など) 譲渡形式によって、税金や法的手続きが異なる
希望譲渡金額 希望する譲渡金額、根拠となるデータや算定方法 買い手企業との交渉の材料
譲渡対象 譲渡対象となる事業や資産 買い手企業との認識の齟齬を防ぐ
その他譲渡条件 従業員の雇用維持、既存経営陣の処遇など M&A後の事業継続を円滑に進める

上記はあくまで一般的なノンネームシートの記載項目です。業種や企業規模、譲渡の目的などによって、記載すべき項目は異なります。M&Aの専門家などに相談しながら、自社の状況に合わせて作成することが重要です。

3. ノンネームシート後の情報開示「ネームクリア」とは?
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ノンネームシートによって買い手企業から一定の関心を得ることができたら、次のステップは「ネームクリア」と呼ばれるプロセスに進みます。

ここでは、ノンネームシートでは明かされなかった企業名や詳細情報を買い手企業に開示し、より具体的な交渉へと進展させていきます。

3.1 M&Aのネームクリアの流れ ネームクリアは、M&Aプロセスにおける重要な段階であり、慎重に進める必要があります。ここでは、一般的なネームクリアの流れを3つの段階に分けて解説します。

ノンネームシートによる買い手側の検討

買い手企業は、受け取ったノンネームシートの内容を精査し、自社の買収基準と照らし合わせて検討を行います。

財務状況、事業内容、将来性などを分析し、投資価値があるかどうかを判断します。この段階では、まだ企業名は非公開とされているため、買い手企業は入手した情報のみで判断を下す必要があります。


ネームクリアの確認

買い手企業がノンネームシートの内容を検討した結果、興味を持ち、さらに詳しい情報提供を求める場合は、「ネームクリア」を依頼します。

ネームクリアとは、売却を検討している企業の具体的な名前や詳細情報を、買い手企業に開示することです。ただし、この段階でも情報漏洩のリスクを最小限に抑えるため、秘密保持契約の締結が必須となります。

買い手企業は、ネームクリアによって得られた情報に基づき、最終的な投資判断を行います。


ネームクリアでM&Aの打診

買い手企業がネームクリア後も投資に値すると判断した場合、正式なM&Aの打診を行います。この段階から、より具体的な条件交渉やデューデリジェンス(買収監査)へと進んでいきます。

ネームクリアは、M&Aプロセスにおける重要なステップであり、双方の企業にとって、より深いレベルでの検討と交渉の開始を意味します。


3.2 ネームクリアで開示する情報 ネームクリアの段階では、ノンネームシートよりも詳細な情報を買い手企業に開示します。具体的には、以下の様な情報が挙げられます。

企業名
本社所在地
代表者名
従業員数
財務諸表(過去3期分など)
事業計画書
これらの情報は、買い手企業が投資判断を行う上で非常に重要となるため、正確かつ詳細に伝える必要があります。また、情報漏洩のリスクを最小限に抑えるため、秘密保持契約の締結は必須です。

3.3 ネームクリアにおける注意点 ネームクリアは、M&Aプロセスが大きく前進する重要な段階であると同時に、情報管理の面で注意すべき点もいくつかあります。

秘密保持契約の締結 ネームクリアを行う前に、買い手企業との間で秘密保持契約を締結しておくことが重要です。これにより、開示した情報が適切に扱われ、外部に漏洩することを防ぐことができます。秘密保持契約の内容は、開示する情報の範囲や目的、守秘義務の期間などを明確に定める必要があります。

慎重な相手選定 ネームクリアは、自社の機密情報を開示する行為であるため、相手企業の選定は慎重に行う必要があります。信頼できる企業かどうか、自社との相性が良いかなどを考慮した上で、開示するかどうかを判断する必要があります。M&A仲介会社を活用する場合は、経験豊富なアドバイザーに相談し、適切な企業を紹介してもらうと良いでしょう。

情報開示の範囲 ネームクリアの段階では、すべての情報を公開する必要はありません。買い手企業の関心度や交渉の進捗状況に応じて、段階的に情報を開示していくことが重要です。必要以上に情報を開示してしまうと、交渉上不利になる可能性もあります。情報開示の範囲については、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら、慎重に判断していくと良いでしょう。

ネームクリアは、M&Aプロセスを成功に導くための重要なステップです。上記のような点に注意しながら、慎重かつ戦略的に進めていくことが重要です。

詳細については、M&Aの専門家であるM&Aアドバイザリー会社に相談することをおすすめします。

4. ノンネームシートを取り扱う際の注意点 ノンネームシートは、M&Aの初期段階で重要な役割を果たしますが、機密性の高い情報を含むため、取り扱いには注意が必要です。

ここでは、譲渡企業と譲受企業それぞれの立場から、ノンネームシートを取り扱う際の注意点を解説します。

4.1 譲渡企業側の注意点

正確な情報をM&A仲介会社に伝える

ノンネームシートは、買い手企業が興味を示すかどうかの判断材料となる重要な書類です。記載内容に虚偽や誤りがあると、後々のトラブルに発展する可能性があります。

また、情報が不足していると、買い手企業の関心を惹きつけられず、交渉の機会を逃してしまう可能性もあります。そのため、ノンネームシートを作成する際には、M&A仲介会社と密に連携し、正確かつ詳細な情報を記載するよう心がけましょう。

例えば、財務状況については、直近3期分の決算書だけでなく、最新の試算表なども共有することで、より正確な情報を伝えることができます。

また、事業内容については、競合との差別化ポイントや今後の成長戦略などを具体的に記載することで、買い手企業の理解を深めることができます。

慎重にノンネームシートの提出先を選ぶ

ノンネームシートは、あくまでも企業概要を匿名で開示するものであり、秘密保持契約を締結せずに開示されるケースが一般的です。そのため、情報漏洩のリスクを完全に排除することはできません。

情報漏洩のリスクを最小限に抑えるためには、信頼できるM&A仲介会社を選定し、提出先を厳選する必要があります。

実績や評判だけでなく、企業理念やコンプライアンス体制なども考慮することで、より安心してノンネームシートを提出することができます。

また、ノンネームシートを提出する前に、守秘義務契約を締結することも有効な手段です。守秘義務契約を締結することで、買い手企業はノンネームシートに記載された情報を第三者に開示することができなくなります。

4.2 譲受企業側の注意点 ノンネームシート以上の情報は非開示となることを理解する 譲渡企業は、秘密保持契約の締結前に詳細な情報を開示することに抵抗がある場合が少なくありません。そのため、ノンネームシートには、財務情報や事業内容の概要など、必要最低限の情報しか記載されていないケースがほとんどです。

ノンネームシートだけでは判断が難しい場合は、秘密保持契約を締結した上で、より詳細な情報が記載された「企業概要書」や「財務デューデリジェンス資料」などを要求する必要があります。

4.3 M&A仲介会社を活用する M&Aに関する専門知識を持つM&A仲介会社に相談することで、ノンネームシートの作成や提出、そしてその後の交渉をスムーズに進めることができます。

M&A仲介会社は、豊富な経験と実績に基づいて、譲渡企業と譲受企業の双方にとって最適な条件でM&Aが成立するよう、サポートを提供しています。

例えば、M&A仲介会社は、以下のようなサポートを提供しています。

ノンネームシートの作成支援
買い手企業候補の選定
交渉の仲介
デューデリジェンスの支援
契約書の作成支援
M&A仲介会社を活用することで、時間と労力を節約できるだけでなく、より有利な条件でM&Aを成立させることができる可能性が高まります。

ノンネームシートは、M&Aの成否を左右する重要な書類です。譲渡企業と譲受企業双方が注意点を理解し、適切に取り扱うことで、スムーズなM&Aプロセスを実現することができます。

5. まとめ M&Aにおけるノンネームシートは、企業のプライバシーを守りながら、効率的に買い手候補を探すための重要なツールです。

企業概要書とは異なり、初期段階で開示する情報量を調整できるため、秘密保持の観点から優れています。

ノンネームシートの作成にあたっては、M&A仲介会社に正確な情報を伝え、慎重に提出先を選ぶことが大切です。

買い手企業は、ノンネームシートだけでは詳細な情報は得られないことを理解し、ネームクリアを経て、より具体的な検討を進める必要があります。


編集者の紹介

日下部 興靖

株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖

上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。

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