M&AにおけるEBITDAとは?企業価値算定を理解する
M&Aを検討する経営者必見! 本記事では、企業価値算定に不可欠なEBITDAとEV/EBITDA倍率について解説します。
EBITDAの読み方は 「イービットディーエー・イービッター」など、専門家によって変わってきます。
M&Aで譲渡する側にも買収する側にも関係する指標となりますので、計算方法・メリットだけでなく、類似会社分析を用いた具体的な企業価値算定の実務まで、分かりやすく説明いたします。
DCF法との使い分けについても理解することで、M&A交渉を有利に進めましょう。
M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。
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1. M&Aにおける企業価値算定の重要性
1.1 適正価格での売買
M&Aにおいて、企業価値算定(バリュエーション)は非常に重要なプロセスです。なぜなら、買収側にとっては、対象企業を適正価格で買収できるかどうかが、M&Aの成功を大きく左右するからです。一方、売却側にとっても、自社の価値を正しく評価し、適正価格で売却することが重要となります。
もし、企業価値が過大に評価されていれば、買収側にとっては、過剰な買収費用を支払うことになり、その後の事業展開に悪影響を及ぼす可能性があります。逆に、企業価値が過小に評価されていれば、売却側にとっては、本来得られるべき対価を得られないことになります。
1.2 円滑な交渉 企業価値算定は、単に売買価格を決めるためだけのものではありません。M&Aの交渉を円滑に進める上でも重要な役割を果たします。売買側双方にとって納得感のある価格で交渉を進めるために、客観的な根拠に基づいた企業価値算定が必要不可欠です。
価格交渉については、M&A仲介などの専門家を間に立てた方がロジカルで根拠のある交渉ができますので、専門家の活用をおすすめいたします。
1.3 資金調達 買収資金を金融機関から調達する場合、企業価値算定は融資の可否や融資額を判断する上での重要な要素となります。金融機関は、買収対象企業の将来性を評価し、融資のリスクを判断します。そのため、客観的なデータに基づいた企業価値算定が求められます。
1.4 PMIの成功 M&A後の統合プロセス(PMI)においても、企業価値算定は重要な役割を果たします。買収後の事業計画策定や組織統合、シナジー効果の創出など、PMIのプロセス全体を通じて企業価値算定の結果が評価されます。適正な企業価値算定は、PMIの成功を大きく左右する要素の一つと言えるでしょう。
1.5 さまざまな企業価値算定手法 企業価値算定には、以下のような様々な手法が存在します。
これらの手法はそれぞれに特徴があり、M&Aの目的や対象企業の特性に応じて使い分ける必要があります。例えば、DCF法は将来の収益性を重視する手法であるため、成長性の高い企業の評価に適しています。一方、類似会社比較法は、類似する企業の市場評価を参考にできるため、上場企業の買収などに適しています。
M&Aにおける企業価値算定は、専門知識や経験が必要とされる複雑なプロセスです。そのため、M&Aを検討する際には、M&Aアドバイザーや金融機関などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、適正な企業価値算定を行い、M&Aを成功に導くことが可能となります。
2. EBITDAとは何か
特に
• 業種が異なる企業間
• 資本構成が異なる企業間
で比較を行う際に適しています。EBITDAは、以下の計算式で算出されます。
2.1 EBITDAの計算方法 EBITDAの計算方法は、以下の2通りあります。
営業利益から算出する方法
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + 償却費
当期純利益から算出する方法
EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 特別損益 + 金融費用 + 減価償却費 + 償却費
どちらの計算式を用いる場合も、最終的に同じ値が算出されます。どちらの計算式を用いるかは、入手可能な財務データの種類によって判断します。
●EBITDAの計算例
ある企業の財務情報が以下の通りだとします。
=========
売上高(Revenue):1000万円
売上原価(Cost of Goods Sold, COGS):400万円
販売費及び一般管理費(SG&A):300万円
減価償却費(Depreciation):50万円
営業外費用(Interest Expense):20万円
税金(Taxes):30万円
=========
まず、営業利益(Operating Income)を計算します。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費
したがって、
営業利益 = 1000万円 − 400万円 − 300万円 = 300万円
次に、営業利益に減価償却費を加えてEBITDAを計算します。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
したがって、
EBITDA = 300万円 + 50万円 = 350万円
この例では、EBITDAは350万円です。
●計算のポイント
売上高: 企業が商品やサービスを販売して得た総収入。
売上原価: 商品やサービスを生産・提供するために直接かかる費用。
販売費及び一般管理費(SG&A): 販売活動や管理活動にかかる費用(給与、賃借料、広告費など)。
減価償却費: 資産の使用に伴う価値の減少を費用として計上したもの。
営業利益: 営業活動から得られる利益(売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を引いたもの)。
EBITDAは、企業の本業によるキャッシュフローを示すため、投資家やアナリストが企業の経営効率を評価する際によく使用されます。
2.2 EBITDAを見るメリット EBITDAを見るメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
これらのメリットから、EBITDAは企業の収益力を分析する上で非常に重要な指標と言えるでしょう。特に、M&Aを検討する際には、EBITDAを用いることで買収対象企業の収益力を的確に把握し、適切な買収価格を算定することができます。
3. EV/EBITDA倍率とは
ここからは計算式など計算方法をご紹介していきます。
3.1 EV/EBITDA倍率の計算方法 EV/EBITDA倍率は、以下の計算式で算出されます。
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率 = 企業価値(EV) ÷ EBITDA
ここで、企業価値(EV)は、時価総額に有利子負債と少数株主持分を加えて算出されます。
企業価値(EV)の計算式
企業価値(EV) = 時価総額 + 有利子負債 + 少数株主持分 - 現金同等物
3.2 EV/EBITDA倍率を用いるメリット EV/EBITDA倍率を用いるメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
3.3 EV/EBITDA倍率の目安 EV/EBITDA倍率の目安は、一般的には5倍~10倍程度とされています。ただし、業種や企業の成長性、収益性などによって大きく異なるため、注意が必要です。EV/EBITDA倍率が高い場合は、企業の将来性に対する期待が高いことを示唆し、低い場合は、企業の収益力に対する評価が低いことを示唆します。
EV/EBITDA倍率は、あくまでも企業価値を評価する上での一つの指標に過ぎず、これだけで企業価値を判断することはできません。他の財務指標や、企業の事業内容、将来性などを総合的に判断する必要があります。詳細については、中小企業庁のM&Aに関する資料などを参考にしてください。
4. 類似会社分析を用いた企業価値算定の実務 類似会社分析は、M&Aにおける企業価値算定において、特にDCF法と並んで頻繁に用いられる手法です。ここでは、類似会社分析を用いた企業価値算定の実務におけるステップを具体的に解説していきます。
4.1 類似会社選定 類似会社分析の精度は、比較対象として選定する類似会社によって大きく左右されます。そのため、対象企業と事業内容、規模、収益性などが類似している企業を、データベースや公開情報などを用いて慎重に選定する必要があります。主な選定基準は以下の点が挙げられます。
これらの基準を総合的に勘案し、一般的には5~10社程度の類似会社を選定します。
4.2 類似会社比較によるEV/EBITDA倍率の算出 選定した類似会社についてそれぞれの企業価値とEBITDAを算出し、EV/EBITDA倍率を算出します。企業価値は、時価総額に有利子負債などの有利子負債を加えて算出します。この際、公開情報やデータベースから取得したデータを用います。
算出したEV/EBITDA倍率は、単純平均や中央値を用いる方法や、時価総額などで加重平均を算出する方法があります。どの方法が適切かは、ケースバイケースで判断する必要があります。
4.3 対象企業の企業価値算定 算出した類似会社のEV/EBITDA倍率を参考に、対象企業のEBITDAに乗じることで、対象企業の企業価値を算出します。この際、対象企業のリスクや成長性などを考慮し、類似会社のEV/EBITDA倍率を調整することが重要です。
これらの調整は、定量的な分析だけでなく、定性的な分析も加味して行うことが重要です。例えば、対象企業が独自の技術やブランド力を持っている場合は、その点を考慮してEV/EBITDA倍率を高めに調整することが考えられます。
4.3.1 類似会社分析のメリット
4.3.2 類似会社分析のデメリット
4.4 DCF法との使い分け 類似会社分析は、DCF法と比較して、市場の評価を反映した客観的な評価が可能な点がメリットとして挙げられます。一方で、完全に同じ事業内容の企業は存在しないため、主観的な要素が含まれる点がデメリットとして挙げられます。
そのため、実務では、DCF法と類似会社分析の両方を用いて企業価値を算出し、その結果を総合的に判断することが一般的です。
また、類似会社分析は、対象企業と類似した企業が存在しない場合や、市場環境が大きく変化している場合には、適切な企業価値を算出することが難しい場合があります。このような場合には、DCF法を用いることが適切です。DCF法は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出するため、市場環境の影響を受けにくいというメリットがあります。
ただし、将来のキャッシュ・フローの予測が困難な場合や、割引率の設定が難しい場合には、適切な企業価値を算出することが難しい場合があります。そのため、DCF法を用いる場合でも、その限界を理解しておくことが重要です。
このように、M&Aにおける企業価値算定においては、類似会社分析とDCF法の両方のメリットとデメリットを理解した上で、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。また、それぞれの算定結果を総合的に判断することで、より精度の高い企業価値算定が可能となります。
5. DCF法との使い分け 5.1 DCF法とは DCF法(Discounted Cash Flow method:割引キャッシュフロー法)とは、将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引くことで企業価値を算定する方法です。
将来の収益力を重視するため、成長企業の評価に適しています。
5.2 EV/EBITDA倍率との使い分け EV/EBITDA倍率とDCF法は、どちらも企業価値を算定する手法ですが、それぞれの特徴やメリット・デメリットがあります。そのため、ケースに応じて使い分けることが重要です。
5.3 使い分けの例
実際には、EV/EBITDA倍率とDCF法の両方を用いて、クロスチェックを行うケースも多いです。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。
6. まとめ 今回は、M&Aにおける企業価値算定について、EBITDAとEV/EBITDA倍率に着目して解説しました。
EBITDAは、企業の収益力を測る指標の一つであり、利息、税金、減価償却費の影響を受けないため、事業本来の収益力を把握するのに役立ちます。
EV/EBITDA倍率は、企業価値をEBITDAで割って算出し、企業価値がEBITDAの何倍になっているかを示す指標です。類似会社分析を用いることで、対象企業のEV/EBITDA倍率を算出し、企業価値を算定することができます。
DCF法と比較して、簡易的に短時間で算定できることがメリットです。ただし、あくまで簡易的な算定方法であるため、最終的な企業価値は、デューデリジェンスや交渉を経て決定されます。
EBITDAの読み方は 「イービットディーエー・イービッター」など、専門家によって変わってきます。
M&Aで譲渡する側にも買収する側にも関係する指標となりますので、計算方法・メリットだけでなく、類似会社分析を用いた具体的な企業価値算定の実務まで、分かりやすく説明いたします。
DCF法との使い分けについても理解することで、M&A交渉を有利に進めましょう。
M&A PMI AGENTは上場企業・中堅・中小企業の「M&AからPMI支援までトータルサポート」できるM&A仲介会社です。詳しくはコンサルタントまでお気軽にご相談ください。
M&A・PMI支援のご相談はこちら
- 目次
-
1. M&Aにおける企業価値算定の重要性
1.1 適正価格での売買
1.2 円滑な交渉
1.3 資金調達
1.4 PMIの成功
1.5 さまざまな企業価値算定手法
2. EBITDAとは何か
2.1 EBITDAの計算方法
2.2 EBITDAを見るメリット
3. EV/EBITDA倍率とは
3.1 EV/EBITDA倍率の計算方法
3.2 EV/EBITDA倍率を用いるメリット
3.3 EV/EBITDA倍率の目安
4. 類似会社分析を用いた企業価値算定の実務
4.1 類似会社選定
4.2 類似会社比較によるEV/EBITDA倍率の算出
4.3 対象企業の企業価値算定
4.3.1 類似会社分析のメリット
4.3.2 類似会社分析のデメリット
4.4 DCF法との使い分け
5. DCF法との使い分け
5.1 DCF法とは
5.2 EV/EBITDA倍率との使い分け
5.3 使い分けの例
6. まとめ
もし、企業価値が過大に評価されていれば、買収側にとっては、過剰な買収費用を支払うことになり、その後の事業展開に悪影響を及ぼす可能性があります。逆に、企業価値が過小に評価されていれば、売却側にとっては、本来得られるべき対価を得られないことになります。
1.2 円滑な交渉 企業価値算定は、単に売買価格を決めるためだけのものではありません。M&Aの交渉を円滑に進める上でも重要な役割を果たします。売買側双方にとって納得感のある価格で交渉を進めるために、客観的な根拠に基づいた企業価値算定が必要不可欠です。
価格交渉については、M&A仲介などの専門家を間に立てた方がロジカルで根拠のある交渉ができますので、専門家の活用をおすすめいたします。
1.3 資金調達 買収資金を金融機関から調達する場合、企業価値算定は融資の可否や融資額を判断する上での重要な要素となります。金融機関は、買収対象企業の将来性を評価し、融資のリスクを判断します。そのため、客観的なデータに基づいた企業価値算定が求められます。
1.4 PMIの成功 M&A後の統合プロセス(PMI)においても、企業価値算定は重要な役割を果たします。買収後の事業計画策定や組織統合、シナジー効果の創出など、PMIのプロセス全体を通じて企業価値算定の結果が評価されます。適正な企業価値算定は、PMIの成功を大きく左右する要素の一つと言えるでしょう。
1.5 さまざまな企業価値算定手法 企業価値算定には、以下のような様々な手法が存在します。
DCF法(割引キャッシュフロー法) | 将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法 |
---|---|
類似会社比較法(マルチプル法) | 類似する上場企業の財務データや市場評価などを参考に、対象企業の価値を算出する方法 |
時価純資産法(純資産法) | 企業の純資産(資産-負債)をベースに、対象企業の価値を算出する方法 |
これらの手法はそれぞれに特徴があり、M&Aの目的や対象企業の特性に応じて使い分ける必要があります。例えば、DCF法は将来の収益性を重視する手法であるため、成長性の高い企業の評価に適しています。一方、類似会社比較法は、類似する企業の市場評価を参考にできるため、上場企業の買収などに適しています。
M&Aにおける企業価値算定は、専門知識や経験が必要とされる複雑なプロセスです。そのため、M&Aを検討する際には、M&Aアドバイザーや金融機関などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、適正な企業価値算定を行い、M&Aを成功に導くことが可能となります。
2. EBITDAとは何か
- EBITDA(イービットディーエー)とは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの頭文字をとったもので、日本語では「利払い前・税引き前・減価償却前利益」と訳されます。企業の収益力を表す指標の一つで、M&Aの現場では頻繁に用いられる重要な指標です。
特に
• 業種が異なる企業間
• 資本構成が異なる企業間
で比較を行う際に適しています。EBITDAは、以下の計算式で算出されます。
2.1 EBITDAの計算方法 EBITDAの計算方法は、以下の2通りあります。
営業利益から算出する方法
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + 償却費
当期純利益から算出する方法
EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 特別損益 + 金融費用 + 減価償却費 + 償却費
どちらの計算式を用いる場合も、最終的に同じ値が算出されます。どちらの計算式を用いるかは、入手可能な財務データの種類によって判断します。
●EBITDAの計算例
ある企業の財務情報が以下の通りだとします。
=========
売上高(Revenue):1000万円
売上原価(Cost of Goods Sold, COGS):400万円
販売費及び一般管理費(SG&A):300万円
減価償却費(Depreciation):50万円
営業外費用(Interest Expense):20万円
税金(Taxes):30万円
=========
まず、営業利益(Operating Income)を計算します。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費
したがって、
営業利益 = 1000万円 − 400万円 − 300万円 = 300万円
次に、営業利益に減価償却費を加えてEBITDAを計算します。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
したがって、
EBITDA = 300万円 + 50万円 = 350万円
この例では、EBITDAは350万円です。
●計算のポイント
売上高: 企業が商品やサービスを販売して得た総収入。
売上原価: 商品やサービスを生産・提供するために直接かかる費用。
販売費及び一般管理費(SG&A): 販売活動や管理活動にかかる費用(給与、賃借料、広告費など)。
減価償却費: 資産の使用に伴う価値の減少を費用として計上したもの。
営業利益: 営業活動から得られる利益(売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を引いたもの)。
EBITDAは、企業の本業によるキャッシュフローを示すため、投資家やアナリストが企業の経営効率を評価する際によく使用されます。
2.2 EBITDAを見るメリット EBITDAを見るメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
メリット | 詳細 |
---|---|
事業本来の収益力を把握できる | EBITDAは、利払い、税金、減価償却費の影響を除外しているため、事業本来の収益力を把握することができます。 |
企業間の比較がしやすい | EBITDAは、業種や資本構成が異なる企業間でも比較しやすい指標です。 |
M&Aにおける企業価値算定に役立つ | EBITDAは、M&Aにおける企業価値算定の基礎となる指標として広く用いられています。 |
これらのメリットから、EBITDAは企業の収益力を分析する上で非常に重要な指標と言えるでしょう。特に、M&Aを検討する際には、EBITDAを用いることで買収対象企業の収益力を的確に把握し、適切な買収価格を算定することができます。
3. EV/EBITDA倍率とは
- EV/EBITDA倍率は、企業価値(EV)をEBITDAで割って算出される指標です。M&Aにおいて、類似する企業のEV/EBITDA倍率を比較することで、対象企業の適正な買収価格を算定する際に用いられます。
ここからは計算式など計算方法をご紹介していきます。
3.1 EV/EBITDA倍率の計算方法 EV/EBITDA倍率は、以下の計算式で算出されます。
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率 = 企業価値(EV) ÷ EBITDA
ここで、企業価値(EV)は、時価総額に有利子負債と少数株主持分を加えて算出されます。
企業価値(EV)の計算式
企業価値(EV) = 時価総額 + 有利子負債 + 少数株主持分 - 現金同等物
3.2 EV/EBITDA倍率を用いるメリット EV/EBITDA倍率を用いるメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
1 | 業種や企業規模が異なる企業間でも比較が可能であること |
---|---|
2 | 減価償却費や金融費用などの影響を受けにくく、事業本来の収益力を評価できること |
3 | 計算が比較的容易であること |
3.3 EV/EBITDA倍率の目安 EV/EBITDA倍率の目安は、一般的には5倍~10倍程度とされています。ただし、業種や企業の成長性、収益性などによって大きく異なるため、注意が必要です。EV/EBITDA倍率が高い場合は、企業の将来性に対する期待が高いことを示唆し、低い場合は、企業の収益力に対する評価が低いことを示唆します。
業種 | EV/EBITDA倍率の目安 |
---|---|
小売業 | 5~8倍 |
製造業 | 7~10倍 |
IT業界 | 10~15倍 |
4. 類似会社分析を用いた企業価値算定の実務 類似会社分析は、M&Aにおける企業価値算定において、特にDCF法と並んで頻繁に用いられる手法です。ここでは、類似会社分析を用いた企業価値算定の実務におけるステップを具体的に解説していきます。
4.1 類似会社選定 類似会社分析の精度は、比較対象として選定する類似会社によって大きく左右されます。そのため、対象企業と事業内容、規模、収益性などが類似している企業を、データベースや公開情報などを用いて慎重に選定する必要があります。主な選定基準は以下の点が挙げられます。
業種 | 日本標準産業分類に基づき、対象企業と同じ細分化された業種に属する企業を選定します。 |
---|---|
事業内容 | 事業ポートフォリオや顧客層、競合環境などが類似している企業を選定します。単なる業種だけでなく、より詳細な事業内容の一致が重要となります。 |
規模 | 売上高や従業員数、資産規模などが近い企業を選定します。規模が大きく異なる場合は、財務指標やリスク特性に違いが生じる可能性があります。 |
収益性 | 売上総利益率や営業利益率などが近い企業を選定します。収益性の違いは、企業価値に大きく影響を与える可能性があります。 |
成長性 | 売上高成長率や利益成長率などが近い企業を選定します。成長性の違いは、将来のキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。 |
これらの基準を総合的に勘案し、一般的には5~10社程度の類似会社を選定します。
4.2 類似会社比較によるEV/EBITDA倍率の算出 選定した類似会社についてそれぞれの企業価値とEBITDAを算出し、EV/EBITDA倍率を算出します。企業価値は、時価総額に有利子負債などの有利子負債を加えて算出します。この際、公開情報やデータベースから取得したデータを用います。
算出したEV/EBITDA倍率は、単純平均や中央値を用いる方法や、時価総額などで加重平均を算出する方法があります。どの方法が適切かは、ケースバイケースで判断する必要があります。
類似会社 | 時価総額 | 有利子負債 | 企業価値(EV) | EBITDA | EV/EBITDA倍率 |
---|---|---|---|---|---|
A社 | 100億円 | 50億円 | 150億円 | 20億円 | 7.5倍 |
B社 | 200億円 | 80億円 | 280億円 | 30億円 | 9.3倍 |
C社 | 150億円 | 60億円 | 210億円 | 25億円 | 8.4倍 |
4.3 対象企業の企業価値算定 算出した類似会社のEV/EBITDA倍率を参考に、対象企業のEBITDAに乗じることで、対象企業の企業価値を算出します。この際、対象企業のリスクや成長性などを考慮し、類似会社のEV/EBITDA倍率を調整することが重要です。
対象企業のリスクが高い場合は、割引率を高めに設定することで、EV/EBITDA倍率を低めに調整します。 | |
対象企業の成長性が高い場合は、割引率を低めに設定することで、EV/EBITDA倍率を高めに調整します。 |
これらの調整は、定量的な分析だけでなく、定性的な分析も加味して行うことが重要です。例えば、対象企業が独自の技術やブランド力を持っている場合は、その点を考慮してEV/EBITDA倍率を高めに調整することが考えられます。
4.3.1 類似会社分析のメリット
市場の評価を反映した客観的な評価が可能 | |
算定が比較的容易である | |
理解しやすい |
4.3.2 類似会社分析のデメリット
完全に同じ事業内容の企業は存在しないため、主観的な要素が含まれる | |
市場環境の影響を受けやすい | |
非公開企業の場合、情報収集が困難な場合がある |
4.4 DCF法との使い分け 類似会社分析は、DCF法と比較して、市場の評価を反映した客観的な評価が可能な点がメリットとして挙げられます。一方で、完全に同じ事業内容の企業は存在しないため、主観的な要素が含まれる点がデメリットとして挙げられます。
そのため、実務では、DCF法と類似会社分析の両方を用いて企業価値を算出し、その結果を総合的に判断することが一般的です。
また、類似会社分析は、対象企業と類似した企業が存在しない場合や、市場環境が大きく変化している場合には、適切な企業価値を算出することが難しい場合があります。このような場合には、DCF法を用いることが適切です。DCF法は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出するため、市場環境の影響を受けにくいというメリットがあります。
ただし、将来のキャッシュ・フローの予測が困難な場合や、割引率の設定が難しい場合には、適切な企業価値を算出することが難しい場合があります。そのため、DCF法を用いる場合でも、その限界を理解しておくことが重要です。
このように、M&Aにおける企業価値算定においては、類似会社分析とDCF法の両方のメリットとデメリットを理解した上で、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。また、それぞれの算定結果を総合的に判断することで、より精度の高い企業価値算定が可能となります。
5. DCF法との使い分け 5.1 DCF法とは DCF法(Discounted Cash Flow method:割引キャッシュフロー法)とは、将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引くことで企業価値を算定する方法です。
将来の収益力を重視するため、成長企業の評価に適しています。
5.2 EV/EBITDA倍率との使い分け EV/EBITDA倍率とDCF法は、どちらも企業価値を算定する手法ですが、それぞれの特徴やメリット・デメリットがあります。そのため、ケースに応じて使い分けることが重要です。
EV/EBITDA倍率 | DCF法 | |
---|---|---|
特徴 | 類似企業との比較により、相対的に企業価値を算定 | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、絶対的に企業価値を算定 |
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
適したケース |
|
|
5.3 使い分けの例
成熟市場で安定した収益を上げている企業のM&Aでは、EV/EBITDA倍率を用いることが多いでしょう。なぜなら、類似企業との比較が容易であり、市場の評価を反映しやすいからです。 | |
高成長市場で将来の収益拡大が見込まれる企業のM&Aでは、DCF法を用いることが多いでしょう。なぜなら、将来の成長性を反映できるからです。 |
6. まとめ 今回は、M&Aにおける企業価値算定について、EBITDAとEV/EBITDA倍率に着目して解説しました。
EBITDAは、企業の収益力を測る指標の一つであり、利息、税金、減価償却費の影響を受けないため、事業本来の収益力を把握するのに役立ちます。
EV/EBITDA倍率は、企業価値をEBITDAで割って算出し、企業価値がEBITDAの何倍になっているかを示す指標です。類似会社分析を用いることで、対象企業のEV/EBITDA倍率を算出し、企業価値を算定することができます。
DCF法と比較して、簡易的に短時間で算定できることがメリットです。ただし、あくまで簡易的な算定方法であるため、最終的な企業価値は、デューデリジェンスや交渉を経て決定されます。
編集者の紹介
株式会社M&A PMI AGENT
代表取締役 日下部 興靖
上場企業のグループ会社の取締役を4社経験。M&A・PMI業務・経営再建業務などを10年経験し、多くの企業の業績改善を行ったPMIのスペシャリスト。3か月のPMIにて期首予算比で売上1.8倍、利益5倍などの実績を持つ。